大塩湖を進みながらスコールは辺りを見渡す。
を背負いながら進んでいる為、皆が魔物を率先して倒してくれるので比較的楽に進めていた。
途中、巨大な骨のアンデットの魔物が現れたが、キスティスやセルフィが率先して倒してくれた。

兎に角奥へ、奥へと進んでいると、ジジッというノイズ音が響いた。
そちらを見てみると、景色が一部だけ揺れていた。
疑問に思い、スコールが近付く。


「何かあるぞ」

「えっ?どれどれ?」


彼の言葉に反応して皆が寄ってくる。
恐る恐る、といった様子でリノアが手を伸ばすと、丁度何かの端末に触れたのかぽっかりと目の前に大きな穴が開いた。
上のほうにあいた穴を見上げてつつ、スコールは片手で背のを支えながらもう片方の手を伸ばす。
ボタンを押すと、梯子がかかって上にいける様になった。


「な、何これ、空間に穴があくなんて・・・!」

「道が開けたらしいな。先を急ごう」


そう言い梯子に手をかける。
其処で、スコールは、はた、と気付く。
背負ったをしっかりと自分の方に傾けさせ、少し前かがみの体勢を取って梯子を上る。
上にあいた穴に入ると、その中は機械だらけの通路で、少し薄暗かった。
目に見えて見た事も無い様な高度な機械だらけだ。
スコールはそう思いながら進む。 と、透明なパネルを見つけた。


・・・何だこの透明なパネルは?
 このコンソールと関係ありそうだが・・・、操作してみるか・・・



片手でそれを操作してみると、前にあるコンソールに映像が映り始めた。
『OCS表示テストメニュー』と書かれたそれの下には色々なメニューが表示されている。
取り合えず上から順番に押してみる事にしたスコールはまず『カラーチェック』を押してみた。
そうすると。様々な色が表示された。
「何なんだろうね〜?」と言うセルフィの言葉を聞きつつ、次に『カモフラージュテスト』を選ぶ。
すると、パネルに青空の風景が映し出された。

「・・・カモフラージュ?」

「・・・青空?」


スコールとリノアが疑問の声を上げていると、セルフィが「はは〜ん」と声を出した。


「なるほどぉ。さっき何もないと思ってたトコは、これがいっぱい並んでたのか〜!」

「なるほど・・・このパネルを沢山並べて何も無いように見せていたのですね・・・」


セルフィの言葉にイデアが頷きつつ言う。
そんな二人にアーヴァインが頭をかきながら「でもさ」と言う。


「何でそんな事するんだ〜?」

「俺にだって分からない。その内分かるさ」


根拠なんて無かった。
兎に角、奥へ早く進みたかったスコールはそう言い足を動かした。

奥に進んでいくと、突然床が揺れた。
どうやらエレベーターの上に乗っていた様で、それは上へ上へと上昇を始めた。
ゼルが「何かやばいんじゃねぇの?」と声を上げるがどうする事も出来ないのでスコールは取り合えず腰を下ろした。

を床にそっと寝かせると、リノアとセルフィが近付いてきた。
暫く二人はを見ていたが、まだまだ上昇を続けるパネルに思わず言葉を零す。


「これって何処に行くんだろうね〜」


俺だって自分が何をしているのか、全然わからないんだ・・・。
 このままエスタに行けるなんて保証は何処にもないんだよな・・・。でも・・・・・・、



其処まで考え、眠るを見下ろす。


「・・・引き返す訳にはいかないんだ」


そう、呟いた。



暫くそうしていたが、突然揺れが停止した。
皆で立ち上がり、開いた扉を見やる。
キスティスが「どうするの?」とスコールに問うが、彼の答えは一つしかなかった。


・・・此処まで来たら、何があっても驚く気にもならないな


そう思い、を背負って彼等を振り返る。


「わかってるだろ?」


そう言い、スコールは前へ進んだ。
すると、

パァ、という音が広がり響き、目の前の景色が一変した。
青空が機械都市へと、変わったのだ。
思わずリノアが短く声を上げるが、スコールは先ほど見たパネルを思い出して冷静に判断していた。
「うっひょ〜!こりゃすげぇや!」やら「うわ〜!びっくり〜!」と騒ぐアーヴァインとセルフィ。
楽しそうな彼等に反してキスティスは「これって何なのよ!?もう訳がわからないわ!」と、少々苛立った声を上げた。

その後、またガクンと足元が揺れた。
イデアが「何かに掴まって!」と言い皆に注意を促す。
其々が脇にある手摺りに手をかけた瞬間、乗っていたパネルはそのまま下へと急降下し始めた。
結構なスピードで進むそれに、たたらを踏みつつ、バランスを取る。

そのまま降りていくと、街の間を通り抜けていき、其れは停止した。


「・・・これだけ発達した都市なら、俺達が侵入した事くらいバレてるはずだ。
 俺達を敵として攻撃してくるかもな。周囲には気を付けろ」


パネルから下りてスコールがそう言った瞬間、酷い耳鳴りがした。
頭痛が一瞬強く来た後にくるこの眠気。これは、

スコールは額を抑え、思わず膝を着く。
「うっ」と呻き声を漏らし、スコールは瞳を細めた。


「・・・こんな時・・・に来るとは・・・、これは・・・まずいな……」


目を閉じる瞬間、最後に周りを見渡すと倒れるセルフィとゼルが見えた。

キスティス、アーヴァイン、頼んだぞ、

そう思い、スコールは意識を落とした――――。






















































「そこの細いのとデカい奴は、ルナティックパンドラの中で働いてもらう。
 残ったお前達は、此処で手伝いだ! 他の奴も、早く仕事に戻れ!!うろうろするな!私語も禁止だ!」


目の前に居るエスタの警備員に言われ、ウォードとキロスは走っていった。
残されたラグナとクロスは、仕方なしに作業に入る。
が、ラグナだけはうろうろと辺りを散策する。

そんなラグナにクロスは小さく息を吐いて、「レウァールさん」と言う。


「ちょっとは手伝って下さいよ。真面目にやってる俺が馬鹿みたいじゃないですか」

「うろうろするな!私語も禁止だ!」

「だってよぉ〜・・・。
 ・・・キロスとウォードの奴・・・ちゃんと仕事してっかなぁ〜?」

「私語は慎めと何度言えば・・・!!」

「あ」


警備員を無視し、会話する二人だったがチャイムの様な音に反応する。
ラグナが短く声を上げたあと、「飯だ!飯の時間だ〜!!」と喜びの声を上げる。
先ほども「腹減った」とぼやいていたから、とクロスは思いながら立ち上がる。


「お前達はまだ作業を続けろ!私語をした罰だ!
 そこの獣・・・お前もだ! 残りの作業が終わるまで飯は抜きだ!!」


警備員はそういうと、獣、もとい、ムンバにそう言った。
それにラグナが「ちょっと待てよ!」と声をかける。


「作業終わるまでって・・・、俺らのは二、三時間で終わるけど・・・!そいつの仕事は・・・一日二日で終わる仕事じゃねぇだろっ!!」


そう言い講義するラグナに、クロスが少しだけ口の端を上げる。
自分の事よりも見ず知らずの獣を庇いたてる。彼らしい。
そう思いながら移動用のエレベーターの前で止まっているムンバへ視線をよこす。


「だったら、二、三日は飯抜きだな。それが嫌なら・・・、早く作業を終わらせる事だ・・・」


そう言い、警備員は歩いて行く。
壁にぴったりと背をつけて監視をする彼を無視し、クロスは項垂れたムンバに近付いて頭を撫でてやる。
ふさふさした毛が気持ち良い。


「手伝うから、頑張ろう」


それにムンバは嬉しそうに身体を震わすと、「ぺこぺこ」と鳴いた。
その意味が分からず小首を傾げるクロス。
結局はまぁいいかと思いラグナに自分の仕事の半分を預け、ムンバの手伝いに入る。
コンピューターを弄り、パネルを展開してボードに打ち込み作業をする。

暫くそうしていると、食事に行っていた男も戻ってきた。
エスタの警備員が新しく入ってきて、「おい、」と此処に居た警備員に声をかける。


「ちょっと、来てくれ。俺一人だと、デカい奴が手に負えない」

デカいの?


警備員の言葉にクロスは意識だけを向ける。
それはラグナも同じだったようで小首を傾げている。

ウォードが何かしたのか?


「俺がいないからって、バカな真似はするなよ。監視カメラが・・・一部始終見てるからな」


そう言って出て行くエスタ警備員。
クロスはそれを無視し、目の前で外側の作業を行っているムンバに近付く。
それに習うようにラグナも近付く。


「大丈夫か?な〜んか、ふらふらしてるな・・・。
 ちゃ〜んと飯貰ってるか?熱でもあるんじゃねぇのか?高いところ恐いんじゃねぇのか?」


矢次に質問するラグナ。
多いでしょう、質問。とクロスが思っているとムンバがまた「ぺこぺこ」と鳴いた。
それの意味が分からず、ラグナが「お腹ぺこぺこ・・・?」と呟く。
「否、それはきっと違う」とクロスが呟くと、横から笑い声が聞こえた。


「面白い事言うな、あんたら。そいつの言ってる『ぺこぺこ』ってのは、『ありがと』って意味らしいぜ。
 だけどよ・・・そいつの体を心配する奴なんかはあんたらが初めてだよ。
 大体、こいつらムンバは理由もなく、飯は半分、睡眠も半分・・・。その癖、俺達人間よりキツい仕事させられてるのが普通だからな」


「辛そうだなぁ・・・、頑張れよ。何時かこっから、出られる時が来たら俺ん家で、たらふく飯食わしてやるからな。
 食い終わったら、もちろん昼寝だ。 な!」


ラグナが言うとムンバはまた「ぺこぺこ」と鳴いた。
丁度その時、轟音が響き床が揺れた。
「な、なんだ!?」と喚くラグナの横でクロスは冷静に判断した。


「今、声が聞こえた。おじゃおじゃ言ってたけど・・・」

「またどうせオダイン博士が何かの実験をしてるんだろ」

「そういえば此処は研究所の地下でしたね」


クロスがそう言い腕を組む。
彼が考え事をしているとき、警備員が一人戻ってきて「おい!」と声をかけてきた。


「そう・・・エレベーターに一番近いお前だ!」


警備員はそう言いラグナを指した。


「上の研究所にいる警備兵を呼んでこい!緊急事態だと報告するんだ!!」

「了解、了〜解・・・と・・・(
緊急事態ねぇ・・・あいつら・・・な〜んかやらかしてんのか〜?)」


「早くしろよ!」と言って走っていく警備員にラグナは適当な返事を返し、男とムンバに片手を上げる。


「じゃぁ、ちょっと行ってくるぜ。
 あっ・・・、忘れるとこだったぜ!ほ〜ら、ちゃんと受け取れよ!」


ラグナはそう言いムンバに向けて道具を放り投げる。
が、狙いがそれたらしく、ムンバはそれに手を伸ばしてキャッチをして、

そのまままっさかさまに落下して行った。

「あ」と声を上げるクロスとは対照的に大声で「おわっ!?」と声を上げたラグナがムンバが落ちて行った所の手摺りに掴みかかった。
そのまま身を乗り出して下を覗いても、其処にあるのは暗闇だけだった。
ラグナは「う、」と声を漏らした後、その場に頭を抱えてうずくまった。


「・・・すまん。ほんっと・・・、すまん・・・!こんな情けない奴で・・・ほんと・・・すまねぇ〜〜!!」


そう言いラグナは頭を掻き毟る。
そんな彼の真横からひょこひょことムンバが上ってきているのに気付かずに。
クロスは小さく息を吐き、我関せずの体勢を取っている。
それを見、男がラグナに声をかけた。


「取り込み中のとこ・・・申し訳ないんだが・・・、」

「ん・・・何・・・? 俺は今、自分が嫌で・・・情けなくて・・・、」


そう言いくるりと振り返ったラグナ。
そんな彼の目の前に丁度居たムンバが小さく鳴いて片手をひょいと上げた。

最初こそラグナはぽかんとした表情をしていたが、途端に叫んだ。


うわあぁぁぁぁぁ!!

「はっはっはっ! 心配すんな、お化けじゃないって。
 いくら扱いは悪くても危険度の高い仕事をする時くらいワイヤーを繋ぐから大丈夫さ」

「それを・・・先に言ってくれよ・・・・・・・・・・・・・・・な?」


そう言いラグナはぐったりとした様子でしゃがみ込んだ。
彼の様子にクロスが小さくクスリと笑む。
「それにしても良かった」と言いムンバを撫でる彼は相変わらずで、見ていて飽きない。


「あんたほんと・・・良い奴だ。今時珍しいよ・・・ほんと。
 あんたなら、俺達の計画・・・引っ張っていってくれそうだ」

「計画・・・?」


男の言葉にラグナの代わりにクロスが反応する。
彼は厄介事に巻き込まれやすい。何分この性格だ。
ウォードもキロスも居ない今、彼の面倒を見るのは自分の役目だとクロスは思っていた。

訝しげに瞳を細めるクロスに男は笑んだ。


「あんたも良い奴ってのは分かってるさ。だからあんたにも頼みたい」


さっきムンバが落ちそうな時、手が動きかけてたぜ。
と、言う男にクロスは視線を逸らす。

確かに、身体が反射的に動きそうになったのだ。
途中、命綱に気付いて動きを止めたのだが。

そんな彼の事を知ってか知らずか、恐らく後者だろうが、ラグナがクロスの肩を抱く。


「そーだろ!こいつって奴はほんとは可愛い奴なんだよ!」

「五月蠅い障るな近付くな」


ぺしん、と音を立ててラグナの手を払う。
あまりにも素っ気無い彼の様子だが、ラグナは肩を竦めて「ツンデレめ」と呟いただけだった。

ずれたグローブを治しながら、クロスは「それで、計画とは?」と男に問う。


「そうだ。今、エスタを支配している魔女アデル・・・奴のやり方に反感を持っている奴は多い。
 まだ、今は皆バラバラだ・・・だが、いつか力を合わせてアデルを倒そうという計画があるんだ。
 一国の主を倒すんだ。しかも普通の人間じゃない。魔女と言われる超人を相手に・・・だ。
 生半可な計画じゃ、返り討ちに遭うのは目に見えている」


魔女、アデル。

クロスは口の中で復唱した。


「だから、今が堪えどころなんだが・・・。俺達『反アデル派』は専門分野の技術屋が大半だ。
 だからアデルを倒すための研究も容易なんだが・・・でも、実際に、行動を起こそうとなると
 先頭に立つ者がいない・・・そういう状況なんだよ。
 俺達は、あんたのような・・・、損得無しに、自分を正直に生きる・・・そんな指導者を・・・・・・、」

「おい、連絡はまだか・・・!?・・・何してる!!」


丁度そこまで言いかけた時、エスタ兵が入ってきた。
男に詰め寄り、「また・・・何か企んで・・・!!」と言い武器を取り出す。
それにハッとしたラグナは「やめろー!!!」と叫んで駆け出した。
エスタ兵をぼこぼこにしているラグナを片目に、クロスは肩を揺らした。
大きく息を吐いた後、ラグナに合図を送ってムンバのワイヤーを少々使って手摺りの真下へぶら下がる様に移動した。

丁度その時、騒ぎを聞きつけてかエレベーターからエスタ兵が降りてきてラグナに銃を構えた。


「動くな・・・!」

「また、やっちまった・・・。こうなっちまったもんは仕方ねぇ・・・早く乗って、逃げろ!」


ラグナはエレベーターから出てきた兵士に飛び掛って男とムンバを逃がす。
エスタ兵の銃を奪い、戦闘し終えたところでキロスとウォードが丁度やって来た。


「キロス!・・・ウォード! ちょ〜どいいところに・・・・・・、」


が、彼らの後ろからはエスタ兵がまたやって来た。
挟み撃ち状態だ。


「・・・ちょうど最悪な状況・・・、とも言うな・・・普通は」

「そう悪くもないぜ・・・一人より二人。二人より四人って言うだろ?」

「・・・何処に四人いるんだ? まさか・・・とうとうお前・・・幻覚で第四の助っ人でも見え始めたんじゃ・・・?」


そう問うキロスにラグナは「ああ、見える!見えるぜ!」と返す。
ウォードはクロスの事を思ってか、敵に気付かれぬ様に視線を彷徨わせていた。


「あぁ・・・愛しのエル・・・こんなところにいたのか・・・おじちゃん、嬉ちぃ・・・!」


ラグナはそう言い誰も居ない所でしゃがみ込んだ。
呆れるふりをしてキロスとウォードも近付く。


おい・・・今のうちだ!わかってるな・・・?とっとと倒して、俺達も・・・脱出だ!!


敵が油断している今がチャンスなのだ。
警戒を緩めて近付いてくるエスタ兵に、通路の真下に潜んでいたクロスが飛び出して蹴り上げた。
エレベーター側の兵を倒し、身を低くして今度はウォード達の後ろに居た兵士に下からの勢いをつけたパンチを食らわせた。
その後の回転の威力も重ね、蹴りを入れて最後の一人も吹き飛ばした。


「よし・・・行くぜ!!」


素早い彼の対処に賛美を送りながら、ラグナはエレベーターに乗り込んだ。
その時に逃げる時に取ってきたらしい其々の武器をキロスから受け取った。



「脱あぁぁぁぁぁ出だ!!」



そう喧しく騒ぎながら走るラグナにクロスが小声で「五月蠅いですよ」と返す。
そのまま警備員の居ない研究室も通りぬけていく彼らだが、クロスだけは止まった。
物陰に隠れて、博士らしき男と助手の会話を盗み聞く。


「ルナティックパンドラを武器として使用するには・・・まず、移動させる機能が必要だと博士がお考えになり、
 今研究している訳ですが・・・いつ、そのような大胆なアイデアが浮かぶのですか・・・?
 私達では、到底思いつきませんが・・・・・・、」

「そんな事は、忘れたでおじゃる!」

「月の観察を目的に宇宙に作られたというルナサイド・ベースですが・・・、
 この予算は、このルナ研の数千倍、否、数万倍を費やしたと聞きます・・・こちらにも少し分けて貰えないものですかね」

「無いものは無いでおじゃる!」

「魔女の研究のためと・・・世界各地から、強引に娘を連れて来るという噂を耳にしましたが・・・、
 私も娘を持つ親として心を痛めているのですが・・・親の承諾は得ているのですか・・・?」

「研究の役に立てば、親も喜ぶでおじゃる!それでいいのでおじゃる!」

「前にお貸しした『月刊武器 創刊号』はどうなりましたか・・・?
 友人に返して欲しいと言われ困っているのですが・・・」

「そんな物は、知らないでおじゃる!!」


どうでも良い会話になってきた、
そう思いクロスは気付かれない様に外へ出た。


「気を付けて行けよ! また、捕まったりすんなよ!」


外へ出るとラグナがムンバに手を振っている所だった。
ムンバもぺこぺこと鳴きながらお辞儀をする。


しまった! 外に出られたら一緒に飯食って昼寝しようって、約束したのに・・・!
 まぁ・・・奴にとっては外で自由に動ける方が、ご馳走・・・か



ラグナがそう思っていると、背後から先ほどの博士の助手が歩いてきた。
思わず構える彼らに、男が「大丈夫だ」と言う。


「彼も『反アデル派』の仲間だ。研究所周りの重要な情報はオダイン博士の助手の彼から手に入る」

「新しい仲間ですか・・・? 歓迎しますよ、よろしく!
 下で派手にやっていたようですが・・・まぁ・・・この研究所を離れるにはちょうど時期が良かったかもしれませんね」

「博士がどうかしたのか?それとも、アデルがここの研究に見切りをつけたのか?」

「オダイン博士の方ですよ。博士・・・またやってくれました。
 大〜きいルナティック・パンドラより、ちっちゃな、ちっちゃなオモチャを見つけたらしいです。
 博士の興味は・・・どうやら、その・・・エルオーネという子供に移ったと思われます」


男と助手の会話を聞いていたラグナ達だったが、出てきた少女の名前に大きく反応する。
ラグナが「エルオーネ!?」と思わず声を上げると男が「知ってるのか?」と問う。


「知ってるも何も・・・彼女を捜していて・・・此処に来たようなものだな・・・」


キロスの言葉にウォードが頷く。
クロスがラグナの肩に手を置き、彼を諌めながら「それで、」と言う。


「エルオーネは何処に?」

「オダイン博士なら、きっと居場所を知っていると思いますが・・・」

「オダインだな!? よし、戻るぞ!! あんた達には迷惑をかけたな。今のうちに逃げた方がいいぜ、じゃぁな!」


助手の言葉を聞いた途端肩に置かれているクロスの手を掴んで今脱出してきた所へ戻ろうとするラグナ。
そんな彼に男が慌てて「ちょっと待ってくれよ!」と声をかける。


「助けるだけ助けておいて、それはないだろ?」

「そのエルオーネって娘さんを捜しているんですね? だったら、いずれ仲間が必要になる時が来ますよ。
 エスタの国、否、アデル相手にあなた達四人だけじゃ・・・辛いと思います。
 どうですか、私達にも協力させてくれませんか?腕は無理ですが、知識と情報なら、いくらでも・・・」

「悪くない・・・相談だと思うが・・・、私達はエスタに対してあまりにも無知だ。
 この前のように、街中で捕まるのは私は二度とごめんだ。きっとウォードとクロス君だって、そう思ってるさ」


助手の声に賛同するようにキロスが言う。
ラグナは全員の視線を受け、少々戸惑った顔を見せる。


「ん?・・・あ・・・う・・・よし、わかった! あんた達にも手伝ってもらう。
 けど、その代わりと言っちゃなんだが・・・俺もあんた達の『反アゼレ派』とやらを手伝わせてもらう!」

「「・・・・・・」」

『ア・デ・ル』・・・だ。
 『いい加減、一文字しか合わないのは恥ずかしいからやめろ・・・』と、ウォードが言いたそうにしている視線を痛いほど感じないか、ラグナ君?」

「あぁ、あぁ、感じてるよ!」


クロスのもな!と、少々焦った様子で言うラグナ。


「でもよ、名前なんかどうだっていいんだ!中にこもってるハートが大事なんだよ、ハートがよ!
 それさえしっかりしてりゃ、何だって大丈夫なんだよ!」


ラグナが胸を張って言うのにクロスは息を吐いて、「威張って言う事ですか」と呟いた。


「・・・あぁ・・・その通りだ!何だか、無茶苦茶だけど、あんたいい!
 やっぱり・・・あんたに引っ張っていってもらいたい・・・勝手な希望だが・・・」

「よし、任せろ! エルオーネが見つかったらそいつを引き受けてやるぜ!
 じゃぁ、ちょっくら、オダインに聞いてくるから待っててくれ!」


そう答えた後、はっとする。


また、やっちまった! 軽く返事するのは、俺の悪い癖だ・・・。
 でも・・・今までだって、何とかなったし、・・・・・・まぁ、何とかなるか?



そう考えているラグナに、男が声をかけた。


「エルオーネって子は・・・よっぽど大事な彼女なのか・・・?」

「ん・・・? あぁ、そんなところだ」

「ラグナ君・・・見栄を張るのは大人げないぞ・・・。父と娘のような関係・・・と普通は言うな」

「エルは、ちっちゃくても、立派な『れでぃ〜』だ。
『父と娘のような関係』などという野暮ったい名称で呼ぶと、彼女は怒るだろ?
 だから『大事な彼女』というのは見栄と言うより、恐怖に慄いてって感じだ」

「・・・うそ臭いですけど、確かにエルは怒らせちゃ駄目ですからね・・・」


クロスが複雑な表情をしてラグナに言う。
それにラグナは「だろ?」と返した後、「覚えてるか?」と言う。


あの『Jの悲劇』・・・

ああ・・・軽く怒らせた時、靴にジャム仕込まれて、お前・・・本当に半泣きになっていたな・・・

今・・・思い出しても鳥肌が立つぜ・・・


キロスと共に腕を擦りながら、ラグナはちらりとクロスを見る。


「あの時怒ったクロスも結構怖かったぜ〜?」

「食べ物を粗末にするからです」


エルオーネもラグナも、二人共座らされてクロスに説教された事もあった。
それぞれを思い出しながら複雑な顔をするラグナに、男が言う。


「な、何か・・・凄そうな彼女・・・だな・・・。
 早く助けないと・・・エラい目に・・・遭いそうだな…・・・・・・」





『Jの惨劇』のJってジャムのJかな。