セラヴィーが撃墜された後、カマエルがイノベイターを引き付けている間にティエリアは敵母艦、ソレスタルビーイングへ侵入をしていた。
そして敵の目を掻い潜り、リボンズ・アルマークの居るヴェーダの核がある部分にまで到達していた。
しかし、ティエリアの肉体は、既に事切れていた。
腹部と頭部を銃弾で貫かれ、その身は無残にも無重力空間を漂っていた。
ヴェーダとリンクをしていたリボンズだが、突然のGN粒子の介入に脳量子波が乱れる。
「・・・今のGN粒子は何だ?僕の脳量子波を乱して・・・!」
((この時を待ってたよ))
リボンズの頭に声が響く。
この声はティエリアの同型イノベイドのリジェネ・レジェッタの声。
直後、ヴェーダがリボンズのリンクを切断した。
「ヴェーダが僕とのリンクを拒絶した・・・まさかシステムを!?」
((リボンズ、君の思い通りにはさせない))
リジェネの肉体もまた、事切れている。
しかし、意識はある。
((そうだろ、ティエリア))
直後、亡骸のティエリアの瞳が金色に輝いた。
それに呼応するようにセラフィムが起動し、トライアルシステムが作動される。
プトレマイオス2のブリッジでは、セラフィムが起動した事を確認し、歓喜の声をミレイナがあげていた。
「セラフィム、トライアルフィールド発生させたです!ヴェーダとリンクしている機体が、次々と停止してるです!」
ヴェーダのバックアップを必要とするシステムは全てダウンし、オートマトンも機能を停止した。
プトレマイオス2の艦内に侵入していたオートマトンに応戦していたスメラギは、突如動きを停止した相手に瞳を見開く。
「ティエリア・・・!」と彼の名を呼び立ち上がった。
ナドレのトライアルシステムは、ガンダムを自らの制御下に置くものであった。
しかし、セラフィムのトライアルシステムは、フィールド内に存在するものがヴェーダとリンクしている場合、これを無効化するという能力がある。
ヴェーダからのバックアップを頼りに戦っていたガデッサ、ガラッゾは機能を停止し、敵母艦の岩壁にその身を落とす。
「ヴェーダからのバックアップが!」
「クッ!ティエリア・アーデめ!」
そしてガガ部隊も完全に動きを停止した。
プトレマイオス2のブリッジで、フェルトが安堵の息を漏らす。
「取り戻したわ、ヴェーダを・・・!これで、戦いが終わる!」
ガガ部隊が停止した事により、アリオスが自由になる。
すぐに半壊以上の状態のカマエルに近付き、コクピットから出る。
そのままカマエルのコクピットに取り付き、ハッチを開く。
「!大丈夫かい!?」
アレルヤが中を覗くと、すぐにと目が合った。
は澄んだ瞳を彼に向け、大丈夫、とだけ返す。
そしてゆっくりと身を動かし、アレルヤへ身を寄せた。
「・・・もう、大丈夫。私は、貴方と幸せになるんだから」
「・・・、」
アレルヤは微笑んで彼女の肩に手を置いた。
その手に自身の手を重ね、は微笑んだ。
「私を連れてって。アレルヤ」
手を握り返し、アレルヤは微笑んだ。
今度こそ、コクピットから愛しい人に連れ出されては宇宙空間へ身を滑らせた。
アルケーガンダムはヴェーダからのバックアップを失い、システムがダウンしていた。
((何がどうなってやがる!?クソッ!動けってんだよ!))
動けないアルケーに攻撃をしかけるケルディム。
GNビームピストルUを容赦なく撃ち、爆発させる。
「兄さんのことを責められねぇな・・・こいつだけは、許せねぇ!」
完全に爆発させ、行動機能を奪う。
機能停止状態から半壊状態にされ、サーシェスは機体を捨てて逃げ出した。
ロックオンは「待てよてめぇ!」と言い銃を持って機体を降りた。
負傷しているようで、脇腹を押さえて逃げるサーシェスを容赦無く撃ち抜く。
右肩を撃たれたサーシェスに、ロックオンはバーニアを噴かして自身の動きを調節する。
「そこまでだ!!」
敵わないと思ったのか、サーシェスは銃を手放して両手をあげる。
赤いパイロットスーツを身に纏った男。
先ほどまで、自分が対峙していた機体に乗っていた男。
『何故止める!?奴はロックオンの仇だ!』
『・・・やはり、生きていた・・・アリー・アル・サーシェス!』
「言葉通りの意味だ。あのガンダムに乗っていたアリー・アル・サーシェスがロックオンの命を奪った」
刹那とティエリアからこの男の話を聞いても、割り切っていた考えがあった。
しかし、尊敬していた兄、そして家族の仇とこうして対峙すると、
「こいつが・・・こいつが父さんも母さんも、エイミーも・・・!」
そして、
「兄さんも・・・!」
思わず指に力が込められる。
その時、ふと脳裏に愛しい彼女が浮かんだ。
イノベイターであった彼女。愛した女は敵だった。
『何故だ!?何故俺たちが戦わなければならない!?』
『それはあなたが人間で・・・私がイノベイターだからよ!!』
『解り合っていた!』
『偽りの世界でね!』
『嘘だと言うのか・・・俺の想いも・・・お前の気持ちも!』
けれども、
「アニューはロックオンの下へ戻りたかった。イノベイターとしてでは無く、一人の女としてもうロックオンを愛していたんだよ」
「・・・信用を取り戻す事は、難しいと分かっています。けれど、私はやっぱり、ライルと・・・貴方たちと進んでいきたい・・・!
イノベイターとしてではなく、ただの一人の女として、此処に居たい・・・!」
彼女は戻ってきた。
解り合う事が出来た。
そんな世界が、
そう思ったロックオンは、銃を僅かに下ろす。
直後、
「馬鹿が!!」
素早く銃を取り、サーシェスが振り返る。
瞬間。
ロックオンが放った銃弾がサーシェスの額を撃ち抜いた。
続けて撃ち、とどめをさすとロックオンはゆっくりと瞳を伏せた。
無重力空間の中で、血を流して漂うサーシェスの体。
それを最後に一瞥した後、ロックオンはその場を離れた。
(アニュー、お前のおかげで、人と人がわかり合える世界も、不可能じゃないって思えたんだ。
だから、世界から疎まれても、咎めを受けようとも・・・俺は戦う・・・!)
ロックオンはケルディムに向かい、真っ直ぐに飛ぶ。
「ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして・・・!」
人と人が分かり合える世界に害を為す敵を、倒していく。
たとえどんな手を使い、世界から疎まれても、咎めを受けようとも、決意は固かった。
カタロンではなく、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとしてこれからも戦ってくというロックオンの決意だった。
刹那は敵母艦、ソレスタルビーイングの中へ潜入していた。
ヴェーダの本体のある場所へ行き、辺りを見渡す。
「これが、ヴェーダの本体・・・!」
そう言ったところで何か漂うものが視界に入る。
反射的に近付いていってみると、それは紫色のパイロットスーツを身に纏った仲間の亡骸だった。
「ティエリア!?ティエリア・アーデ!」
額の中央を撃ち抜かれ、既に彼は事切れていた。
遣る瀬無さを感じながら俯き、「仇は討つ、」と呟いた刹那だったが、思わぬ返事が戻ってきた。
((勝手に殺してもらっては困るな))
どこからか、ティエリアの声が響く。
肩を跳ねさせ、刹那は仲間の姿を探す。
「どこだ!?どこにいるティエリア!?」
((今、僕の意識は、完全にヴェーダとリンクしている))
ティエリアの声に「ヴェーダ?」と刹那が問う。
((僕はイノベイター・・・否、イノベイドで良かったと思う。この能力で君たちを救う事ができたのだから。
ヴェーダと繋がる事で、僕は全てを知ることができた。今こそ話そう、イオリア計画の全貌を))
「イオリア計画の・・・全貌・・・!」
刹那は瞳を見開き、ティエリアの声に耳を傾けた。
((我々の武力介入行動は、矛盾を孕みつつも、世界の統合を促し、例え滅びようとも、人類の意志を統一させることにあった。
それは、人類が争いの火種を抱えたまま、外宇宙へ進出することを防ぐためだ。
人類は、変わらなければ未来を紡ぐことは出来ない。いずれ巡り合う、異種との対話に備える為にも。その為にも、僕達は・・・))
解り合う必要がある。
ティエリアはそう言った。
『トレミー、今から一時帰還する』
刹那からの通信が響く。
ブリッジでフェルトがそれに「了解」と返す。
プトレマイオス2の艦内へ収容されたGNアーチャーとカマエル。
完全に半壊以上の状態となった為に押し込まれているような状態だ。
最初こそカマエルの状態にフェルトに泣かれそうになったが、が元気な姿を見せた為に事無きを得た。
マリーとレーゲンはメディカルルームで回復カプセルに入る事になった。
ジュビアがそこについているので問題は無いが、戦力は大幅にダウンした。
Oガンダムも、気付けば流されてしまったようだった。
はカプセルに入る前のレーゲンに簡単な治療や処置をして貰っていたので、問題は無かった。
しかし、機体が無い。
カマエルはほとんど壊れてしまっているし、別の機体も無い。
それでも、彼女は心に決めていた。
パイロットスーツを着たままの彼女に、フェルトたちは訝しげな声をあげた。
「・・・、補助席にでも・・・、」
そう言うフェルトにはゆっくりと首を振った。
「私はまだ戦える。彼と一緒に」
そう言いアレルヤを見上げる。
の言葉にスメラギは瞳を大きくする。
が、すぐに苦笑し「仕方ないわね」と言い腕を組んだ。
「補助シートをつけている余裕なんて無いわよ?」
「俺の膝があんだろ」
問題ねぇよ。
そう言うハレルヤにスメラギの隣に居たビリーが複雑な表情をする。
も困ったように笑い、ハレルヤを見上げる。
「・・・安全運転でお願いします」
「お前が言うか、それ」
ハレルヤは笑みを浮かべ、の頭を軽く小突いた。
動き出す二人にフェルトが首を動かす。
、と彼女を呼ぶと彼女はゆっくりと振り返った。
「無茶、しないでね。絶対死なないで」
戻ってくる。
以前そう約束して戻らなかった彼女。
5年前は鎮痛剤を使用してまで戦場へ出たは、戻ってくる事は無かった。
みんなを守れるのなら、この命は散らしても構わない。
正直、はそう思っていた。
けれど、今は、
は軽く壁を蹴ってフェルトの真横まで移動する。
そのまま彼女の手に自身の手を重ね、微笑んだ。
「もう大丈夫、私でも、居なくなったら悲しんでくれる人が居るって事、分かったから」
「・・・、」
「いっぱいの想いがあるから。シンも、刹那も、みんなも教えてくれた。
いっぱいの気持ち、グラハムも、ヨハンもたくさんくれた。気付くのが遅かったんだね、私」
そう言い微笑んだ彼女にフェルトは若草色の瞳を大きくした。
いつだって、自分を犠牲にしてきた彼女。
それが今、こうも理解して、生きようとしてくれている。
フェルトはそれに嬉しさを覚え、微笑んだ。
「・・・気をつけて」
「うん。アレルヤもハレルヤも一緒だから、大丈夫」
フェルトたちも、気をつけて。
はそう言うと、アレルヤと共にブリッジを後にした。
彼らを見送った後、一瞬静寂がブリッジを包んだが、直ぐに事は起こった。
トライアルフィールドを発生させていたセラフィムが破壊されたのだ。
「セラフィム、大破!」
「ティエリアは!?」
「反応ありません・・・!」
フェルトの報告にスメラギが声を張る。
パネルを操作しながらミレイナが涙声でそう答える。
「もっとよく探すのよ!」と言うスメラギも焦りの表情を見せる。
「・・・トライアルフィールドの中で、動ける敵が居る?」
「彼だ・・・」
セラフィムを破壊したのは狙撃だった。
トライアルフィールドが発生している中で動ける敵。
それを考えていたスメラギの横で、ビリーがぽつりと零す。
「彼?」
「イノベイターを超えたイノベイター・・・」
アリオスの下へ移動していたとアレルヤも直ぐにコクピットに身を滑り込ませる。
先にシートに腰を下ろしたアレルヤの上にがふわりと降りてくる。
バイザーを閉じ、アリオスを起動させる。
「・・・この感覚・・・」
ぽつりと呟いたにアレルヤが小首を傾げる。
嫌な感じがする。
そう言う彼女の腰をしっかりとアレルヤが支える。
「大丈夫だよ」と言う彼を見つめ返し、彼女は彼が握っていない方の操縦桿を握る。
「・・・刹那が戦ってる、きっと」
「ああ。僕たちも行こう」
出撃準備をする中、アレルヤとは静かにそう言った。
私を連れてって。
やっと手を引かれて連れて行ってもらいました。
そしてライルがロックオン・ストラトスになる決意。これすきです。