「私も、強くなりたい。グリーヴァみたく、なれたらいいな」


指輪を見ながらそう言う彼女に、「・・・あんたはならなくていい」と告げる。
そうすると彼女は拍子抜けした様な顔をし、「へっ?」と声を漏らした。

人の決意表明の途中になんて事を!
等と喚く彼女には反応を返さず、彼女に向き直る。
顔だけを此方に向けている彼女を真っ直ぐに見詰め、「俺が、」と言う。


「・・・俺が傍に居る。俺が、あんたを護るから・・・」


だから、


「俺の傍に居ろ」


そう言って、彼女を真横から抱きしめた。


「え、」とか「あ、」とか言って慌てる彼女が何だか愛しくて、少し笑みを零して彼女の背を撫でた。

細い身体。

こんな身体で、一人で何が出来ようか。


「あんたは皆を護るんだろ、だったら、あんたは俺が護る」

「え、でも、スッコー、」

「何かがまたあんたに起きても、また俺が助けてやる、絶対に」


絶対に。

心の中でそう反復し、彼女を強く抱き締めた。
彼女は頬を赤く染めながら、俺の背に腕を回してくれた。

そして唇を真一文字にきゅっと引き結び、俺を見上げた。
「・・・スッコー、私・・・、」と何かを言いかける彼女に「言うな」と告げる。


「今は、未だ良い。全てが終わってから、俺が言う」


今告げるのは、何だか嫌だった。
これが最後みたいで。

だから、

そう言い、彼女から離れ、手を差し出した。


「行こう。 終わらせに」


彼女は瞳を丸くしていたが、直ぐに口元に片手を持っていき、頬を真っ赤に染めた。
きっと俺の言いたい事を理解したのだろう。

彼女は小さく頷くと俺の手に自分の手を重ねた―。



















































裏口からガルバディアガーデン内に入ると、先に入っていたリノアと、セルフィ達が居た。
セルフィが真っ先にに気付き、名を呼んで駆け寄ってくる。


「良かったね〜、大丈夫?」

「うん、スッコーが助けてくれたからね!」


ニッコリと笑って言うとセルフィは大きく頷いた。
キスティスとゼルも、良かったという表情で安堵の息を零した。

お互いの無事を確認していると、奥からアーヴァインが戻ってきた。
どうやら偵察に行っていたらしい。



「この奥に魔女がいるはずだ」

・・・今更迷ってないよな?


スコールはそう思い、全員を見渡す。
彼の視線に気付いた皆は真剣な面持ちで、彼を見返す。

スコールは一人、足を踏み出して先頭に立つと口を開く。


「この先にいるのは『敵』だ。『敵』の名前なんか忘れてしまえ」


前を向いたまま、スコールはそう言った。


「『敵』と自分の関係とか・・・『敵』の事情とか考えるのはやめろ。
 そういう事を考えながら戦えるほど・・・、」


戦いづらくなる。

スコールの言いたい事を理解したは、少しだけ表情を曇らせた。
彼等にとっては母親の様な人が、倒すべき相手の魔女なのだ。
そして、恐らくこの先に魔女と共に居るであろうサイファーとも戦う事になるだろうから。


「・・・少なくとも俺は強くない。『敵』は戦う事を選んだから俺達の『敵』になった。俺達も戦う事を選んだ。
 選択肢は多くなかった、否・・・ 多くなかったと思いたい・・・」


其処で言葉を途切らせ、スコールは考える。


何だよ・・・迷ってるのは俺か?


そう思い、彼は雑念を払うように首を振った。


「此処まで来たんだ。俺の話なんかいいよな?」

「良くない。でも、終わってから全部聞きたい・・・。私も、聞いて欲しい・・・」

「・・・そうだな、終わってからにしよう。俺とあんたの話も」


スコールはを真っ直ぐに見詰めてそう言った。
大きく頷いて、彼女は真剣な面持ちを取り戻した。

スコールは全員に視線を送り、「行くぞ」と言い歩を進めた―――。





魔女は奥に居る。
ならば、きっとマスタールームに居るだろう。

そう思ったはアーヴァインの服の裾をちょいちょいと引っ張って「ね、」と声をかける。


「マスタールームに行けば良いよね、きっと」

「うん、僕もそう思ってたんだ。 だから、スコールー!」


アーヴァインは前を歩くスコールを呼んで、マスタールームへ行く事を提案する。
彼もそれに同意したらしく、とアーヴァインに道案内を任せた様だ。

アーヴァインと一緒に前を歩いていると、真横から彼にぽんと頭に軽く手を乗せられた。
小首を傾げて彼を見上げると、アーヴァインは笑んでいた。


、この戦いが終わってからの話、僕にも聞かせてくれよ〜?」

「・・・アービンはからかうだろうから絶対話したくないんですけどー?」


そう言ってやると「まさか!」と言って彼はオーバーリアクションをとってみせた。
「どうだしょーね」と言ってそっぽを向いてやると、横の彼はクスクスと笑みを零した。
何が可笑しいんだろうかと思い再度彼に視線をやると、アーヴァインは何処か穏やかに瞳を細めていた。

今度はの頭をくしゃりと撫でると、彼は銃を持ち直して口を開いた。


「無理はしないでくれよ」

「アービンこそ」


はにこりと笑んで、彼の背を軽く叩いた。


前を歩く二人のそんな様子を半眼で見ていたスコールに、セルフィが「おやおや?」と声をかける。


「いいんちょ、目が半分だよ?ただでさえ何時も細い目してるのに」

「スコールはやきもち焼いてるんだよね?」


クスクスと笑みを零しながらリノアが言う。
両脇を女子二人に固められ、からかい声をかけられたスコールは溜め息を零した。
「この戦いが終わったら?」と、後ろから声をかけてくるキスティス。
そしてキスティスの横を歩いているゼルが「なんなんだよ、お前等何時の間に・・・」と呟いている。

やってられないな。

そう思い、スコールは額を手で覆った。


そのまま進んで、階段を上がっていると階段を登り終える位置に見覚えのある二人を見つけた。



風神と雷神だ――。


こんなところで何を、と思いつつが駆け寄ると、二人は酷く疲れ切った様子を見せた。
風神は目の前まで来たを特に警戒する訳でも無く、ただ「疲労」と呟いた。


「早く行けだもんよ。・・・終わらせるもんよ」

「・・・依頼」

「・・・サイファーの事頼むもんよ。もう、訳わからんもんよ。・・・元のサイファーが良いもんよ」

サイファー・・・もう、引き返せないんだろ


雷神と風神の言葉に、スコールはそう思う。
は二人に頷くと、「わかった」と返した。
そんな彼女に、風神はポケットから何かを出して手渡してきた。

それは三枚のカードキーだった。
これがあればマスタールームにちゃんと行ける。

は「ありがとう、二人共!」と言い、カードキーをきゅっと握った。





そのままマスタールームに向かっていたのだが、途中ガルバディアガーデンの生徒とも会った。
どうやらガルバディアの者は授業中だったガルバディアガーデンを占拠し、生徒達を追い出したらしい。
残っていた彼等にバラムガーデンへ行くように指示をし、達はマスタールームを目指した。

以前マスター・ドドンナが使用していた其処へ行くにはエレベーターのロックをカードキーで解かねばならない。
は先ほど風神から預かったカードキーを使用し、エレベーターのロックを解除した。

中に乗り込んで、パネルをタッチして行き先を指示する。
動き出したエレベーターの中で、前に立ったのはスコールとゼルだった。
も前へ一歩出、リノアは後ろの下がらせておいた。

リノアはキスティス達に任せておいて大丈夫だろう。
そう思いながら、は隣にセルフィが来たのを確認する。


エレベーターが到着し、扉が開いた途端達は駆けた。
そして、中央の椅子に座っている魔女と、その傍らに立っているサイファーと対峙した。

各々が何時でも武器に手をかけられる体勢を取っていると、サイファーは抜き身のガンブレードを肩に乗せながら口の橋を吊り上げた。


「何だよ、久し振りに母校に行こうと思ってたのによ」

「黙れ」


サイファーの言葉にスコールが冷たくそう返す。
そんなスコールに「相変わらずだな」と言いサイファーは肩を竦めて見せた。

そして、次に全員を見渡すと、「お前等、ママ先生を倒しに来たのか?」と言う。


「ガキの頃の恩は忘れたか?」


そうサイファーは問うが、誰も答えなかった。
それに白けた顔をし、サイファーは後ろに居るリノアに声をかける。


「リノア、お前、俺と戦えるのか?一年前はよ・・・」

「やめて!」


リノアは手を薙いで叫んだ。
そして前へ出て、ブラスターエッジを装着した腕をぴんと伸ばして照準をサイファーに合わせた。

戦える。 それを証明するかのように。

そんなリノアにサイファーは満足げに笑み、次にキスティスに声をかける。


「キスティス先生。俺は可愛い教え子だろ?」

「そんな事忘れたわ」


腕を組んでキスティスは言った。

自分で可愛い言うなよ、っていうか可愛くなかったよね。
はそう思いながらサイファーを見ていると、彼は次はゼルに声をかけた。


「よう、チキン野郎。お前とは色々あったよな?」

「おう! 決着つけてやる!」


挑発に全く乗じず、ゼルは拳を握るだけだった。
サイファーは次にアーヴァインとセルフィに声をかける。


「そこのお前、このガーデンの生徒だろ? 居る場所、間違ってるんじゃねえのか?」

「こっち側が気に入ってるんだよ〜」

「セルフィ・・・だったよな。 あんまり話出来なくて残念だよな」

「べっつに〜」


肩を竦めて見せるセルフィの後、サイファーはに視線を移した。
」と名を呼ばれ、「何ざんしょ」と返す。


「短い間だったけど、結構一緒に話してたな」

「あー、そうだね。オヒサシブリデスネー」


適当にそう返すと、隣に立っているスコールが「俺達気持ちをぐらつかせようとしても無駄だ」と言う。


「あんたは何者でもない。あんたは、ただの『敵』だ。あんたの言葉は届かない。
 あんた、俺達にとって魔物と同じだ」

「魔物と同じだあ?
 俺は魔女イデアの騎士だ。 群れて襲いかかる魔物・・・そりゃ、お前達だ」


サイファーはそう言うと「さぁて!」と言いガンブレードの切っ先を此方に向けてきた。
スコールもほぼ同時に、ガンブレードを出して構えた。


「魔物共を退治するか! さあ、かかってこい、雑魚共。決定的な実力差を、教えてやるぜ!」

「言っておくけどね、それはこっちの台詞だからね!」


はそう言うと双剣を腰から抜いて、構えた。


「スコール、とどめを刺してやるぜ。『魔女の騎士』の力、とくと味わいな!」


サイファーはそう言うと、スコールと刃を交え始めた。
それを魔法でサポートしながら、はちらりと座って此方をじっと見詰めたままの魔女を盗み見た。

どうこうしてくる様子は未だに無いが、何時手を出してくるか分からない。

そう思ったは「ゼル!リノア!」と声をかける。


「魔女の事も気懸かりだからさ、そっちでサイファーは相手にして!」

「おうよ! お前等はそっち頼むぜ!」


ゼルがそう言った途端、魔女が視線を動かして手を翳そうとした。
直ぐに気付いたは、リノアの前に立ってリフレクを放った。
それとほぼ同時に、魔女の放った炎の魔法・ファイラが此方に突っ込んできた。

防いだは双剣を構えながら「リノア、」と彼女に声をかける。


「サイファーと戦うの、辛いかもしんないけどそっちに回って」

「・・・分かった」


魔女との戦いは、危険だから。

暗にそういわれた事に気付いたリノアは、スコールとゼルの援護に向かった。
残ったキスティス、アーヴァイン、セルフィと共には武器を構え、魔女イデアと対峙した。




次回、イデア戦。