ザーとシャワーから出る水が顔に掛かる。
炎の洞窟で入手したG.F.は取り敢えずがジャンクションする事にした。
暑かったなー、洞窟。と思いつつはキュ、とバルブを閉める。
シャワー室から出、はバスタオルで身体を拭いて制服に袖を通した。
窓の外から差し込んでくる光は、橙。
とうとうSeeD実地選考試験かぁ、とは思い髪をガシガシと拭いた。
炎の洞窟から戻ってきて、ホール集合まで時間が未だ多少はあったのではシャワーを浴びていた。
蒸し暑かった炎の洞窟内では結構な汗をかいてしまった。
流石に女の子としては其れは頂けないよねーですよねーと不思議な事を思いつつはホールへやって来た。
ホールでは格教員が実地試験を受ける生徒達の班を発表していた。
もう既に纏まっている生徒も居れば、未だ一人で立っている生徒も居る。
全員何処か緊張した顔持ちだった―。
当たり前だよね、とは思いギュ、と拳を握った。
(私も・・・頑張らなきゃ。ガルバディアガーデン内での選考も貰って来たんだから・・・!)
うし、と自分に気合を入れ、は案内板の前に居るキスティスに近付いた。
キスティスは近付いて来たに気付き此方を見てきた。
「先生、私ってもう発表されちゃいましたー?」
「安心して、未だだから。貴女と一緒の班の人が来なくってね・・・」
誰ですかい、遅刻者は。等とが思っているとキスティスが其の生徒を見つけたのか、視線を其方にずらす。
つられても其方を見て、「あ、」と声を上げた。
「スコール!スコール!」
ゆっくりとした動作で歩いてくるスコールにキスティスが彼を急かす様に彼の名を呼ぶ。
遅刻者ってスッコーですかい。とは内心笑いつつ近付いて来たスコールを見上げた。
「今から試験の班を発表します。貴方と組むのは。 それと・・・・・・ええと、」
キスティスが名簿覧を指で辿りながら見ている。
そんな中、スコールは自分を先程から見上げているを見下ろした。
(アンタと一緒か・・・)
「やあやあスッコー!さっきぶり!」
ニコニコと微笑んで挨拶をする様に片手をビシッと上げる。
如何してこうもコイツと行動する事が多いんだ?とスコールは思いつつも決定された事項なのであえて何も言わずにして置く事にした。
其の時キスティスが「分かったは、他に貴方と組むのはゼル・ディン、あの賑やかな彼ね」と言った。
聞き覚えがある名前だな、とは思い「うん・・・?」と首を捻らせた。
ええと、と考えているとスコールが口を開く。
「・・・五月蝿いだけだ。メンバーは変えられないのか?」
「それは駄目」
ピシャリ、とキスティスが言い放つ。
(五月蝿い・・・五月蝿くって、賑やかな彼、彼って事は、男。
元気な男の子・・・あ、)
思い当たったはパン、と手を打った。
以前訓練施設で会った彼だ。
思い出したのは良いが、は少し気まずい思いを感じていた。
以前何でかカッとなってしまって彼の話も聞かずに逃げ出してしまった事がある。
完全なる八つ当たりだった。
(スッコーじゃないけど、メンバー変えられないのかな・・・)
気まずい思いを感じているとは別に、スコールはある思いに悩んでいた。
メンバーがと言われた時は決定された事項だから、と自分は納得した。
しかしゼルが同じメンバーと言われた時にはつい先程納得したはずなのにその言葉が出てしまった。
何故? 五月蝿い奴が居ると耳障りだから? だって結構賑やかなタイプだ。 しかし、苦には思わない。
(・・・良く分からない・・・後回しだ)
スコールは腕を組んでそう思い、ゼルを呼ぶキスティスを見やった。
キスティスの呼びかけに、廊下の端の方で一人で身体を動かしていた男子が振り返った。
バック転を決め、此方に爽やかな笑みを向けてくる生徒。
左頬の模様、後ろへと靡かせている金の髪、元気な動作。
が訓練施設で会ったゼル・ディンその人だった。
ゼルは此方へ歩いてきて、スコールを視界に留めると「お!お前と一緒か!」と言った。
は(私はシカトですかい?)と思ったがどうやらスコールの後ろに居るせいで死角になっていて見えないらしかった。
「お前、あのサイファーと仲悪いんだろ?昨日も喧嘩してギタギタにやられたって?」
「あれは喧嘩じゃない。トレーニングだ」
「そう思っているのはお前だけじゃないのか? サイファーの奴ぁ、嫌がらせしてるだけだぜ?」
「お前が相手しなけりゃいいのによ」と言うゼル。
其の言葉には目の前に居るスコールの機嫌が降下したのを感じた。
スコールにだってプライドはある。
サイファーに構わないという事はサイファーの挑戦から逃げる事にも等しい。
其れをしたら、スコールのプライドに傷がつく。
だからだよね、スッコー。
はそう思いスコールの背を見詰めた。
其の時、スコールが苛々した様子で口を開いた。
「・・・お前には関係無い」
「関係無い」
スコールの言葉に被せる様に、キスティスが全く同じ事を言う。
が「おぉ、」と感心の声を上げる中、スコールの機嫌は更に降下していっていた。
生徒を良く理解してる先生だなー。とが思ってキスティスを見ていると彼女はハァ、と溜め息を一つ吐いて口を開く。
「あのねえ。・・・其のサイファーなんだけど、貴方達の班長よ?」
キスティスの放った言葉にスコールは眉を寄せ、ゼルは「うげっ」と嫌そうな声を上げた。
は「えええええ」と声を上げてスコールの背から一歩踏み出し、キスティスに言う。
「班長って・・・、あのサイファーに務まるんですか?」
「其れは彼次第ね・・・。変更は出来ないわよ? サイファー! サイファーは居る?」
おーい、ナンテコッタイ。とが思い溜め息を一つ零す。
ゼルはの存在に気付き、「あ」と短く声を上げた。
そんなゼルには最初こそ如何しようかと迷ったが、にこ、と笑みを向けておいた。
キスティスがサイファーを呼ぶと、彼は現れた。
両脇には短い銀の髪を持ち、眼帯を着けている少女、風神と、大柄でガタイの良い男、雷神が控えている。
堂々と遅れて、しかも私服で現れたサイファーに、スコールは視線を向ける。
(取り巻きの風神と雷神も一緒か・・・。風紀委員勢揃いって訳だな)
「ちょっとちょっとサイファー!」
風紀委員達の登場によって、シンと静まり返ったホール内に明るい声が響く。
ぎょっとする周りを気にせず、はサイファーにつかつかと歩み寄った。
「何でアンタ制服着てないのさ!」
「俺は良いんだよ」
「良い訳無いじゃない・・・。 取り敢えず、サイファー。 貴方が班長よ、頑張ってね」
サイファーは自分を睨み上げてくるに軽くそう返した。
其れにキスティスが呆れ声を上げてそう言った後にそう続けた。
するとサイファーが何処か不満そうに口を開く。
「・・・・・・先生、俺は頑張れって言われるのが嫌いなんだよ。その言葉は出来の悪い生徒に言ってやってやれ」
そう言うサイファーにキスティスは「成る程」と言い少し思案する様に顎に手を当てた。
が、直ぐに口を開いた。
「サイファー、頑張ってね」
キスティスがキッパリとした口調でそう返す。
は思わず其れに「ブハッ!」と噴出した。
片眉を吊り上げたサイファーはブン、と片手を薙いで「キスティス先生をリストに加えろ!」と風神に指示した。
風神は「了解」と短く答え何かの紙に何かを書き始めた。
そんな風紀委員の様子には小首を傾げる。
「ねぇスッコー、あの紙・・・リスト?って、何?」
「さぁな・・・。俺も知らない」
スコールの返答には「へぇ・・・」と返す。
風紀委員の何かのリストかな、問題児リストとか?あ、でもそれだったら先生入らないか。等とが考えていると再度キスティスが口を開いた。
パン、と手を合わせて「さて!」と言う。
「貴方達はB班です。担当の指導教官は私。チームワークを大切にして試験を乗り切りましょう!」
「チームワークってのはな。俺に迷惑をかけないって事だ。これはB班のルールだからな、忘れるんじゃねぇ。 いいな!」
キスティスがそう言った途端にそう言うサイファー。
そんなサイファーにゼルが苛立った様子を露にし、噛み付くような視線をサイファーに向ける。
スコールはどうでもいいのか、あらぬ方向を向いている。
「せんせー。早くもチームワークの欠片もありませーん」
そんな彼等の様子を見てはハイハイと手を上げて言う。
そんなにキスティスは苦笑を返し、「悪いけど、頑張ってね」と言った。
頑張ってねって出来の悪い生徒に言うんじゃあ・・・とが思っているとシド学園長が来た。
全員が静かになるのを見て、は、まあ良いや、先生も私にはそんな気で言ったんじゃないだろうし、と考えた。(その気の言葉だったら悲しいが)
案内板の前へシドは進み、口を開く。
温和で優しそうな表情をした叔父さん。それがの第一から今までの印象だった。
「全員揃いましたか?」と言い一人一人を確認した後シドはコホンと一つ咳払いをして再度口を開いた。
「皆さん、お久しぶりです。学園長のシドです。
この試験にはA班からD班まで総勢13名が参加しますが・・・・・・君達がこれから行く場所は本物の戦場であり、行われているのは当然、本物の戦闘なのです。
生と死、勝利と敗北、名誉と屈辱、全てが隣り合わせの世界。君達の殆どが未だ知らない世界という訳ですね。
どうです?怖気づいた人は居ませんか?」
そう言い再度生徒達の顔を確認するシド。
だが一人も怖気づいた様子の者は居ず、彼は満足そうに頷いた後また言葉を発した。
「正SeeDは9名参加します。君達が全滅しても、彼等が確実に任務を果たしてくれるでしょう。
まあ、その辺だけは心配しなくて良いです。我等、バラムガーデンが誇る精鋭傭兵部隊SeeD。彼等を見習い、指示に従って試験を乗り切って下さい。
我こそはSeeDに相応しいと存分にアピールするのです。 さあ、行きなさい」
シドがそう言い終えると、その場に居た全員が敬礼をした。
各々が担当の指導教官の後を着いて出て行く。
達はキスティスの指示に従い、駐車場へと辿り着いた。
車に乗ってバラムまで行き、其処から船に乗るらしい。
詳しい説明は移動中に船内で言われるらしかった。
取り敢えずはバラムまで車。 はそう思いガーデン用の車へと乗り込んだ―。
車ではキスティス、サイファーの間にが座り、向かい合う場所にはスコールとゼルが並んで座った。
最初にサイファーが乗り込み、スコールが続いた後、ゼルが続いたのだ。
スコールはサイファーの隣が嫌だったらしく向かいの席へ。同じ理由でゼルもスコールの横に座った。
生徒の中では最後に入ってきたは一人で踏ん反り返って座っているサイファーの横に腰を下ろした。
キスティスは何となくだろうか、それともやはり隣に女の子が居た方が良いのか、の隣に腰を下ろした。
席順を見たサイファーが溜め息を一つ吐く。
それにが「何?」と聞くがサイファーは「何でも無ェよ」とだけ返した。
達の前に座っているゼルが、横に居るスコールに「なあ、」と声をかける。
スコールは視線も向けずに唯座っていた。
ゼルはそれでもめげずに声をかける。
「な、スコール。 ガンブレード、見せてくれよ」
「・・・・・・」
「いいじゃねっかよー!」
「・・・・・・」
「な、ちょっとで良いから!」
「・・・・・・」
「・・・スッコー、無視り過ぎじゃあありませんかい?」
何だか見ていてゼルが可哀想になって来たのでが思わず口を挟む。
ゼルは案外普通に接してきているに少し驚いたが、直ぐに「そうだぜ!」と言いスコールに再度ガンブレードを見せてくれる様に頼む。
だが何を言ってもスコールは何も返さなかった。
「・・・分かったよ。はいはい。お前はケチな奴、そういう事で良いんだな?」
「・・・・・・」
「何とか言えよ! な? 何を考えてるんだ?」
「・・・別に」
「・・・別に」
キスティスとスコールの声が被る。
予想が的中した事にキスティスはプッと噴出し、笑みを浮かべた。
反対にスコールの機嫌は降下していった。
はクスクス笑っているキスティスをちらり、と見、やっぱスッコーの事良く分かってるんだな、先生は。と思った。
其れと同時に再度自己嫌悪。
(やっぱり、私まだスッコーの事知らない事多いね)
やだな、私。
(スッコーの事理解出来て無いのに色々言ってるのは、私かもしれない・・・)
はそう思い、皆に気付かれない様にこっそりと溜め息を吐いた。
試験前なのに、駄目だな、私。そう思い気分を切り替える為に顔を上げると、スコールとバチリと目が合った。
何故か自分を見ているスコールには瞳を丸くしたが直ぐにニコ、と笑みを返して「何?スッコー」と言った。
スコールは何か言おうと口を開きかけたが、直ぐに閉じてしまった。
そして出た言葉は、「・・・・・・別に、」だった。
何か言いたげなスコールには小首を傾げる。
其の直後に、暇なのかゼルが行き成り立ち上がって軽く運動を始めた。
拳を前へ繰り出すと、シュ、と空気を切った音が聞こえる。
(ゼルは格闘タイプなのかー・・・そういえば、武器とか見当たらないなぁ)
そう思いゼルの動作をさり気無く観察していた。
そんな彼女の真横から声が響いた。
「ウザイんだよ」
サイファーの其の一言を聞いて、ゼルの動きが止まる。
サイファーは顔を上げてゼルを見、挑発的な笑みを浮かべる、
「チキン野郎」
「あ・ん・だ・と?」
瞳に怒りの色を濃く表し、ゼルは拳を強く握りサイファーを挑戦的な目で睨んだ。
サイファーは其れに怖気づく事無く、逆に更に挑発的な笑みを浮かべる。
其れは楽しんでいる笑みにも酷く似ていた―。
此の儘じゃ喧嘩勃発だよ、と思いは止めようとしたが、其れより早くキスティスが声を上げた。
「いい加減にしなさい!」とキスティスが言うとサイファーは不満気に視線を逸らし、ゼルは舌打ちを一つして席にドッカリと音を立てて腰を下ろした。
再び静かになった車内で、今度は「先生、」とキスティスを呼ぶスコールの声が響く。
「今朝、保健室に居た女子は誰だ?」
「誰か居たの?気付かなかったけど・・・何か問題アリ?」
「・・・否、別に・・・」
キスティスの問いにスコールは少し考える動作をしたが直ぐにそう返した。
ちょっと気になって言いたい事があるけど、言えない感じだった。
三度、静かになった車内。
は前を向いてゼルを見る。
視線に気付いたゼルはに視線を向け、少々気まずそうに視線を彷徨わせた。
そんなゼルには困った様な笑みを浮かべ、「この前はゴメンネ?」と言った。
そう言ったにゼルは「そんな!!」と声を上げて思わず立ち上がる。
何だと思いスコールとキスティスとサイファーがとゼルを見やる。
「・・・悪いの俺だったんだぜ、何でが謝るんだよ」
「私、カッとなっちゃって飛び出しちゃったじゃん? アレ、八つ当たりに等しかった・・・だからゴメンネ」
酷く申し訳無さそうに言うに、ゼルは何だか罪悪感を感じてしまい、また「否!」と声を上げた。
「・・・やっぱ俺が悪かったって。助けて貰ったのに、デリカシー無かったよな」
「悪い」と言い頭を下げるゼルには首を振って手を伸ばした。
その手はゼルの肩に触れ、彼の顔を上げさせた。
は再度首を振ってニコリと笑って手を出した。
「もう止めよ?これからチームワーク大事だし・・・、仲直りね!!」
の言葉にゼルはたちまち笑顔になり、「ああ!」と強く頷いてが差し出した手を両手で握った。
スコールはモヤモヤしてます、アンタ俺以外とでも仲良いんじゃないか的な(笑)
車の中でサイファーが溜め息を吐いたのはゼルがKYだからです(爆)