「あの子達は・・・用心深いから一つの場所に留まっている事は滅多にありません」


イデアの家に行って白いSeeDの船の場所を聞いてみたところ、そんな返事が返ってきた。
彼女の言葉に落胆の色を見せたスコールだが、イデアが「ああ、でも、」と言葉を発すのに直ぐに顔を上げた。


「あの子達、セントラの風景を気に入っていたみたいでした。
 だからこのセントラ大陸の入り江のどれかに船を停めているかもしれません」

「どこかに・・・」


スコールはそれさえ分かると直ぐにでも駆け出しそうな勢いだった。
そんなスコールにイデアが「少し待ってください」と言う。


「私が書いた手紙を持って行きなさい。これで彼らは、あなた達を歓迎してくれるでしょう」


そう言い、イデアは手紙を書く為に家の中へ入っていった。
手持ち無沙汰になったスコール達に、シドが近付いて白いSeeDについて説明してくれた。


「白いSeeDの船。最初はしつこいエスタからエルオーネを守るために手に入れました。
 イデアが船長として乗っていたのですが、何時の間にか子供達を集めて孤児院のようにしてしまったのです。
 イデアは、子供達に様々な事を教えて、彼らもまた、SeeDと呼ぶようにしたという訳です」


シドの話を聞き終わったとほぼ同時に、イデアが手紙を書き終えて持ってきた。
スコールはそれを受け取り、一度またガーデンに戻る事にした。




―――ガーデンに戻って、セルフィがスコールを出迎えた。


「いいんちょ、次はどうする?」

「・・・白いSeeDの船はセントラ大陸の入り江のどれかに船を停めている可能性が高い。それを探す」

「りょうか〜い」


SeeDの敬礼をしてそう言うセルフィ。
が、直ぐに表情からは明るさが消えて、「ねぇ、」と声をかけてくる。


「・・・次の行動、リノアも連れてってあげて?」


はあたしとアービンで見てるから。
そう言うセルフィに、スコールは小さく頷いた。

リノアだって、辛い思いをしているはずだった。
ずっとの傍に居て、特に仲がよかった二人だから尚更だ。

それに、リノアが言っていた『また護られちゃった』という言葉。

それが事実ではないにせよ、彼女が責任を感じていないはずがなかった。


「・・・あたし達だって、が心配なんだからね、一人で全部背負い込まないでね? いいんちょ」

「・・・・・・ああ」


スコールはセルフィの心配気な視線から逃れる様に、ブリッジへ向かった。
ブリッジへ上ったスコールに、ニーダが「何処へ行く?」と問うてきた。
スコールはそれに「セントラ大陸の周りに居るであろう、白いSeeDの船を捜す」と即答した。

移動するガーデンの中、スコールはセルフィにリノアを呼びに行かせていた。
セルフィが連れてきたリノアは、彼を見上げて少しだけ瞳を揺らした。


「・・・キスティスとアーヴァインが着いててくれるって」

「・・・今はの事は二人に任せよう。あんたは少し、気分転換みたいな感じでいればいい」

「・・・スコールもね」


リノアはそう言い、スコールを真っ直ぐに見詰めた。
まだ彼女が倒れてから、そんなに日にちは経っていないのにお互い何処か痩せた様な気がした。
意気消沈しているのだ、痩せているように見えても無理は無かった。


「・・・私、ほんとはの傍に居たい」


でも、我が儘だもんね。
そう言ってリノアは苦笑した。


「だってきっと、スコールがの傍に一番居たいんでしょ?」


そう言ってくるリノアには答えず、スコールはゆっくりと瞳を伏せた。













































白いSeeDの乗る船はセントラ大陸の沖に停泊していた。
バラムガーデンで近付き、以前とは真逆な行動を取る。

スコールと、同行者のゼルとキスティス、リノアがまず出て、彼等に所在を述べて訪問理由を述べる。

「エルオーネに会いたい」と。

魔女イデアの事も話したのだが、白いSeeDのリーダーの男は「信じる理由はない・・・お引き取り願おう・・・」と、言い奥へ入って行ってしまった。

そんな彼を追おうとスコールが足を動かしかけたところで、「あーっ!」という明るい声が響く。
それは以前聞いた声色で、スコールは反射的に足を止めた。

一番最初にその声に反応し、振り返ったのはリノアだった。

駆け寄ってくる人物を視界に留めると、リノアは瞳を大きく見開いて、彼等を見た。


「久し振りッス!」

「うぉ、どうした!? あ・・・!スコールとリノアじゃないか!」

「ワッツ、ゾーン!」


無事だったのね、と言いリノアが二人に駆け寄る。
ティンバーで別れたきりの、森のフクロウのメンバーの二人だ。
リノアと同じく、無事だったのか、とスコールは思い彼等に近付く。


「こんなところで会うとは思わなかったッス!皆元気だったッスか!?」

「俺達は、みんながティンバーを出てすぐガルバディア兵に追われてるところをこの船に拾ってもらったんだ」

「ほんと、死ぬかと思ったッス! ゾーンが海に逃げようなんて言い出したからッス・・・!」

「そんなに言うならついてこなかったら良かっただろ? 何だかんだ言って、先に海に入ったのはワッツの方だろ!」


わいわいと話し出す二人に、自然と頬が緩んだ。
相変わらずな様子の二人にリノアは安堵の息を吐いてから少しだけ瞳を潤ませた。
無事だった様子の彼等を前に、ゼルとキスティスも同じ反応をしている。


・・・変わってないな


スコールはそう思い、少しだけ瞳を伏せる。


・・・変わったのは・・・、


名を呼んでくれる彼女が、隣に居ない事。

ゾーンとワッツは少しの間そう言いあっていたが、ふと何かに気付いた様子で「あれ?」と言う。
そして、ゾーンがキョロキョロと辺りを見渡して再確認した後、小首を傾げながらリノアとスコールに問うた。


「そういえば、は居ないのか?」


彼女に聞きたい事あったんだけど。
と、言い頭を掻く。

そんなゾーンにリノアは俯き、瞳を潤わせて肩を震わせて「は・・・」と呟く。
リノアの様子にワッツが慌て、「わわわ」と声を上げながらリノアの背に手を置いて撫でてやる。
答えられそうも無いリノアの代わりに、スコールが口を開く。


「・・・魔女だったイデアと、俺達は戦った。
 その戦いの後から、ずっと意識がない・・・今もガーデンで眠っている。
 どうしてそうなったのか・・・・・・解らない・・・」

「私を!」


スコールの後半の言葉を遮る様に、リノアが声を張り上げる。
瞳をぎゅっと閉じながら、「私を・・・」と震える声で繰り返す。


・・・私を護ったから・・・だから・・・きっと・・・!」

「・・・・・・なんてこった」


自分を抱き締める様に、腕を回したリノアにゾーンはそう苦々しく呟き、頭を掻く。


「・・・俺は、彼女がちゃんとリノアを護ってやってるかって話を聞きたかったんだがな・・・」


「約束もしてたし、」と言い、ゾーンは重い息を吐いた。
そんな彼の言葉にワッツが反応し、「約束?」と問うた。
ゾーンは頷くと、再度口を開く。


が言ってきたんだよ。
 お前達がパスを手にホームに走ってく中、一人だけ残って俺に」










「・・・ゾーンさん、リノアの事は任せて下さい」

「当たり前だ。 ・・・っつうか、リノアに何かあったら許さないからな・・・!」

「・・・了解!任せて下さいよ!」










「そう言って、敬礼してあんた等の後を追ってったんだよ・・・」

・・・」


やっぱり、私を護って、

そう呟き、リノアは俯く。
そんな彼女の様子にゾーンは目を細め、スコールを睨み上げた。


「あんた、何してたんだよ! はリノアを護ると言った。
 班長であるあんたは!何してたんだよ!!」

「ゾーン、落ち着くッスよ!」


甲板の床に拳を打ちつけて声を張るゾーンに、ワッツがそう言い嗜める。
「きっとを救う方法はあるッスよ」と言いワッツはスコールに同意を求める視線を向ける。
それにスコールは頷き、口を開く。



「俺達がこの船にエルオーネを捜しに来たのはある人物より先に保護するのが目的だ・・・。
 でも、エルオーネにを会わせる事が出来れば・・・、上手くいけば・・・、もしかしたら、を・・・」

「ほら、ゾーン!リノアも!  大丈夫ッスよ、は元気になるッスよ!」


ワッツの言葉にゾーンは少し黙ったが、直ぐに「分かった、」と言いスコールとリノアを見た。


「スコール、あんたちゃんとあの子を助けてやれよ。 じゃないとリノアだって悲しむんだ」

「・・・当たり前だ」


ゾーンの言葉にそう返したスコール。
彼等のやり取りを見ていたワッツはほっと一息吐いてから、「情報なら、いっぱい仕入れてるッスよ!」と言った。
取り合えずこの船についてを聞いてみると、ワッツは一度頷いてから答えてくれた。


「イデアって人が居なくなってからこの船には、大人が乗ってないみたいッス。
 俺達と同じくらいの年の子か、うんと小さい子が、ほとんどッス。みんな、両親がいない子ばっかりッス。
 俺もゾーンもそうだったから、気持ちは良くわかるッス」


ワッツはそう言い、甲板の端で白いSeeDの男と追いかけっこをしている子供たちを見た。
それを少しだけ瞳を細めて見、ワッツは「でも、」と言った。


「たまに寂しそうにしてる子を見ると、ちょっと、やるせないッス」

「・・・エルオーネが乗っていなかったか?」


スコールがそう問うと、ワッツは「あの綺麗な人ッスね」と言って言葉を続けた。


「何か、迎えが来て船から降りたッス」

「何処へ?」

「兵士が乗っていたッス! あれは雑誌で見た事あるッス!エスタ兵ッス!」

「エスタ!?連れて行かれたのか?」


遥か向こうの大陸にあるエスタ。
その国の兵士の乗った船に行ったという事ならば、

スコールはそう思い、問うたがワッツは「さぁ」と言い首を傾げるだけだった。


「何だかにこにこしていったッス」

どういう事だ・・・? わからない

「強引に連れて行かれたわけじゃないのね?」


キスティスが問うとワッツは頷いた。


「凄い、皆に慕われてたッス。
 俺達が、溺れそうになってるところを見つけてくれたり・・・。
 初めて声掛けてくれたりしたのも、エルオーネだったッス。
 ほんと、命の恩人ッス。 船の皆も、きっと・・・一番、大切に思ってるッスよ」

「・・・さっきのリーダーの人も?」


リノアが問うと、ワッツとゾーンは頷いた。


「この船のリーダーなら何時もそこのキャビンに居るはずッス。
 エルオーネの事になると、何時もより厳しいッスけど・・・、
 ・・・元々、困っている人を放ってておけない人だから、そんな悪い人じゃないッスよ」

「リーダーに話があるならちゃんと言ってみろ、きっと分かってくれるはずだから」


ゾーンの言葉に頷き、スコールは先ほどワッツが指したキャビンを目指した。
ゾーンが案内をしてくれるその途中、子供たちに絵本を読んでいる白いSeeDの女性の声が耳に入る。


「今日は、賢者パスカリューンの子孫を名乗る者が残した書物『偉大なるパスカリューンの記』についてお勉強しましょう。

 まだ昼と夜が混じり合っていた頃。『ハイン』という存在があった。
 『ハイン』はこの大地の支配者だった。楽をするために、道具を作った。
 道具は勝手に動いて、必要なら自分達の数を増やす事が出来るように作られた。
 これが男と女からなる我々人間の始まりとなった」


子供たちがちゃんと聞いているのを確認しながら、女性は続ける。


「『ハイン』が目覚めた時、辺りの様子は一変していた。何より驚いたのは人間達の数だった。
 『ハイン』は人間達を減らそうとして役に立たなさそうな小さな人間を魔法で焼き尽くしてしまった。
 その小さな人間は『子供』と呼ばれる存在で人間達がたいそう大切にしていたものだった。
 人間達は『ハイン』に反抗し始めた」


子供を焼き尽くした、という事に子供たちは思わず身を寄せ合う。


「『ハイン』は魔法で応戦したが増えてしまった人間の数と魔法を持たない代わりに獲得した知恵にやり込められる事が多くなった。
 困った『ハイン』は人間達に停戦のための取引をした。自分の半身とその力を人間達に与えたのだ。
 『ハイン』は自分の身体を切り裂き、半身を人間に差し出した。
 ところが人間達はこの『ハインの半身』が持つ力を奪い合って争いを始めてしまった。
 長い長い戦いが続いた。この戦いに勝利した黒耳王ゼバルガとその一族が『ハインの半身』に約束通りお前の力をよこせと言った。
 だが『ハインの半身』はのらりくらりと答えをはぐらかした。
 賢者パスカリューンは『ハインの半身』が野蛮で粗野な腕力しか持っていない事を突き止めた。
 『ハインの半身』は『抜け殻のハイン』だったのだ。
 その話を聞いたゼバルガ一族は怒り、『ハイン』を倒そうと考えた。しかし魔法を持つ方の『ハインの半身』は一向に見つからなかった。
 人間は行方不明の『ハイン』に『魔法のハイン』と名付けて何世代にも渡って捜し続けた」

「今もハインは見つかってないの?」


子供の問いに、女性は頷いてから「そうね」と答えた。


「どこかにひっそりと隠れているのかもしれないわね。何せ『魔法のハイン』なのだから」


そんな話を耳にしながら、スコールはキャビンに入った。
中には先ほどの白いSeeDのリーダーが居た。
スコールが「これを、」と言いイデアに書いて貰った手紙を手渡すと、彼は「これは・・・!」と言い封を開いた。


「・・・ママ先生の字。 本当にママ先生が?」

「あんた達もママ先生って呼ぶんだな」


スコールがそう言うと、リーダーの男は幾分表情を柔らかくして、「僕達を育て、教えてくれた人だから」と言って頷いた。


「俺達も子供の頃、イデアに育てられた。そして、色々な事があってイデアと戦った。
 その結果、イデアを取り戻した。恐ろしい魔女イデアは優しい魔女イデア・・・・・・ママ先生に戻った」


スコールの言葉を聞きながら手紙を読んでいたリーダーは、丁寧に手紙を折ってポケットに仕舞い、SeeDの敬礼をした。


「ありがとう、スコール。ありがとう、バラム・ガーデンの人達。イデアの船を代表して感謝する」

「・・・敬礼まで同じなんだな」


同じく、敬礼を返しながらスコールが言うとリーダーは頷いて答えた。


「SeeDを作る時に敬礼だけは決まってたってママ先生が言ってたよ」


そう言った後、リーダーは再度表情を引き締め、「手紙に書いてあったけど・・・」と言う。


「エルオーネを捜しているんだろ?・・・申し訳ない。エルオーネは居ない」


リーダーの言葉にスコールは頷いた。
先ほどワッツの言っていた通り、エスタの船に乗って行ってしまったのだろう。


「君達のガーデンに預けておいたエルオーネをF.H.の近海で返してもらっただろ?
 その後僕達は魔女イデアから遠ざかるために東へ向かった。
 間もなくガルバディア軍の船団に遭遇したんだ。
 船が沢山居て、何かを捜索していたみたいだった。迂闊だった。僕達は見つかって追いかけ回された」


リーダーはそう言い、視線を窓に移す。
海を見詰めながら、「勿論全速力で逃げたんだ。でも船が故障してしまって・・・」と言う。


「エルオーネをガルバディアに渡す訳にはいかなかった。
 だから、僕達は・・・戦闘の準備を始めた。そこへエスタの船が現れたんだ。
 ガルバディア軍とエスタの船の戦闘が始まって、僕達は巻き込まれてしまった」


リーダーはそう言い、一息吐いてから「・・・此処から起こった事は・・・僕達の間でも意見が分かれている」と言う。
改めてスコール達を見、再度口を開く。


「エスタの船が一隻、この船に横付けしてきたんだ。
 僕達に、エスタ船に乗り移るように言った。避難させようとしていたみたいだった。
 僕達はもちろん拒否した。ガルバディアと同じくらいエスタも信用出来なかったからね。
 エスタ兵は僕らを説得しようとしたけど、周囲の戦闘が激しくなって・・・、

 エスタの船が諦めて離れようとした時、黙って様子を見ていたエルオーネが何かを叫びながら、エスタの船に飛び移ったんだ。
 あれは全然エルオーネらしくない行動だった。

 僕達は何が何だか分からなくて・・・、でもエスタの船は激しくなった戦闘から逃げるように去って行った。
 そして僕達は・・・いや、僕達の事はいいか。それっきりだ。僕達は船が直り次第エスタに向かうつもりだ。
 済まない、スコール。エルオーネを守れなかった」


リーダーはそう言い頭を下げた。
それにスコールは「いや、」と言い彼に問うた。


「エルオーネはエスタに居るって事か?」

「そう思っている」


リーダーの言葉に、ゼルがスコールを見て「目的地、決まったな」と言う。
それにスコールは頷き、「俺達もエスタへ向かう」とリーダーへ述べる。
リーダーはそれに一度頷いてから、また敬礼をした。





絵本も入れてみました。
これって結構大事な話・・・ですよね?