各々が持ち場へ移動する中、刹那は通路を通っていた。
丁度角を曲がった時、「刹那、」と彼を呼ぶ声が響く。
角を曲がった先に、両手に何かを持ったフェルトが立っていた。


「これを」


フェルトはそう言い、透明なケースに入れられた花を一輪手渡した。
受け取った刹那は「花?」と言い黄色い花びらのそれを見つめる。


「リンダさんがラボで育てたんだって。貴方に・・・あげたくて・・・」


刹那は片手に持っていたメットの中にそれを入れた。
「ありがとう、フェルト」と彼女に礼を言う。
それにフェルトは小さく笑み、気まずげに視線を彷徨わせた。


「・・・から貰った方が、嬉しかったよね」


フェルトの言葉に刹那は口を噤んだ。
そんな彼の様子から察したのか、フェルトが苦笑する。


「・・・彼女は俺の事をそうは想っていない」


ガンダムへ行く。
そう言い半重力空間の中を移動する。
フェルトは慌てて振り返り、口を開く。


「死なないでね、刹那・・・!」

「了解」


刹那はそう言い格納庫へ向かった。
ダブルオーのある格納庫には、先客が居た。
先ほど話題にも上がった彼女の姿に、刹那が僅かに肩を跳ねさせる。
メットを手に持った彼女は、刹那が来た事に気付いたのか、振り返った。
カマエルの前にあるキャットウォークに立っていた彼女が振り返ると、短くなった金の髪がふわりと舞った。


「刹那、」


どうしたの?
そういうかのように彼女は小首を傾げる。
いや、と言い刹那は彼女の隣へと移動した。

カマエルを見てみると、新たにビームランチャーが装備されていた。
GNメガランチャーも元々着いている為に、更に火力が増した様子だった。
へ視線を戻すと、彼女も同じく刹那を見ていた。
予想外の事に、刹那が瞳を丸くする。


「・・・どうか、した?」


優しく問いかけてくる彼女。
つい縋りたくなってしまう優しさに、刹那は吸い寄せられるように彼女を見つめた。
手元のメットに入っている花に気付いたのか、が「花?」と小首を傾げる。


「あ、ああ」

「それ、リンダさんがラボで育てたって言ってた花だよね。刹那も貰ったの?」

「・・・否、フェルトから貰った」


どうやらも受け取っていたようだった。
刹那の答えには空色を丸くした後、そっか、とだけ答えた。


「・・・なんか、刹那とお花って、ちょっとミスマッチかも」

「・・・どういう意味だ」


突然のの言葉に刹那がムッとした表情になる。
そんな刹那にがクスクスと笑みを零す。


「ちゃんと大事にするんだよ?花って直ぐ枯れちゃうからね」

「・・・ああ」


刹那がそこまで言った後、不意にをまた見る。
小首を傾げるに、刹那は先ほどの会話を思い出す。





「・・・から貰った方が、嬉しかったよね」





フェルトが何気なく発した言葉。
勿論、フェルトから貰ったものも嬉しかった。
仲間が自分の身を案じてくれているのだから。
けれど、もし、彼女が・・・。


「・・・しかし、いずれ花も、枯れていく」

「・・・そうだね。でも、また植える事が出来る。枯れた花の種から」


何度でも何度でも、繰り返す。
それは人と同じ。
は微笑んでそう言った。


「・・・この花が、枯れたら、種をに渡してもいいか?」

「私に?」

「ああ。育てた花を、見せてくれると嬉しい」

「・・・そう、だね。未来への約束、だね!」


はにこりと明るく笑むと、刹那の肩を軽く叩いた。
任せてね、とでもいう表情に、刹那の表情も緩む。

ダブルオーの方へ向かおうとした彼に、が声を掛けた。


「刹那!」


振り返ると、がカマエルのコクピットに入ろうとしているところで此方を向いていた。
半重力の中、移動していた刹那は彼女を見つめる。


「気をつけてね。約束、忘れないでね」

「・・・こそ、無茶はするなよ」


そっちこそ。と、軽口を言い合った後、の姿はカマエルのコクピットへ消えた。
ダブルオーへ向かう中、アリオスの前を通る。
コクピットの入り口に居たアレルヤが、刹那を見る。


「刹那、厳しい戦いになると思う・・・」

「そうだな。お前も気をつけろ」


の為にも。とは言わずに刹那はダブルオーへ向かった。

カマエルのコクピットに入ったは、既に台座に鎮座していたイエローハロを見やる。


「ハロ、今回は多分大変だよ?」

『イッショネ、ダイジョウブネ!』

「そうだね、一緒なら大丈夫だね」


微笑んでイエローハロを撫ぜる。
丁度その時、通信が入る。
顔を上げると、モニターにアレルヤが映っていた。


、気をつけてね』

「アレルヤもね・・・ソーマにもよろしく」

『うん、行ってくるよ』


アレルヤはそう言い、通信を切った。
アリオスは先にコンテナに移動し、GNアーチャーと一緒に出撃をする。
アーチャーアリオスが最初に出撃して、敵部隊を牽制する役割だ。


『トレミー、全ハッチオープン』


フェルトの艦内放送がかかる。
カタパルトに移動したセラヴィーの中で、ティエリアが表情を鋭くする。


「何としてもヴェーダを取り戻す。僕を導いてくれ、ロックオン・・・」

『アーデさん、戦果を期待してるです!』

「了解。セラヴィー、ティエリア・アーデ、行きます!」


プトレマイオス2の右舷デッキからセラヴィーが出撃する。
反対側のカタパルトでは、アーチャーアリオスが出撃準備をしていた。


「準備はいいかい、ソーマ・ピーリス」

『マリーでいい』


突然のソーマの言葉にアレルヤが「え?」と声をあげる。


『そう呼びたければ、それでいい・・・しかし、私は・・・!』

「わかってるよ、」


アレルヤはそう言い、柔らかく微笑んだ。
そして、バイザーを閉じて瞳を伏せる。


行くよハレルヤ。これで終わらせるんだ

((そうだな。さっさと終わらせてん所に行こうぜ)

君って人は


アレルヤは少し笑んだ後、表情を引き締める。


「アーチャーアリオス、アレルヤ・ハプティズム、ソーマ・ピーリス、目標へ飛翔する!」


アーチャーアリオスが出撃し、真っ直ぐに飛んだ。


『ケルディム、出撃準備完了です!』


ケルディムがカタパルトで出撃準備を終える。
ロックオンはモニターに映ったアニューに笑んで見せた。


『・・・ライル、気をつけて』

「ああ、アニュー、俺はやるぜ。ケルディム、ロックオン・ストラトス、狙い撃つ!」


右舷カタパルトからケルディムは出撃をした。
次に、左舷カタパルトにカマエルが移動する。


『カマエル、射出準備完了。タイミングをカマエルへ譲渡・・・気をつけてね』

「うん。フェルトも頑張って」


モニターに映ったフェルトにそう声を掛け、はレバーを握る。
行くよハロ。そう言い表情を引き締める。


「カマエル、・ルーシェ、行ってきます!!」


の声と同時にカマエルが出撃した。
次にダブルオーが出撃準備をする。
刹那はダブルオーのコクピットの中で沙慈に声をかける。


「本当にいいんだな、沙慈」

『心配しないでくれ。僕だって、未来を見つけたいんだ』


決意をした様子の沙慈に刹那は「了解」と返す。
沙慈も刹那と共に参加する。
戦いに迷いを感じていた彼だからこそ、刹那は心配をしていたが、大丈夫な様子だった。


「ダブルオー、刹那・F・セイエイ、出る!」

『オーライザー、沙慈・クロスロード、発進します!』


左舷カタパルトからダブルオーが、そして中央カタパルトからオーライザーが出撃した。


『ハロ、オーライザー、ドッキングモード!』

『オーライザー、ドッキングモード、オーライザー、ドッキングモード!』


オーライザーとダブルオーがドッキングし、ダブルオーライザーとなった。
そのまま粒子の光を零しながら、ダブルオーライザーは発進した。

先陣はアーチャーアリオスがきっていた。


『敵部隊を牽制する!』

『行けぇっ!』


アレルヤがそう言うと呼応するようにソーマがGNミサイルを発射する。
アーチャーアリオスが分離し、GNビームライフルで連携して敵機を攻撃していく。


『圧縮粒子、全面開放!』


セラヴィーがGNバズーカを発射し、GN−XVを撃破する。
アリオスもGNビームランチャーを放ち、敵機を薙ぎ払っていく。
取り残された敵を、ケルディムがGNビームランチャーで倒す。


『いけるぜ、この新装備!』


ビーム攻撃に反応して避けようとしたアヘッドを、カマエルが追撃する。
接近しつつGNビームランチャーを放つ。
片腕にGNビームランチャーを持ったままビームサーベルを抜き、動揺した敵を切り伏せる。
ダブルオーも新装備のGNソードVで敵機を薙ぎ払っていく。


『何だ、敵艦が・・・』


刹那が呟く。
敵の戦艦が此方へ向かって真っ直ぐ向かってくる。


『敵艦、減速なしです!』

『特攻か!』

『刹那、ライザーソードで敵艦隊を!』

『了解!』


ライザーシステム、作動!
沙慈がそう声をあげる。
スメラギの支持に応じた刹那がトランザムを発動させ、トランザムライザーを放つ。
思い切り振り下ろし、GN−XVごと巡洋艦を切り裂いた。
破壊された3隻の巡洋艦から、粒子が広がった。


「・・・これは、粒子撹乱・・・!」


アンチフィールドが広がった事により、ビーム兵器にあまり頼れなくなる。
はGNソードを抜き、迫ったGN−XVと切り結ぶ。


『アンチフィールドが、広域に展開されたです!』

『粒子ビームの効力が低下!』

『罠かよ!?』

『至近距離で展開されなかっただけましよ。軌道変更、フィールドを脱出して!』


スメラギの指示通り、プトレマイオス2が移動をする。
トレミーを援護する為にがカマエルを動かす。
が、思いの外他の仲間たちが苦戦している様子だった。
GNアーチャーもアリオスもGNミサイルで対応するが、ミサイルの残り弾数が減っていく。
アリオスが背後からアヘッドの攻撃を受ける。


『くそっ! ・・・ミサイルの残り弾数が!』

! アレルヤ!

はトレミーを!・・・うわあっ!


アレルヤの声を聞きつつ、は唇を噛んだ。
彼らの援護にも行きたいが、プトレマイオス2に一番近いのはカマエルだ。
迫る敵の相手をしなければならない。


『敵の数が多過ぎる!』


ティエリアはGNフィールドで敵の攻撃を防いでいたが、突撃してくるGN−XVのランスが突き刺さる。
突き破ったそれによりフィールドを破壊された衝撃で、ティエリアが悲鳴をあげる。
再度ランスが突き下ろされるが、それはケルディムのGNビットが防いだ。


『ティエリア!』


ケルディムがGN−XVへ体当たりをし、殴り飛ばした。
セラヴィーの無事を確認した直後、ロックオンは防衛ラインを抜けてプトレマイオス2へ向かう敵部隊を見た。


『突破された!?』


援護に行こうとするが、後方からミサイルが撃たれた。
GNビットで防ぎ、身動きがとれなくなる。

はプトレマイオス2と補給艦へ迫るアヘッドとGN−XVへ攻撃をしかける。
ビーム兵器が主体のカマエルは今は接近戦しか方法が無い。
GN−XVをGNソードで攻撃した後、直ぐにMA型へ変形をして足場にする。
蹴った衝撃で飛び、グリフォン2ビームブレイドを展開する。


「お前えええええええぇぇぇ!!!」


思い切り体当たりをかまし、アヘッドを真っ二つにする。
別の機体がプトレマイオス2へ攻撃をする。


『左舷に被弾!』

『損傷は!?』


ビーム兵器が使えない今、セラヴィーは防御に徹するしかない。
ケルディムも銃撃が出来ず、迫るアヘッドを殴るしか出来ない。
ダブルオーライザーは接近戦法で戦うが、中々数が減らない。

プトレマイオス2を守ろうと奮戦するカマエルも、一機に攻撃している間に左右からミサイルを放たれる。
ミサイルが命中し、バランスを崩す。


「きゃあああああああ!!!」


衝撃が襲った後、GN−XVが迫り、ランスを振るう。
防ぐ術が無かったので咄嗟にGNビームランチャーを盾代わりに使う。
動けなくなったアヘッドに、GNソードを突き刺して倒す。

プトレマイオス2は直撃を受け、船体を大きく揺らしていた。


『ええい、クソッ!なぶり殺しかよ!』

『敵機接近です!』


アヘッドがとうとうブリッジの真正面まで回りこむ。
ミサイルランチャーを放とうとした直後、右側からの攻撃によりアヘッドは大破した。
それを見たスメラギは表情を緩める。


『来てくれたのね、カタロン!』


はその言葉を聞きながら援軍の登場に動揺した様子のGN−XVを撃破する。
が、彼女を狙ってまたアヘッドが迫る。


『コウホウチュウイ!コウホウチュウイ!』

 やばっ・・・!」


先ほどブリッジを狙っていたものと同じミサイルランチャーを構えたアヘッドが、背後にいた。
避けきれない!
そう思い衝撃に耐えようと身構えた瞬間、目の前のアヘッドが切り裂かれた。
突如現れた連邦色のGN−XV。
ミサイルランチャーも蹴り飛ばし、GNビームライフルで破壊する。
瞬時に動き、更に次なる敵へランスを向けるGN−XV。
あまりの動きにが空色を丸くした直後、通信が入る。


・ルーシェ。無事で何よりだ』

「あ、貴方・・・!貴方が、シンの友だちの・・・!」


モニターに映し出されたのは、連邦軍のパイロットスーツを身に纏った青年。
金色の癖のある髪がバイザー越しに見える。
レイ・ザ・バレルはふっと柔らかい笑みを零し、口を開く。


『レーゲンから聞いたか。俺はレイでいい。援護するぞ、ソレスタルビーイング』

「・・・ありがとう・・・!」


はそう言いGN−XVを援護しながら進軍をする。


『アロウズ艦隊に勧告する。我々決起する。悪政を行うアロウズの傀儡となったアロウズはもはや、軍隊ではない!』


カタロンの輸送艦から、カティ・マネキンの勧告が響く。


『世界の行く末は、市民の総意によってのみ決められるものだ。我々は貴様らの蛮行を断罪し、市民にその是非を問う』


それを聞きながらは真っ直ぐにアヘッドへ向かい、切り伏せた。
カタロンの部隊と共に進撃をし、カマエルはアリオスに近付く。
レイはGN−XVを動かし、主にの援護をした。


『敵部隊が接近してきます』

『MS隊、攻撃開始!』


オペレーターのフレイがカティへ報告をする。
カティの指示により、控えていた連邦のGN−XV部隊が動き出す。


『不死身のコーラサワー!唯今参上!』


元AEUのエース、パトリック・コーラサワーがアヘッドを撃墜する。
背後を突かれたアロウズ艦隊は回頭した艦艇同士が衝突するなどと、大混乱に陥っていた。
敵部隊が動揺している間にプトレマイオス2とカタロンの艦隊がアンチフィールドを突破する。


『ダブルオーライザー、目標を、駆逐する!』


トランザムライザーを放ち、アロウズの旗艦を貫いた。
トランザアムをしたまま先陣を切るダブルオーライザーに、プトレマイオス2と補給艦、そしてカタロン艦隊が続いた。


「レイ、貴方も気をつけてね・・・!」

『俺としては、君が無事でいてくれないと困るんだがな』

「・・・私には、みんなも居るから大丈夫」


微笑んで言うに、レイも笑みを返してから通信を切断した。
GNアーチャーを狙うGN−XVを攻撃してから、カマエルはアリオスの前へ出る。


「・・・あの感じがしない・・・イノベイター、居ないの・・・?」


そう呟き、は瞳を鋭くさせた。




フェルトの淡い想い。
そしてレイさん久しぶり。