ばかだなぁ・・・わたし・・・、


楽になっていく呼吸。

息を吸って、思い切り吐いては苦笑した。


・・・グリーヴァ、


目の前を漂う指輪、其れに刻まれた伝説の獣を見やる。

これを見た瞬間、諦めなんて吹き飛んで行った。
自分は確かに許されない事をして、このまま消えてしまえれば全てが楽に片付く。

けれども、何よりも、己が其れを拒んだ。


・・・やくそく、あるもん・・・


指輪、預かっただけのこの指輪を、彼に返さなければいけない。


―否、そんな事、ただの建前だ。


本当は、


「・・・スッコー、」


はやく、 あなたに逢いたい、


はやく、 抱き締めて欲しい、


「スッコー・・・」













































瞳を開いたスコールの行動は早かった。


のところに行く」

「私の力なんて必要なかったね」


微笑むエルオーネに、スコールはゆっくりと首を振る。


「ありがとう、お姉ちゃん」


そう言い、レバーを掴んで上に上がる。



宇宙に出る為に。



そんなスコールにリノアが安全バーを外して駆け寄る。


「い、今から出るの・・・!? ・・・スコール!スコール!!」

「ばかな!どうやって戻るつもりだ!?
 結局パック噴射の燃料も尽き、生命維持装置も切れて二人とも死ぬのがおちだぞ!」

「・・・スコール!」


リノアが声を張り上げる。


絶対、絶対戻ってきて、二人で!


そう瞳で訴えつつ、彼女はスコールを見送った。


・・・何処だ・・・・・・何処にいるんだ?)


バック噴射を使い、移動する。


冷たい宇宙空間。


こんな冷たくて暗い中に、は今一人で居るのか。

そう思うと、一刻も早く彼女に会いたくて仕方なくなった。


冷たい。

宇宙は兎に角、冷たかった。

寒いというよりも、酷く冷たい。


こんな中にを一人にしておく事なんて、出来ない。



一刻も早く、一刻も、



そう思いながら、辺りを見渡しながら真っ暗な宇宙を進んでいく。


唯、彼女の為だけに。


そのまま進んでいると、遥か向こうに白色のものが見えた。


・・・見つけた





と、心の中で彼女を呼ぶ。
そうすると、不思議と「すっこー、」と呼び返された気がした。


正面に回って・・・捕まえなくては・・・


バック噴射を使って近付いていく。
慣れないながらにも体勢を変えたり、バック噴射を使える限り使っているのか、彼女もだんだんと近付いてくる。

が、の方は燃料が切れたらしかった。

宇宙を漂う彼女は、両手を此方に伸ばしている。

それを何としても掴みたくて、スコールも最大限に手を伸ばした。





 指先がかする、



           もうすこし、



                    あとちょっと。





の手を掴み、自分の方へ引くとその身体は簡単に自分の腕の中へと収まった。

少し俯き気味だったが、ゆっくりと顔を上げる。

少しだけはにかむ彼女に、酷く久しぶりに会った錯覚に陥る。


「ありがとう・・・スッコー」


ずっと、ずっと聞きたかった彼女の声。

それがマイクを通じてだが、聞こえる事にスコールは歓喜した。


「スコールの声・・・届いた・・・」

「何も言うな・・・」

「助かるかな?」

「俺が助ける」


ああ言えばこう言う。

が言葉を紡いだ直後に返答してくるスコール。
そんな彼が少し焦っているのには気付いていたが、敢えて触れなかった。


燃料はもう無い・・・。酸素も残り少ない・・・。
 このまま宇宙の漂流者となるか・・・重力に引っ張られ燃えかすとなるか・・・。
 俺はを救えないのか・・・?



追い求めて、追い求めて、やっと会えたのに?

そう思い、スコールは少しだけ俯いた。


・・・スコールを、助けなきゃ


そう思い、は辺りを見渡す。
間近では月の涙が起こっていて、魔物が地上へ向けて急降下している。
反対側は、と思い其方を見やると、何かの影が見えた。

何だろう、と思い目を凝らして見てみると、真っ赤な機体が浮いていた。

スコールもそれに気付いたらしく、「捕まっていろ」と言うとの肩と腰に腕を回してバック噴射を使用して其れに接近する。

真っ赤な機体に近付き、其れにしがみ付く。
何処か入り口は、と探すスコールにが「あそこ、」と伝える。

外側からの開閉ボタンを押すと、すんなりと開いたそれに、取り合えず乗り込む事にした。



そのまま幾重もの扉を開き、中へ入る。



空気は平気なのかとチェックするスコールの後ろで、が上のシェルターを全て閉める。

そのまま部屋の奥へ進んでみると、スコールが宇宙服を脱ぎだしたので、も習って其れを脱ぐ。


メットを取り、「ぷはっ!」と声を漏らす。

宇宙服の前を全部開き、そのまま脱ぎ捨てる。

一応畳んでおいた方がいいかな、と言おうとしただったが、突然真後ろから強い力で腕を引かれた。
「キャッ!?」と短い声を上げている中、気付いたらスコールの腕の中に閉じ込められていた。


背に回された手。


強い力で抱き締めてくる彼は、寧ろ抱きついてきているという表現の方が正しい気がした。


「・・・スッコー?」

「・・・たかった・・・」

「えっ?」


聞き取れず、思わず聞き返すと、スコールが少しだけ離れた。
至近距離の真正面から、空色の瞳に真っ直ぐに見詰められて、は仄かに頬を朱に染める。


「・・・ずっと、会いたかった・・・」

「・・・スッコー・・・、っん、」


頬に手を添えられ、顔を少し上げさせられる。

直後、唇に柔らかな感覚。

スコールに、キスされている。


・・・スッコー、


は、全てを彼に委ねる様に瞳を伏せた。

触れるだけのキスをした後、スコールは一度離れて、上から下までを見た。
その視線に戸惑い、「な、何ぞ・・・?」と怯む彼女に、スコールは笑みを零した。


「否・・・。アンタは相変わらずで良かった」

「・・・えっと・・・ほんと、ご心配おかけしまして・・・」


頭をかきながら言う彼女にスコールは「いいんだ」と言う。


「・・・今、生きてるだけじゃ物足りない・・・」

「ん?過去形にはされたくない系の話?」

「・・・近い。 俺は、との未来が欲しいんだ」

「・・・・・・え?」


スコールはの真正面に立つと、「約束があった」と言う。
それを思い当たったは頬を赤く染めると、そっぽを向く。
可愛らしい彼女の仕種に、頬を緩めながら想いを口にしようとした。

が、


ストップ! スッコー!」


に止められた。

何で、という視線を受けたは「う、」と言葉を詰まらせたが、少し俯いてから口を開いた。


「・・・・・・地上に、戻って、もう一回、スッコーが、さ。
 私をぎゅってしてくれた時に、聞きたいな。 ・・・それまで保留って事じゃ、ダメ?」

「・・・あんたは、焦らすな」

「じ、焦らすって・・・!」


そんなつもりじゃ、というにスコールは苦笑する。
彼女の銀の髪に指を絡めつつ、「分かった」とスコールは返した。


「地上に戻ったら覚悟しろ」

え゛。 どっ、どういう事なんざんしょかっ・・・スコールさん・・・?」


本気で焦っている彼女に、思わず笑みを零す。
くすくすと笑い合いながら、久しぶりに二人で会話をした。

兎に角、動くぞ。と言ったスコールは前を歩いていく。
そんな彼の背を見詰めながら、は少しだけ瞳を伏せた。


あと、少しだけでも、


そう思い、彼を追う様に足を動かした。




しかし此処の飛空挺内、AP稼ぎである←