暗い、


      寒い、


            怖い、






それくらいしか考えられなかった。

ずっと身近に感じていた体温も消えてしまった。
今自分の中にあるのは唯の闇と冷たさだけ。


スコール・・・、


左右前後、何処へ手を伸ばしても進んでも、闇があるだけ。
走っても走っても追いつかないスクリーンが目の前にあって、外の様子を途切れ途切れに写している。


すこーる、


自分はなんて事をしているのだろう、

なんて事をしてしまったのだろう、


異変を感じ取った医療クルーの人を力でねじ伏せ、弾き飛ばした。
心配して駆け寄ってきてくれたスコールも、制御室に居たクルーの皆も、

アデルの封印を解いたのも、全て私。


 すこーる、 )


このままどうなってしまうのかと思っていたら、宇宙へと飛び出していた。
アデルの封印を完全に解いてしまい、月の涙による魔物の群れに弾き飛ばされて、宇宙へ投げ出された。


それから少し経った頃、寒さを感じた。


宇宙服越しに感じる寒さ、

ああ、宇宙ってこんなに寒い空間なんだとその時初めて知った。


次に感じたのは、無限に広がる闇の広さ。


辺りで瞬く星も、今となっては恐怖の対象でしかなかった。

手を何処に伸ばしても何にも当たらず、

唯、寒くて暗いこの宇宙空間を彷徨う。


『生命維持装置残量15秒』


機械的な音声が響く。


・・・あと、15秒・・・


そもそも今此処に時間なんて存在するのだろうか。
自分ひとりしか居ないこの宇宙空間で、


・・・自分ではどうする事も出来ない・・・ただ流されるままで・・・このまま・・・。
 ・・・自分だけではどうにもならない・・・



『残量0』


ピーッ、という音が響く。

あ、と思った頃には遅かった。


・・・・・・私・・・、ここまでなのかな・・・?


少しだけ首を動かして辺りを伺ってみても、何も、無い。


・・・ここまで、なのかな・・・











『生命維持 完・全・停・止』











――――――――――――――――――。





それきり、無音の世界に包まれた。


聞こえるのは、自分の呼吸音のみ。


生命維持装置の切れた宇宙服では、酸素も消えていく。
段々と苦しくなる呼吸のせいで、乱れた音しか響かない。


・・・もう、むりなのかな・・・

『・・・だめだ・・・』


ずっと追いかけていた夢。

SeeDになって、お兄ちゃんを探して、って。


・・・このまま・・・宇宙の塵になって・・・・・・、わたしは・・・、

『だめだ!!!』


いい子にしていろよ、と言って出て行った兄。

もう、その兄を求めることすら出来なくなってしまうのか、

そう思い、瞳を細めた。

段々とぼやけてきた視界も、定まらない荒い呼吸も、最早どうでもよくなってきていた。



・・・、

     思い出せ・・・・・・)




全てを委ねる様に、は身体中の力を抜いて、ゆっくりとその瞼を下ろした。























































(・・・お・・・・・・もい・・・・・・だせ・・・)



















































―――――。



どれ程の時間そうしていただろうか。

急に瞼の裏が真っ赤になる。
明るい場所にでも出たのだろうか、と頭の隅でぼんやりと思う。

そんな中、何かの影が出てきたのか、片方の瞼の裏だけ黒くなる。

何かと思い、ゆっくりと瞳を開いてみた。



―そこにあったのは、



・・・スッコー、の、指輪・・・


チェーンに通した指輪が、其処に浮いていた。


そうだ、と思い、それに手を伸ばそうとする。

触れようとしても、宇宙服が邪魔で触れられないのだが、手を伸ばさずにはいられなかった。


グリーヴァの指輪を見た突端、彼との思い出が走馬灯のように蘇る。










「すまないが、海は見れなくなった」

「ううん、いいよ。また今度海見に行こう?」










そう答えたのは自分。

そうだ、海に行く約束、あるよ。










「大事な指輪なんだ。デザインも気に入ってる」

「そんな物私なんかに渡しちゃって・・・」

「だから、失くすなよ」

「約束、ね。 指輪、絶対何時か返すからね」










あ、これもだ、指輪、ちゃんと返さなきゃ、










「・・・後で、会ったら言いたい事がある」

「ん? うん、約束ね」










「・・・そうだな、終わってからにしよう。俺とあんたの話も」










約束、ばっかりだ、










「俺の傍に居ろ。

    あんたは皆を護るんだろ、だったら、あんたは俺が護る。

       何かがまたあんたに起きても、また俺が助けてやる、絶対に」










『  』










「す、こーる」


わたし、


・・・まだ・・・、がん、ば・・・・・・・れる・・・


わたし、


す・・・こーるが・・・、いるか、ら


わたし、


「・・・だい、じょぶ・・・」


まだやれる。


はゆっくりと微笑んで、胸元にある予備タンクのスイッチを押した。
どうしてこれが此処にあるのか知っているのか、それはきっと彼が教えてくれたから。

新鮮な酸素が入ってきて、呼吸が楽になる。
少しの間深呼吸を繰り返したは、紅紫の瞳を開き、目の前で揺れる指輪を見詰めた。


スコール・・・




久しぶり。 次回、ヒーロー大活躍←