月の涙はアデルを飲み込んだまま大気圏へと突入すして、エスタにあるティアーズ・ポイントに近付いていく。
上空に停まっているルナティック・パンドラの中へ吸い込まれるように入っていく魔物と共に、アデルもその中へと消えていった。




ピエットに案内された脱出ポッドに押し込まれたスコール達は、其々の定位置へ着く。
リノアは目元を赤くしながら、「は・・・」と呟く。


「あのまま・・・死んじゃうの・・・?」

「あの宇宙服生命維持装置は二十分が限度。
 予備タンクを使ってもプラス五分がいいところだろう・・・。残念だが運命と思うしかないだろう・・・」

「そんな!私達まだの為に何も出来てないのに!!」

「その通りだ・・・!エルオーネ!お願いだ。俺は自分でこんなに考えて何かをしたいと思った事初めてなんだ!!」

「・・・・・・」

「俺を・・・俺をに!」

「・・・わかった。でも上手くいかないかもしれない・・・それでもいい?」


スコールが頷くと、ピエットが未だに定位置に着いていないスコールに「さ、早く位置に!」と言う。
エルオーネとリノアの間の空いていたスペースに身を入れると、スコールは拳を強く握った。


・・・・・・!


脱出ポッドは、動き出した。

















































「・・・よし、侵入者の気配も無いし催眠ガスの気配も無し!
 ・・・と、すると・・・やっぱどーして?」


ティンバー行列車の中で一人だけ眠らなかった自分に疑問を抱く。
ゼルとセルフィはソファで眠っているし、スコールはそのまま此方に向かって倒れてきたのでなんとか支えている。
そのままでは流石にきついので、今は膝枕をしてやっているのだ。


「・・・でも、寝心地悪いかもね、」


はそう呟くと「クッション、クッション」と言いながらソファの上にあったクッションに手を伸ばす。
それをスコールの頭の下に滑り込ませ、丁度良い枕にしてやる。
「よし」と言いは立ち上がる。

が、直ぐに膝を折って眠るスコールの顔を覗き込んだ。


・・・寝てる時って、結構幼い顔つきになるんだよね、


流石のスッコーもおねむの時は可愛いお顔。

そんな事を思いながらは眠るスコールの頬をつっついた。

























「えへへ」


嬉しそうに顔を綻ばせるに、釣られるように前に居るアーヴァインも「えへへ」と零す。
それにゼルが「嬉しそうだな、お前等・・・」と呟く。


「アービンとゼルってなんだかんだで頼れるよね」

「何だかんだって何だよ・・・!?」

「そのまんまの意味!」


腕を組むにゼルとアーヴァインが小首を傾げる。
ずばり、といった様子で二人の真ん中を指差すは、再度口を開く。


私に優しいから!!

「・・・理由、そんだけか?」

「んー・・・」


は少し考える素振りを見せた後、「えっとね、」と他の言葉を捜す。
どうか素敵な理由であってくれと願いながら、二人は彼女を見詰める。


「撫でてくれる手、好きだよ?」

「僕も撫でるの好きだよ?」

「子ども扱いだったら鳩尾に蹴りいれちゃうぜー?」


ウフフアハハと笑い合いながら会話する二人にゼルががっくりと項垂れる。


「・・・お前等、ガルバディアガーデンに居た時もこんな感じだったのか?」

「・・・近からず遠からず?」

「なんだそりゃ」


にそう言い、ゼルは苦笑した。
アーヴァインはの頭をぽんぽんと撫でながらも「でもね、」と言う。


「今はの隣にスコールが居るからさ〜」

「そうだよな・・・。 で?スコールとはどうなんだよ、結局」

「・・・其処でどうしてスッコーと私の話になっちゃうんですかい?お二人さん?」


は腰に手を当てて二人を見る。
ゼルとアーヴァインは「気になるから」と声を揃えて言う。
そんな二人には肩を竦めてそっぽを向いた。


「人の恋路に首を突っ込む男は馬に踏まれて落とし穴だよ!」

「いやいやいや!何か絶対おかしいから!!」

「いいの!これで! ・・・それに、私は良いって言ったでしょ?」


そう言い、は二人に背を向けた。


・・・私は、想うだけで良いの。 ・・・・・・スッコー・・・、

























確かにの記憶であり、その時の彼女の視点だった。
けれど、求めていた時はこの時ではなかった。


「違うんだ、エルオーネ。・・・こんな過去に戻りたいんじゃない」

「ごめん・・・スコール。 もう一度・・・やってみる」




















ここは・・・あの時の・・・


スコールはそう思い意識を集中させた。

ガルバディアガーデンの大講堂。
魔女イデアを倒した直後に起こった眩い光。


全てがあの時のままだった。


は、覚束無い足取りで倒れているサイファーに近付くと、彼を抱き起こす。


・・・これはじゃない!


虚ろな瞳。
サイファーを抱き起こし、彼に向かい彼女は口を開く。
が、出てきた声は彼女のソプラノボイスとは遠い物だった。


『忠実なる魔女の騎士サイファーよ。魔女は生きている・・・魔女は希望する・・・』

アルティミシア!? 未来の魔女がの中に!?イデアから移ってきた?は何処だ!

『海底に眠ると伝えられしルナティック・パンドラを捜し出せ。さすれば魔女は再びお前に夢を見せるだろう』

!何処にいる?答えろ!

『仰せの通りに、アルティミシア様』


歩き出すサイファー。
スコールはただただ、心の内に居るであろうを捜し求めた。

しかし、スコールの目に入ったのはの後ろに立つ魔女の姿だった。

は、と再び彼が思った時に、微かだが彼女の声がした。


・・・・・・スコール・・・

!!


久しぶりに聞いた気のする彼女の声。
自分の名を呼び、探しているのが分かる。


・・・どこ・・・? わたし・・・・・・、

!俺は此処に居る!!!

・・・わたし・・・


そう呟いた直後、は倒れた。
同時に薄れていくの心の声。
それを手探りで捜し求めようとしたスコールだったが、


『誰だ!?出て行け!』


!!!


最後にもう一度彼女を呼びたかったが、魔女アルティミシアに気取られて精神の世界から強制的に追い出されてしまった。

最後に感じたのは―――、


(スコール・・・寒いよ・・・・・・、)




















!!


現実に戻り、自分でも気付かぬ内にそう叫んでいた。
無意識の内に伸ばしていた手も、空を切るだけであった。

そんな中、力を使い、消耗したエルオーネが膝を折る。


「エルオーネ?!」

に何が起こったのか・・・わかった? 過去は・・・変えられた・・・?」

「だめだった・・・どうしたらいい?」


スコールはエルオーネの前まで行き、彼女を見詰めた。
ゆっくりと顔を上げてスコールと目を合わせたエルオーネは、「あ、」と言い少しだけ微笑んだ。


「・・・今、同じだった。
 スコール、子供の頃と同じ目したね。子犬のような・・・縋るような・・・・・・目・・・、」

「・・・忘れた」

「・・・それでいいわ。大切なのは今だから。私も・・・やっとわかったの・・・」


そう言ってエルオーネは力なさげに微笑んだ。
スコールは小さく頷きながら、口を開く。


「俺に出来るのは、今、あそこにいるを助ける事だけなんだな?」

を安心させてあげなさい。きっと心は通じるから。
 行くわよ、スコール。限りなく今に近い過去へ・・・未来に一番近い・・・今へ・・・・・・、」


"今"のの中へ、スコールを送る為、再度エルオーネは力を使った。




子犬の様なスコール(ちょっと違う)