「どんな感じなの?」
ブリッジの下にある校長室にカドワキ先生は居た。
そう問うてくる彼女にスコールは状況を伝える。
「第一波、第二波は何とか食い止めたと思う。
その代わり、生徒達はボロボロだ。もう一波きたらもう・・・、」
スコールがそう報告をした時、キスティスが近付いてきた。
「そっちは?」とカドワキ先生がが問うとキスティスは苦い表情をしながら口を開く。
「正門部隊も今は何とか食い止めているけど・・・、」
「もう、此処までって事かい?」
カドワキ先生がそう問うと、キスティスは俯いた。
そしてそのまま、再度口を開く。
「あっちのガーデンに乗ってるのは、ほとんどがプロの兵士みたいね。
こっちは訓練中の生徒ばかり。スコールの言う通り後1回でも攻撃を受けたら・・・、」
(守備を固めた俺の作戦が間違っていたのか・・・最初から攻撃していれば・・・、)
キスティスの言葉にスコールは額に手を当てて考える。
もしかしたら、最初から攻撃していれば、とも思ったがこれはあまり得策では無い。
ガルバディアガーデンの中で戦った方が、きっと今より不利になっていただろう。
頭の中がごちゃごちゃと絡まる。
思考と思考が混ざり合ってよく分からない。
(・・・・・・、)
思わず、彼女の顔を思い浮かべて無意識の内に彼女に縋ろうとしている。
そんな自分に苛立ちながら、スコールは内心舌打ちをした。
「あっちにはサイファーがいるんだろ? あんた、あの子から逃げる訳にはいかないんだろ?
カッコつけるんなら今しかないよ! 此処まで来て何考えてるんだい? 逃げるんじゃないだろうね?」
『スッコー!!』
瞳を閉じていると、が自分を呼んだ気がした。
脳裏に移される彼女は腰に手を当てて、片方の手を上げて此方を指差してきた。
『思ったままに行動、すべし!!』
(・・・人を指差すなって・・・)
スコールはゆっくりと瞳を開き、頷いて見せた。
「逃げたりなんかしない、そんな事はしない。こっちから攻め込めばチャンスはある。
問題は、どうやって向こうのガーデンに乗り込むかだ」
「このガーデンをぶつけてみるか?そうすれば乗り移れるだろう?
あっちのガーデンの操縦士がやってるんだ。ニーダに出来ない訳ないさ」
「決まりだな」
アーヴァインの言葉に頷いた後、スコールは入ってきたゼルを見やる。
肩で息をしている彼に、「とリノアは?」と問うと彼は大きく息を吐いた後、言葉を発す。
「ダメだ、スコール。校庭に行く道がないんだ。奴らがバリケードを張って通さないんだ・・・。
屋根を伝って行くか空でも飛ばない限り二人の所に行くのは無理だぜ・・・」
(・・・・・・、リノア・・・)
ゼルの言葉にスコールは少しだけ俯いた。
バリケードが張られているなんて、考えもしなかった。
屋根か空か、それらの手段でなら助けられそうだが、それこそ無理な話だった。
そう思ったスコールの肩に手を置き、アーヴァインが「ちょっと待てよ」と言う。
「あんた、今、諦めたろ。頼みがある。・・・あんた、を助けろ。
どうにもならないのかもしれない。それでも、もう、どうしようもないって思うまで努力してみてくれ」
アーヴァインはそう言って笑う。
「リノアには今が居る。でもが一番求めているのは、あんただろ?」
「俺は攻撃部隊の・・・、」
「あんたの事情も、気持ちもどうでもいいんだ。 ただ、の為にそうしてやってくれ」
気持ちは、大方の察しはついてるんだけどね。
そう言ってアーヴァインの隣に居るセルフィが笑った。
それに頷きながらキスティスも口を開く。
「私達、二人の事好きなのよ」
「そうそう。 は勿論、リノアももう仲間なんだからね〜」
「の喜ぶ顔、見たいぜ。それには、お前じゃなくちゃダメなんだ」
ゼルはそう言って頭をかいた。
彼の何か言いたげな表情にスコールは小首を傾げるだけだったが、ゼルにはぐらかされてしまった。
そんな彼等にアーヴァインが声をかけた。
「僕はガルバディアガーデンの中は詳しいから、皆を案内する」
「私達で道を切り開いておく。スコールが来たら、最後の攻撃よ」
キスティスの言葉に頷く皆。
そんな彼等にスコールは戸惑いの表情を見せる。
「・・・いいんちょ、あたし達分かってるんだからね〜!!」
「ほんとはあの指輪、一番のお気に入りなんだろ?
何時もつけてた癖に、ほいとに渡しちまうしよ」
「だからゼルはネックレスにしたんでしょ?」
そうそう。と言いゼルは腰に手を当てて一つ咳払いをしてから言葉を続けた。
「実はにもピアス借りたんだ。
リノアの提案でな、蝶とこの獅子の模様のアクセサリーを作ろうと思って。
お前と、と、リノアに」
だから「も喜ぶ」とか言っていたのか。
そう思いながらスコールは瞳を細めた。
そんなスコールの肩をばしんとセルフィが叩く。
「ほらほら、こっちはあたし達に任せていいんちょはを助けてあげなよ!」
「・・・セルフィ、」
栗色の瞳を見た後、スコールは皆を見渡す。
全員が頷いた後、カドワキ先生が前に出て「スコール」と言って少し笑う。
「あんた此処にもう一仕事残ってるよ」
(何だって?)
「生徒達に勇気をあげなさい。あんたは皆の指揮官なんだからね」
そう言ってスコールの背を押してブリッジへ続くエレベーターに乗せる。
それに乗って上に上がっていくと、話を聞いていたのかニーダが「あんた、結構皆に慕われてるんだぞ」と言って放送マイクを手渡した。
スコールは少しだけ考える仕種を見せた後、手を伸ばして放送スイッチを入れた。
『・・・こちらはスコールだ。
・・・皆、ケガの具合はどうだ?
戦いに疲れて立っているのも辛いかもしれないな・・・、でも、聞いてくれ』
その声は、ガーデン内全体に響き渡った。
『勝利のチャンスのために力を貸してくれ。俺達はこれから最後の戦いに向かう。
敵の攻撃部隊がやってくる前にこっちから敵陣に乗り込む。
そのために、このガーデンを向こうにぶつける事にしたんだ。
でかい衝撃に耐えられる準備をしといてくれ。周りに年少クラスの子がいたらよろしく頼む。
ガーデンホールにまで降りて準備をしていたアーヴァインが口笛を吹く。
セルフィとゼルは飛び跳ねてスコールに応える様に武器を、拳を手に振る。
正門に居るキスティスとシュウも、放送に耳を傾ける。
『道が開いたらアーヴァイン、キスティス、ゼル、セルフィが先発隊として行動する。
まだ力の残っている生徒は先発隊をサポートして欲しい』
その放送に耳を傾けながら、救護班の女子は怪我をしている男子を手助けし、
まだ動けそうな訓練生は武器を支えにゆっくりと立ち上がる―。
『SeeDは魔女を倒すために作られたそうだ。ガーデンはSeeDを育てるために作られた。
だから、これはガーデンの本当の戦いなんだ。キツくて、嫌になるような戦いだ』
年少クラスを世話しているSeeD女子も、子供も、立ち上がって手を握り合う。
『・・・・・・でも、後悔はしたくない。 皆にも悔いを残してほしくはない!
だから、皆の残っている力、全部、俺に貸してくれ!』
その声は、彼女の下にも届いた。
今自分が危機的状況にあるというのには笑みを零して、手に力を込めた。
「当たり前じゃん・・・。 スッコー、前にも言ったじゃん・・・!
スッコーが呼べば私は何時でも手を貸すって!」
放送のスイッチを切ったスコールに、カドワキ先生が「うん、それでいいんだよ」と言う。
「立派だったよ。 さあ! 突っ込むよ!」
カドワキ先生に「はい!」とニーダは言い操縦桿を思い切り横に倒した。
ガーデンは旋回し、ガルバディアガーデンへ思い切り体当たりをかました。
「リノア!」
ぎゅ、と強く彼女の手を握る。
リノアの身体が壁に打ち付けられたのを見ては「大丈夫!?」と声をかける。
またの衝撃に少しだけ下のほうにずり落ちた二人。
危機的状況なのに、未だに自分の心配ばかりするにリノアは「大丈夫!」と返した。
「・・・リノア、」
「ほんと、大丈夫なの! が居るから、私は・・・!」
リノアはそう言い、の手を握り返した―。
「うぉーっし!! 敵陣に乗り込んだぞ!」
衝突したガーデンの正門から降り、ガルバディアガーデンの校庭へと降りる。
ゼルはそう言い拳を振るって眼前へ迫ってくるガルバディア兵に視線を向けた。
キスティス達も同じように武器を構え、口を開く。
「さあ、覚悟はいいわね?」
キスティスが問うとゼル達は勿論、援護に回るガーデン生徒達も「おう!」と返事をした。
「皆、頑張ろう!」
セルフィがそう言い真っ先にヌンチャクを振るい迫ってきたガルバディア兵をダウンさせる。
そう、今も昔も応援してくれる友達の為に、セルフィは武器を振るった。
(俺達のガーデンのために!!)
此処が戦場になるなんて、これが最後にしたい。
ゼルはそう強く思い、皆の思い出の場所を護る為にゼルは拳を繰り出す。
そんな彼をサポートするように、彼の背後を狙っていたガルバディア兵を撃つ。
アーヴァインは次々と的確な狙撃で敵を倒していきながら、戦う彼等を盗み見た。
彼は、皆の為にトリガーを引いた。
(自分自身の為に!!)
仮初の想いも、世間からの目も、何も気にせずに。
唯自分自身の為に、戦う事を決意した。
自分が正しいと思った方向へ向かいながら、キスティスは鞭を振るった。
――その頃のスコールは空中に居た。
年少クラスの子供を助け、SeeDの女子に預けた後に何とかしてブリッジから出てとリノアを助けられないか、と思い散策しようとしたところを飛行機器を身につけたガルバディア兵が襲ってきたのだ。
それに体当たりされ、壁に身体を打ちつけたスコールは痛む身体を叱咤し、辺りを見渡した。
そこで、非常用のスイッチを目に留め、また突撃してくるガルバディア兵を前に、それを押したのだ。
そうすると、背後の非常扉が開かれ、非常時脱出用の滑り台が放出された。
その上を敵と一緒に落ちながら、スコールは拳を振るった。
飛行機器が真上にある状態で、二人して真下の垂れている紐に掴まっているだけの状態になったのだ。
そこで相手を何とかする為、取っ組み合いが始まったのだ。
殴られ、蹴られ、それでも紐は放さずに、スコールは思い切り拳を振るった。
真下でガーデンとガルバディアの戦闘が繰り広げられていたが、スコールは脇目をくれてやる暇が無かった。
ガーデンの円盤スレスレの真上を通り抜けたところで、やっと相手を殴り落とした。
スコールは下の取っ手に足をかけ、紐を伝って上へと上がり飛行機器を操作した。
目指す場所は、唯一つ――――。
「スッコー!!」
の姿が見えた。
片手で自身を支え、残りの手でリノアの手を握っている。
二人とも擦り傷だらけで、スコールは思わず瞳を細めた。
飛行機器を傍に寄せて、リノアの手が届く範囲まで下げる。
スコールの意図を読み取ったリノアが手を伸ばして紐を掴む。
それを確認し、スコールはまた飛行機器を操作した。
「っ!」
リノアがそう言うと、は頷いて崖から手を放す。
それと同時に、崖を蹴って紐に掴まった。
二人がちゃんと紐に掴まっているのも確認し、スコールは兎に角近くの場所に下ろした。
其処はガルバディアガーデンの校庭で、辺りではガーデンの人間とガルバディア兵が激戦を繰り広げていた。
地に足を着けたとリノア。
そして飛行機器から飛び降りたスコール。
此方をじっと見詰めてくるスコールに、は思わず身を硬くする。
あまりにも彼が真剣な瞳で見詰めてくるものだから、思わずはリノアの手を取って「こっち!」と言って走り出す。
それにスコールも着いてくるのを確認し、「こっちに入り口があるの!」と言う。
戦場を駆け、やっとガルバディアガーデンの裏口に着いた所で、はリノアにケアルラをかけた。
それにリノアは「ありがとう」と答えるとスコールを見やる。
「スコールもありがとう!助けてくれて、」
「・・・否、いいんだ。森のフクロウとは契約残ってるし、皆には色々言われてた」
スコールがそう言うとリノアは小首を傾げ、「色々?」と問うた。
それにスコールが気まずげに頷くと、ちらりとを見やった。
彼の様子で大方の察しが着いたリノアは少しだけ笑み、片手を挙げた。
「はいはい!私分かってるからね!」
「・・・あんたは、もう何も言うな」
スコールは額を押さえながら言う。
そしての方へと歩を進める、それを見てリノアはこっそりと裏口から中へ入っていった。
近付いてきたスコールを見上げるの頬やら腕には擦り傷だらけで、彼は瞳を細めるとケアルラをかけてやった。
そして彼女の手を取って、傷だらけになってしまったそれにケアルをかけて癒していく。
それに慌てたのはだった。
「スッ、スッコー!いいってそんなご丁寧にやらなくったってー!!」
「黙っていろ」
ばっさりとそう言われてしまい、はぐっと押し黙った。
が、直ぐに口を開き、自分の手に視線を落とすスコールを見詰めた。
「・・・ありがとうね、スッコー」
「・・・やっぱりあんたは目を放した途端これだな」
「う゛っ・・・。 しょっ、しょうがないっしょーが!今回は!!」
「どうせ自分から進んで落ちたんだろ」
視線を上げたスコールが、真っ直ぐに見詰めてくる。
リノアを助ける為にその場に留まったのを思い出し、押し黙る。
そんなに、彼は溜め息を吐いて言葉を続けた。
「・・・あんた、また死んでいたかもしれないんだぞ」
「それは無い。 絶対に!」
キッパリとそう言い返してくるにスコールは「何故」と問う。
それにはいつもの明るい笑みを浮かべ、「だって、」と続ける。
「これ、スッコーが失くすなって言ったから」
そう言っては自分の首元へ視線を落とす。
つられるように其処へ視線を落としたスコールの視界に、彼女に預けた指輪が入った。
「やるんじゃないぞ、持ってろ」
「え、何で?」
「アンタは皆を護ると言った」
「有限実行するよ。私は絶対皆を護る」
「・・・明日、明後日、近い内に失ってしまうかもしれないから。アンタはそう言った。
俺だって、アンタと同じ事を思っている、かもしれない」
「スッコー・・・、」
「其れ、大事な指輪なんだ。デザインも気に入ってる」
「そんな物私なんかに渡しちゃって・・・」
「だから、失くすなよ」
何時も無茶ばかりする彼女へ渡した、歯止めの意味を持つ指輪。
彼女に自分の意図が伝わっていた事を理解し、スコールは「そうか、」と返す。
手の回復を終えたので手を放したら、は「ありがとう」と言って微笑んだ。
そしてその指輪に視線を再度落とし、「そういえばさ、」と言う。
「この指輪ってカッコイイよねー・・・。・・・これは、魔物?」
チェーンを外し、空に掲げながら問う。
彫ってある模様について言っているのだろう、スコールはすぐに「魔物じゃない」と答えると彼女の真横に立って説明をした。
「想像上の動物・・・ライオンだ。とても強い。誇り高くて・・・強いんだ」
瞳を少しだけ輝かせて話すスコール。
そんな彼の様子を見て本当に好きで、憧れているんだな、とは思い「へぇー」と返す。
「誇り高くて強く・・・。スッコーもやっぱそうなりたい?」
「・・・なれたらいいな」
「スッコーならなれると思うよ。
このライオン君と同じく、スッコーもカッコイイし、強くて誇り高いもんね」
そう言って照れた様にはにかむに、スコールは胸の内が熱くなるのを感じた。
今すぐにでも胸の内を明かしたい衝動に駆られたが、戦いが終わったら、と彼女と約束をしたので今はぐっと堪えた。
そんなスコールの様子には気付かず、は「で?」と問うた。
彼女の問いかけの意図が分からず、瞳を丸くしていると「聞いてなかったっしょ」と言いは苦笑した。
「だーかーらー、このライオン君のお名前は? って聞いたの!」
「・・・ああ、」
「まさか無かったり?」
「否、もちろんあるさ。 グリーヴァ、それがこいつの名前だ」
スコールがそう言うとは再度指輪に視線を戻して「グリーヴァ、」と反復した。
そして、「よっし、覚えた!」と言うと再度チェーンに通して首に下げた。
「私も、強くなりたい。グリーヴァみたく、なれたらいいな」
「・・・あんたはならなくていい」
「へっ?」
人の決意表明の途中になんて事を!
と、喚くは無視し、スコールは言葉を続けた。
「・・・俺が傍に居る。俺が、あんたを護るから・・・」
だから、
「俺の傍に居ろ」
そう言って、彼女を真横から抱きしめた。
「え、」とか「あ、」とか言って慌てる彼女にスコールは少し笑みながら、彼女の背を撫でた。
「あんたは皆を護るんだろ、だったら、あんたは俺が護る」
「え、でも、スッコー、」
「何かがまたあんたに起きても、また俺が助けてやる、絶対に」
彼女の背に回した手を強くし、抱き締める。
更に密着したスコールに、は顔を真っ赤にしながらもおずおずと彼の背に手を回した。
そして唇を真一文字にきゅっと引き結び、スコールを見上げる。
「・・・スッコー、私・・・、」
「言うな。 今は、未だ良い。全てが終わってから、俺が言う」
だから、
そう言い、スコールは彼女から離れ、手を差し出した。
「行こう。 終わらせに」
瞳を丸くしていただが、直ぐに彼の言いたい事を理解すると口元に片手を持っていき、頬を真っ赤に染めた。
そして、小さく頷くと彼の手に自分の手を重ねた―。
ここの空中戦、凄く苦手です(それでもついつい選択肢で遊ぶ私←)
スコールの「おーい」が聞けますよ、遊んでると(笑)