『あなたは誰?』

『お前こそ誰だ。私の脳量子波に干渉してきて』


気付いたら真っ白な空間に居た。
座り込むに対して、彼女は腰に手をあてて立っている。
真っ直ぐに見下ろし、金色の瞳を細めた。


『・・・それに此処は何処だ・・・?私は検査を受けていたはずなのに・・・』

『・・・それって、超兵としての検査?』


彼女は銀の髪を揺らし、顔を背ける。
話す気は無いってことかな。


『私、名前はっていうの』


あなたのお名前は?
そう言っては笑ってみせて、右手を差し出す。

その声に反応したのか、彼女は腕を組んでを見る。
金色の瞳が、訝しげに細められる。


『・・・何を言っている?』

『だから、まずは自己紹介。ね?』


名前も知らないままじゃ、話もうまくできないよ。
そう言うと彼女は眉間に皺を寄せてしまった。


『・・・なんなんだ、お前は・・・』

『お前じゃないよ、だよ』


そう言いながら彼女をじっと見詰める。
きっと彼女はアレルヤと同じ超兵だろう。
あの時頭に響いた声と一緒だから、

そうが思っていると、彼女が口を開いた。


『・・・お前は何者だ?』

『私? 私は・・・』


あなたの声が聞こえて、と呟く。
まさかソレスタルビーイングだとは言う訳にもいかないし。
どうしようかと考えていると、彼女が動く気配を感じた。


『・・・お前も、私と同じ・・・?』

『え?』

『あの時感じたものとは別か・・・?お前は、きっともうひとつの・・・?』


何やら考え込んでしまった彼女に、どうしたの?とは声をかける。


『・・・お前は、柔らかい方か』

『は?』


柔らかいって、何が?
そう思っていると彼女はどこか落ち着かない様子でを見た。


、とかいったな。お前は超兵か?』

『超兵ではないけど・・・同じようなものかな?』


私と同じ?
そう問う彼女に、きちんと説明をすることにした。


『超兵とは違うんだけど、体や脳は改造されているから、普通の人間とは言えないかも』


お陰であなたとこうして話ができるのかもしれないけどね。
そう言ってが笑ってみせると、彼女は瞳を細めた。


『・・・お前はどこの軍に所属している・・・?』

『軍?軍には居ないよ?』

『では、どこでお前の力は利用されている?』


利用?
は小首を傾げた。
ソレスタルビーイングに利用されているということだろうか、エクステンデッドとしての力を。
確かに敵に回したら脅威ではあるだろうが、そこまで王留美が考えているのかは分からない。


『利用・・・私、利用されているの・・・?』

『・・・お前は自分の意思で戦っているのか?』


自分の、意思。


『私は選ばれた超兵として、誇りを持って戦っているつもりだ。戦う事が、私の意味だからな』

『戦う事が、私の、意味・・・そ、そうだよ、私もそうだから、』


戦う以外に自分にできる事なんてない。
戦うためだけに生み出された存在なのだから、それ以外の自分の価値なんて知らない。

そこに自分の意思はあるのか?

そう考えると、なんだかわからなくなってきた。


『・・・あ、わ、わたし・・・』

『・・・?』


彼女が私の様子に気付いたようだった。
けれど、それに反応をしている余裕なんてなかった。


『だ、だめ、戦わないと、戦わないとわたし・・・!』

『・・・お前・・・』


不要な存在になってしまう。
私はどうしたらいい?戦う意味なんてわからないのに、戦わないと、いけない。

わたしは、


『・・・


名前を呼ばれてハッとする。
顔を上げると、彼女が目の前に居た。
膝を折っているせいか、間近に彼女の顔がある。


『お前は、戦いたくないのに戦っているんだな』

『あ・・・ち、違う!私は戦いが怖くなんかない!戦えるの!』


戦いに対する恐怖。
それを悟られたくなくて、思わず彼女の両腕をつかんでそう言ってしまう。

彼女は瞳を細めて、両手を伸ばしてきた。

の両肩をつかみ、彼女は金の瞳を真っ直ぐにこちらに向けた。


『超人機関技術研究所より派遣され、人類革新連盟に所属する超兵1号、ソーマ・ピーリス少尉だ』

『え・・・?』

『ソーマだ』


どうやら名乗ってくれているらしい。
ソーマ、と反復するようにが返すと彼女は満足そうに頷いた。


『お前は戦わされているんだな』

『たたかわ、されている、』

『ソレスタルビーイングに』


きっと瞳を細めるソーマ。
そのまま肩をつかむ力を強めた。


『お前は、あの時私の助けになった』

『・・・あの時?いつ?』

『分からないのならいい。だが、借りは返す』


私が、お前を。
ソーマの声がそこまで聞こえた所で、辺りの景色が一変した。












































「・・・ん?」


顔をあげてみると、そこは格納庫だった。
確か、ガンダムミカエルの整備を手伝っていたはずなのに気付いたら寝ていたようだ。

あれー?と思いながらが辺りを見渡す。
どうやら自分はガンダムの足に顔をうずめて寝ていたようだった。

見た夢は前の世界の事ではなかった。
ソーマ・ピーリスと出会う夢。
きっとこれは向こうの彼女も同じ夢を見ていただろう。


「私の・・・戦う、意味」


前の世界ではどうして戦っていたっけ。

あ、そうだ、ステラたちのためだ。

彼女たちが心配で、一緒に居たくて、戦っていたんだ。
でも怖くて怖くて、たまらなかった。

この世界では?

今でもコックピットに入っていると体が震える。
恐怖は感じるけれど、戦わなければいけないから。
なら、この世界での戦う理由は?
そう考えると、少し分からなくなる。

この前アレルヤと話した内容が理由になれるのなら。


「私は、アレルヤとハレルヤを守りたい、支えたい、一緒に居たい」


そう、同じ苦しみを持っているアレルヤを、ハレルヤを、守りたい。
傷付いてきたんだ。だから、守りたい。

これが、戦う理由?

アレルヤとハレルヤを守る。

戦う、理由。


はそう思いながら、ミカエルを見上げた。


「ミカエル・・・私に力を貸して・・・」


貴方が居るから、私がんばれる。

そう呟いて、祈るように瞳を閉じる。


そんな様子を、入り口付近からずっと見ていた人物には気付かなかった。




見られてますよ!←
ソーマとの出会いです。