「アデル派の奴等が攻めて来ています。レウァールさんはさっさと奥で縮こまってて下さい」

「酷ッ!!」


来て早々これだ。

クロスはそう思いながら腰に挿してある剣を抜いた。
それは何時も使用している双剣では無く、先ほどラグナから受け取った予備の武器の唯の片手剣だった。

ラグナを奥の部屋に押し込めて、此方に走ってきたキロスとウォードに片手を挙げる。


「ほんと、戻ってきて直ぐこれって酷いですね」

「本当にすまない、直ぐに片が着かずに・・・」

「誰かさんがちんたら生返事ばっかしてるからじゃないですか?」


まぁ。五年も経って正式な大統領じゃないっていう国が問題ですが。

クロスはそう言いながら剣を構えた。
ウォードとキロスには銃を手渡し、物陰を指す。


「援護を頼みます。魔法を使う機械相手じゃ流石に分が悪いですからね」

「油断はするなよ。あれは魔物なんかより手強い」

「・・・・・・」


キロスと、視線で忠告してくるウォードにクロスは頷いた。


(俺だってさっさとウィンヒルに戻らなきゃいけないんだからな)


レインが死んで、エルオーネを孤児院に預けて、捨て子を拾った。

何の連鎖なのか、と疑問を抱くほどの偶然だ。
捨て子は女の子であり、恐らくは亡くなった彼女の力を知らずの内に伝承してしまったのだろう。
ウィンヒルでひっそりと暮らしてもらうしか選択は無かった。

今では育ち、言葉も上手く喋れてくる様になった頃だ。

今回、ラグナの様子を見に来たのだが、未だ残っていたアデル派の勢力にエスタ官邸は攻め込まれている真っ只中だった。
あれやこれやと気にする暇も無く、クロスはラグナの護衛に回ったのだ。

突入してきた大型の機械。
それらを相手に、クロスは剣を振るう。

注意を自分に惹きつけ、キロスとウォードには銃で援護してもらう。
駆け出し、硬い身体に斬撃を喰らわす。









「まぁ、敵うはず無いんですよ」


クロスは頭をかきながら言った。
不安げに自分を見上げてくる妹と、ラグナ達に安心させる様に微笑んで、クロスは言葉を続けた。


「でも、運良く俺のところに初めての妖精さんが舞い降りた」


誰だったんだろうな、あれは。
そう言いや、の仲間達を見渡す。

クロスにジャンクションした記憶など、誰にも無い。
面々が顔を見合わせているのを見、彼は肩を竦めて「これからなのかもな」と言い言葉を続けた。










銃も全然効かない。
剣なんて傷一つ作れない。

こんな様で、

クロスはそう思い唇を噛んだ。

以前、セントラ脱出の時だってそうだった。
傷付いて倒れるウォードにキロス、ラグナ。

あの時とは全く勝手が違う、何せ相手は鋼鉄のモノなのだ。

頭上に物凄いエネルギーを感じ、顔をハッと上げたが遅かった。

振り下ろされる、大きな拳。

それには電撃が纏ってあるのか、バリバリと嫌な音を立てている。


クロス!!!


キロスの焦った声が響く。

なんて事だ、こんなところで、

そう思った瞬間、頭の中が不意にざわつく感覚がした。
何だと思うまもなく、自然に手が動いた。

雷と雷がぶつかり合い、互いの力を相殺した。

バチィ、と嫌な音を立てた後、それのせいで感電したのか動かなくなる機械。

あれ、と思っていると大きな手に頭を鷲掴みにされた。
首が嫌な音を立てて、方向を変えさせられた。
気付かぬ内にしゃがみこんでいたらしい自分の頭を掴み、見下ろしてくるのはウォードだ。
キロスも「無事か!?」と言い自分の身体をパンパンと叩いて調べている。

一瞬だったが、何かが自分の中に居た。
それであの魔法みたいな物が使えたのだろうか?

そう思っていると、奥の部屋からラグナが飛び出してきた。

髪が乱れるのも気にしないで、落ちた上着も拾わずに、真っ直ぐにこちらに向けて走ってきた。


クロス!!


両肩に手を置くと、改めて見てきた。
目立った外傷が無い事を確認すると、ラグナは大きく息を吐いて同じようにしゃがみ込んだ。


あ〜〜〜〜〜〜っ!!!! もう! 冷や冷やさせんなよー!!

「え、あ、」


ああ、そうか、自分は危なかったんだ。

改めてそう思い、何となしにラグナの肩に手を置く。
「えっと、」と言い、少し言葉を捜した後に三人を見て笑む。


「大丈夫、です。 ご心配おかけしました」

「本当にな」


腕を組み、キロスが言う。
ウォードも小さく息を吐いて、うんうんと頷いている。

クロスは立ち上がり、奥の部屋へ行き他の人を呼びに行くキロスとウォードを見送った。
この破壊した機械を退かさなければ。
幸い、アデル派の所持していた最後の機械だったようで、後はもう人間の相手だけだ。

「ほら、」と言い未だしゃがみ込んだままのラグナに手を差し出す。
「うー」と言いながら鼻水を啜っていたラグナは彼の手を取る。


その時、


ッ!!


クロスが思い切り逆にラグナを突き飛ばした。
吹き飛んだラグナは「う、わわ!」と声を上げて転がって壁際まで吹き飛んだ。
何事かと顔を上げた瞬間、自分と同じようにクロスが吹き飛んできた。
その身体を支えようと手で触れた瞬間、まるで静電気が走ったようにバチッという音と共に指先に痛みが走った。


「ッ痛! ・・・おい、クロス!?どうしたんだよ!?」

「ぁ・・・っ、」


問いかけても、クロスは苦しげな声を出すだけだった。
機械は、それまでが限界だったらしく、本当に動かなくなった。

騒ぎを聞きつけてウォードとキロスが戻ってくる。
倒れているクロスの姿に、「医療班!!早く!」とキロスが慌てた声を上げる。

電撃と衝撃をモロに喰らってしまったせいか、意識がはっきりとしない。

視界がぼやける、ラグナの顔も見えない。

なんとか手を上げてみると、暖かな掌に包まれた。

バチバチと電撃が伝わってくるのも構わず、ラグナはクロスの手を握ってやった。


「待ってろ!今医療班が来るからな!」

「・・・っ、・・・な、」

「ん?何だ?」


俺なら此処に居るぞ?お前が守ってくれたから無傷だぞ?ちょっと頭痛いけど。

そう言いつつ、クロスの口元に耳を傾ける。

クロスは少しだけ笑んだ後、確かに「ラグナ、」と言った。


「・・・キロス、ウォード・・・三人とも、俺、だいすき、です」

「クロス?」

「・・・あー・・・・・・、だ、めだ・・・、な、か、・・・ねむ、い・・・」


そう言い瞼を震わせるクロスに、ラグナが慌てて彼の頬を叩く。


「おいっ!寝るなよ!まだ就寝時間なんかじゃねぇぞ!?」

「・・・・・・おやすみ・・・」

「寝るなって!! ・・・おい、クロス? ・・・・・・・おい?」


力を失った手。

かくんと落ちた首。

重たくなった身体。


ラグナは必死に彼に呼びかけた。


「おい、おい!クロス!寝るなって! ほら、医療班も来たぞ!おいってば!!!」


医療班が来てクロスを診断し、急いで装置に入れる必要があると慌てた口調で言う。
ラグナの腕からクロスを奪い取る勢いで預かり、担架に乗せて走っていく医療班。
彼らの背を見送りながら、ラグナ、キロス、ウォードの三人は絶句していた。


「ッ・・・!! クロス・・・!」


床に拳を打ちつけ、ラグナも慌てて立ち上がって彼らを追った。










「クロス君はそのまま昏睡状態。
 十年以上もずーっとカプセルの中で療養お休みだったってわけだ」


ラグナはそう言い、クロスを見下ろす。
薬漬けのカプセルで眠っていたせいで以前と変わらない容姿。
未だ残る傷も、身体にある。

そんな彼にラグナは瞳を細めた。


「・・・レウァールさん、俺の事を気に病む必要は無いって起きた時にも言ったでしょう?」


の頭を撫でながらそう言い、クロスは少しだけ笑った。


「俺は、貴方を守りたかっただけなんですから」

「・・・でもよ!俺らだってお前が大事なんだよ!」

「・・・わかって、ますよ・・・。俺だって、同じ気持ちですから・・・」


仄かに頬を朱に染めて言い、クロスはを見た。


「・・・と、いうワケで連絡も何も出来なかった。
 寂しかったよな?ほんと、駄目な親代わりで、ごめんな?」

「・・・ううん、良いの。 お兄ちゃんらしいし」


そう言ってはにかむ妹に、クロスも「そっか」と言って同じように笑った。


「・・・宇宙ですれ違った時、お前だって気付いたのに何も出来なかった・・・」

「大丈夫、スコールが助けてくれたから!」

「ああ、騎士君ね。 魔女記念館でも派手にやってくれちゃったそうじゃないか」


クロスはそう言い、スコールを見上げた。
初めて目が合い、スコールは少しだけ身を硬くしたが、直ぐに口を開く。


「・・・を取り戻したかった。後悔は無いし、謝るつもりも無い」

「良いよ。俺は妹を助けてもらって、本当に感謝してるんだから」


ありがとう。
そう言い、クロスは頭を下げた。
それを慌てて止めたのはだった。


「謝らなきゃいけないのは私の方で・・・!」

「大丈夫だ。お前の意思じゃなかった事くらい、皆知ってる」

「でも!!」


それでもまだ言い募ろうとするに、クロスはゆっくりと首を振って制止をかける。
「相変わらず、根っこは変わってないんだな」と呟き、スコールを見上げた。


を頼むよ、騎士君」

「・・・はい」


スコールはSeeDの敬礼をし、そう応えた。
そして膝を折ってと視線を合わせる。


、お兄さんは許してくれている」

「・・・私だって、許してるもん・・・」


紅紫の瞳を揺らす彼女に、「そうだな」と言いスコールはの頬に手をやった。
此方を向かせ、安心させるように彼は笑んだ。


「おあいこじゃないか。 いいんじゃないか、それで」

「・・・スコール・・・」


は少しだけ下を向いた後、首を軽く振った後、顔を上げた。
そして、いつものようにニッコリと笑むと「そーだね!」と言った。


「なんか、お兄ちゃんに会えて混乱してたのかも!私らしくなかったね?」

「いや、いいんだ。あんたは普段溜め込みすぎなんだ、こうして出してくれると俺も力になれる」

「・・・なーんか、スコール・・・」


アッサリと言ってのけたスコールにが瞳を丸くする。
そしてまじまじと見詰めるので、スコールは少したじろぐ。


「何だ・・・?」

「・・・なーんか、気のせいか、前よりももっと丸くなった気が・・・」


小首を傾げるに「そりゃあー、」とアーヴァインが零す。


「スコールはにぞっこんだからねぇ〜」

「宇宙の時も、奪還の時も、スコール凄かったんだから!」

「何て言ったって、一人でを背負ってF.H.の橋を伝ってエスタまで来ちゃうんだから」


セルフィ、リノア、キスティスに言われスコールは自分の額に手を当てた。
最初こそ瞳を瞬かせていただが、直ぐに破顔し、「えへへ」と零す。


「スコール、ありがと!」

「・・・いいんだ、俺がしたくてした事だから・・・。
 ・・・これより、俺の話より、これからどうするかを話すんじゃなかったのか?」


クロスの事ももう聞いたわけだし。

スコールが口早に言うのに、ラグナが「お、照れてるのか〜?」と茶化す。
キロスとウォードも微かに笑んでおり、スコールは居心地悪そうに咳払いをした。

クロスが声を上げて笑い、「そーだな」と言いラグナを見上げた。


「さて、本題に入りましょうか?」


アルティミシアを倒す作戦。
それを話す為、ラグナは頷いてから改めてスコール達を見た。




次回からやっと進みます。
お、遅い・・・!(汗