「出番でおじゃるか?」


本題に入った所で、オダインが室内に入ってきた。
ラグナは頷き、「ああ、頼む。手短にわかりやすくな」と言った。
が、オダインは腕をブンブンと振り、首を振った。


「オダインは喋りたいように喋るでおじゃる!」

「いいから。 さっさと説明して下さい」


騒ぐオダインにそう言い、クロスが腕を組む。
横に立つ兄を見上げつつ、はオダインの話に耳を傾けた。


「魔女イデアから色々聞いたでおじゃるよ。
 魔女アルティミシアは未来からこの時代の魔女の中に来ているのでおじゃるな。
 つまり、身体は未来に置きっぱなしで意識だけをこの時代に送り込んでいるでおじゃる。
 これは何かに似ているでおじゃろ? おじゃろ?」

「エルオーネが俺達の意識を過去に送り込んだのと似ている」


間髪入れずにスコールが答えると、オダインは「賢いでおじゃる!」と言い大きく頷いた。


「きっと未来にもエルオーネと同じ不思議を持った人間が居て、
 魔女をこの時代に送っていると最初は思ったでおじゃる。
 じゃじゃじゃじゃじゃ! 実は違うのでおじゃる!
 未来の魔女がどうやってここに来ているかというと・・・、・・・聞きたいでおじゃるか?」


勿体ぶるオダインに、スコールがまた「聞かせろ」と、間髪入れずに言う。
オダインは満足そうに頷くと、元気な声を上げた。


「おじゃじゃじゃ!
 驚かそうと思って秘密にしていたが・・・それはオダインのおかげでおじゃる!」


胸を張って言うオダインに達は小首を傾げた。


「オダインは昔、エルオーネの不思議を研究してたでおじゃるよ。
 エルオーネの脳を流れる微電流を解析して、それをパターン化したのでおじゃるな。
 パターン化が出来れば機械にするのは簡単でおじゃった。
 今はまだ玩具みたいな機械じゃが改良に改良を重ねて魔女アルティミシアの時代には立派な機械になっているのでおじゃるよ。
 つまり、エルオーネの不思議と同じ働きをする機械が未来にあるのでおじゃる。
 この機械の基礎を作ったのがこのオダインでおじゃる。
 実はオダインは、その機械に『ジャンクション・マシーン・エルオーネ』と名前と付けていたのでおじゃるよ!
 自分の発明が未来にも残っているとは素晴らしい事でおじゃる!」

「ジャンクション・マシーン・エルオーネ」


スコールがそう復唱する。
機械の名にエルオーネという彼女の名が入っているという事は、


「そう言う事だ」

「その名前のせいで魔女アルティミシアはエルオーネの存在を知った。
 だからエルオーネが狙われたんですよ」

「情けないんだけど、今のオダインを責めてもどうしょうもないんだよな」


ラグナ、クロスが言いちらりとオダインを見る。
オダインは「やるでおじゃるか! やるでおじゃるか?」と言うがクロスに軽くあしらわれた。


「話を続けるでおじゃる。さてさてでおじゃる。
 未来の魔女アルティミシアを倒すには未来にいるアルティミシアの身体を倒さないとダメって事でおじゃるな。
 だから、未来に行かないと何も出来ないという事でおじゃるよ。
 時間をすっ飛ばして未来になんぞ行けない。普通は行けないでおじゃるな」


「でも、今回は特別なのでおじゃる」
そう言いオダインは言葉を続けた。


「それは魔女アルティミシアの目的が時間の圧縮だからでおじゃるよ。
 魔法でアルティミシアが時間を圧縮する。
 時間を圧縮して、どんな得がアルティミシアにあるのか・・・。
 色々考えられるがそれはこの際どうでもいいのでおじゃる!
 ここでアルティミシアの行動から推理してみるでおじゃる」


まずは整理からだな。
ラグナはそう言い腕を組んで、頷いた。
そんな彼のわき腹に肘鉄を食らわせたのはクロスだ。

あんただけまだ曖昧な理解なんだからちゃんと聞け。

そんな意味を込めて。


「アルティミシアがこの時代に来るためにはこの時代の魔女の中に入ってこなくてはならないでおじゃる。
 更に、この時代でエルオーネを捜そうとしたという事はもっと過去に行く必要があるのでおじゃるな。
 そうでなければ、この時代も既に圧縮されているはずでおじゃる。
 これを利用するのでおじゃる! この時代には魔女は二人いるでおじゃる」


二人の魔女。
それはもう既に周知の事である。

オダインに視線を寄こされたは小さく頷いてみせた。


「そうでおじゃる。魔女と魔女アデル。
 その内、アデルはまだ覚醒していないはずでおじゃる。
 目覚めていたらラグナやオダインはタダじゃ済まないでおじゃるよ」

「何せ彼女を封印したのは俺たちですからね」


クロスが言うと、オダインは身震いをしつつ、言葉を続けた。


「恐らく、あのルナティック・パンドラの中では魔女アデル覚醒が始まっているでおじゃる。
 アデルが完全に目覚めればアルティミシアは喜んでアデルに入ってくるでおじゃる。
 それは恐ろしいのでおじゃるよ。アデルは強い魔女でおじゃる。
 アデルの意識がアルティミシアに勝ったらアデルはまずこの時代をめちゃくちゃにするでおじゃるよ!
 だからアルティミシアの器として魔女を使うでおじゃるよ!」

「私を器に?」


がそう問うと、オダインは「そうでおじゃる」と言い頷く。
それにスコール達が複雑な表情をした。

彼らに「平気、」とが笑んで訴え、オダインに説明を促す。


「以下、作戦説明でおじゃる。
 まず、ルナティック・パンドラに入る。
 きっとエルオーネが捕まっているでおじゃるからこのエルオーネを助け出すでおじゃる。
 次に魔女アデルが目覚める前に完全に倒してしまうでおじゃる。
 これで、この時代の魔女はだけでおじゃるな」


アデルが居ないのなら、過去に行くためにアルティミシアが入れる器はただ一人。


にアルティミシアが入ってくるのを待つのでおじゃるよ。
 アルティミシアが来たらエルオーネの出番でおじゃる。
 エルオーネはをアルティミシアごと過去に送り込むでおじゃる。
 エルオーネは自分の知っている魔女に・アルティミシアを送り込む事になるでおじゃるな。
 それはイデアかアデルか・・・まあエルオーネに任せるしかないでおじゃる。
 過去に行ったアルティミシアは時間圧縮魔法を使うでおじゃろ。

 もちろん、この時代にも影響が出るでおじゃるよ。

 それはどんな物かわからないでおじゃるが影響を感じたらエルオーネは・アルティミシアを過去から切り離すでおじゃる。
 はこの時代に帰ってくるでおじゃる。アルティミシアは自分の時代に帰るでおじゃる。
 残るのは時間圧縮される世界でおじゃる。過去現在未来がくっつくでおじゃるよ。
 ごちゃ混ぜでおじゃるよ。お前達は時間圧縮の世界を未来方向へ進むでおじゃる。
 時間圧縮世界を抜けたらそこはアルティミシアの時代でおじゃるよ。後はお前達次第でおじゃるな」


オダインは説明を終えると満足そうに去っていった。
自分の好きな様に沢山話せて満足したのだろう。

彼の後姿を見ながら、ラグナが頭をかきながら言う。


「何だかわからない作戦だけど、これを実行するか、黙ってるしか方法はなさそうなんだよな。
 1 エルオーネを助ける。
 2 魔女アデルの復活を阻止する。
 3 アルティミシアがに入ってくるのを待つ。
 4 エルオーネが・アルティミシアを過去へ送り込む。
 5 多分時間圧縮が始まる。
 6 ちゃんを過去から取り戻す。
 7 圧縮された時間の中を未来へ進む。
 8 アルティミシアを倒す!!
 9 めでたしめでたし・・・って訳だ!!
 って事で、作戦は聞いただろ?俺にもあんまし良くわかってねえが・・・引き受けてくれっか?」


ラグナがそう問うてくるのに、スコールは仲間の面々を見た。
彼らが頷いたのを確認した後、隣に居るを見詰める。

彼女は紅紫の瞳を瞬かせた後、にっこりと笑んで頷いた。


「いいだろう」


仲間達に確認して、スコールがそう答えるとラグナは「うぉーーーっし!!」と歓喜の声を上げた。
そして一人で走っていく。


「じゃあ、行くぞ!
 ラグナロク乗るぞ、ラグナロク! あの中で最後の作戦説明にしようぜ!
 一回乗りたかったんだ、あれ。俺と名前似てるしな!」


行こう行こう、と言い一人ではしゃいで駆けていく大統領に、キロスとウォードが溜め息を零す。
そんな二人の肩を叩きつつ、クロスが「まぁ、」と言う。


「仕方ないですよね、変わってないってもう予想ついてたっていうか・・・、
 諦めが肝心って言うか・・・・・・」

「・・・あれがラグナ君らしさだ、許してやってくれ」

「分かってますってば」


クロスは少し笑んでそう言うと、スコール達を見た。
橙の髪を揺らしながら、彼もまたスコール達の横を通り過ぎる。


「ラグナロクで作戦会議しましょう。 じゃないとアレが五月蠅い」


そう言い歩くクロスに、皆も続いた。





エスタ官邸の廊下を歩きながら、スコールが「、」と彼女を呼んだ。

歩きながら、隣に来た彼を見上げ、「なんざんしょ?」と小首を傾げる彼女に彼は複雑そうに瞳を細めた。


「その、良いのか? 本当に・・・」


自分を器にする作戦なんて。

暗にそう言っているのを理解して、は少し笑んだ。


「私は本当に平気だってばさ!」

「・・・だが、言ってたじゃないか。 ・・・恐いって」

「・・・」


は小さく息を吐いてから、真っ直ぐに前を向いた。

そんな彼女を心配して見詰めるのはスコールだけではなく、仲間の皆もそうだった。
前を歩くクロス達も、さり気無く彼女を見やっている。

「確かにね、」とは言った。


「恐いよ。
 自分の身体にアルティミシアが入ってくるの、恐いよ。
 でも、そうしないと今はどうしようもないじゃん!
 今やらなくって、いつか皆を傷つけちゃう事が起こるかもしれないじゃん!」


そんなの嫌、とは言って拳を真上に掲げた。


「だからっ!打倒アルティミシア!今を頑張ろう!
 じゃないとっ、倒せないじゃん!」


ね? と、言って来るの拳をスコールの掌がやんわりと包んで下ろした。
彼は頷いて、その手を握りながら歩いた。














ラグナロクに着いて、客席に全員が集まった。
一番前に立ったラグナが全員揃ったのを確認してから「よし」と言う。


「おっし! 諸君!
 ここからは最終目標アルティミシアまでもう一気に行っちまうぞ。
 作戦のおさらい、いってみよう!
 まずルナティック・パンドラに入りエルオーネを救出する!
 次に魔女アデルを倒す! 寝込みを襲うけど、卑怯だなんて言うこたあないぞ。
 ここで注意!!アデルは魔女だから力の継承がある。ちゃん、引き受けてくれるか?」

「大丈夫です!いいですとも!」

「おーし!良い返事だー!
 で、次に、魔女アルティミシアがちゃんに入ってくるのを待つ!
 またまたちゃんは辛いけど我慢してくれっか?」

「皆が居るから大丈夫ー!」

「さっすが!うんうん、俺たちも騎士様も着いてるからなー!!
 で、エルオーネがちゃんとアルティミシアを過去へ送る!
 時間圧縮が始まる! エルオーネ、ちゃんを取り戻す!
 圧縮された時間の中を未来へ進む!
 アルティミシアの時代は遠い未来。本当ならここにいる誰も存在出来ない世界。
 そんな世界に自分を存在させる方法は一つしかな〜い!」


分かるかクロス君っ!
と、何故か唐突に彼に振る。
それにクロスは何か言いたげなラグナの雰囲気を察して両手を肩まで上げて否を返す。

それはなー!と、ラグナは続ける。


「仲間同士、お互いの存在を消さない事だ!
 仲間同士、お互いの存在を信じ合う事だ!
 相手が存在する事を信じるんだ!
 その相手はこっちの存在を信じてくれてるぞ!
 友達でいる事、好きになったり好かれたりする事、愛し愛される事!
 全部一人じゃ出来ねえだろ? 相手が必要な事だろ?」


全員が、其々を見詰めたり、物思いに耽ったりしている。
アーヴァインはちらりと隣に居る頭一個分以上小さい彼女を見詰めたり、
スコールとリノアが同時に彼女を見詰めたり。


「なあ、お前達?相手と一緒にいるところを一番思い浮かべやすい場所は何処だ?
 そこに全員が一緒にいる様子を思い浮かべるんだ。
 時間圧縮が始まったらそういう場所、考えて、そこを目指せよ! そうすりゃ大丈夫!
 その場所はお前達を迎えてくれるぜ! どんな時代にだって行けるぜ!
 この作戦に必要なのは愛と友情! それからこの作戦を信じる勇気!
 
名付けて『愛と友情、勇気の大作戦』だ! 頼んだぜみんな!」


ラグナの声と共に、全員が頷いて其々の持ち場へと戻っていく。
とスコールだけが残って、緊張のせいか攣った足を擦っているラグナに近付く。


「愛とか友情とか古臭いけどみんなその気になったみたいだ」

「上手くいきそうか?」

「やってみるさ」


スコールがそう返すと、ラグナは「そうか」と言って微笑んだ。


「・・・・・・」


そんな中、ウォードがじっとスコールを見詰めた。
何だ?と思いスコールが首をかしげていると、キロスが近付いて通訳した。


「ウォードが言うには・・・父親に似なくて良かったな、だそうだ。
 ・・・そうだな、母親に似ているな、君は」

「父親に似てるなんて言ったら失礼ですよ」


キロスの後にクロスが片手をひらひらと振りながら言う。
それにラグナが「お前ら・・・」と呟く。


「しゃ〜ね〜な〜 全部終わったらゆっくり話そうな。
 お前にはいろいろ話さなくちゃならないからな・・・まあ、お前が聞きたくないって言えば仕方ないんだけどよ」


深い意味は分からなかったが、スコールはとりあえず頷いておいた。
そんな中、クロスが「」と彼女を呼んだ。


「お前ら二人にも、ちゃんと話したいからな。・・・気をつけてな、二人とも」

「・・・うん、行ってきます!」


にちゃんと手を上げて返した後、クロスはスコールも見る。


「俺はお前にも言ってるんだけど」

何て返せば良いんだよ・・・


スコールが複雑な表情をしていると、クロスが彼を安心させるように笑んで、頭をくしゃくしゃと撫でた。
突然の事にスコールは瞳を丸くして、一歩下がったが、クロスは大して気にした様子も無く「俺は」と言う。


「お前も弟みたいなものだし、と同じ扱いするからな」

「・・・でも、俺は如何していいか分からない・・・」

「こういう時は、普通に『行ってきます』で良いんだよ」

「・・・・・・」

「ほれ、言ってみー?」


手をひらひらとさせてスコールに促す。
クロスに習うようにも「言ってみー?」とスコールに言う。

なるほど、の口調は彼譲りか。
等と関係ない事を思いつつ、スコールは少しだけ視線を逸らしながら「・・・行って来る」と呟いた。

それにクロスは満足したように、スコールとの二人の頭に手を置いて「うん」と言った。


「気をつけて、行ってらっしゃい」


そう言い、クロスは笑んだ。

そんな彼の肩を背後から来たラグナが抱いた。


「クロスくーん、やけに砕けた調子で喋ってるじゃねっかよー」

「いい歳こいたオッサンが何拗ねてるんですか、気色悪い」

「酷っ!? ・・・おいおいスコール、、この差どう思う?」


口調こそは敬語だが、絶対な信頼を向けているのが端から見ても分かる。
スコールとはそう思い、ラグナに曖昧な表情だけを返した。




古臭いネーミング作戦とちょっとした事実。
確かにスコールは性格は母親似です、でも寝顔可愛いのは父親似なんです←