「目的地、決まったのか?」


バラムガーデンのブリッジに戻ったスコールは、ニーダにそう聞かれた。
スコールは頷いてから、「エスタだ」と簡潔に述べた。
それに驚いたのはニーダとシュウだ。


「うひゃ・・・沈黙の国エスタ・・・、世界の問題児だった国だぞ。 それに、あの辺りの地形ってガーデンじゃ進めないかもよ?」

「兎に角、エスタへ行く」

「エスタの大陸は大陸全土が大きな山に囲まれているわ。静かにそびえ立つ山が大陸を隠してるの。
 人々の出入りもほとんど無いわ。 そんなところも沈黙の国と呼ばれる由縁になっているのよね。
 多分、ガーデンの飛行高度じゃ山を越えて大陸内に入り込めないと思うけど・・・、

 ・・・確か、エスタ大陸に入る道は一本。F.H.から伸びている長い線路。
 F.H.は昔、エスタと唯一交流があった都市なの。その名残って訳ね」


キスティスの説明を聞いていたスコールは腕を組んで何かを思案する。
そんな彼の様子に気付いた様子も無く、シュウは腕を組んで「まさか、エスタに行く事になるなんてね」と言う。


「あそこの兵士って何か気味悪いのよね。」

「エスタって、どんな所なんだ? 俺、良く知らねぇんだよな・・・」


頭を掻いて言うゼルに、キスティスが「私も」と返す。


「取り合えず、F.H.に着いたら少しの間また考えなきゃいけなさそうね。
 ガーデンで行けないなら、って考えて」

「・・・そーだな」


キスティスとゼルの話し合いを右から左へと流しながら、スコールはエレベーターに乗ってブリッジを後にした。





























動き出しているガーデン。
スコールはが眠る保健室へ来ていた。

セルフィとアーヴァインにエスタへ向かう事を告げて、場所を変わって貰ったのだ。
リノアはセルフィが何事かを言い連れ出しているので此処には居ない。

静かな空間、スコールとの二人だけが今此処に居る。

ちらり、と外の景色を見るとF.H.に着いたのか、景色が変わっていた。
スコールは立ち上がり、眠るのブランケットを捲って彼女の背と膝裏に手を回してその身を起こした。
ベッドに座らせる体勢を取らせ、彼女を胸に抱き、一度ぎゅっと抱き締めた後、ゆっくりと彼女を背負った。


行こう、。エルオーネに会いに行こう。エルオーネが俺達を会わせてくれる


彼女の腕を自分の肩にかけ、しっかりと彼女を背負う。

そして、スコールはを背負ったまま歩き出した。


・・・悪いな、皆。 このままじゃ、俺、何も出来ないんだ)


心の中でそう皆に謝罪をし、を背負ったまま外へ出る。
F.H.に出て、彼女を一度背負い直してから一直線に伸びる鉄道を見る。


「ちょっと遠いけど何とかなるだろ」


F.H.から伸びる一本の線路沿い。
今は使用されていない鉄道の駅に行き、それに乗ってスコールは歩き出した。

昨日白いSeeDの船を出たのが夜。
F.H.に着いたのが朝。

一体何時になったらエスタに辿り着けるのかなんて分からないが、取り合えずスコールは歩く事にした。


・・・何とかなるだろ、か


以前の自分じゃ、絶対考え付かなかった言葉。
これも、仲間やが、くれた思いだ。

スコールはそう思いながら、唯ひたすら歩き続けた。


































































どれくらい歩いただろうか。

辺りはもう既に夕暮れ時になってきていた。


・・・・・・遠いよな。こんなに遠いとは思ってなかった


スコールはそう思い、背に感じる彼女を想う。
依然として冷たい身体は、歩き疲れてきて熱っている自分の身体とは対照的だった。

 
俺・・・何やってるんだ? エスタに行って・・・エルオーネを捜して・・・エルオーネに会って・・・、
 ・・・エルオーネに会えば何もかも解決するとは限らないんだぞ



それなのに俺は・・・、

そう思い、スコールは少しだけ息を吐く。

嗚呼、本当に、


・・・俺・・・変わったな


変わるって、こういう事なんだな。

スコールは、以前F.H.で彼女と交わした言葉を思い出していた。










「他人に頼ると・・・何時か辛い思いをするんだ。何時までも一緒にいられる訳じゃないんだ。
 自分を信じてくれてる仲間がいて、信頼出来る大人がいて・・・、
 それはとっても居心地のいい世界だけど、それに慣れると大変なんだ。
 でもある日、居心地のいい世界から引き離されて誰もいなくなって・・・、

 アンタも知ってるだろ?

 それはとっても寂しくて・・・、それはとっても辛くて・・・・・・。
 何時かそういう時が来ちゃうんだ。 立ち直るの、大変なんだぞ。
 だったら・・・・・・、だったら最初から一人が良い。仲間なんて・・・、居なくて良い。
 ・・・違うか?」


彼女を真っ直ぐに見下ろしながら吐き出した言葉。
ずっと心の中で思っていても、一度も吐き出した事無かった事を、彼女に言った。

は掴まれていない方の手を伸ばし、頬に触れてきた。


「私も前はそう思ってた。 仲間が居て、信頼出来る大人が居る安心出来る世界。
 すっごく居心地が良くても、何時か壊れてしまうなら最初から無い方が良い。
 でも、私は一人になりたくなかった、から、期待をあまりしないようにした。

 ・・・近付いて、でも、深くには入れ込まないで、それでも、離れて欲しくなくって、ね」


は自嘲気味に笑って頬を撫ぜてきた。


「それが正しい事だと思ってた。 でも、私、スッコーは違った。
 何回も何回も、追い出そうとしたのに、気付けばまた入ってきてて・・・・・・、
 その度にまた追い出そうとしても、気付けば、自分から招き入れてるんだよね」


瞳を揺らがせながら言う彼女。

そのまま真っ直ぐに此方を見詰めたまま、瞳を潤ませた。


「それから、リノアも、セフィも、キスティもゼルもアービンも。
 全部皆入ってきた、自分から招き入れて、皆を、こんなにも想って・・・」

「・・・後悔、しているのか?」


思わずそう問うと、彼女はゆっくりと首を振った。


「私、思ったんだ。
 何時か離れてしまうかもしれない、失うかもしれない。でもそれは護れば良いんだって。
 自分の力が及ぶ範囲、ずっと護る。私は小さい頃の無力な私じゃないんだ、だから、出来る限り護りたい」


護りたい。

はそう自分に言い聞かせる様に言った。
そして真っ直ぐに、自分を見つめてきた。


「・・・勿論、自分の力が及ばない時だってある事は分かってる。
 其の時の為の、仲間でしょ? 皆、助けてくれる、だから私も精一杯、皆を護れる・・・!だから・・・!」

・・・」

「スッコーも・・・皆を信じてみて・・・!
 直ぐにとは言わない、何時でも良いから・・・・・・、考えてみて」

「・・・アンタは、変わったな」


そう言い頬に触れているの手に甘える様に擦り寄る。
それには少しだけ瞳を丸くした後、「スッコーもね」と言って笑った。


「明日、明後日、近い内に居なくなっちゃうかもしれない。
 スッコー、そう考えるでしょ。私も、今でも考えたりするんだ。

 ・・・だから私は、今が凄く好き。

 皆が居て、こうしてスッコーに触れていられる今が、ずっと続けば良いのになって何時も思う」

「・・・でも、何時か居なくなってしまうなら・・・」

「うん、分かってる」


は頷きを返し、言葉を止める。

全てを分かった様笑みを浮かべ、はそう言う。


「まぁ、一人じゃどうしようも無くなったりした時とか皆を頼って。
 ・・・私もね。スッコーが呼べば私は何時でも手を貸すから!」

「・・・俺は、」

「ん?」

「アンタに前、言ったな。"傍に居ろ"って」

「・・・うん、言いましたねー」

「・・・俺も、変わっているのだろうか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・否、本当は分かってるんだ。自分が変わってきてるって」

「・・・うん。それで、戸惑ってるんだよね?」

「・・・どうなんだろうな?」

「・・・どうなんでしょうかね?」










・・・今までの考えを否定する気は、無い。
 ・・・でも、今の俺は其れを肯定する気も無い



そう思いながら、スコールはをゆっくりと下ろして壁に寄りかからせた。
流石に疲れたので、自分も線路脇に腰を下ろして彼女と背中合わせの状態で座り込んだ。

夕日を見ながら、皆が如何しているかを考える。


みんなどうしてるかな・・・俺の事笑ってるかもな。否、怒ってるかな?


セルフィとゼル辺りがわいわい騒いでそうだ。
怒られるのは、勘弁だな。 特に、リノアには。

そう思いながらも、を振り返り、「どう思う?」と問うてみた。
返事が無い事は分かっている。それでも、これは彼女に聞いて欲しくて口を開く。


「俺・・・本当は他人にどう思われてるか気になって仕方ないんだ。
 でも、そんな事気にする自分も嫌で・・・、だから・・・自分の事、他人に深く知られたくなかったんだ。
 そういう自分の嫌な部分。隠しておきたいんだ。
 スコールは無愛想で何考えてるかわからない奴。皆にそう思われていればとっても楽だから」


そう言った後、を振り返ってこっそりと彼女に囁く。


「今の、皆には内緒だからな」


返事が無い事なんて分かっている。彼女は眠っているのだから。
海風が吹いて、彼女の髪を揺らしている。

それを見た後、スコールは立ち上がって彼女の前に跪いた。


・・・」


今のを聞いてアンタはどう思う?

心の中でそう問いかけながら、スコールは再度を背負って歩き出した。


背から感じる微かな温もり。

これだけを頼りに、自分は頑張っていける気がしていた。


「・・・あんたの声が聞けないと、つくづく思う。 俺はあんたに寄りかかりすぎてたんだって」


無意識の内に。

ずっと縋ってきたのかもしれない、そうなっているのが気付けば自然体だった。

何時も、必要な時は傍に居てくれたから。


「・・・、今度は俺があんたに寄りかかって貰う、そうするから」


だから、


心の中で願いを込め、スコールはまた一歩踏み出した。




















































夜になり、朝が来て。

歩き続けてやっと鉄道の終わりが見えた。
エスタの大陸にやっと足を入れ、無人の駅に着いた所で声がかかってきた。


「遅かったわね、スコール」


その声がした方を見ると、無人駅のベンチに腕を組んでキスティスが座っていた。
その隣にはゼルが暇そうに座っている。

どうして二人が此処に、と思っているスコールに、立ち上がった二人は近付いてくる。


「姫様はまだ眠ってるのか?」


そう言い、ゼルがスコールの背で眠るを覗き込む。
相変わらずなの様子に、キスティスが肩を竦めてみせて「王子様がキスすれば目が覚めるかもね」と言う。
そんな二人にスコールが少しだけ苛立った様子で「そんな事を言うために此処に来たのか?」と問う。

彼の言葉にキスティスとゼルは苦笑し、口を開く。


「エスタに行くんでしょ? 私達も行くわ」

「俺達イデアの護衛なんだ」


ゼルがそう言い、スコールの後ろに視線をやる。
「イデア?」と思っていたスコールは振り返ると、後ろに本当にイデアが立っていた。
彼女は近付いてくると、「行きましょう、スコール」と言った。


「私達もエスタへ行くつもりよ」

「準備が出来たら出発しましょう」


キスティスとイデアがスコールに言う。
言われたスコールは、何故彼等が先回り出来て此処にいるのか、そしてイデアの護衛の意味が分からなかった。


「エスタで何をするんだ?」

「オダイン博士に会いに行きます」


答えたのはイデアだった。
ゼルがスコールに「オダイン博士。名前くらい覚えてんだろ?」と問うてくるがスコールは分からなかった。
素直に「教えてくれ」と言うと意外と博識なゼルは腰に手を当て、答えてくれた。


「オダインブランドは有名だろ? その、オダイン博士だぜ。魔女に関しては、あの博士が一番、ってな・・・」


魔女の力を抑制する道具を作り出したりしている博士。
スコールは頷き、「分かった」と言う。


「・・・それで、その博士と会ってどうする?」

「魔女アルティミシアは生きています。彼女はいつでも私の身体を支配する事が出来ます。
 そうなったら私は・・・、」


イデアは其処で言葉を止め、瞳を伏せた。


「・・・私は、また恐怖を振りまく存在になってしまいます・・・。
 私だって自分は可愛い。自分の身は守りたい。叶うならば魔女の力を捨ててしまいたい。
 オダイン博士ならその方法を知っているかもしれない・・・、私を、救ってくれるかもしれません」


自分の身は可愛い。
彼女はそう言っているが、自分を見詰める瞳は違う意味も入っている様に見えた。

子供達の手を、汚させないように。

そんな彼女の意図を察し、スコールは頷いた。



「・・・分かった。 皆でエスタへ行こう」


スコールがそう言ったその時、背後からひょっこりとリノアが顔を出してきた。
リノアはスコールに「おハロー」と言い片手を上げると、を覗き込んだ。


「・・・寝顔、可愛いよね」

「・・・リノア、」


一番怒っているであろう、と予想していたのに予想に反してリノアは笑顔を向けてくる。
「なーに?」と言ってスコールを見上げてくる彼女は、いつもの彼女だった。


「・・・あのね、私もをちゃんと支えるの、前よりもっと」

「・・・半分ずつ、って話か?」


以前リノアと話した内容を上げると、リノアは手を叩いて「覚えてたんだ!」と言って笑う。


「当たり前か〜、関連だもんね」


意味深にリノアは笑うと、「ちゃんと引っ張って行こうね、一緒に」と言って視線をずらした。
そこであるものに気付き、「あっ」と声を漏らす。
リノアの様子にゼルも反応し、走ってくる二人を見る。


「おっ、帰ってきたぜ」

「二人が様子を見に行ってくれたのよ」


走ってくるセルフィとアーヴァイン。
そんな二人を見ながらゼルとキスティスが言う。

此方までやってきた二人。
セルフィは真っ先にスコールに近付くと、片手を上げた。


「スコール、元気〜?、まだ眠ってる〜? 
・・・ひそひそ・・・の寝顔可愛いよね)」


こっそりと小声でそう言ってくるセルフィに、スコールは眉を寄せた。


「そんな事より、どうなんだ? エスタに入れそうなのか?」

「お〜、照れてるぅ?」

「セルフィ、スコールを怒らせるなよ〜。
 エスタってこの大陸にあるんだよな〜?かなりデカイ国なんだよな〜?・・・なんかさ〜、全然見つからないんだよねえ」

「北にも南にも何もなかったから次は東の方角だ〜!」


アーヴァインの言葉の後にセルフィが元気良く言う。
あちらこちら走り回ったというのに、そんな様子のセルフィが相変わらずでスコールは柔らかい雰囲気を取り戻した。


取り合えず、東の方角に進んだ。

が、其処にあったのは真っ白な大地だった。
「街なんて見えないね〜」とセルフィが言い、辺りを見渡す。
だが、此処を超えた先に何かがあるかもしれない。

スコールは白い大地に足を踏み入れた所で、地面一面の白いものが砂では無い事に気付いた。


「・・・これは、塩か?」

「此処はかつては大塩湖と呼ばれる湖でした。
 ですが、今は塩を含む湖が干上がった姿がただ広がるだけ・・・」

「白く見えるのは塩の結晶、って事ね」


イデアの説明にキスティスが呟く。
「こうなった原因って、やっぱエスタの実験?」と、セルフィ。
それにゼルが「多分な」と返して進む。


暫く大塩湖を進んでいると、イデアがぽつりと呟いた。


「思ったより長い旅になりそうですね・・・」

「大丈夫ですよ! どんな敵が現れても俺達がちゃんと護衛しますって!」


ゼルが拳を握り上げ、そう言う。
それにイデアは微笑んで「ありがとう、ゼル」と言う。


「・・・でも、あなた達に来てもらったのは護衛のためではないの。
 私はね・・・私自身でいられる限り何も問題はないの。けれどもアルティミシアが私に入って来たら・・・。
 ・・・わかるでしょ? 皆・・・その時はお願いね」


イデアがそう言い、少しだけ笑む。
そんな彼女の言葉に、全員が俯きがちになる。

沈黙が落ちた中、セルフィが声を上げた。


「あれ〜? 何か空気が重いよ〜!
 これは誰かを倒しに行く旅じゃないんだよ〜?みんな幸せになるための旅なんだよ〜!
 ・・・こんなの初めてじゃない? だからっ、もっと元気に行こ〜!」


明るい声色でそう言い、飛び跳ねるセルフィ。
そんな彼女の様子に救われた様に皆が少し笑む。


「・・・悪い事は言葉にすると本当になるって誰かが言ってた。
 迷信なんだろうけど今は信じたいんだ。だから・・・何も言わないで」


スコールの言葉に、イデアも、皆も、小さく頷いた―――。




大塩湖入り。
やっと、って感じです。 橋のイベント大好き。