中に戻り、エスタ兵を蹴散らしながら進み、やっと博士を捕まえた。
オダイン博士を追いかけまわって、外にまで出て来てやっと捕まえたのだ。


「おい! 待てよ・・・エルオーネの居場所は何処か教えろって!」

「・・・『オダ研』でおじゃる!エルオーネは、そこに居るでおじゃる!」


オダ研?と、小首を傾げたラグナに助手の男が耳打ちをする。


ひそひそ・・・オダイン博士の研究所の事ですよ


助手の言葉を聞いたラグナは、オダインを放してやる。
オダインは研究所へ走って逃げていった。
それを見届けてから、助手が柱の陰から出て来てラグナに説明をする。


「そこに行くには・・・ここを・・・・・・こう・・・そして・・・そこを・・・こうです」

「なるほど・・・さっぱり、わからんな」


説明を受けても腕を組んでそう答えるラグナ。
振り返ると、「クロス君!後は任せた!」と言い外に準備してあった車の後部座席に座り込んでしまった。
ウォードとキロスも乗り込み、男も乗り込む。
クロスは仕方なく運転席へ乗った。


「すぐ合流しますが、その時まで幸運を祈っています。皆さん、お気を付けて!」


助手の言葉を聞きながら、クロスはアクセルを強く踏んだ。










少し車を走らせた後、オダイン研究所へ着いた。
その中へ車から飛び降りて駆け出していくラグナを、クロス達は追った。

少し進んだ所で、辺りを見渡しながらラグナが口を開く。


「此処・・・だよなぁ?」


そう言い「何か、妙なところだな・・・な?」と続ける。
確かに、周りは青いライト一色で照らされていて、機械的な場所だった。
辺りを見渡している中で、ラグナがある事に気付く。


「あれ? あいつは?」

「私達を捜してると思うけどな・・・」


キロスがそう答えるとウォードが彼に視線をやる。
それに頭を掻きながら「まぁな、」とキロスは言う。


「普通は車から飛び降りないよな・・・」

「いや〜、思わず突っ走っちまったかぁ。あいつ、無事だといいけど」

「車の運転も任せてしまったので少し心配ですね」

「それより私達の方が・・・、」

・・・!


ラグナとクロスにキロスが何事かを言おうとしたその時、エスタ兵がやって来た。
素早くクロスが駆けて、真下から真上へ上げる肘打ちを喰らわせた。
そして次に迫ってきた相手に蹴りを入れて吹き飛ばし、簡単にバトルを終わらせてしまった。
手をぱんぱんと叩いて「行きましょう」と言うクロスの肩をラグナが抱いて笑う。


「ほんっっっっっとにクロス君ってば秀才なんだからな!!」

「・・・止して下さい。そんなの・・・」


ぱしり、とラグナの手を払いながらクロスは進んでいく。
前の扉を調べる彼に、ラグナは肩を竦めながら近付く。


「世辞でも何でも無いんだぜ? 俺は心の底からクロス君をだなー・・・」

「・・・良いですから、そんなの」


扉が開かない事を確認したクロスは振り返り、顔を背けた。


「・・・別に、アンタが裏表無い人だって事ぐらいは分かってますから・・・」


そう呟き、ラグナの横を通り過ぎる。
最初こそぽかんとしていたラグナだが、直ぐに気を取り直すと「クロスくーん!!!」と言い背後から彼に飛びついた。
が、それも予想されていたのか、思い切り裏拳を喰らってしまい額を押さえて蹲る。


う、うおおおおお・・・!! ク、クロス君・・・流石に痛い・・・!」

「馬鹿ばっかやってるからですよ」


クロスは顔を背けたままそう言い、部屋の中央にある椅子に近付いた。
「これが移動手段のようですね」と言う彼を見つつ、ラグナはキロスとウォードに「なぁ」と声をかける。


「今のってデレた?」

「ああ、デレているな」

「・・・・・・」


三人の視線を一身に受けたクロスは、複雑な表情で振り返り、「何ですか」と不機嫌そうに言う。
そんな彼に首を振った三人は、取り合えず真ん中にある椅子に腰を下ろす。
すると、真上へと浮上し、パイプを通って進みだす。
「おおー」っと声を上げるラグナと同じように、キロス達も辺りを興味深そうに見渡していた。

途中、止まったので降りて前にある扉を開けてみると・・・、


「あら〜」




エスタ兵が作業をしていた。
またしてもクロスが率先して動き、ラグナに向かって銃を構えていた男を切り倒した。
それを賞賛しながらも、ラグナは何となしに前にあるガラスを覗き込んでみた。

――其処に居たのは、


「・・・!? エルオーネ!!


ガラスで遮断されている部屋の下のほうに、エルオーネが蹲っていた。
目を擦っている所から、泣いているのだろう。
ラグナは何度も何度も「エルオーネ、エルオーネ!」と呼びかけるが分厚いガラスに阻まれる。

クロスはすぐさま先ほど敵が操作していたパネルを操作する。
すると、一番最初に開かなかった扉のロックが解除されたと出た。
あの部屋か、と思いながらクロスはラグナ達を呼んでまた椅子で移動した。


下へ戻ると、追いついたのか男が居た。
「早く行ってやんな、」と言う男に頷き、ラグナが走る。

部屋に入った途端、「エルオーネ!」と彼女の名を呼び駆け寄る。
ラグナの声に反応した彼女は顔を上げ、表情を段々と明るくする。


「ラグナおじちゃん!!」

「ちゃんと、助けに来たぜ・・・。ちーっとばかし、遅くなっちまったけどよ・・・」


膝を折って、飛びついてきた彼女を支えてやる。
その柔らかな頬に頬擦りをすると、エルオーネも嬉しそうにラグナにしがみ付いた。



















































次に瞳を開いた時に耳に入ってきたのは、自分を呼ぶ声だった。
スコール、スコール、という呼びかけを耳にしつつ、スコールは身を起こす。


「貴方も起きたみたいね」


そう言うキスティス。
辺りを見渡すと、ゼルとセルフィは既にその身を起こしていた。

直後、何かの音が近付いてきた。
「何かこっちに来るよ〜!」とセルフィが言うと、車の様な乗り物が近付いてきた。
スコール達の前でそれは停車し、男が一人降りてくる。

そして、真っ直ぐにイデアに視線をやり、「魔女イデア?」と問うた。
それに頷き、イデアは「はい」と答える。


「オダイン博士に会わせてください」

「・・・まず我々に話を聞かせてもらいたい」

「わかりました」


イデアが了承の意を返す。
スコールはエスタの人間であろう男に一歩近付いて声をかける。


「俺はエルオーネに会いたい。エルオーネは何処だ?」

「・・・エルオーネ?」

「スコール、落ち着いて。私に任せなさい」


イデアがスコールを抑え、言う。
取り合えず、といった様子で男は「乗りなさい」と言い自分が乗ってきたそれを彼らに勧める。

それに乗り込んで進んでいくと、外の景色が一変した。
高度な技術が使われているであろう街中。
至るところに高層の建物があり、その間を縫うように環状道があった。
それは街の中心部へと続くらしく、その上をこの乗り物は進んでいるようだった。

広い車内で、を自分の肩に凭れさせているスコールは彼女を見やる。
相も変わらず閉じられた瞳。

普段の彼女ならこの町並みを見て大はしゃぎをするであろうに。

そう考えると、胸の内がちりりと痛み、スコールは自身の額を抑えた。







ある建物に案内され、中に入る。
イデアが男に一通りの説明をして、言葉を続ける。


「・・・そう考えて私はこの国に来ました。是非オダイン博士のお力で私を未来の魔女から遠ざけていただきたいのです・・・」

「簡単な事でおじゃる」


イデアがそう言い終えた所で、そう声がした。
やってきた彼は、先ほど夢の中で見ていたオダイン博士だった。


「隔離してしまえばいいのでおじゃる。オダインに不可能はないのでおじゃる」

「よろしくお願いします」


オダインに頭を下げるイデアの横を通り、大統領補佐官の男はスコールに「君は、エルオーネに会いたいと?」と問うた。
それにスコールは頷き、口を開く。


「何処に居るんだ? 俺とはエルオーネに会わなくちゃならないんだ。
 あんた達は断る事は出来ない。もし断れば俺は・・・」


スコールはそう言い、歩を進める。
ソファで横にさせているをちらりと一瞥した後、オダインに近付き、彼を真っ直ぐに見下ろす。
脅迫めいた彼の行動にオダインは思わず飛び跳ねる。


「オダインを人質にするでおじゃるか。バカでおじゃる」

「バカでも何でもいいからエルオーネに会わせろ」


そう言い瞳を細めるスコール。
オダインはぶるりと身を震わせると、許可を出した。


「言う通りにするでおじゃる。オダインが許可するでおじゃる」


「・・・いいでしょう」と答える助手に、早速手配をさせる。
そうしながらオダインは、さり気無くスコールから離れつつ彼に向かい口を開く。


「ただし条件付きでおじゃる。この娘をオダインに観察させるでおじゃる」


そう言いオダインはソファで眠るを見やる。
どうやら、彼の興味はへ向かったようだった。

過去の彼と同じく、一つの事に興味が移るととことん其方へ意識が向いてしまうらしい。


「・・・どうだね?
 エルオーネに会うためには少々準備が必要なのだ。それまでの間、娘を預けるというのが我々の条件だ」


渋るスコールに、イデアが「従いなさい、スコール」と言う。
エルオーネに会う為にはそうするしかない。
それに、魔女の事に詳しいオダインなら、魔女との戦闘の後にこうなったの原因を探る事が出来るかもしれない。
そう思い、スコールは大きく息を吐いて口を開く。


におかしな真似はするなよ」


条件に従う事にしたスコールはそう言う。
大統領補佐の男が近付き、彼らに言う。


「暫く、我々の国でも見て回りたまえ。その頃には、準備も終わっているはずだ。
 この街から東に位置するルナゲートまで向かってくれたまえ。
 魔女の支配から抜け出して十七年。人と科学の調和を目指したエスタ・・・気に入ってもらえるといいが。
 娘は、我々が送り届けておく。安心してルナゲートに向かってくれたまえ」


彼の言葉を聞き、部屋の外へ出る。
大統領官邸ゆえに、色々な絵画が壁にあり、豪華な様子だった。
凄い廊下だね、と言うリノアにセルフィが「ね〜」と返す。


「お、風景画まであるぜ」


ゼルがそう言い上の方を見上げると、皆もそれに習って見上げる。
其処にはウィンヒルの風景画が飾ってあった。
機械的なこの街とは違い、穏やかな風景画だった。


大統領官邸を出る途中、歳を取った兵士と会話をした。


「エスタの事は知っていたのかね?」

と、問われたので「ああ」と返すと「ほぉ?どんな風に?」と問われた。
それに少し考えてから、スコールは「科学の国・・・、」と答えた。


「確かにな、私達の武器や乗り物・・・他の国では真似出来ない物だよ。
 良い技術者と良い研究員が揃ってるよ」

「そして、沈黙を守っている・・・」

「沈黙を守るか・・・。
 そんなつもりはなかったと思うんだが・・・自然にそうなったようだな、大統領が何もしなかったからな。
 みんなも静かに暮らしたかったし、静かに研究がしたかった」


大統領が何も?
と、思いつつスコールは次にオダイン博士についてを尋ねてみた。
それに兵士は「ああ、あの人ねぇ・・・」と苦笑する。


「あれこれと研究対象が変わる博士だよ。それなりに実績を残すから凄いがねぇ・・・。
あ、魔女については知ってるか?」

「魔女・・・アデルか」

「そうだ。十七年前まではな・・・魔女アデルの支配の下、非道な事もした国だよ・・・。
 今は、平和だが。 ・・・ただね、平和を守るには色々と努力が必要なものなんだよ」


彼と話した後、エスタの街中を一通りレンタカーで回った。
その後、ルナゲートに向かう事にした。
どうやらルナゲートとは、宇宙へ上がる為の場所らしかった。
その話を聞く限り、エルオーネは宇宙に居るらしかった。

街中で集めた情報を纏めつつ、ルナゲートへ入ると、直ぐに職員が近付いてきて「お待ちしておりました」と出迎えられた。


「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


奥へ案内されて行くと、奥には更に他の職員が居た。
「出発するのはあんた達だな?」と問う職員に「そうだ」とスコールが返す。


「じゃあ、こっちに来てくれ。距離的にはかなりあるけど時間的にはほんの少しだ。眠っている間に着くからな」

「何処へ行くんだ?」

「そこへ行くまでのプロセスを簡単に説明しておこうか。
 まず、君達は最初に、このパイプの中のカプセルに入ってもらい、コールドスリープ処理を施す。
 処理が終われば、君達の入ったカプセルは射出機の中に自動的に装填される。
 後は発射するだけだ。目が覚めたら到着しているはずだ。後は向こうのスタッフに任せるといい。
 ・・・説明はこれだけだ。もちろん危険はゼロではない。どうする?」


どうやら本当に宇宙へ上がるらしかった。
スコールは頷き、「・・・よろしく頼む」と返した。


「じゃあ、あんたと一緒に行く人を決めてくれ。
 例の女の子はコールドスリープ処理をして装填済みだ。行けるのはあんたとあと一人までだぞ」


誰に同行を頼もうか、とスコールが考えているとイデアが口を開いた。


「・・・・・・その間に私は自分の力を押さえてもらわなければなりませんね・・・」

「でも、ママ先生を1人にするのは危険すぎます!」


キスティスが言うと、ゼルが「じゃあ!」と言い真剣な表情で拳を握った。


「俺が護衛に付きますよ! スコール、な、いいだろ?」

「(
・・・どうしようか?)・・・大丈夫か?」


思わずスコールがそう問うと、ゼルは拳を震わせた。


「どうして俺じゃダメなんだよ?!俺がチキン野郎だからか?!
 ・・・だったら、そうでない事を証明させてくれよ!俺だって同じSeeDなんだぜ!」

「・・・私からもお願いします。ゼルに居てもらえれば、私も心強いのです・・・」


イデアがそう言うと、ゼルは嬉しそうに表情を綻ばせた。
彼女に続く様に、キスティスとセルフィも口を開く。


「私もゼルが残る事には異論ないわ」

「あたしもだよ〜!」

「こりゃ〜 決まりだな、スコール」


アーヴァインがそう言うと、スコールは「わかった、」と返すしかなかった。


「ゼルに任せよう」

「やったぜ〜! 俺、頑張って護衛します! 安心してて下さいよ!」


飛び跳ねて喜んだ後、ゼルはイデアに言う。
その後にスコールに向き直って「安心して行って来てくれ!」と言った。
そんなゼルに、(・・・ママ先生は魔女なんだ。それを忘れるなよ)と心の中で思いながら腕を組んだ。


「じゃあ、あと一人決めるぞ」

「・・・ね、スコール」


スコールが誰を同行させようか、と再び考えようとした時、今まで控えめに黙っていたリノアが一歩前へ出、口を開いた。


「私を連れてってくれない?
 がこうなっちゃった原因は私にもあるし、それに・・・やっぱり傍に居たい・・・」


そう言い、リノアは真っ直ぐにスコールを見た。
彼女の真剣な瞳に、頷いて「分かった」と彼は返す。


も、あんたが居ればきっと嬉しいだろう」

「・・・そうだと嬉しいな」


少しだけはにかんで言うリノアに、スコールは頷く。
彼らの考えが纏まったのを見、職員が「じゃあ、行く人はこの中に入ってくれ」と言い機械を指す。
それに向かって歩くスコールにアーヴァインをが声をかける。


「スコール、しっかりやれよ〜」


彼の言葉を聞きながら、スコールはリノアと共に機械に入った。

制御室では、職員達がパネルを操作しながら射出準備をしていた。


「全カプセル、装填しました。カプセル内に異常ありません」

「射出機に異常ありません。各機関、正常です」

「射出誤差修正、プラス2、軌道修正、マイナス1。修正完了です」


それらのチェックを聞き、後ろで全てのチェックを行っていた職員が合図を送る。


「よし、射出せよ!」

「「「了解!」」」


直後、三本の光が宇へと真っ直ぐ伸びていった。




次回、宇宙。