大気圏を突破し、宇宙へ辿り着いたカプセル。
それらを宇宙にある大きな施設の中の制御室で見ていた彼はゆっくりと辺りを伺った。
「カプセルが接近しています。回収しますか?」
「しない訳にはいかねえだろ?」
宇宙服を身に纏った男が管制官に言う。
管制官の男は「そりゃそうですね」と返し、カプセル回収作業の準備をする。
「な〜んか、面倒な事起こらなきゃいいけどな」
「兵を配置しますか?」
「・・・俺の勘じゃあ、いらねえな」
宇宙服の男がそう言った瞬間、外を伺っていたもう一人の宇宙服の男が口を開く。
「それじゃあ、配置しましょう。よろしく」
「はい、『カプセル回収班、回収プロセスをスタートせよ。警備班、非常事態に備えて待機せよ』」
本当に警報を出した二人に宇宙服の男は「お前等・・・!」と声を上げる。
「普通そういう事するか?俺を誰だと思ってるんだあ?」
「分かってますよ大統領」
「なら、よろしい。
・・・んじゃ、俺らはアデル見てくっから後は頼んだぜ」
「了解」
「行くぜー?」と未だに外を伺う宇宙服の男に声をかける。
それに「はいはい」と返事をし、二人は制御室から出て行った。
その頃、回収されたスコール達はコールドスリープを解除されていた。
「はい、緊急解凍。ちょっと痒いけど我慢我慢。・・・はい、終わり〜」
解凍を解かれたスコールとリノア、そしては眠った姿のままで部屋の中を漂う。
無重力の中なのだ。 その身はふわふわと浮いていた。
目を覚ましたリノアとスコールは、無重力というなれない空間の中を戸惑っていたが、直ぐに人工重力を発生させて貰い、落ち着いて床に足を下ろす事が出来た。
『回転リングユニット部分にロック。ロック完了。人工重力発生』
やってきた職員に「エスタ大使からの紹介状です」と言い自分達の事を伝える。
白衣を着た男にそれを渡していると、倒れるに駆け寄った方の医療クルーの男が声を上げる。
「おおっ! 年の頃なら十七、八の若い娘・・・・・・死んでるの?」
「に触れるな」
ピクリとも動かないに疑問を持ったのだろう。
彼女に思わず手を伸ばそうとしていた医療クルーの男にスコールが厳しい声を上げる。
紹介状を読み終えた白衣を着た男が「事情はわかった」と言う。
「まず彼女を医務室へ。話はそれからにしよう。ついてきたまえ」
を抱きかかえ、ピエットと名乗った白衣の男の後を着いて歩く。
「この先です」と医療クルーに言われ、奥へ進むとカプセルがあった。
其処にを寝かせてやり、その頬を撫ぜる。
(・・・待ってろ、。あと少しなんだ、あと少しでエルオーネに会って、お前にも会える・・・)
「・・・、」
スコールの後ろからを覗き込んでいたリノアが呟く。
少しの間、彼女を見守っていた二人。
其処にピエットが戻ってきて、「話はつけてきた」という。
「では、制御室へ行こう」
そう言い歩き出すピエット。
彼の後を追う前に、の手に何かを握らせたリノアは、微笑んで見せた。
「これ、私のネックレス。
ちょっと行って来るから、これ持って待っててね?」
リノアはそう言うと、ピエットの後に続いていった。
閉じられたカプセルのガラス部分からの顔を見た後、スコールは入り口付近で待機している先ほどの医療クルーの男を見る。
「に触れるなよ」
「わかったわかった。君は・・・この子の騎士か何かみたいだな」
外へ出て、制御室へ向かう途中でルナサイドベース内の様子を見渡す。
途中、ベース内のクルー達から話も聞けた。
「十七年前はエスタは邪悪なアデルに支配された悪の国だった。
その後アデルは封印されここに飛ばされた。
月と我々の星の重力バランスがとれたこの場所が封印するには好都合な場所だったの」
そう言われ、外の宇宙空間を見ると、何やら巨大な物が確かに浮かんでいた。
「あれをパックしている素材も特殊な物なの。
アデルを押さえつけるのと同時に外からの干渉も一切受け付けない。
電波、音波、思念波、そしてジャンクションも・・・。
あまりに強いWAVE妨害処理を施しているから地上の電波にも影響を及ぼしているのね」
「もしあれが復活したら十七年前の悪夢が復活してしまう。そうならないためにも私達がこうして監視している訳ね」
「今もほら! ああやって大統領が自らチェックに出てる」
クルーの一人がそう言い、外を指す。
確かに、宇宙服を身に着けた男と、護衛の者達が居た。
「アデルをああやって封印したのも大統領自らの活躍なの。それ以来ずう〜っと監視は怠らなかったわ」
「この国の大統領も珍しいわよね。ああやって自ら宇宙服着て走り回ってるんだもの」
「万一、アデルの封印が解けたら大変な事になるもの。大統領も気が気じゃないのよ」
へぇ、とリノアが返す。
エスタの大統領は住民達の話によるとよほどの人物らしかった。
その後も宇宙服についてやらの話を聞いて、制御室へと入った。
入った瞬間、目の前に大きな月があった。
思わずリノアが感嘆の声を上げる。
「すっごい!月がこんなに大きい!」
「そんなに驚いてばかりもいられないんだ。そこのモニターを見てみろよ」
「え、なになに?」
制御室に居る男に誘われてリノアが近付いていく。
スコールも後ろからモニターを眺める。
「月の表面を見てみろ」
ピエットに言われ、月の表面を見ていると、段々と拡大されていく。
拡大されていく中で、月の表面上で蠢く黒い影が映し出された。
(何だこれは!?)
「な、何これ・・・全部魔物・・・?」
「月は魔物の世界だ。
そりゃ習った事あるだろ?その魔物達が月の一点に集まってきてるんだ。
月の涙が始まるんだ・・・。歴史は・・・繰り返される」
思わず後ずさったリノアに、管制官が続ける。
「月の涙は何十年という周期で起こるの。
セントラ地方の大クレーターは知ってるでしょ?
あれは百年以上も前に起こった月の涙の傷跡よ。あれでセントラの都市は滅んだと言われているの」
「月と星の重力バランスが微妙な位置にある時、月の魔物の群が異常な行動を起こす。
例えると海の潮の満ち引きに似ているな。潮か、魔物かの違いはあるがどちらも月と星が影響を与えあった結果だ」
「月の表面上のモンスターが溢れ出してついには地表にこぼれ落ちる。
そんな現象を例えて我々は月の涙と呼んでいる」
オペレーターと管制官の話を聞いていると、ピエットが近付いてきて声をかけてくる。
「この部屋を出た廊下の階段を上がればその先がエルオーネの部屋だ。許可は出ている。行ってきてもいいぞ」
ピエットの言葉に頷き、スコールは案内された部屋をノックする。
中から「どうぞ」という声が返ってきたので、中へ入る。
すると、以前見た時と変わらない姿のエルオーネが其処に居た。
「久し振りね、スコール」
そう言って微笑む彼女に、スコールは「ああ」と返す。
「ごめんね、色々。あなた達を巻き込んで」
「いいんだ。あんたが何をしたかったのかわかったから。俺達は役に立ったのか?」
それにエルオーネは微笑んで「もちろん」と返した。
「あなた達は私の目になってくれた。
あなた達のおかげで私がどんなに愛されていたかわかった。
過去は変えられなかったけど、それを確認出来ただけで充分。本当にありがとう」
「もういい。その代わり頼みがある。過去は変えられないって言ったな?」
「知らなかった過去を知る事は出来る。過去を知る事で、それまでとは違った今が見えてくる。
変わるのは自分。過去の出来事ではないの」
「そうなのか? 本当に過去は変えられない? ・・・俺は自分で確かめたい」
スコールはそう言い、ベッドに腰掛けるエルオーネの前まで行って、膝を折った。
彼女に懇願する様な瞳を向け、彼は口を開いた。
「俺をの中に送ってくれ、過去のの中に。
の身に起こった事を知りたいんだ。そしてに危機を知らせて・・・、」
「・・・助けたいのね?をなくしたくないのね。
でも、出来ない。私、を知らないもの。知ってる人に知ってる人を送り込む事しか出来ないって言ったでしょ?」
「を連れて来た。そのために俺はここに来た。医務室へ来てくれ」
スコールがそう言うと、エルオーネは頷いて立ち上がった。
そのまま医務室へ戻ろうとしている途中、制御室へ入ったところで突然警報が鳴り響いた。
「何だ?」とスコールが言い辺りを見渡していると、警報が再度響き渡った。
『医務室で異常事態発生! 医務室で異常事態発生!付近のクルーは武装して急行してくれ!』
「医務室・・・??
俺が行く。危険だからエルオーネは制御室で待機しててくれ」
「うん!」
「リノア、エルオーネの事を頼む。俺はの様子を見てくる」
「分かった!」
返事をした二人に頷きを返し、スコールは医務室へ走り出した。
医務室の入り口付近へ近付くと、先ほど別れた医療クルーの男が飛び出してきた。
突き飛ばされる様に飛び出してきた男はそのまま床へ倒れる。
何事かと思っていると、医務室の中からが覚束無い足取りでゆっくりと出てきた。
起きて歩いている彼女に思わず駆け寄るスコールだが、何かの力に弾き飛ばされて医療クルーと同じように床に倒れた。
(・・・?)
瞳は虚ろで、何処を映しているのかも分からなかった。
覚束無い足取りながらも、真っ直ぐに制御室へ向かう彼女を止めようとするが、またしても見えない力に弾き飛ばされた。
吹き飛ばされ、痛む身体を叱咤し、制御室へ駆け込むと、リノアが「スコール!」と声を上げた。
周りには同じように吹き飛ばされたのか、ピエットや管制官が倒れていた。
「が・・・!」
「やめて!」
「それはアデル・セメタリーの封印解除装置なんだ!」
リノア、エルオーネ、ピエットの制止も聞こえていないのか、はパネルを操作する。
パスワードも、暗号も何もかも掌握しているような手つきでそれらを着々と解除していく。
『アデル・セメタリー封印Lv1解除。封印Lv1ハ解除サレマシタ』
「、どうしたのかしら?」
エルオーネが震える声で言う。
そんな彼女に続くように管制官とピエットが声を上げる。
「封印はLv2までしかないんだ!」
「知り合いだろ? やめさせろ!」
それにハッとしたスコールだが、に近付こうとしてもまた弾き飛ばされるだけだった。
そうこうしている間に、月でも異変が起こっていた。
「見て!月が!」と言うリノアの言葉に全員が月を見やる。
「モンスターが溢れ出しそうだ・・・」
「とうとう始まるのか、月の涙が・・・!」
ピエットはそう言い、「尚更を止めないと」と呟く。
「の目的がアデルの封印解除なら宇宙に出て行くつもりだぞ!
封印Lv2の解除装置はアデル・セメタリーその物にあるんだ!」
ピエットの言葉を聞いてスコールは瞬時に行動に移した。
月の涙が起こる状態で宇宙に出るだなんて、の身が危ない。
廊下に出た瞬間、他のクルー達が騒ぐ。
「見て! 月が!」
月に生息する魔物達が集まった箇所。
数は段々と増えていき、月の引力を物ともせずに伸びて、月から飛び出していく。
月が巨大な眼球の様に、魔物たちの群れが其れから零れ落ちる涙のようだった。
月の涙は勢いよく弾けて、自分達の星へと一直線に急降下を始めた。
「魔物の群が!
こ、これはエスタのティアーズ・ポイントへ向かっているのではないでしょうか?」
「じゃあ、ルナティック・パンドラがティアーズ・ポイントに来たって事? いつの間に!?」
慌てるクルー達にスコールも声をかける。
彼も慌てていて、思わず口早に問いかけた。
「女の子を見なかったか?」
「そ、そこのロッカールームに入っていったわよ」
ロッカールーム。
宇宙服に着替えるつもりだと理解したスコールは直ぐにロッカルームへ向かった。
「ルナティック・パンドラがティアーズ・ポイントに収まった時月の魔物は未知の力で星に引かれる・・・まさか本当に起こるとは・・・」
そんな声を聞きながらも、ロッカールームに入ると既に宇宙服を身に纏った人物が其処に居た。
こんな状況の中宇宙へ出ようとする人物なんて一人しか居なかった。
スコールも慌てて宇宙服を身に纏い、出て行こうとする彼女を追った。
「!!」
が、の背は無常にも離れて行く。
彼女を追っている最中、作業から戻ってきた大統領達が来る。
とすれ違った大統領らしき男は「お?」と零す。
「お? 何だい? 誰だい?」
「魔物の群がアデル・セメタリーに接近しています!」
「このままではアデル・セメタリーもエスタ周辺に落下する可能性があります!」
「どうしてこんなにいっぺんにいろんな事が起こるんだ〜?
これじゃ、まるで誰かが仕組んだみたいじゃねえか!あん?・・・仕組んだ?」
補佐の男達に大統領が言う。
感づいた様だ、それはスコールも同じだった。
(魔女、アルティミシア・・・)
「・・・裏で糸を引く人物が居るとして・・・、っておおおおおおい!?何処行くんだよ!?」
大統領の背を足蹴にし、今自分達が出てきた方向へ向かおうとする護衛の男。
思わず大統領が声を上げて必死に彼の足を掴む。
それに「放して下さい!彼女が!」と言いに手を伸ばす。
すれすれの所でその手は届かず、彼の手は宙を薙いだだけだった。
丁度その時、宇宙へ出るドッグの入り口が閉まる。
「危なかっただろ?」と言う大統領に護衛の男は「しかし、」と言葉を濁す。
「いいか?お前は未だ療養すべき身体なの。
本当ならまだカプセルの中に居るべき身体なの。宇宙に上がったのも治療の為だったろ?」
無茶してくれるなよ、と言う大統領に護衛の男は「すみません」と呟いた。
そんな会話を聞きながら、外に出られないなら戻るしかないと思ったスコールは方向を転換させた。
ロッカルームを出て行くと、補佐の男と大統領が何やらもめていた。
「このままじゃ此処も危ないです。ルナサイドベースを放棄しましょう!」
「脱出します!帰還用ポッドヘ急いで!」
「俺は後でいいって言ってんだろ!」
「カッコつけないで早く!」
補佐二人が大統領を床に倒して、両足を片方ずつ持って引っ張っていく。
強引なつれられ方をされている大統領はスコールを視界に留めると声を上げた。
「のわぁ!!そこのお前!エルオーネを守れ!任せた!くわぁ!」
「・・・宇宙に飛び出していった彼女も、君に任せます」
護衛の男もそう言い、彼らの後に続いていった。
スコールは兎に角制御室へ戻る事にした。
の事も気懸かりであるし、宇宙へ出る方法も知りたかった。
「・・・!一体どうしちゃったの・・・!?」
「危険よ!月の涙が迫ってきているわ!このままだとが魔物の滝に飲み込まれる!」
「だめだ! アデル・セメタリーの封印が解かれる!!」
リノア、エルオーネ、ピエットが其々に声を上げる。
スコールは目の前にあるモニターに視線を移すと、アデルの封印を解いているの姿が見えた。
解凍され、目覚めたアデルは瞳を怪しく光らせながら己を解放した人物を見やる。
直後、
月の涙がアデル・セメタリーに衝突した。
そのままアデルと共に地上へと落ちていくそれだが、外側の方に居たは弾き飛ばされた。
そのまま、糸の切れた人形の様に動かず、宇宙空間へ投げ出されてしまった。
「ーーー!!!」
目の前の光景に耐え切れなくなり、スコールが叫ぶ。
悲痛な叫びにリノアが己を抱き締める様に腕を回した。
口元に手を当てるエルオーネだったが、ピエットに腕を引かれる。
「さ、脱出だ。このままだと此処も危ない。私についてきて!」
「だ、脱出って・・・!は・・・はどうするの!?」
「今は脱出するしかないんだ!!」
ピエットは渋るリノアの背を押して進んで行ってしまった。
「スコールが守るのは私じゃない。あなたの頭の中はでいっぱい。
の頭の中はあなたでいっぱい。あなたを呼び続けている」
「俺を・・・頼む、俺をの中に・・・!」
「次!早く!急いで!」
スコールがそう言いかけた時にピエットの声が響いた。
が、エルオーネは駆け出した。
彼女を追うスコールに、彼女は「ないの!」と言う。
「あなたをきちんと送れるかどうか・・・自信がないの!」
月の涙はアデルを飲み込んだまま大気圏へと突入すして、エスタにあるティアーズ・ポイントに近付いていく。
上空に停まっているルナティック・パンドラの中へ吸い込まれるように入っていく魔物と共に、アデルもその中へと消えていった。
ピエットに案内された脱出ポッドに押し込まれたスコール達は、其々の定位置へ着く。
リノアは目元を赤くしながら、「は・・・」と呟く。
「あのまま・・・死んじゃうの・・・?」
「あの宇宙服生命維持装置は二十分が限度。
予備タンクを使ってもプラス五分がいいところだろう・・・。残念だが運命と思うしかないだろう・・・」
「そんな!私達まだの為に何も出来てないのに!!」
「その通りだ・・・!エルオーネ!お願いだ。俺は自分でこんなに考えて何かをしたいと思った事初めてなんだ!!」
「・・・・・・」
「俺を・・・俺をに!」
「・・・わかった。でも上手くいかないかもしれない・・・それでもいい?」
これが愛の力です。