「此処に入って頂けるだけで結構ですから」
嫌ににこやかな研究員の男にそう言われ、は素直に装置の中に身を入れた。
円形の装置の中はひんやりとしていた。
当たり前だ。 生きたまま保管されるのだから。
まるで棺桶、等と思いながらは己の腕に付けられたバングルを見る。
魔女の力を制御出来るという其れは、なんだか腕に馴染まなかった。
まぁ、眠ってしまえば気にもならないのだろうが。
(仕方ないか)
そう思い装置の中で座り込む。
未来の魔女、アルティミシアの見せた恐怖。
このまま行けば自分はスコールやリノア、セルフィ、ゼル、キスティス、アーヴァインという大事な仲間を手にかけてしまうかもしれないのだ。
自分の意思では如何する事も出来ず、ただ意識の淵で其れを他人事のように見ているだけ。
――夢で見たその光景が脳裏を過ぎる。
思わずは己の腕を回し、自分を抱きこむ様に蹲った。
知らず内にカタカタと身体が震えた。
何故? 彼らを殺めてしまうかもしれない己が恐ろしいから?
それとも―――、
「・・・リノア・・・、」
それとも、
「セフィ・・・アービン・・・キスティ・・・、」
それとも、
「ゼル・・・、」
それとも、
「っ・・・スコール・・・!!」
皆に会えなくなるから?
でも、仕方ない。
そう自分に言い聞かせる。
此処で眠りにつかなければ、アルティミシアが介入をしてくる。
別の魔女のアデルも居るが、其方はきっとスコール達が何とかしてくれるだろう。
サイファーの事も。
そう思い、は膝を立てて、腕を回す。
(・・・過去形、)
何時しか、スコールと話した事があった。
「私は、過去になったら皆に思い返して貰える、って曲がった考えを持ったから。
皆の記憶に残るのなら、その人は決して離れて行かないでしょ?
私を思ってくれる時がある、時々でも、絶対、思い返してくれる。
会話の中にも出てくるかもしれない、「はああだったよねー」とか、さ・・・」
「思い返して貰う事は、良い事なんじゃないかって、思った」
「・・・ふざけるな、人の記憶なんて上に新しい物が積もれば過去の事は忘れていくんだ」
「・・・そういえばそうだね・・・。思いつかなかったや」
パチパチと大きな瞳を瞬かせて言う。
其の後クスリと笑うに、スコールは何だかとても遣る瀬無い気持ちになり、自分の手を包んでいる彼女の手の上に、もう片方の手を重ねた。
「・・・アンタが過去になっても、俺はアンタの事なんか絶対話さない」
「スッコーに話して貰えないのはちょっと寂しいんですけどー」
やっぱ私ってスッコーにとってどうでも良い存在?
そう思い少しだけ頬を膨らましておどけた様子で言うにスコールは彼女の手を強く握る事で答を返した。
「・・・俺はアンタが過去になっても、絶対話さない、だから過去なんか、良いと思うな」
あの頃とは間逆の考えを持っている自分に気付く。
けれど、此処でそれを認めてしまえば終わりだ。
(良いんだよ、だってスッコー、ああ言ってもきっと思い出してくれる、)
口にする事は無いだろうが、きっと自分の事を思い出してくれる事もあるだろう。
だから、
(・・・わたしは・・・、)
きゅ、と唇を噛んで膝に顔を埋めた。
「見えてきたよ〜!」
セルフィがそう言い、着陸準備を始める。
着陸したラグナロクから少し離れた位置にある建物、魔女記念館。
其処を真っ直ぐに見詰めながら、スコールは彼女を想う。
(・・・・・・!)
直ぐにでも出て行こうとするスコールにセルフィが「いいんちょ!」と声をかける。
「何時でも発進出来る様にあたしは此処に残って準備しておくね〜!」
「すまない、頼む」
一人で大丈夫か?とスコールが問うとセルフィは力強く頷いた。
「大丈夫だから、絶対お姫様を連れ帰ってきてよね〜?」
笑んで言う彼女に、「任せろ」と言いスコールは駆け出した。
ラグナロクのハッチから降りて、魔女記念館に向かって走る。
記念館の前まで来た所で、脇に車が停めてあるのに気付く。
を乗せていった車。
それを横目で見ながら、スコールは階段を駆け上がって入り口の前まで来た。
入り口はエスタ兵が警備をしていたが、
「仲間の見送りか・・・」
「特別に通してやろう」
と言われ、中へ入れて貰えた。
好都合だったので敢えて見送りは否定せず、中へ入った。
周りには色々な機械があり、コンピューターを弄る研究員が数人居た。
入ってきたスコール達の少し違う様子に、研究員達が警戒をする。
「・・・その時どうすれば良いかなんて後にならないと解らない・・・」
スコールはそう言い、今正に封印されそうになっているの入っている円形の装置を見やる。
装置のガラス越しに見たは、膝を抱えて座り込んでいて、未だに此方の様子には気付いていないようだ。
を真っ直ぐに見詰めるスコールに、研究員が「何を言ってるんだ?」と問う。
「・・・あの時どうすれば良かったのか解ったんだ。・・・まだ間に合う。・・・だから来た。後悔したくない・・・」
宇宙にまで上がって、彼女を追い求めた理由。
別に深い意味なんてない。
ただ、彼女を失いたくなかっただけ。
その気持ちは今でも揺るがない。
だから、
「を返してもらう」
「今更何を言うか!?」
そう言い掴みかかってこようとした研究員達。
そんな彼らの目の前をすれすれで刃が過ぎった。
足を止めた彼らに銃を向けるアーヴァインに、鞭を振るって威嚇をするキスティス。
ゼルは未だ尚封印をしようと慌てて装置を操作する男を殴り飛ばす。
放った刃をブラスターエッジに収め、リノアが口を開く。
「スコール!行って!!」
此処は、引き受けるから!!
仲間達の想いを受け取り、スコールは頷いて走り出した。
道中、邪魔をする研究員達を殴り飛ばして廊下を走る。
そんなスコール達に焦りを覚えながらも、研究員の一人がまたコンピューターに取り付いた。
「じゃ、邪魔はさせない・・・!」
周りの研究員達がSeeDによって倒されていく中、彼はキーボードを操作し始めた。
なんだか騒がしい。
なんだろう、と思いふと顔を上げてみると、研究室の方が大変な事になっているのが見えた。
思わず、「ぇ」と小さく声を漏らす。
かかってくる研究員達を殴り飛ばすゼル。
銃身で相手を気絶させているアーヴァイン。
リノアとキスティスは其々威嚇の攻撃をして相手を牽制している。
「・・・どう、して・・・?」
なんで彼らが此処に?
そう思い、思わず足を崩して辺りを見渡す。
此処へ続く廊下の壁は半透明。
その道中、飛び掛る研究員を殴り飛ばしながら真っ直ぐに此処を目指して進んできているのは―――、
「・・・スコール・・・!?」
どうして、何で、
そんな言葉ばかりが浮かぶ。
思わず立ち上がり、目の前の閉められたガラス扉に両手をつく。
自分が気付いた事に気付いたのか、スコールとふと目が合う。
彼は、
まるで、を安心させるように、
微笑んだ――。
「っつ・・・!!」
目の奥がツンと痛む。 じわりじわりと熱を持つ。
は唇をかみ締めて、彼の名を呼ぼうと口を開きかけた。
―が、
ぶしゅう、という音と共に何かが装置の中に吹き込まれてきた。
封印が始まったのだろうか、それには催眠の効果があるのか、急に酷い眩暈と頭痛を覚えてはその場に再び座り込んだ。
痛む頭に手を当てながらも、なんとか瞳をこじ開ける。
(スコール・・・!)
前を見てみると、何処か慌てた様子で近付いてくる彼。
もうの入っている装置の目の前まで、彼は来ていた。
(・・・スコール・・・!!)
言いたい事はたくさん、たくさんある。
どうして来たの? もう封印始まってるんだよ? なんで皆はあそこで暴れているの?
霞む視界の中、彼が動く。
最初こそ、殴ったりして装置をなんとかしようとしていたらしいが、焦れたらしい。
両手でしっかりとガンブレードを持った彼は、其れを大きく振りかざした。
ザシュ!!!という音が響く。
コードも思い切り切ったらしく、装置内に吹き込まれていた封印措置の物も全て消え始める。
機械の煙が舞う中、目の前の扉もガコンと音を出して崩れ落ちた。
手を動かして、膝を動かして、
は、崩れた扉の隙間から、その身を躍らせた。
やや上の方にあった装置から真っ直ぐに舞い降りてくるを、
スコールは優しく抱きとめた―――。
間近に感じる彼女の体温。
耳にかかる彼の吐息。
さらりとした銀色の髪。
抱き締めてくれるしっかりとした腕。
それらをお互いに感じながら、彼らはしっかりと抱き合った。
「・・・」
優しく呼びかけてくれる声。
は少しだけ離れて、彼を見上げて至近距離にある彼の海色の瞳を見つめた。
「・・・魔女だよ、私・・・」
「魔女でも、良いさ・・・」
が傍に居てくれるなら、
そう言い、スコールは彼女の額にキスを落とした。
突然の事に瞳を瞬かせる彼女に、少しだけ笑んで、彼女の背と膝裏に手を回す。
「!スコール!」というアーヴァインの声が聞こえたのでスコールは彼女をしっかりと抱え、「行くぞ」と言った。
それに応える様に、は彼の首に腕を回し、ぎゅっと彼にしがみ付いた。
記念館の外まで行くと、ゼルとキスティスがエスタ兵と対峙していた。
アーヴァインとリノアもそれに加勢しようとした時、一人の男がやって来た。
大男は無言でエスタ兵を諌めると、彼らに道を開くようにと指示を出した。
その間を通り、スコール達の前まで来た男は腕を動かし、行くようにと指示をする。
(どういう事だ?)
そう思いながら、を抱える手に力を込める。
兎に角、今は脱出が先だ。
そう考えたスコールは、先に走っていたアーヴァイン達に続くように男の横を通り過ぎた。
(・・・どこかで会った事がある・・・?)
だが、どこで等は思い出せず、そのまま立ち去る。
背後では、記念館入り口で男がやれやれといった様子で溜め息を零していた。
奪還成功!!