俺は、また、誰かを失うのか?


「あん?」


頭の中で誰かがそう言った気がして、ラグナは頭をかいた。
そんなラグナの横に立っていたクロスが「どうしました?」と声をかける。


「やっとやる気になったんですか?」

「んな訳ねーだろ!何で俺がこんな事しなくちゃならないんだよ!」

「金がないからだ」

「・・・・・・」


さらりとキロスが返すとウォードが彼をじっと見詰める。
喋れなくなった彼だが、言葉は音にしなくても彼等と通じ合っている。
ウォードの視線に居心地の悪さを感じたラグナは「う、」と声を漏らして両手を振る。


「悪かったよ! ホテルにばっか泊まったのは確かに俺のせいだ。
 でも、俺、役者なんて出来ないって!」

「と言いつつ少しはその気のラグナ君であった、と」


腕を組んで、満更でもなさそうな様子のラグナにキロスが言う。
クロスは小さく息を吐いて、辺りを見渡した。

此処はトラビア地方だ。

山の中腹辺りで、"魔女の騎士"という映画の撮影にラグナがスカウトされたのだ。
丁度資金も尽きてきた所だったのでそれを了承し、今撮影現場に居るのだ。

しかし、


「・・・寒い」


雪が積もっていて、ちらちらと降っている中だ。
当然、寒かった。

クロスがそう言い腕を擦った時、監督から声がかかった。


「はいはい! 早く準備して〜!」

「全くいい加減な監督だぜ。俺みたいな素人で映画作るなんてよ!」

「・・・・・・」

「わ〜ったよ。スカウトされてラッキーだったよ。 何つっても金貰えんだからな」


またしてもウォードの無言の圧力を受け、ラグナが仕方なさそうにキロスと歩いていく。
そんな彼を視線だけで見送っていた二人だが、聞こえてきた声に思わず表情を緩めた。


「ま、マジかよ。やだって、こんなカッコ」

「この期に及んで文句は言わない、っと。 ハイ、着替え完了。さ、行った、行った」


背を押されて出てきたラグナは、真っ白な甲冑を身にまとっていて手にはガンブレードを持っていた。
監督の所へ行くのを渋る彼の背を、クロスが押す。
「往生際が悪いですよ」と言うとラグナは渋々と歩き出した。


「おっ、来た来た。似合うじゃないの」


監督はそう言うと「こちら、共演の魔女さん」と言い女性を紹介する。
魔女役の女性は「よろしく、お願い致しますわ〜〜」と言い礼をした。


「後はドラゴン役なんだが・・・おぉ! ちょうどいいや。後ろの2人!」


監督はキロスとウォードに声をかける。
キロスが「はい?」と言うと監督は言葉を続けた。


「悪いんだけどさ、ちょっと着ぐるみの役者が風邪引いちゃってさ。
 向こうにある、ドラゴンの縫いぐるみ着てノシノシ歩いてきてよ。バイト代は出すからさ」

「ま、しょうがないか」

「はーい、じゃあ役者は向こうでスタンバイね」

「・・・俺は?」


残されたクロスがぽつりと呟く。
ラグナの撮影姿を見るのもいいが、取り合えずキロス達の手伝いでもするか。
クロスはそう思い、キロスとウォードの後を着いて行った。


「キロスさん、ウォードさん、お手伝いしますよ」


クロスが着ぐるみを羽織るのに苦戦していた二人に手を伸ばしてちゃんと着せてやる。
それにキロスから「ありがとう」と礼を述べられ、ウォードにも視線で言葉を貰った。
「いえ、」と言って少しだけ笑んだクロスは手を伸ばし、ドラゴンの頭を立てようとする。

その時、


「え?」


何か大きな影が、彼等を覆った。















「は〜い、じゃあ行くよ。 カット12、魔女絶体絶命」


監督の声を聞きながらラグナは(台詞、何だったっけ)と思っていた。
いざ本番となると心拍数も上がり、台詞もついつい忘れがちになる。


「よ〜〜い・・・、
アクショーーーーンーー!」

「おぉ〜、騎士殿〜 邪悪なドラゴンより〜私をお守りください〜〜〜」


監督がそう叫んだ次に、魔女役の女性が語尾を延ばしながら、よよよ、とふらついた様子を見せて言う。


「お、おぉ… わ、わた、くしが、お守りしませう」


しませう。

なんだそれ。と、頭で声が響いた気がしたが、ラグナは構っていられなかった。


ったく、あがっちまうじゃねぇか。
 それに、何だガンブレードなんて、研修以来だなオイ。・・・こんな感じか?



そう思い、研修時にやっていた方法で振ってみる。
案外手に馴染むそれは、簡単に振れた。


「おっ、いいねぇ。セリフは後で吹き替えるとして・・・ハイ!ドラゴン登場ぅーーー!」


監督が嬉々とした様子でそう声を上げるが、中々キロスとウォードのドラゴンが登場しない。
焦れた監督が「おい!チョット!ドラゴンだよ!ドラゴン!」と言うと、やっと赤い身体が姿を現した。


「おっ、来た来た! おぉーーーー!!何というリアルな動き!! 凄いぞ!! キロス君!
 でも、縫いぐるみあんなにデカかったかなぁ・・・」


ぽつりと監督が呟く。

ドラゴンは赤い身体を揺らしながら、羽を動かしてきた。
その迫力にラグナは思わず身を竦ませる


うぉ! マジ、キロスとウォードの奴気合い入ってんな。本物、そっくりじゃねぇか!


と、思った途端。


「ぐおっ!!」


ドラゴンが攻撃をしてきた。
爪で引っかかれそうになったラグナは咄嗟にガンブレードを振ってバックステップを踏む。


「(
お、おい! キロス、ウォード、ちっとは、加減・・・・・・って、これ本物じゃねぇか!!

何ぃーーー!! 道理で、でっかくてリアルだと思った!!」


思わずノリで突っ込みを入れると監督がそう叫んだ。
が、直後、カメラを抱えて魔女役の女性と一緒に走り出した。


「な、何て、呑気な事を言ってる場合じゃねぇな。じゃ、じゃあ、騎士君。後は頼んだよーー」

「で、では騎士殿、後は、頼みましたわ〜〜〜」

「って、おい、テメェら!俺を置いていくな!!」


一人残され、ドラゴンに行く手を阻まれたラグナは舌打ちを打つ。


「ちっ! 見逃してくれそうもねぇな。ガンブレードで出来る事は・・・・・・よし! 行くぞ!!」


研修時の事を思い出し、ラグナはガンブレードを構える。
不思議と、以前から使い慣れている武器の様に手に馴染んだ。
自分の武器はマシンガンの筈なのに、と思いながらもラグナは頭の中のざわつきで察する。


妖精さんが力を貸してくれてるってか?


そう思いながらガンブレードでドラゴンの攻撃を防いで、反撃に出る。
攻撃する時に、トリガーを引いて爆発的な威力を発揮させる。

不慣れな者がそれをするのは危険だったが、今は構っていられない。
それに、妖精さんが着いてる。

ラグナはそう思い、果敢にもドラゴンに挑んだ。

防いでは攻撃、それの繰り返しをしている内にドラゴンが怯んだ。
その隙を見逃さず、ラグナは走り出す。


「ちゃ〜んす、今のうちに逃げるぞ!」


が、横切る途中でドラゴンが爪を振り下ろしてきた。
咄嗟の事に避ける事が出来ないラグナは、身を硬くし、目を強く閉じた。


―その時、


「肩借りますよ」


トン、と肩に軽い衝撃が走った。

あっと思って思わず振り返ると、空中で威力をつけ、ドラゴンの顔面を蹴っているクロスの姿が視界に入った。


「クロスくーん!!」

「さ、行きますよ!」


軽い動作で着地したクロスは、ラグナの背を押して走る。
山を降りている途中、ラグナががしょがしょいう甲冑が邪魔だったのか、脱ぎ捨てて走った。
ちょっともったいない。と思ったクロスだが、今は構わない事にした。

もうそろそろ山を下りられる、という所でまた目の前にドラゴンが立ちはだかった。


「だーーー!しつこいぞ!キロスとウォードは何してんだ!!」

「呼んだかい?ラグナ君」


ラグナが叫んだ瞬間、真後ろから声がする。
直後、「とうっ!!」という掛け声と共にキロスが軽やかな動作で降りてきた。
その次に降りてきたウォードは、着地に失敗して尻餅をついていたが。


「お待たせ〜ほい、パス」


そう言いキロスが投げたのはラグナのマシンガン。
それを受け取り、ラグナは「よっし!」と言うと武器を構えた。


「反撃開始だ!!」


クロスも双剣を抜いて、「さて、」と言う。


「これはトラビア地方で有名なルブルムドラゴンです。
 知力も高いので、まともに相手したら死にますよ」

「さらっと言っちゃうけどな!お前、じゃあどうすんだよー!?」

「逃げるに決まってます」


クロスはさらりとそう言うと、ドラゴンに向かって駆け出した。
そして、飛んで双剣を振るってドラゴンの羽を切る。


よーするに、ぼっこぼこにしてトンズラです

「聞こえが悪いが、それが最善の手だろうな」


仲間を呼ばれたら堪らない。
そう言いキロスもドラゴンに切りかかった。
ウォードとラグナの攻撃もあって、怯んだドラゴンの真横を通り過ぎようとすると、


「げ、」


また、別のドラゴンが居た。
その奥にはまた別の・・・・・・。


「な、何匹いるんだよ!相手してられるかっての!!逃げるぜ!!」


そう言い、全員で走り出す。
山を思わず登り、反対側から出ようとする。

山脈を走って登っている途中、ふと、視界の走り光る建物が過ぎる。


「・・・何だよ、あれ」


エスタの方角か?

ラグナがそう思った瞬間、スコールとラグナの意識はぷつりと途切れた。










『・・・接続が切れないわ』


スコールの脳内に、今度は別の声がした。
この声は聞き覚えがある、そう、彼女は、


接続って何だよ・・・

『スコールなの?』

ああ・・・)

『接続って言うのは、私がそう呼んでるだけ。私の不思議な能力を使う事。
 わかった・・・私、眠ってるんだ。だから力をコントロール出来ないんだ。
 ごめんね、スコール。後少しだけ心を貸して』


もう帰してくれよ


エルオーネ。

そう思った瞬間、また辺りの景色が変わった。

雨の中の、見覚えのある場所。
石の家には、若かりし頃のイデア、そしてラグナがいた。


「やっぱり、ここにはいないよな〜」

「そのエルオーネちゃんはどうしたの?」

「エスタ兵に誘拐されたんだ。俺、何とかエスタに入ろうとして旅を続けて、かれこれ・・・」


ラグナは頭をかきながら続ける。
そんなラグナの横には、よく見たらクロスも居た。
クロスはエスタ兵に誘拐、だけでは分かりづらいと思い言葉を付け足す。


「エルオーネはエスタ魔女アデルの後継者集めで、誘拐されました」

「・・・娘さん?」

「違うけど、でも、可愛いんだよ〜。 ああ、声が聞きたいな〜」

俺はの声が聞きたい


ラグナの言葉に、思わずそう呟く。
そんなスコールの声が届いたのか、ラグナが辺りを見渡す。
あれ、と呟いたラグナにイデアが「どうしました?」と声をかける。


「いや、妖精さんが・・・」


また、辺りが暗くなってきた。










俺、過去でも何でもいいからの声が聞きたい。動いてるが見たい。
 もしかしたら助けられるかもしれないんだろ?


『過去は変えられないよ。私、やっと分かった』


スコールの言葉に、エルオーネがそう返す。


『私がエスタに攫われた時にラグナおじさんは旅に出た・・・。
 でも、そのせいで、レインが死んじゃう時にラグナおじさんは側に居られなかった。
 レインは生まれたばかりの赤ちゃんをラグナに見せたがっていた。
 レインはラグナ、ラグナって呼んでた。 だから、何があっても村に居るように・・・』


エルオーネはそう言い、小さく息を吐いてから『でも、駄目だった』と言った。


『もうあの瞬間には戻れない・・・。
 それに・・・、私、会った事のある人の中にしかあなた達を送り込めないの。
 ごめんね、スコール。接続、切れそうなの。また、あなたと話せるように試してみるね』

お姉ちゃん! エルオーネ!  俺は・・・!

『今度は、クロスお兄ちゃんにも―――』





その声が、最後の声だった。





気付けば保健室に居た。

スコールはゆっくりと瞳を開け、目の前で眠るを見詰めた。


俺は・・・の声が聞きたい


ころころと表情を変えて、何時も傍に居てくれて、何時も、何時も必要な言葉をくれた、に。


「過去に行けばアンタに会える!上手くやれば過去を変える事だって!」


スコールはそう言い「エルオーネ!」と、叫んだ。


「エルオーネ! 聞こえるか?!
 俺を過去に送り込め! がこんなになったあの瞬間に!」


―――だが、返事は無かった。

スコールはふらりと近くにあった椅子へと腰を下ろした。


エルオーネ、答えてくれないのか・・・。
 白いSeeDの船に乗ってるんだったな・・・白いSeeD・・・イデアのSeeD・・・、イデアのSeeD?



イデアの。
そう考えるとスコールはハッとした。


「そうか、イデアに聞けばあの船の場所がわかるかもしれない!
 そうすれば、エルオーネに会える。そうすれば、過去に・・・!!」


スコールはそう言い、拳を握った。
そして立ち上がり、眠るの横にまた膝を着いて、彼女の手に自分の手を重ねた。


「待ってろ。 白いSeeDの船さえ見つければエルオーネに会える。
 そうしたら、お前を助けられる方法も見出せるはずだ」


スコールはそう言い、立ち上がる。

目指すはブリッジだ。 まずはイデアにまた会って話を聞かなければ。
そう思い保健室を出たところで、リノアに会った。


「あ、スコール」


もういいの?と言ってくるリノアにスコールは頷き、「イデアに話を聞きに行く」と言った。


「白いSeeDの船にエルオーネが乗っている、エルオーネに会えば、過去へ飛ばして貰える、も助けられる」

「・・・スコール・・・」

「・・・アンタはどうする?」


リノアは小さく首を振って、「私は、と居る」と言った。


「でも、スコールも無理しないでね?
 ・・・が大好きすぎて、暴走して、逆にを傷つけちゃったら意味無いんだから」

「・・・分かってる」


すれ違いざまに、ありがとう。と呟いてスコールは足早に保健室から出て行った。
残されたリノアは、小さく息を吐いてから、の眠っているベッドへと近付く。

変わらずに眠る彼女は、酷く冷たかった。


「・・・





『・・・リノアを護りたいから。私、リノアの為ならいっぱい頑張れるの』





もし、あの閃光が走った後、自分の前にが立ち塞がっていなかったら、どうなってた?

そう思い、リノアはきゅ、と唇を噛む。


あの時、は突然走った閃光にリノアの前に躍り出て彼女を抱き締めた。
そう、護る様にだ。
突然の事で彼女にしがみ付いている事しか出来なかった自分が恨めしい。

リノアはそう思い、上を向いた。

目の奥に、水が流れていく気がして、嫌な気持ちも全部流れてしまえばいいのに、と思えた。




ラグナ編のミニゲームは鬼門。
シリアスな話の間につかの間に癒し。