せめて最期に貴方に会いたかった。
その想いが、私を少しだけ長生きさせてくれたんだね。
「スッコスッコ!これこれ!」
赤い飛行船の中で取り合えず休めるところは無いかとうろついていた所、見たことも無い魔物に襲われた。
二人で撃退していくが、次々とまた現れるそれに半ばうんざりしていた。
そのまま進んで行っていると、が端末を見つけて其れをつけた。
『艦内に繁殖してしまった宇宙魔物に関するレポート。
艦内の魔物はすべて除去したのだが彼らが何時の日か再生繁殖してしまった場合を想定して、此処にレポートを残す。
体長は3〜6m。個体差があり、性格は狂暴で残忍。
肉食と思われ主な食料は生きている生物(人間も含む)のため非常に危険である』
「・・・プロパゲーター・・・っていうらしいよ、あの魔物」
動く物を見ると襲い掛かってくるという。
『戦闘によって倒す事が可だが彼(彼ら)は『固にして全、全にして固』の存在であると推測される。
確認されている八体全てが固であると同時に同一の生き物でもある。
たとえばある一体の魔物を倒し、更に他の場所に居る一体を倒した時、別の場所に居る魔物が最初に倒した魔物を再生してしまう。
つまり、一体以上の固を失わない為に再生を続けるのだ。
一見、不死の存在のように感じるが再生のプロセスには一定のルールが存在するようで、ある固体を再生する事が可能な固体が決まっている』
その後もつらつらと例文が書かれていたが、読む気がしなかった。
簡単に言うならば、つまりはこうなのである。
「うん、つまりは対の魔物を倒すわけだから、同じ色の魔物を連続して倒せば良いって訳ね」
「ああ。そのようだな」
さっさと片付けるぞ。
と言うとスコールはガンブレードを手にスタスタと歩き出す。
OK、と言いながらも彼の後に続いた。
プロパゲーターを全て倒した後、コクピットへ向かった。
流石、エスタの文明とでもいうのか。
コクピット内の機械は全て高度な物ばかりで二人には手に負えないものばかりであった。
(これを・・・操縦するのか? ・・・俺には出来ない)
スコールがそう思っていると、機械から何かノイズが響いてきた。
それをじっと見詰めるだけのの横を通り、ボリュームらしき装置を弄って音量を上げる。
そうすると、声が聞こえてきた。
『こちらエアステーション。こちらエスタ・エアステーション』
(これは・・・)
『飛空艇ラグナロク応答せよ。飛空艇ラグナロク応答せよ』
(・・・電波通信)
電波障害の原因であったアデル・セメタリーの封印も解除され、月の涙と共に地上へ落ちて行った為に電波通信が可能になったのだ。
今頃、ティンバーのノイズがかった街頭テレビも綺麗に映っている事だろう。
は、この飛空艇はラグナロクっていうんだ、などとも考えながらスコールの背を見詰めていた。
『こちらエアステーション。飛空艇ラグナロク応答せよ』
まだ声をかけてくる通信機に、スコールが「この船はラグナロクでいいのか?」と返す。
其れに大いに反応した通信相手ははしゃいだ声を上げる。
『Wow!ホントにラグナロクか?宇宙に居るんだろ?』
「宇宙の・・・何処かはわからない」
『ラジャー、ラジャー!貴船の位置は此方で把握している!』
(・・・地上に戻れるのか?)
スコールはそう思い思わずを見やる。
見られたは、少しだけはにかんでみせた後、外を見やった。
『ラグナロク・・・十七年振りだ・・・』
「俺達は帰れるのか?」
スコールが通信にそう問いかけると相手は『こっちに任せとけ!』と言った。
『燃料は充分残ってるはずだ。だから大気圏突入プログラムに現在位置データを入力すれば大丈夫だ。
大気圏に入ったらこっちから誘導する。な、安心しただろ?』
「・・・データ入力の仕方が分からない・・・」
燃料が残っていて、プログラムもあるなら安心だ。
だが、その入力の仕方が分からない以上どうしようもない。
そんなスコールの不安をかき消すように、通信相手は『大丈夫!』と明るい声色で答えた。
『何でも教えてやるさ。今、操縦席に着いてるか?』
男の言葉に立っていたスコールは辺りを見渡し、「シートがたくさんある」と答えた。
『右舷側のシートだ。席に着いたら教えてくれ』
スコールが再度視線を彷徨わせると、がジェスチャーで右舷側のシートを指した。
其処に腰を下ろしたスコールが「操縦席だ」と通信に言うと相手は『目の前にタッチパネルが見えるだろ?』と言った。
見下ろした先にはタッチパネルが確かにあったので、スコールは肯定の返事を返す。
「ああ、見える」
『後は簡単だ。これから言うデータを入力してくれ』
「言ってくれ」
『WJHEIH/・・・・・・』
通信の声を聞きながらパネルに其れを打ち込んでいく。
「入れた」とスコールが返すと続けての指示が来る。
『続けて・・・2872/HD-IEU』
パチパチと音を鳴らして再度入力する。
「入れた」とまたスコールが返すと『エラーは出ていないな?』と通信が入る。
チェックをした後に「大丈夫だ」と返す。
『それから・・・大丈夫だと思うんだが、やって欲しい事がある。
すべての燃料の消費を押さえるための措置だ。
重力発生装置を切れ。さっきと同じパネルで操作出来る』
「了解・・・(これだな?)」
スコールは先ほどと同じように操作をし、重力発生装置を切った。
「・・・操作完了」と返すと通信相手もほっとしたのか、息を吐いた。
『おめでとうラグナロク。これでOKだ。
それから・・・効果があるのかは知らないが、言っておきたい言葉がある。
エスタ・エアステーションスタッフ一同、貴船の幸運を祈る』
「ありがとう」
スコールはそう言い通信を切る。
そして、小さく息を吐いた。
慣れない操作にも疲れたが、これでやっと彼女と帰る事が出来る。
そう思い、を振り返る。
は、手招きするスコールに頷き、一歩踏み出す。
そうした所で、重力発生装置が切れたのか、ふわりと身体が浮かぶ。
「わっ」と声を上げて最初こそ驚いたが、宙でふわふわ浮いているのはちょっと楽しいかもしれない。
宙に浮かぶにスコールは少しだけ笑んだ後、操縦席を蹴って此方に飛んできた。
そして宙に浮かぶを横抱きにすると、床を蹴って再度操縦席へ戻る。
「あっちの席に座れ。ベルトを締めてじっとしてろ」
「・・・・・・」
スコールはそう言うが、は彼から離れなかった。
ぎゅ、っと彼の首に腕を回し、抱きつく。
彼女らしかぬ行動に戸惑いつつも、彼女の腰に腕を回してしっかりと支えてやる。
「どうした?」と優しい声色で尋ねてくるスコール。
その優しさに、なんだか心が温まる。
はスコールに抱きついたまま、「えへへ」と笑みを零す。
「なんだか、夢みたい」
「夢?」
スコールがそう問い返す。
は頷き、「うん、幸せすぎて、夢みたい」と呟く。
「・・・眠ってる間、ずっと怖い夢ばっかり見てた。
前後左右、上も下もずーっと暗闇ばっかりで、何処探してもスコールが居ないの。
・・・リノアも、アービンもセフィも、キスティもゼルも、みんな居ないの」
そう言い、胸板に頬を摺り寄せてくるをスコールは優しく抱いてやった。
嬉しそうに笑みながら、は続ける。
「当たり前だよね、夢の中の私、皆を殺してた」
寂しそうに、それでも微笑みながら続ける。
「全身、真っ赤で、私は・・・、魔女そのものだった」
「・・・、大丈夫だ、俺が居る」
「そんな夢ばっか見てたから、何か今が幸せすぎだなって・・・」
スコールに寄り添いながら、は呟く。
「スコール、」と彼の名を呼ぶ。
「・・・珍しいな、あんたが名前で呼ぶなんて」
「オセンチメンタリズムなのよ」
(何だ、それ・・・)
クスクス笑いながらはまた「スコール」と呼んで彼に擦り寄る。
スコールが彼女の肩を抱いてやると、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「・・・ほんとはね、分かってるんだ」
「・・・何を?」
「・・・ぜんぶ」
曖昧な笑顔を浮かべる。
「スコールだって、ほんとは分かってるくせに」と言って彼女は瞳を揺らがせた。
そんなに再度「何を」と問いかけようとしたスコールだったが、再度通信が地上から入った。
『こちらエアステーション。ラグナロク応答せよ』
「ラグナロクだ」
スコールがそう答えると、通信相手は先ほどとは違い何処か強い口調で問いかけてきた。
『幾つか質問がある。我々は脱出ポッド回収作業をしている。
事件の事は大体把握している。ステーションの人間がラグナロクには乗っていないそうだな。
そちらの人数を教えてくれ』
「二人だけだ」
スコールがそう答えると、少しの間を空けて通信の返事が返ってきた。
『・・・あんた、名前は?』
「スコールだ。バラムガーデンのSeeDだ」
『もう一人は?』
強い口調で問うてくる声。
スコールは思わず抱いている彼女を見る、が、は一度だけ頷き、ふわりと離れていった。
隣の席に腰を下ろしたを気にしながら、通信に応答する。
「・・・だ・・・、彼女も俺と同じバラムガーデンのSeeDだ」
『・・・? ・・・魔女だな!?魔女が乗ってるんだな!?』
―魔女。
その単語にスコールは思わずを見やる。
彼女は真っ直ぐに宇宙を見詰めていて、スコールの視線に気付くと其方を向いて力なく微笑んだ。
「・・・ほら、スコールだって分かってたじゃん?」
「・・・・・・、」
力なく微笑む彼女に、思わず手を伸ばす、
(・・・やっぱり・・・そうなのか? は魔女なのか?)
そう思いながら彼女を見やる。
正気に戻ったママ先生。代わりに倒れた。
未来の魔女の介入を受け、アデルの封印を解いた。
魔女の介入を受けるのは、魔女だけ。
つまりは、
「私・・・魔女になっちゃった。 だからもうスコールや皆と一緒に居られない」
は、魔女になった。
「・・・私は、今が凄く好き。
皆が居て、こうしてスッコーに触れていられる今が、ずっと続けば良いのになって何時も思う」
シートに両手を着いて、ぷらぷらと足を揺らす。
気丈にも微笑んでみせているが、指先が微かに震えている。
「・・・でも、仕方ないんだよね! なっちゃったもんは仕方ない!」
はわざとらしく元気にそう言うと先ほどから『ラグナロク、応答せよ!』と言っている通信に答えた。
「はいはい此方ラグナロクですよー」
『魔女は帰還次第封印する。回収部隊の指示に従え』
「・・・了解しまし・・・「ッ!!」
そう答えようとした瞬間、真横から物凄い力で腕を引かれた。
それと同時に、ぷつりと通信が切れた音がした。
あ、と思っている間にはスコールに抱き締められていた。
「スコール、ちょっと痛いかも」
「・・・あんたは・・・!」
震えるスコールに、は「よしよし」と言って彼の背を撫でてやる。
ついでに頭も撫でていると、スコールが縋る様に抱きついてきた。
自分の胸元にあるスコールの頭を抱きかかえてやると、更に彼はしがみ付くように抱きついてきた。
「・・・どうして、言わないんだ・・・! 何時も何時も、どうして押さえるんだ・・・!」
「・・・言っても、どうにもならいよ」
「皆も許してくれないからね」と言ってはスコールの両頬を包んだ。
顔を上げたスコールは、まるで捨てられた子犬の様な瞳をしていた。
は彼を安心させるように微笑むと、彼の額に自分の額をくっ付ける。
「私の元気パワーをスッコーに注入中でござーいまーす」
「・・・・・・!」
「ね、笑って?」
ははにかんでみせる。
「私、笑ったスコールって格好良くって、すき」
そう言い、今度はきちんとにっこりと微笑む。
「何時も気にかけてくれるスコールも、すきだし、こうやって抱き締めてくれるのも、すき」
「、」
「ずっと、傍に居てくれたスコールが、大好きだった」
くれた、だった。
その言葉が頭に繰り返される。
いやだ、いやだ、と呟くスコールには「ごめんね」と言って彼の胸に飛び込む。
「ごめんね、スコール、折角助けてくれたのに、折角、想ってくれてるのに、」
いやだ、
「さようならなんて。 ごめんね」
いやだ――――。
(前に誰かが言ってた通り・・・俺の前に伸びていた何本かの道)
スコールは震えるを強く抱き締める。
(その中から俺は正しいと思った道を選んできた・・・そう思いたいんだ)
紅紫の瞳は、潤っていた。
(あんたが笑顔で導いてくれた、この道を選んだ事は・・・正しかったのか?)
目の端から零れ落ちそうな雫を舌で掬って、
(・・・・・・、此処まで二人で歩いてきて・・・あんたの手を離さなくちゃならない・・・)
彼女を、強く強く、強く、抱き締め続けた―――。
地上に無事に戻ってきたラグナロク。
其れから降りると、エスタの回収部隊が既にその場で待っていた。
思わず足を止めたスコールの横をは悠々と歩いていき、彼らの前で立ち止まる。
エスタの回収部隊の二人は恭しくに頭を下げ、口を開いた。
「大いなるハインの末裔、魔女よ。その魔の力を我らに放たぬ事を乞い願う」
「更に乞い願う。我らの招きを受け入れ、魔の力を封印せし部屋で眠らん事を」
二人の言葉をしっかりと聞いていたは少しだけ口の端を上げた。
そして、頷き、「はい」と答えた。
そんな彼女の様子に回収部隊の二人はホッとした様に息を吐いた。
「話のわかる魔女で良かった。・・・お友達と何か話す事は?」
「あ、じゃあちょっとだけ、良いですか?」
はそう言い、スコールを振り返る。
お友達。
そう呼べる間柄なのかは分からないが、はスコールの前へと歩み寄った。
そして、首から提げていたチェーンを外し、掌の上に其れを置く。
「・・・これを」
グリーヴァの指輪。
それをスコールの手を出させて、その上に置く。
「約束、これ、返すって」
「・・・否、これはあんたが持ってろ・・・」
スコールの言葉に、は首を振った。
「ううん、これは預かり物だったし。
・・・それに、約束破りまくりだからね、私。これくらいは果たさせてよ」
そう言っては笑って見せた。
直後、身嗜みをぱっぱと整えてSeeDの敬礼をする。
そして、「スコール委員長」と、彼の事を呼んだ。
「・・・報告を、します。
宇宙で操られている間、私の中には別の魔女が居ました。
それは未来の魔女アルティミシア。
彼女の目的は時間圧縮。そこではアルティミシアしか存在出来なくて、他の人間は消えてしまう、
アルティミシアは私の身体を使ってその時間圧縮をするつもりだと、私は判断しました」
はそう言って哀しげに瞳を揺らした。
「アデルの封印まで解いてしまったし、これ以上そんな事に、私の身体、使われたくありません・・・。
これから、貴方や皆を傷つける事がおきてしまう前に、私はいきます」
敬礼を解いて、はくるりと身体の向きを変えた。
踏み出す足はしっかりしているのに、彼女の手はぎゅっと握られていた。
「・・・ええ、行きましょう。
素敵なプレゼントがありますよ。美しいバングルです。その後、魔女記念館へご案内しましょう」
は回収部隊の人からバングルを受け取る。
魔女の力を封じ込めるオダイン・バングルだ。
それをパチリと腕に着けて、歩き出す彼らに続く。
途中、名残惜しげに振り返ったに、堪らなくなってスコールは駆け出した。
「!!」
駆け寄って、彼女の腕を掴む。
「行くな、!」
「・・・委員ちょ・・・、」
「スコールだ」
スコールはそう言い、真っ直ぐに見詰めた。
はくしゃりと表情を歪ませると、唇を震わせた。
「・・・この際スッコーでも何でも良い、そんな他人行儀は止めてくれ・・・」
「・・・・・・スッコー」
彼をそう呼び、は少しだけ笑った。
そして、ポケットから何かを取り出すとスコールに其れを手渡した。
「これさ、リノアに返しておいてくれる?」
「・・・リノアに・・・?」
は頷き、少しだけ気まずそうに頭を掻く。
「・・・宇宙ステーションで、預かったのかな?気付いたら持っててさ・・・」
「・・・分かった・・・」
頷いたスコールに、「うん」とは言うと再度足を進めた。
上手くはぐらかされた気がする、とスコールは思い慌ててまた彼女を止める。
が、今度は触れる前に彼女が一歩進んでその手を避けた。
「・・・皆に嫌われる前に、居なくなりたいの・・・」
だから、バイバイ。
そう言って手を振る。
そんな彼女を見ていられなくて、
それでも、彼女から目を放したくもなくて、
中途半端に、顔を俯かせた。
は手を軽く振った後、ぎゅっと拳を握り締めたまま歩き出した―――。
そのまま進んでいくと、回収部隊の人たちが待っていた。
用意されている車に乗り込むと、それは直ぐに発進した。
段々と離れていくラグナロク。
窓から其れを見ていると、立ち竦むスコールの姿が見えた。
(・・・スコール、)
ぎゅ、と自分の手のバングルを押さえる。
今になって震えてきた。
カタカタと震える身体は、収まる事を知らないようだった。
一人だけ乗せられた、隔離されている後部座席で、はただただ震える事しか出来なかった。
(ほんと、は)
ほんとうは、
「っつ・・・・・・っふ・・・!」
ほんとうは、
ぎゅ、とかみ締めた唇。
覆った顔。
ほんとうは、
「・・・っつ・・・、スコールゥ・・・!」
ずっと一緒に居たかった。
離別。
ゲーム中もむんむんしたシーンです。