「大統領がお待ちです」
エスタ・エアステーションの大統領官邸に行くと、すんなりと通された。
魔女記念館の事やらの事で色々あると思っていたが、思いのほかそうなりスコール達は警戒を解いた。
スコールを先頭に、扉を開くと、広々とした部屋があった。
中に入ると、魔女記念館で会った大柄な男と、痩せた体系の男。
そして、奥では一人の男が何かを弄くっていた。
「こーして、こーして・・・っと、」等と呟いている男。
彼らが誰なのかは、スコール達は直ぐに理解出来た。
(ウォード、キロス。そして・・・あの後ろ姿は多分・・・)
そう思いながら、足を踏み出す。
それに同調するように、床が光り始めた。
(何だよこの国は・・・)
「・・・すっごい仕掛けだね・・・」
スコールにこっそりとが言う。
それに頷いていると、ウォードが奥の男に近付いた。
ウォードに肩を叩かれた男は「おお、分かったぜ」と言うと振り返った。
「いよ〜! 会いたかったぜ、妖精さん達!」
片手を挙げて、気さくに挨拶してきた男はラグナだった。
「お前が俺の頭の中に入ってたんだろ?
エルオーネから聞いたぞ。頭の中、ザワザワして、おっ、何かいるって感じよ。
バトルになると、訳わかんねえパワーでずっげえ戦い方が出来ちまうしよ。
俺達は、そんな時の事を妖精さんが来たって言ってたんだ。
・・・って訳で、俺がラグナだ。エスタ大統領ラグナ・レウァール。仲良くしようぜ。
でよ、でよ、こんな大変な時じゃなけりゃもっとゆっくり話すんだけどよ、ああ、まあ、ちょっとくらいいいか」
ぺらぺらと一気に捲くし立てる様に喋った後、腕を組んで「で、どっから話せばいいんだ?」と、言った。
そんなラグナに声がかかった。
「彼に喋らせておくと、止まりませんよ」
凛と響いた声に、が身体を硬くした。
横ある階段から、ゆっくりとした動作で降りてきた彼に、全員の視線が集まる。
橙の髪、
それは伸びていて後ろで一つ結びにされていて、彼が動くたびにふわりと舞うように揺れる。
ゆったりとした服を身に纏っていて、袖からは指先しか見えていない。
頼りなさ気に歩く彼が、顔を上げた。
そして、真っ直ぐに此方を見、笑んだ。
「こっちもマシンガントーク並みに質問しないと、」
「クロス!!」
彼の言葉を遮る様にラグナが駆け寄った。
それに驚いたのか、足を滑らして「あ、」と短く声を上げて降って来た彼をラグナが抱きとめた。
と、言っても彼も焦っていたので尻餅をついたが。
どすんという音と共に「あいて!」と声を上げるラグナ。
「すみません、」と言い彼を見上げるクロスは、床に手を着いて直ぐに彼から離れた。
「お前、何でまた出てきちゃってるんだよ〜!」
「・・・客人が来るってキロスさんが。
それに、俺は彼女の無事をこの目でちゃんと確認したかったから」
クロスはそう言い、視線を真っ直ぐにへ移した。
ずっと、
ずっとずっと捜し求めていた人物が目の前に居る。
は霞む視界の中で、鮮やかな橙を見詰めた。
「お兄ちゃん・・・!」
そう言い、我慢ならないというように駆け出した。
床に座り込んだまま、両手を広げてくれたクロスに、は飛び込んだ。
ぎゅう、と強く彼に抱きつく。
小さい頃は頼りある存在だった彼は、今や痩せていて何処か儚さを連想させた。
「、ごめんな? ずっと、ずっと、寂しかったろ?」
そう言い、撫でてくれる優しい手。
昔と何一つ変わらない彼の仕種に、は嬉しくなって微笑んだ。
「・・・寂しかった、ずっと、でも、大丈夫だった。
SeeDになって、仲間も出来て・・・、寂しかったけど、寂しくなかった・・・!」
「、」
クロスは彼女の涙を拭ってやり、真正面からちゃんと彼女を見詰めた。
「美人になって」と言ってはにかむクロスに、は微笑んだ。
「宇宙で、お前が操られている時、俺は何も出来なかった。
お前が助けてくれたんだよな、ありがとう」
クロスはスコールを見てそう言った。
唐突に話を振られたスコールは「いや・・・」と返すことしか出来なかった。
そうこうしていると、再びラグナが口を挟んできた。
「な、なんだよ〜クロス君、妹居たの?」
「はい。居ました」
「そんなアッサリと・・・! 何で今まで教えてくれなかったんだよー!!」
「暇がありませんでした。 それに、実妹じゃないくて、養子みたいなもんです」
クロスはの頭を撫でながら言う。
そういえば、と思いは思い切って問うてみる事にした。
「どうして連絡が途絶えたの? ずっとエスタに居たの?」
「・・・それは・・・、」
言葉を濁らせ、表情を困ったものに変えるクロス。
そんな彼に代わり言葉を口にしたのは、キロスだった。
「それに関しては、我々のせいだ。謝罪する・・・」
「・・・・・・」
ウォードとキロスが頭を下げる。
ラグナも「俺もだ」と言い言葉を続ける。
「まぁ、その話に関してはこれからの事に交えて行くぜ・・・。
まぁ・・・俺が大統領になっちまった事に関係してるしなー・・・」
ラグナは頭を掻きながら、当時の事を思い出しながら言う。
「まあ、俺はエルオーネを取り戻せばそれで良かったんだけど、やっぱり、それだけじゃ済まなかった。
何と言っても、魔女アデルが支配して天才だが人でなしのオダインがいる国だ。
おまけに、その頃の二人の興味はちっちゃいエルオーネにあったしな。んじゃ、サイナラって訳にはいかなかった」
それにウォードとキロスが頷く。
クロスは顔を上げ、話に耳を傾けている。
「ホントに自分の研究の事しか考えないおっさんだった。
でも、アデルの命令に従って魔女の研究をしながら奴は奴でいろんな発明をしていやがった・・・。
魔女制御装置、つまりは封印施設だった。アデルを倒せるかもしれない。
何より俺はエルオーネを助けるために世話になった反アデル派の連中に恩返ししなくちゃならなかった」
「そして、俺達は同士達で話し合った。結局問題は二点。
一つ目は・・・巨大破壊兵器となる大石柱を何とかする事。魔物を月から呼んでセントラのように破滅状態にしないために。
そして二つ目は・・・エスタをアデル支配から解放する事」
「俺達は作戦を練りに練った。元になってるのは、もちろん俺の冴えたアイディアだ。
俺達は、再び・・ルナティック・パンドラ研究施設へと戻ってきた。
目的はただ一つ、オダインの指示に従いパネルを操作して大石柱を動かす。
ルートと停止ポイントを海中に設定してさよなら、だ」
クロスとラグナが交互に話し、説明をする。
「これは簡単だったが・・・もちろんアデルにばれた。
俺達はアデルとの最終決戦のために集結した。アデルをおびき寄せるためだ。アデルは予想通り現れた」
その時の事を思い出しながら、ラグナは言った。
アデルは後の魔女記念館と呼ばれる場所である魔法制御施設へ来た。
ラグナ達は、アデルに礼をしてアデル派の人間のふりをして彼女を出迎えた。
『何事か?』
『大石柱を移動させた犯人を追いつめました』
『何処だ?』
『あの中へ、エルオーネを人質にして……』
「エルオーネの名を出せば奴が簡単に中に入るのはわかっていた」
「実際、疑う様子も無く魔法制御施設に入っていきましたからね」
クロスがそう言い付け足す。
中に入ったアデルは封印施設の中にあるエルオーネのホログラムには流石に気付いた。
『こんな手に乗ると思ったのか?』
と、言い後ろに着いてきていたラグナとクロスを睨み付けた。
が、時はもう遅かった。
ラグナは立ち上がり、「ああ・・・」と言う。
『もちろん。
俺の計画は・・・いつだって・・・完璧と決まっているからな!!!』
そう言い、思い切りアデルを突き飛ばす。
クロスとラグナの二人で制御装置にアデルを押しやったのだ。
『今です!キロスさん、ウォードさん!!』
クロスがそう叫ぶと、光が舞ってアデルを制御装置の中へ移動させて封印をした。
ラグナは腰に手を当てて『がははは! こんなもんよ!』と笑い声を上げる。
「アデルの敗因は油断だった。魔女と言っても元は人間だって事だ。
何とか成功した・・・だが、こんな恐ろしい魔女をずっと側に飾っておくほど・・・俺達は悪趣味じゃない。
臭い物には蓋を・・・嫌な物は遠くへ・・・。
そう・・・俺達は、奴を遠〜いところに飛ばす事にしたんだ・・・果てしなく遠〜いところ・・・。
・・・そう、・・・宇宙へ・・・」
アデルを乗せたカプセルを囲むように三機の飛空艇ラグナロクが発射される。
カプセルに接続されたラグナロクは、そのまま大気圏を突破し、宇宙へと上がる。
そして―――、
「まあ、大体こんな感じだった。でも、ホントに大変だったのはこの後でよ〜。
アデルがいなくなったこの国をどうするかって事で大激論よ。
俺は面倒だからホイホイ返事してたら革命のヒーローだとか言われていつの間にか大統領にされちまった。
んで、オダインはオダインでエルオーネの研究をさせるでおじゃるとか言って騒ぎ出す」
ラグナは大きく息を吐いてから、また言葉を続けた。
「・・・エルオーネだけでもレインの元に返そうと思ったのが間違いだった。
クロスに頼んでエルオーネをウィンヒルに連れてってもらっても、レインが死んじまったんだ・・・。
レインが死んじまってエルは孤児院に送られてよう・・・。
クロスだって色々あったのは知ってる、ウィンヒルでも色々あったとか言ってたしな。
お前は、エルを引き取ろうとしてくれてたんだよな?ごめんな?」
ラグナが言うと、クロスは首をゆっくりと振った。
「・・・結局、俺はエルオーネを孤児院に預けた。
イデアさんに、様子を見に来るからと言っても、手放した事に変わりは無いんです・・・」
「・・・あん時、せめて自分でエルをウィンヒルまで送っていればレインにも会えたんだぜ・・・。
レインは死んでしまった。エルオーネは行方不明。
・・・クロスは、戻ってきてくれたんだけどな・・・」
こっからはお前が話した方がいいだろ?と言うラグナにクロスは頷いた。
「俺は、エルオーネを孤児院に預けた後に捨て子を拾った。
まだ生まれたばかりなのに、雨の中、ウィンヒルの入り口に捨てられていたんだ。
レインさんも亡くなって、村も悲しみに暮れる中で、俺はを拾ったんだ・・・」
『まだ、生まれたばかりの頃じゃないか・・・、どうして、こんな・・・』
そう思いながら、布に包まれた赤子を抱き上げる。
どうしたものか、と考えていると布の間から何かが零れ落ちた。
何かと思い拾い上げると、それは一つのバングルだった。
『・・・?何だ、これ、』
「拾ったのは、所期のオダイン・バングルだった。
オダイン博士が公表する前のその時にあった其れに最初こそ意味は分からなかったけど、不思議な力に気付いた。
が手を振り下ろすと、炎が舞った。手を叩くと、静電気みたいな物が発生した。
村の皆は直ぐにその力が魔女の物だと気付いた。それで、保護をする事にしたんだ」
最初こそ、孤児院に預けようとしてたんだけどな。
クロスはそう言って苦笑した。
の頭を撫でてやりながらクロスは続ける。
「、お前は元々魔女だったんだ。
どういう経緯かは分からないけど、伝承を受けたんだ、生れ落ちた時に」
「だ、誰から・・・?」
の問いにクロスは曖昧に微笑むだけだった。
「・・・それは、また今度な。
ウィンヒルは魔女の伝統を受け継いできた村だ。余所者を拒み、その村の中で魔女をひっそりと暮らさせて世には出さないようにする」
クロスはの頭を撫でる手を止め、彼女の肩に顔を埋めた。
「・・・でも、は外に出てってしまった。
俺のせいで、俺のために、外に出て行ったんだな・・・」
「・・・お兄ちゃん・・・」
「帰れなかった理由は、俺がずっと眠っていたからだ」
クロスはそう言い、ラグナを見上げる。
心配そうに見下ろしてくる彼に、クロスは安心させるように微笑んでみせた。
「・・・後悔は無い。俺は、どんな事があっても貴方を守ると約束したんだから」
「・・・クロス・・・」
微笑むクロスにラグナが瞳を細める。
儚げに笑んだ彼に、キロスとウォードも同じような表情をする。
クロスは「問題が、起きたんだ」と言い、言葉を続けた。
「残っていたアデル派の人間が原因だ。
何とかして宇宙のアデルを解放しようとしたテロが相次いで起こった」
大統領候補の、彼を狙った、ね。
そう言い、クロスはゆっくりと瞳を伏せた。
やっとクロス登場だよ・・・!
長いので一旦きります^^