「刹那の部屋、ベッド一個しか無いんだね」
ミッションの為に地上に降りたは、日本の刹那の待機場所へお邪魔していた。
部屋にはやっぱりベッドがひとつだけ。
必要最低限のものしか置いていなかった。
私と同じだね。
そう言うと刹那は視線だけを寄こしてきた。
「私、とりあえず刹那と一緒に行動するみたいだけど・・・」
ぴぴっと音を立てて端末をいじる。
そこにはデュナメスやエクシアの地上待機で使用される無人島からの連絡が入っていた。
「エクシアの新しい武器、か・・・。それにモラリア共和国大統領が、AEU主要3カ国の外相と極秘裏に会談を行っている・・・か」
アレルヤの独房入りも終わりかな。
そう思いながらベッドに腰を下ろしている刹那の前に立って彼の顔を覗き込む。
「ねぇ、エクシアの新しい武器ってどんなのかな?」
「・・・俺も分からない」
「きっとかっこいいよね。エクシア、もっと強くなりそう」
そう言うと微かだけれど刹那が頷いた気がした。
普段の会話ではあまり話は続かないけれど、ガンダムが絡むと別らしい。
移動予定時刻までまだ余裕があるので、端末をいじってミカエルのデータを出す。
以前刹那にミカエルについて説明すると言ったけれど、未だにちゃんとはできていなかった。
はそう思いながら「刹那、」と彼を呼んで端末を手渡す。
「これ、ミカエルのデータ」
「・・・ガンダム、ミカエル・・・」
「変形は主に地上で行うんだけど、こんな感じで・・・武器は、グリフォン2ビームブレイドが主かな」
説明をしながら刹那の顔をちらりと盗み見ると、とても真剣に耳を傾けてくれているようだった。
心なしか、瞳が輝いている気がする。
きっと、彼にとってガンダムは特別な存在なのだろう。
そう思いながら説明を続けた。
先に移動を開始する刹那を玄関まで見送っていたら、隣の部屋から少年が出てきた。
そして刹那を見ると、「あ、丁度良かった」と言って近付いてきた。
誰だろう?
はそう思いながら小首を傾げた。
「筑前炊き、姉さんが作り過ぎちゃって・・・よかったらいかがかな・・・なんて」
「今から出かける」
彼の好意をばっさりと切る。
筑前炊き。それってどんなものだっけ。
そう思っていると、少年は肩を落として「あ、そう・・・」と言った。
その後に此方に目を向ける。
「あ・・・えっと、」
「刹那の、友だち?」
そう問うと彼は曖昧な返事を返した。
お隣さんのお付き合いらしい。なるほど。
そう思いながら玄関から出て彼からその筑前炊きを受け取る。
「代わりに受け取っておくね。刹那も帰ったら食べると思うし」
「あ、ありがとうございます」
僕は、沙慈・クロスロードといいます。
丁寧に名乗ってくれた沙慈には笑顔を向ける。
「・ルーシェです」
「あ、よ、よろしく」
握手をすると、沙慈君はほんのりと頬を朱に染めた。
「・・・災難だったな」
刹那がぽつりと呟いた。
それに沙慈は「え?ああ、ステーションでの」と言う。
宇宙で起こったあの事故、彼は被害者だったのか。
はそう思いながら沙慈をちらりと見る。
「ホントにね、まさかソレスタルビーイングに助けられるなんて思ってもみなかったよ」
「・・・俺もだ」
「あ、刹那、いってらっしゃい」
後でね。
そう言い刹那に手を振る。
沙慈が不思議そうな顔をしていたので、はそれを誤魔化すために声をかける。
「さて、刹那がお出かけするから暇になっちゃったんだけど、沙慈君も暇?」
「え、あ、その・・・!」
これから、彼女が家に。
そこまで彼が言ったその時、
「ああああああああああ!!!」
ソプラノボイスが響いた。
沙慈と一緒に其方を見てみると、綺麗なブロンドを揺らしながら女の子が駆け足で此方に向かっていた。
「ちょっと沙慈!!誰よこの子!浮気!?」
「ち、違うよルイス!お隣さんの彼女だよ!!」
彼女?
どうやら沙慈の中ではは刹那の彼女としての位置に納まったらしい。
まあいいか。と思いながらはとりあえず女の子に挨拶をする事にした。
「はじめまして、っていいます」
「・・・ほんとに浮気じゃない?」
じと、と沙慈を見上げる彼女。
そんな彼女に少々押されつつも、「違うって」と苦笑交じりに沙慈は返していた。
「ステーションの時は大変だったねって話していただけだよ」
そう言うと女の子がの方向を向いた。
大きい瞳が、真っ直ぐにを見る。
「・・・あ、かわいい」
「え?」
「沙慈のお隣さんってあのむっすりした人でしょ?こんな可愛い子が彼女だなんて・・・」
なんか勿体無い。
そう言った女の子は「ま、いっか」と言ってにっこりと笑った。
「私、ルイス・ハレヴィ!よろしくね!」
「あ、よろしく」
右手を差し出して握手をする。
ルイスは「ほんとかわいい〜」と上機嫌に言うとの両手をつかんだ。
「ね、時間あるならちょっと一緒しない?」
「え?」
「髪の毛ふわっふわなんだもん!私ストレートだから・・・」
なるほど、少しいじらせてってわけか。
そう思いながらは少しだけ考える。
指定時刻までなら、と考えて「いいよ」と言って笑った。
そのまま沙慈の家にお邪魔して、はルイスに髪の毛をいじられた。
「こーすると可愛い・・・あ、こんなのもいいかも!」
ツインテールやらお団子やらポニーテールやら。
数分で数種類の髪型に変化するのを、沙慈は関心したように見ていた。
「器用だね、ルイス」
「女の子はこれくらいできて当然です」
そう言い誇らしげに胸を張る。
可愛いな、ルイス。
がそう思いながら彼女を見上げていると、また櫛を取り出した。
「ね、これから出かけるんでしょ?それってあの子とデート?」
「デート?」
刹那と、という事だろうか。
デートではないけれど、どちらにしろ会う事になるのだからとりあえず頷いておいた。
「なら、おめかししなきゃね!」
そう言って意気込むルイスは、なんだか目がきらきらと輝いていた。
どうやら酷く気に入られたようだ。
日本に来る機会がこれからもあったのならルイスに会うのも悪くないかもしれない。
そう思いながら、は彼女に身を任せた。
明るい雰囲気。綺麗なブロンドヘアー。曇りの無い大きな瞳。
手なんてとっても柔らかくて、ああ、これが普通の女の子なんだなぁ、なんては思った。
モラリアとAEUの合同軍事演習、か。
連隊規模の派遣。
モラリアの民間軍事会社の軍事共闘組織、PMCトラストも演習に加わってるとなると、結構な数のMSが集まるだろう。
沙慈の部屋を出る時にルイスにしてもらったヘアスタイルは下段の髪を纏めて、三つ編みにしてもらったものだ。
が考えながら歩いていると、それがふわふわと揺れた。
スメラギたちも地上へ降りてきていて、ミッションのサポートをしてくれるらしい。
の役目はティエリアとアレルヤを迎えに行く事。
勿論、ミカエルで。
は車を使用して移動をして、ミカエルを隠してある自然溢れる場所へ降りた。
彼女の声紋にミカエルが反応して、姿を現す。
はそのままコックピットに入り、パイロットスーツを手に持つ。
「・・・普通の女の子は、こんなの着ないよね」
はそう呟きながら、少しだけルイスの事を考えた。
彼女はごく普通の、戦争なんかとは無縁の女の子。
私なんかとは違う、普通の女の子。
上着を脱いで、インナーの上にパイロットスーツを着る。
メットを被ろうとしたところで、三つ編みの存在を思い出す。
・・・ちょっとくらい、このままでいいよね。
はそう思いながら三つ編みを丸めてメットを被る。
コックピットに座り、レバーに手を置く。
これから、戦場へ行く。
「・・・大丈夫、」
深く深呼吸をしてから、ゆっくりと瞳を開ける。
「ミカエル、行ってきます・・・!」
震えを誤魔化すために力を入れて、ミカエルを動かした。
平和カップルとの出会いです。