遠ざかっていく車。
これで良いんだ、これで。
だってこれは、自身が決めた事なのだから、自分なんかが口出ししても如何にかなる物じゃないんだ。
半ば自分に言い聞かせる様にスコールはそう考えた。
車が見えなくなってから、ラグナロクに戻る。
先ほどまでと共に居た場所へ戻り、座席へ腰を下ろす。
しん、と静かな機体の中、自分は一人だ。
(・・・さっきまで、が居たのに)
今は、一人だ。
本当にこれでよかったのだろうか、と再び考える。
魔女記念館に連れて行かれるであろう。
恐らく封印され、もう二度と会う事も無くなるだろう。
正直言うと、彼女を失いたくない。
心の底から、彼女を求めている。
ずっと触れていたくて、ずっと傍に居て欲しくて、
(・・・恋焦がれる、か)
きっと名づけるとしたらこの想いの名は恋。
知らぬ間に彼女無しではこんなにも自分は無力な人間に成り下がってしまっていた。
(・・・)
本当にこれで良かったのだろうか?
宇宙で想いを伝えようとした時、彼女は地上で自分を抱き締めてくれたら、聞くと言った。
其れが出来ない事だと理解した上での事だろう。 彼女は卑怯だ。
「約束、ね。 指輪、絶対何時か返すからね」
(・・・指輪・・・)
自分の掌の上にある其れを見やる。
彼女は確かに、傍に居る事や自分の想いを聞くという約束を破ったが、これだけは守った。
預けた指輪。
そう、コンサートの時に。
この指輪の為に、彼女は今までどんな苦境にも負けずに打ち勝ち、自分の下に戻ってきた。
それが今自分の手の内にあるという事は・・・。
其処まで考え、スコールは頭を振った。
(が望んだ事だ・・・仕方ないんだよな・・・?)
自分に言い聞かせる様に再度そう想った瞬間、背後のドアが開いた。
何事かと振り返ると、リノアが走って入ってきた所だった。
「あ、スコール!」と言って手を振りながら駆けて来る彼女。
「リノア!」
「ただいまー!」
「どうやって?」
スコールがそう尋ねると腰に手を当ててリノアは「大変だったんだから!」と言い言葉を続ける。
「脱出ポッド、地上に着いた衝撃で気絶しちゃってさ!
気がついたら私とピエットさんだけ。エルオーネさんは何でか居ないし・・・」
無事だと良いんだけど・・・。と言い、リノアは続けた。
「その後、結構時間経ってからエスタの救助隊が来たの。
その人たちからスコールとがこの船に乗って降りてくるって話を聞いて飛んできちゃった!」
。
その名前を聞くと、胸が痛んだ。
リノアはそんなスコールに気付いた様子も無く、「スコールさ、」と言って笑う。
「を追いかけて宇宙に飛び出した時、すっごくすっごくかっこよかったよ!
お姫様を助けに行く王子様みたいで、まるで物語のワンシーンみたいだった!」
其処まで言い、が居ない事に気付いたのか、「そういえば・・・」と言い辺りを見渡す。
「は?」
まさかお散歩中?
そう問うてくるリノアに、スコールは言葉を濁した。
(・・・は・・・、)
行ってしまった。
そう言えずに押し黙っていると、またドアが開いた。
今度はゼルとキスティス、セルフィにアーヴァインが入ってきた。
「スコール!! 無事で良かったぜ〜!」
そう言いゼルは飛び上がるほど喜んでみせる。
が、直ぐに「帰ってきてすぐで悪いけど地上は大変なんだ」と言いSeeDの敬礼を取る。
その姿に先ほどのを思い出してしまい、思わず眉を潜める。
「報告!
何か、ルナティック・パンドラってのが突然出てきたんだ。
で、そいつのせいで大騒ぎになってママ先生が目的を果たせなくて、いや、そりゃ良かったんだ。
ママ先生は魔女じゃなくなった。ママ先生も知らないうちに誰かに魔女の力を継承しちまったらしい」
(・・・に、だ)
腕を組み、俯くスコールにゼルは「ええと、それから・・・」と呟いて自分の脳内で話を纏める。
「そうそう、ルナティック・パンドラをコントロールしてんのはガルバディア軍だ。
昔、エスタが海底に捨てたのを引き上げて動かしてるらしいんだ。
で、ルナティック・パンドラの中には『だいせきちゅう』ってのが入っていてそいつが月から魔物を呼ぶんだ」
月の涙は其処に落ちたのか、
と頭の隅の方で考えながらスコールはぼんやりとゼルの報告を聞いていた。
「んで、月から魔物がジャンジャン降って来てこっちは大騒ぎよ。
おまけに降って来たのは魔物だけじゃないんだ。封印して宇宙に追放してあった魔女アデルが封印装置ごと地上に落ちてきたんだ!」
が解放してしまった、魔女。
宇宙での光景を思い出しながら、スコールは額を手で押さえた。
「月から降って来る魔物に巻き込まれて一緒に落ちてきた。
それをルナティック・パンドラが受け取ったからびっくりだぜ!
オダイン博士の推理じゃあガルバディアの目的はそれだったんじゃねえかって事だ。
要するに・・・・・・・・・、」
「ゼル、もういい・・・後にしてくれ」
そこでゼルの言葉を切ってスコールは再度座席に腰を下ろした。
額を手で押さえるスコールにゼルが詰め寄って「でも、スコール!」と言う。
が、スコールは首を振って適当に返すだけだった。
「大変だな。ああ、大変なのは分かった。・・・でも、俺は何も考えられない」
「どうしたの〜、スコール」
膝を折って、スコールの顔を覗き込みながらセルフィが言う。
全てが急にどうでも良くなったスコールは、口を開く。
「が魔女になってしまった。
ママ先生の力を受け継いだんだ。少し前にを迎えにエスタ人が来た。はエスタに行った」
端的に説明するスコールの言葉に全員が息を呑んだ。
リノアが慌てて「追いかけなくちゃ!!」と言う。
それにセルフィが頷いて部屋から出て行く。そんな彼女に、アーヴァインも続いて出て行った。
リノアも彼らに続こうとしたが、キスティスが一歩前へ出てスコールを見下ろしたのを見て、脚を止めた。
「無理矢理連れていかれたの?」
キスティスの言葉にリノアはハッとする。
そうだ、無理矢理連れて行かれてしまったのなら、今頃スコールは此処に居ないだろう。
きっと、宇宙へ上がった時の様に、宇宙へ飛び出した時の様に彼女を追って行っているだろう。
ならば、とリノアが思った時、スコールは力なく首を振って「違う・・・」と答えた。
「が望んだんだ・・・。
自分は魔女だから・・・皆に嫌われる前に、居なくなりたいって言って・・・」
「スコールは止めなかった?」
少々苛立った声色で言うキスティス。
スコールは彼女を力なく見上げ、瞳を細めた。
「が自分で決めたんだ。俺にどんな権利がある?」
「・・・もう! やめてよ!」
あまりに無気力にそう答えるスコールに、キスティスがそう声を張り上げた。
両手を振ってそう言い、スコールに怒りに満ちた瞳を向ける。
「権利ですって!?何の話をしているの!?
宇宙にまで行ってを助けたのは何のためだったの!?」
「それは・・・、」
「もう会えなくなるかもしれないのにエスタに引き渡すため?」
キスティスはスコールの返答を許さない姿勢を取り、「違うでしょ!?」と言う。
「と一緒に居たいからじゃなかったの!?」
ああもう、と言いキスティスは両手を振る。
行き場の無い怒りを何処に向けたら良いのか、分からないように。
もう、ともう一度言い、キスティスはキッパリと言った。
「バカ!」
キスティスの言葉に頷きながらゼルが「ホントだぜ」と言う。
そんな彼らに同意しているらしく、リノアもうんうんと頷いている。
(・・・バカって言われた)
初めて、かもしれない。
スコールはそう思い、思わず口の端を上げる。
「・・・かもな」と言い、スコールは自分の額に手を当てた。
(何やってるんだ、俺。
あんなに聞きたかったの声・・・もう聞けないかもしれないんだぞ。
何カッコつけてたんだ、俺。どうしたらいいんだ・・・?)
『思ったままに、行動すべし!』
脳内に彼女の声が響く。
そうだ、前と同じで良いんだ。
(何だ、簡単な事だ)
スコールが顔を上げた瞬間、キスティスが微笑んで「決まったみたいね」と言う。
ゼルも続けて「エスタへ行くんだろ?」と問うてくる。
スコールは頷き、口を開いた。
「何とかパンドラや魔女アデルなんてどうしたら良いか分からない。
お姉ちゃんの行方も今は見当がつかない。わかってるのはの事だけだ。
を取り返しに行く!」
スコールの言葉に全員が頷いた瞬間、足元が大きく揺れた。
「うわっ!」やら「キャッ!」とぴう短い悲鳴が起こる中、目の前のガラスに映された景色が段々と変わっていく。
段々と、上へ上へと上昇し、視界は空でいっぱいになった。
直後、
「お、おい!」
視界に広がるは、一面の青空と流れていく雲。
「あの・・・飛んでるんですけど」
「あんまり考えたくないけど操縦席にセルフィが座ってて・・・」
「『飛んじゃったよ〜!』って楽しそうに・・・」
(その横ではアーヴァインが嬉しそうに・・・)
キスティス、ゼル、リノアの順で口々に言う。
スコールのみ考えただけで額を押さえただけだったが。
セルフィとアーヴァインならやりかねない事だ。
兎に角、コクピットへ、と思いスコールは足を動かした。
コクピットへ上がると、席に腰を下ろしながら、操縦桿を握っているセルフィとその横に居るアーヴァインが視界に入った。
スコール達が来た事に気付いたセルフィが嬉しそうな笑顔を零しながら、「飛んじゃったよ〜!」と言う。
「セルフィ、すっごいだろ〜?」
そして喜ぶアーヴァイン。
まるきり予想通りだった二人にスコールは「・・・飛ばせるのか?」と問うた。
それに答えたのは操縦桿を握っているセルフィ。
「テキトーにやったら飛んだんだよ〜! でも、何か、簡単だから何とかなるかなあ・・・?
でも、落ちない保証はな〜い!」
「未来の保証なんて誰にも出来ないもんね! でもきっと大丈夫だよ!うん!」
リノアがそう言い、力強く頷く。
それにスコールも頷きながら、「セルフィ、」と彼女に声をかける。
「エスタへ行ってくれ。多分魔女記念館だと思う。 奪回作戦だ!」
「りょーかい!! 救出作戦、わくわくするね〜!」
セルフィはそう言いながら操縦桿を巧みに操作する。
機体を傾けて方向転換するラグナロクの中、アーヴァインがセルフィに賛美の声を与える。
そんな二人を見ていたキスティスだが、スコールに視線を移してくすりと笑みを零して言う。
「あなた、最近計画立てないで行動するようになったわね」
「・・・無計画で悪かったな」
スコールが腕を組んでそう言うと、彼女は「あらやだ」と言って笑みを零した。
「良い傾向だと思ったのよ。一筋で。 羨ましいくらい」
キスティスはそう言い再び前に視線を戻した。
そんな彼女を見ながら、スコールは先ほど言われた言葉を思い出す。
「バカ」
そう言われたくなくて、思われたくなくて今までずっとクールな大人の男を演じて他人と壁を作っていた。
が行ってしまう時だって、聞き分けの良い男を演じていただけ。
喪失感と苛立ちだけを感じて、全てがどうでもよくなった自分を叱ってくれた彼女は思えば何時も自分を見ていてくれた。
孤児院に居た頃も。ガーデンに居た頃も。
キスティスだけじゃなく、ゼルやセルフィ、アーヴァイン、リノアも何時も手を差し伸べてくれていた。
何時も見渡せば、周りには皆が居て、隣にはが居た。
皆の前じゃ格好つけても直ぐに見透かされてまた叱られる。
だから、真っ直ぐに気持ちを皆にぶつける。
「・・・!」
彼女を取り戻したい。
(だから、力を貸して欲しい、皆!!)
口で言えwwwwwww