『沙慈、沙慈・クロスロード・・・!沙慈!


通信が響く。
自分の名を呼ぶ声に反応し、沙慈はゆっくりと瞳を開いた。
覚醒したばかりでぼんやりとした意識の中、唯一はっきりと覚えていることがあった。


・・・ルイスは!?

『大丈夫だ』


刹那の柔らかい声色が響く。
眼前のモニターにルイスの姿が映される。
ダブルオーライザーの掌の上に横たわった彼女の姿に沙慈は安堵の息を吐く。


『彼女を連れて安全な場所へ行け・・・!』


敵が来る。
そう言う刹那に沙慈は「わかった」と言いハッチを開く。
ダブルオーライザーの掌の上に降り立ち、ルイスを抱えて移動する。
ダブルオーライザーは迫るガデッサ、ガラッゾの姿を見、迎撃の為移動した。











マリー!レーゲン!


返事をしてくれ・・・!
アレルヤはそう祈りながらガガ部隊を迎撃していた。
その時、アリオスのモニターに熱源反応が映し出される。
これは、と思い其方を見てみると、胴体部分のみとなり、スパークを起こしているカマエルの姿が見えた。


「・・・!?」


頭部も破壊され、酷い損傷状態のカマエルが接近してくる。
急いで補給しなければ、が危ない。
アレルヤはそう思いながら、カマエルに向かったガガを撃墜した。
しかし、その間に隙が生まれ、アリオスが被弾する。


『・・・れ、 ヤ・・・!』


ノイズ交じりの通信が響く。
カマエルは背に僅かに残ったファングを用いてガガ部隊に攻撃をしかける。
それはアリオスを狙っていたガガを見事に撃墜させた。


「無茶はしないで、!」


急いで後退を、とアレルヤが言おうとした直後、GNアーチャーへ更にガガが迫る。
いけない、と思った直後、カマエルが咄嗟に動いた。
ファングで敵のスピードを遅め、思い切りガガへ体当たりをする。


!!!


直後、半壊状態のカマエルに次々とガガ部隊が迫った。










「ルイス・・・、ルイス!」


暗闇の中、誰かが呼ぶ声がする。

ずっと求めていた、懐かしくて、とても、安心する声。
ぼんやりと瞳を開くと、そこには沙慈の顔があった。
彼は安心したような表情をして、「ルイス、」と名を呼ぶ。
それにルイスは安堵を覚えた。

しかし、頭に残った記憶は深いものだった。

彼は沙慈、とても大切で、愛しい存在。
そして、ソレスタルビーイング・・・!

そう思った直後、ルイスは素早く身を起こし、沙慈を押し倒していた。
そのまま彼の首に手をかけ、強く力を込める。


「ソレスタルビーイング!パパとママの仇・・・!死ね、死ねっ!

「ぅぁ、く、・・・ル、イ・・・ス・・・!!」


苦しむ沙慈。
ぐ、と指に力をこめると更に苦しそうな表情になる。
身悶える彼の首もとが緩み、リングが零れ落ちた。

それは、





『・・・きれい、』





きらり、と指の間に挟まれた金のリングが月明かりを浴びて輝いた。

気紛れの我が儘で言った言葉を沙慈は覚えていてくれて、一生懸命アルバイトをして買ってくれた。

凄く、嬉しい。 凄く嬉しかった。





くっ・・・うぅ・・・!!


嬉しかった、怖かった、憎かった、
様々な感情が混ざり合う。
そう思った直後、

ぽたりと沙慈の頬に雫が落ちる。

うっすらと瞳を開けた沙慈の視界に映ったのは、苦しみながら涙を流す、ルイスだった。


「沙・・・慈・・・!」






ずっと一緒に居た彼、楽しい思い出も、たくさん、





((ルイス))





にこりと微笑む沙慈、出会ってから、いつだって、いつだって、
沙慈がいたから、わたしは、





((もう、ルイスったら))





呆れ顔しつつも、いつもわがままを聞いてくれた沙慈、
優しい沙慈、そんな沙慈が、すごくすごく、大好きだった、





「沙慈・・・!!ぐっ、あああああっ!!


ルイスは頭を抱えて苦しみだした。
沙慈は咳き込みながら起き上がり、彼女に近付く。


「ルイス!どうしたんだよ!?ルイス!」










ダブルオーライザーはガデッサ、ガラッゾと対峙していた。
押され気味のガデッサの中で、リヴァイヴは焦りの声をあげる。


『これが純粋なるイノベイターの力!?』

『調子に乗ってぇ!』

『ヒリング、トランザムアタックをかける!』


リヴァイヴの言葉にヒリングは「オッケー」と答える。
直後、同時に二機がトランザム状態となる。
ダブルオーライザーへ向けて一斉に射撃が放たれる。
直撃を受け、よろけたダブルオーライザーへガデッサが突っ込む。
ダブルオーライザーもトランザムを発動し、距離をとる。
粒子が舞う中、頭の中にまた声が響いた。


((うああああああ!!!))

((どうしたの、ルイス!?))

「この声は・・・!」


頭に声が響く。
苦しむルイスの声、そして焦る沙慈の声が。





沙慈は苦しむルイスの肩に手を置いていた。


「ルイス!」

うああ、ううっ!


ルイス!と彼女の名を呼び手を掴む。
しかし、ルイスは腕を振り沙慈を突き飛ばす。
その表紙に、沙慈のパイロットスーツの止め具に引っかかったようで手袋が外れる。


うっ、あああああああ!

 それ・・・!」


手袋が外れ、ルイスの左手が露になる。
その薬指に嵌められていたものに気付き、沙慈が声をあげる。
5年前プレゼントした指輪が、そこにあった。

苦しんでいたルイスが突然動きを止めた。
直後、彼女はふらりと体を傾け、その場に倒れた。


「ル、ルイス?」


ルイスは目を見開いたまま、動かなかった。
沙慈は震える声を漏らし、彼女の傍で膝をつく。





((ルイスううううぅぅぅぅ!!!))

「沙慈・・・ルイス・・・!」


ダブルオーライザーが再度二機の攻撃を受けて体勢を崩す。
立て直した直後、違う声がまた頭に響いた。


((私は戦う・・・!))

「この声は・・・!」





プトレマイオス2の通路では、スメラギがビリーと対峙していた。


「自分たちの意思で、未来を創る為に・・・!」

「どうして、お前たちは・・・!」


ビリーはそこまで言い、視線をスメラギに合わせる。
表情を歪め、彼は声を張った。


「どうして君は、わかってくれないんだ・・・!」


そうやっていつも!
そう叫び引き金に指をかける。
スメラギはそんな彼に、何も言わずに小さく瞳を伏せた。





スメラギ!


刹那が機を取られている隙に、ガラッゾに押し込まれる。
敵母艦の壁に叩きつけられ、苦しみの声をあげる。


((!!))


頭にアレルヤの声が響く。
尋常ではない様子の声色に、刹那が瞳を見開く。





ドックでは変わらずガガが特攻を続けていた。
半壊状態のGNアーチャー。そしてスパークを起こし、あと一撃でもくらったら爆発してしまいそうなカマエル。
アリオスはカマエルに突撃しようとしたガガを寸前で撃破したが、自身が攻撃をくらう。


うああああああ!!!


カマエルはピクリとも動かない。
頭部、そして手足をも失い胴体のコクピットがある部分しか残っていないそれは、酷い損傷だった。





!アレルヤ!


刹那が声を張る。
GNアーチャーも気懸かりだった。
残存粒子が尽きた様子のOガンダムも。


((このままじゃトレミーが!))

((まだよ!まだ諦めちゃ駄目!))

「ミレイナ!フェルト!」

((くっ・・・!ヴェーダへは、まだ・・・!))

((ぐっ、体が・・・))


「アニュー!ラッセ!」


トレミーのブリッジに居る仲間の声も響く。


((ミサイルの残りが!))

((こんなところで!))

「イアン!リンダ!」


輸送艦から援護射撃を行っているヴァスティ夫妻の声も響く。
様々な思いが、頭に流れ込んでくる。


「みんなの命が、消えていく・・・!」


刹那がそう呟いた直後、ロックオンの悲鳴が響く。
アルケーのGNバスターソードを防ぎ、彼は奮戦する。


((くそったれがぁ!!))


このままでは、

みんなが、


「そんな事・・・させるかぁぁっ!!


そう叫んだ直後、開かれた刹那の瞳が金色に輝く。
そして、刹那の叫びに呼応するように新システムが起動した。

TRANS−AM BURST

ツインドライブから光が放たれる。
粒子が一気に溢れ出し、ガデッサ、ガラッゾを押しやる。
粒子は敵母艦ソレスタルビーイングを覆うように広がり、周辺宙域までも満たされていった。










連邦輸送艦の中では各々が広がった粒子を見ていた。
フレイが「これは、」と呟く。


「GN粒子・・・?」

「あの輝きは・・・?」


カティもそう呟き、瞳を細めた。

カタロンの輸送艦の中では、宇宙にあがっていたマリナたちがそれを見つめていた。


「何なのあの輝きは?」


シーリンが呟く。
子どもたちは光を見て歓声をあげるが、マリナは違った。
真っ直ぐに粒子を見、彼女は彼を思い浮かべていた。


この光は、きっと・・・刹那の戦いの光・・・


命の、輝き。
そう思いマリナは刹那を想った。










((変われ、刹那。変われなかった、俺の代わりに))


頭にニールの声が響く。
刹那は俯いたまま、そうだ、と声を出す。


「未来を創る為に・・・俺たちは、変わるんだぁぁっ!!


刹那が叫んだ直後、また粒子が舞う。
あまりの粒子放出に、ガデッサとガラッゾが撤退をする。


((の、脳量子波が乱れる!))

((あのガンダムだ!あのガンダムさえあれば、僕たちだって!))

((それだけじゃない))


突如響いた声にリヴァイヴが瞳を見開く。


((純粋なるイノベイターの脳量子波が、ツインドライブと連動し純度を増したGN粒子が、人々の意識を拡張させる))


リジェネ・レジェッタの声が響く。
ティエリアの同型のイノベイターの彼は、既に肉体は死に絶えていた。
しかし、意識はある。


((完全なる進化を遂げたか、刹那・F・セイエイ。君こそが、真のイノベイターだ))


リジェネがそう言い、笑い声を漏らす。










ケルディムはアルケーのGNブレイドを受けていた。


((何だ・・・この気持ち悪い感じは?))


声が響く。
アリー・アル・サーシェスは舞う粒子に嫌な感覚を覚えていた。


「・・・貴様・・・!」

((声・・・!?))


ケルディムはアルケーを突き飛ばす。
そしてそのまま、GNビームピストルUを構えて追撃をする。


「貴様みたいな奴に!兄さんたちはぁ!!!

((てめぇあの男の弟かぁっ!))


GNバスターソードを防ぎ、右腕の付け根にGNビームピストルUを撃つ。
腕を破壊した直後、射撃を続けるがアルケーが避ける。


「それがどうした!」


足先のビームサーベルでアルケーはケルディムの左腕を切り落とす。


((殺しがいがあるぜ!))

「何なんだ貴様はっ!?」

((俺は俺だぁ!))


アルケーはケルディムの首を掴み、壁に叩き付けた。
しかしロックオンも怯まず、GNビームピストルUを放つ。


ぶっ潰す!!










ガガも粒子のせいで脳量子波の乱れがあるのか、動きが鈍る。
アリオスはGNビームサブマシンガンでガガを迎撃する。


「刹那か!?」

((余所見してんなよ、アレルヤァ!!))

「ハレルヤ!?」

((だけ見てりゃいいんだよぉ!))


ハレルヤの言葉にアレルヤは瞳を細め、アリオスのトランザムを発動させる。
GNビームサブマシンガンを一気に放ち、ガガ部隊を一掃した。










プトレマイオス2の艦内にも、粒子が舞い込んできた。


「な、何だこの不可思議な現象は!?」


脳に直接声が響くなんて・・・。
そう言いビリーは動揺したようで頭に手を当てている。
スメラギは瞳を伏せ、銃を下ろした。


((・・・ごめんなさいビリー・・・))

「!?」

((貴方の気持ちを知っていながら、それに甘えて・・・))


頭に流れ込んできたスメラギの言葉にビリーは再度銃を構える。


「や、やめろ!そんなんじゃない!」


スメラギは銃を捨て、ゆっくりとビリーに歩み寄る。


「僕は、恒久和平実現の為に・・・!その為に戦うと決めたんだ・・・!」


目の前まで歩み寄ってきたスメラギが、真っ直ぐにビリーを見据える。
スメラギの眼前に銃を突きつけ、ビリーは声を震わせた。


「君とは・・・」


銃を持つ手が震える。


「君を・・・ぼ、僕は、ずっと・・・!!」


僕は・・・!
そう言いビリーは瞳を強く閉じ、銃を下ろす。
震える息を漏らすビリーに更に近付き、スメラギは腕を伸ばした。
彼に触れた直後、ビリーはスメラギを抱き寄せた。


「ずっと君の事が好きだったのに・・・!」


ビリーの腕の中で、スメラギはそっと瞳を伏せた。










GNアーチャーのコクピット内で、目を覚ました。
気付いた時には、レーゲンの胸に頭を預けていた。


「・・・レーゲン、」


咄嗟に自分を抱き締めて庇ってくれた彼を呼ぶ。
しかしどこかを打ったのか、彼は気を失った様子だった。


「・・・声?」


これは、アンドレイ少尉?
彼女はそう問いかける。


((また声・・・ピーリス中尉か?))

「私は貴方が許せない」


私が望んでいたものを、簡単に投げ捨てられる貴方を。


「・・・でも、貴方を憎み続けて、恨みを晴らしたとしても、きっと大佐は喜ばない」

((黙れ!!この裏切り者が!))


激昂するというよりも、脅しをかけているような声だった。
彼女は怯まずに言葉を続ける。


「貴方はどうして、実の親である大佐を・・・!?」

((あの男も軍を裏切った!報いを受けて当然の事をした!恒久和平を乱す行為だ!))

「大佐はそんな事する人じゃないわ・・・」


彼女の言葉を、アンドレイは「違う!」とすぐに否定した。


((あいつは母さんを見殺しにするような奴だ!信じられるか!))

「・・・どうして、解り合おうとしなかったの?」

((あいつは、あの男は何も言ってくれなかった!言い訳も!謝罪も!))


何も。
セルゲイは何も言わなかった。
否、不器用な男だからこそ、言えなかったのかもしれない。


((僕の気持ちなんて知ろうともしなかった!だから殺したんだ!))


この手で!
そう震える声で言ったアンドレイ。


「自分の事を解って欲しいなら、なぜ大佐のことを解ってあげようとしなかったの?」


解り合う為には、思いをぶつけるだけではいけない。
相手を理解しなければ、相手に理解して貰えなければ。


「きっと大佐は、あなたのことを思ってくれてたはずよ」


だからこそ、最期に爆発に巻き込まれないように機体を放した。


((・・・ならどうしてあの時、何も言ってくれなかたんだ!?
 言ってくれなきゃ、何にも解らないじゃないか!言ってくれなきゃ・・・!))


直後アンドレイの咽び泣く声が響いた。
彼女もまた、「大佐・・・」とセルゲイを想い涙した。
そんな彼女の声を聞いていたレーゲンは、ゆるゆると瞳を開いた。


((・・・みんなの心が、繋がっていく・・・これが、純粋種の、力・・・))

((そう、リボンズでもなく、俺たちでもなく。純粋な進化を遂げた者の力))


ジュビアの声が届き、レーゲンは僅かに身じろぎをする。
彼女がハッとした様子で振り返ったので、ぎこちない笑みを返す。


「・・・体中痛いわこりゃ」

「レーゲン!私を庇って・・・!」

「いいんだよ。お前が無事なら」


レーゲンの言葉にジュビアが「よくねぇよ」と言うが聞こえないふり。
安心させるように彼女の背を撫ぜて、レーゲンは真紅の瞳を向けた。


「・・・これで良かったんだ・・・これで・・・」


きっと。
無理して力でねじ伏せるよりも、お互いを解り合った上でひとつになれればいいんだ。
創られた力じゃなく、純粋な力で。
レーゲンはそう思い、シートに背を預けた。










パチパチというスパークの音が響く。
あれ、また気絶しちゃってた。
そう思いはゆっくりと瞳を開いた。


「・・・GN、アーチャーは・・・?」


そう言い、首を動かす。
しかし、モニターがやられてしまったのか辺り一面が砂嵐だった。
コクピットハッチを開こうとした瞬間、頭に声が響いた。


((安心しろ。お前の仲間は無事だ))

「・・・この声・・・レイ?」


レイの声を聞き、思わず手が止まる。
無事、と彼は言った。
今、一体何がどうなっているのだろうか、何故頭に声が響くのか、何故、粒子がこんなにも、
そこまで考え、ははっとした。
こんな事が出来るのは、恐らく彼しかいない。


((刹那・F・セイエイ。純粋種のイノベイターとして変革したみたいね))

((ああ。みんなを想う心が、呼び覚ましたのかもしれないな))

「・・・刹那・・・」


はそう呟き、彼を想った。
暖かい光は、刹那の心の光。
優しい彼にとても似合っている現し方だった。
はゆっくりと胸の前に手をあて、自身の鼓動を感じた。


「・・・生きている。私は、ここで生きているんだね」


救われてきた、ずっと。
シンにも、ソレスタルビーイングのみんなにも。
レイもフレイも、ヨハンだって。
アレルヤも、ハレルヤも、刹那も、みんな私を想ってくれて、支えてくれた。

そんなみんなを、守れるのならば、自身の命なんて。

そこまで考え、は首を振った。
そうだ、ステラを、スティングをアウルを、守らなければと躍起になっていた自分に彼はああ言ってくれた。





「・・・そいつらは、を守ってくれるのか?」

は、俺がちゃんと守るよ」

「俺がを守る」





守る事は悪い事じゃない。
けれど、それで命を散らしてしまえば、悲しむ人だっている。
シンは、それを分かっていたから、ああ言ってくれたんだ。


「・・・そうだよね、シン。私は幸せになってもいいんだよね」


そう言いはゆっくりと手を伸ばした。
カマエルのコクピット内のボックスハッチが開き、中からデータディスクが出された。
それを手で取り、胸に抱く。


((みんな、アンタが大切なのよ))

((贖罪の意識がある我々もだが、純粋に君自身に惹かれている人物も居る))

((素直に受け止めてもいいんじゃない?この世界だって))

((そうだ。お前のしたい事をすればいい。お前の、したい事を))


フレイとレイの言葉を聞いていたは、小さく微笑む。
そうだよね、と呟いてイエローハロを見つめた。


『ミンナ、、ダイスキネ!ダイスキネ!』

「・・・そうだよね」


私も、みんなが大好き。
そう言いは瞳を伏せた。










プトレマイオス2のブリッジではミレイナたちが声をあげていた。


「敵機80%撃墜!」

「気を抜いちゃ駄目よ!」

「はいです!」


そんな二人を見ながら、ジュビアは小さく息を吐いていた。


「刹那・F・セイエイ・・・か」


そう呟く。
操舵席に座っていたアニューは「これは、脳量子波・・・!」と呟き辺りを見る。
ラッセは自身の体の変化に戸惑っている様子があった。
痛みが無い。再生治療でも治せなかった体が、こんなに楽になるなんて。










ルイスを抱き上げ、涙を流していた沙慈。


「ルイス・・・!」


意識を失い、ピクリとも動かなくなってしまった彼女に為す術も無く、彼は悲しみに暮れていた。
このまま彼女を失ってしまったら、僕は、
沙慈がそう思った瞬間、


((・・・じ、))

!!

((沙慈・・・、))


頭にルイスの声が響いた。
思わず反射的に腕の中の彼女を見下ろすと、彼女は呻き声をあげ、ゆっくりと瞳を開いた。
その瞳は前と変わらない若草色のもので、禍々しい輝きは放っていなかった。


「ルイス・・・!」

「沙慈・・・、私・・・、もう、」


あの頃とは違う。
もう彼のもとへは戻れない。
そう思い遠ざけようとする彼女の思いを沙慈は分かっていた。
「いいんだ」と言い沙慈はルイスを優しく抱き締めた。


「何も言わなくていいさ。わかってる」


沙慈の言葉に瞳を見開いた後、ルイスは嬉しそうに笑み、背に腕を回した。
二人を、粒子の光が包む。


「・・・ねぇ、この暖かな光は何?心が、とけていきそうな・・・」

「刹那だよ」


刹那?
聞き覚えのある名をルイスが復唱する。
沙慈は「そうだよ」と言い彼女の髪を撫ぜた。


「彼の心の光・・・未来を照らす光だ」


暖かな粒子の光が舞う中、二人はやっと本当の再会を果たした。
沙慈は確かめるようにルイスを抱き締め、彼女も今までの寂しさを埋めるように、彼に縋りついた。




やっと生き伸びる決意をしました。