終わったんだ。
そう思えばとても気持ちが軽くなった。
自分たちに出来る事。
はソレスタルビーイングに残り、解り合える為の世界を築く手助けをする。
表立った活動は当面無いだろうが、此処に残って、出来る事をしたかった。
アレルヤは一度艦を降りて、地上で戦場の跡地などをまわるらしい。
マリーと共に、兵器として改造された自分たちにも出来る事を探しに。
こそ、着いていきたい気持ちがあったが、自分の存在理由、価値はソレスタルビーイングで示したい。
そして、純粋種として覚醒した、刹那を支えていきたい。
それが彼女の答えだったからこそ、彼らを見送る決意をした。
アレルヤも、着いてくると思っていたようでが断った時酷く落胆の表情を浮かべていた。
出立の準備もある中、艦内は慌しかった。
ガンダムの整備や新しい機体に関しての開発、武装の準備等もある。
そして戦いから損傷したトレミーも修理しなければならない。
ティエリアが居なくなった今、プトレマイオス2に残るマイスターは刹那、ロックオン、の三人になる。
レーゲンもプトレマイオス2を一旦降りて地上の者たちの世話に行くというし。
ジュビアも当然彼に着いていくという。
アレルヤの部屋に呼ばれたは、仕事を終えた後に訪れた。
彼の部屋のブザーを鳴らすと、すぐにドアのロックが解除される。
「忙しいのに、ごめん」と言い彼は穏やかな笑みを浮かべ、招き入れてくれた。
「準備は終わったの?」
「元々、荷物なんて無いからね」
アレルヤは苦笑してそう言い、の腕を引く。
そのまま彼女を腕に抱き、心地良さそうに瞳を伏せた。
名を呼ばれたは顔をあげ、触れるだけのキスをした。
アレルヤとこのような恋人らしい事をするのは最近が初めてだ。
こんな風に恋人扱いされた事なんて、にとって無い事だったので全てが新鮮で、だからこそ、戸惑う。
アレルヤの胸に頭を預ける。
「・・・君との幸せな未来の為に、僕は僕の道を探すよ」
「うん、分かってるから」
は微笑む。
反して、アレルヤは複雑そうに眉を潜めた。
その、と言い辛そうに言葉を濁す彼に、は小首を傾げた。
「君が艦に残る理由って、やっぱり刹那の為・・・?」
金と銀の瞳を揺らす彼に、は瞳を丸くした。
は残る理由を以前アレルヤにも話していた。
戦いの為に残るというよりも、刹那の為に残る。
アレルヤには、そう聞こえた。
「そう、かもね。刹那、きっと戸惑うと思うから・・・」
変革した自分に。
だからこそ、理解して、受け止められるように、傍に居たい。
そう言うはアレルヤは眉を下げた。
「・・・刹那の事・・・君は・・・、」
「・・・アレルヤ?」
じ、と見つめてくる。
アレルヤはどうしたのだろうか。と、まるで探るように。
気まずさを覚え、思わず視線を逸らしたアレルヤに、は腕を動かす。
自分を抱き締める腕に手を添えて、爪先を伸ばす。
背伸びをして、そのままアレルヤの唇に自分の唇を重ねた。
突然の事にアレルヤの金と銀の瞳が大きく見開かれる。
初めての、彼女からのキス。
目じりを赤く染め、彼は心地良さげに瞳を伏せた。
離れた後、は「ばーか」と言って悪戯っぽく笑う。
「私と刹那は、家族みたいなものなんだから」
もうシンと重ねてもいないし、大丈夫。
そう言うはアレルヤは「そっか」と言いはにかむ。
直後、切り替わったようで瞳を鋭くさせ、の腕を引いた。
わ、と思った時には近くのベッドの上に下ろされ、彼の足の間に座り込んでいた。
「浮気するんじゃねぇぞ」
「そっちこそ」
私は嫉妬深いんですよー、と悪戯っぽく笑う。
はそのままハレルヤの胸に飛び込んだ。
ぎゅう、と彼を抱きしめる。
それに嬉しそうに口の端をつりあげ、ハレルヤは体を横にした。
彼女の背と腰に腕を回し、軽く瞳を伏せる。
「寂しいんじゃねぇのか?」
「でも、心は繋がっているから」
「体は?」
ハレルヤはそう言うと、身を捩る。
そのまま彼女と向かい合うように、横になる。
は空色の瞳を丸くしてハレルヤを見つめ返す。
ハレルヤは瞳を細めた後、キスをした。
愛しい人からの口付けに、は心地良さげに瞳を伏せたが、ある感覚に瞳を見開く事になる。
ぺろりと唇を舐められ、口内にそのまま入れられる。
突然の事にが驚いていると、舌と舌が絡められる。
くちゅり、と水音が響く中、ハレルヤの腕が動く。
の後頭部と背に手を置いて、ゆっくりとした動作で横にさせる。
上に跨ったハレルヤは、そのままキスを続ける。
いつもと違うそれに戸惑いつつも、もちろりと舌を動かした。
それにハレルヤは気分をよくしたようで、更に口付けを深くする。
((ハレルヤ・・・!))
(邪魔すんなアレルヤ。今しかねぇだろ)
((でも、彼女の気持ちも・・・))
「・・・ん、」
頭に響いたアレルヤとハレルヤの声。
それに反応すると、最後にひと吸いしてからハレルヤが顔を離した。
「お前は俺が好きなんだろ?」
「・・・う、うん。ハレルヤが好き」
「だったらいいじゃねぇか」
そう言ってハレルヤはの上体を起こし、上着を外す。
されるがままになっているの頭に、またアレルヤの声が響く。
((ハレルヤ!))
(お前も一緒に楽しもうぜ、アレルヤ)
((だから、彼女の意思も・・・))
「私の意志?」
小首を傾げるに、ハレルヤが笑む。
「体の調子も戻ったんだろ。だったら心だけじゃなく、体も繋がっていいだろ?」
俺たちはずっと望んでいたんだ。
ハレルヤの言葉にが瞳を丸くする。
アレルヤとハレルヤが口論する声が響く。
それをぼんやりと聞きながら、は彼の手に自身の手を重ねた。
「・・・こうすれば、繋がれるよ?」
温かい手。
じんわりと彼の体温が伝わってくる。
それに心地良さを感じて微笑むに、ハレルヤは呆けた表情をした。
「・・・お前、まさか・・・」
「ん?」
小首を傾げるに、ハレルヤが項垂れる。
が、すぐに顔をあげ、口の端を吊り上げた。
「・・・上等だ。いいじゃねぇか。俺が全部教えてやるよ」
((そんな、はきっと何も知らないのに・・・!))
「だったらお前は見てろよアレルヤ」
ハレルヤはそう言いの両肩に手を置いて、軽く押した。
再度ベッドに倒れこんだに、ハレルヤが跨る。
「こちとらこれでも我慢してたんだ。たっぷり楽しませてもらうぜ」
そう言いハレルヤは言葉とは裏腹に、優しい手つきでの髪を撫ぜた。
くすぐったさに身を捩ると、身を屈めた彼に頬にキスをされる。
「好きだ」
耳元で囁かれ、胸が高鳴る。
は傍にある彼の耳に口付けを落とすと、両手を彼の首に回した。
「私も、大好き」
そう言い瞳をゆっくりと伏せた。
メディカルルームでレーゲンはデータをまとめていた。
フレイやレイから送られてきた近況報告も、彼らの生体データも全て一緒に。
デスクワークばかりしていたので、体が酷く固まってしまった気がする。
伸びをしたレーゲンの背後から、ジュビアが腕を回す。
「・・・なんだよ、ジュビア」
「終わったのかなーって思ってさ」
甘えるように頭に顎を乗せるジュビアに、レーゲンは苦笑する。
正直、まだ終わっていなかったが長い間放っておいてしまっていた相棒だ。
構ってやりたい気持ちはあった。
「地上に降りたら、お前も大変になると思うが・・・」
「いいぜ。俺はレーゲンの為ならなんだってしてやるよ」
そう言いながらレーゲンの肩をほぐす。
そんなジュビアに笑みを零し、レーゲンは腕を動かす。
ジュビアの頭に触れ、優しく撫でる。
彼はそれに嬉しそうにし、更に擦り寄ってきた。
「・・・そういえば、マリーは支度出来たのかな」
ふと思い出してそう言うと、途端にジュビアが表情を顰める。
レーゲンが椅子から立ち上がり、伸びをする。
体を解すついでにマリーの様子も見てくるか。
そう思ったレーゲンの腕を、ジュビアが掴む。
「どこ行くんだよ」
「え?ちょっと体を解しに・・・」
「俺も行こうかなー」
口の端を吊り上げて言うジュビアにレーゲンは困ったように笑う。
恐らくマリーの様子を見に行こうという事を見越してそう言うのだろう。
邪魔してやると顔に書いてあるようだ。
レーゲンはそう思いながらジュビアの腕を軽く引いた。
「あまり好戦的にならないようにな」
微笑んで言うレーゲンに、ジュビアは嬉しそうに笑った。
通路へ出ると、丁度前からアニューが歩いてくるところだった。
名前を呼ぶと彼女は名前を呼んで近付いてくる。
「データは纏められた?」
「半々ってところかな」
終わる気がしないぜ。
そう言い肩を竦めるレーゲンに、アニューは苦笑する。
「量が量だもの。それに、全く別の生体内容な訳だし・・・」
ジュビアは手伝わないの?
アニューの問いかけに彼は眉を寄せる。
「やってんし」と言い視線を逸らす彼に、レーゲンが口を開く。
「頭使うのは苦手なんだよな」
「しょうがねぇじゃんか」
疲れちゃうんだよな。
そう言うレーゲンに、アニューは微笑ましげに瞳を細める。
「私も少しは手伝えるから」
「・・・もしかして、手伝いに来てくれたのか?」
プトレマイオス2の操舵を担当している彼女だが、医学の知識もある。
イノベイドであるアニューが、同じレーゲンを手伝いたいと思う事は、自然なことかもしれない。
彼女だって、恋人と過ごす時間も大事だろうに。
そう思うが、ロックオンはプトレマイオス2へ残ると言っていた。
二人で過ごす時間は、きっと多くあるのだろう。
「じゃあ、ジュビアと一緒にやっててくれ」
直ぐ戻るから、と言うレーゲンにジュビアは不満の声をあげる。
アニューは「わかったわ」と言うと、半ば強引にジュビアの腕を引いた。
「お、おい!レーゲン!」
「直ぐに戻るから」
お手伝いよろしく。
そう言い片手をあげるレーゲンに、ジュビアも不服ながらも従うようだった。
彼の事は今はアニューに任せて、レーゲンはマリーの下へ向かう事にした。
恐らくアレルヤはの下に居るであろうし、彼女は今一人で居るはずだ。
家族のような絆で結ばれた二人でも、いつでも一緒に居るわけではない。
マリーもアレルヤも、お互いの初恋は消して新たな相手へ進んでいくはず。
アレルヤはと。でも、一人で居るマリーがレーゲンは気懸かりだった。
もうひとつの人格、ソーマも共に居るとは思うが。
そう思いながらプトレマイオス2の中で宛がわれているマリーの部屋へ行く。
ブザーを鳴らして名前を呼ぶと、すぐにドアが開かれた。
黄色いシャツを着た彼女が、金の瞳を嬉しそうに輝かせる。
「どうしたの、レーゲン」
「ちょっと、様子見にね」
支度は終わったか?とレーゲンが問うとマリーは頷いた。
どうやら準備は既に終わっているようだ。
そっか、と言い彼は笑む。
「それならいいんだ。出立までまだあるが、今の内に体を休めておけよ」
そう言うレーゲンに、マリーは「ええ」と言い微笑んだ。
そのままの笑みを浮かべたまま、彼女は「貴方は?」と問う。
「データの纏めが大変だって・・・」
「ん?あぁ・・・俺も地上に降りるまでは終わらせるさ」
スメラギにも見せなきゃいけないしな。
そう言うレーゲンにマリーは「そう、」と言い視線を逸らす。
気分が晴れない様子の彼女にレーゲンは真紅の瞳を丸くする。
手を動かし、彼女の頭を軽く撫でる。
「どうした?」
「・・・忙しい、わよね、やっぱり」
「何か頼み事か?」
俺で良かったら、と続けるレーゲンにマリーは慌てた様子で両手を振る。
「い、いいの!貴方も忙しいんでしょ?」
「今もこうやって息抜きという名のサボり中さ」
悪戯っぽく笑って言うレーゲンに、マリーは肩を落とした。
金色の瞳を僅かに揺らし、「貴方は、」と言葉を続ける。
「・・・そうやって、優しいから・・・、」
出会った時から、彼は優しかった。
厳しい言葉を掛けるのも、相手を思ってこそ。
だからこそ、こんなにもマリーはレーゲンに惹かれる。
「・・・マリー?」
ほらまた、とマリーは思う。
彼は様子の可笑しい自分を心配して撫でてくれる。
具合でも悪いのではないかと案じてくれる。
それを分かっていて、甘えてしまうのは自分だった。
マリーはレーゲンを見上げ、彼の腕を掴んだ。
「・・・ちょっとでもいいから、」
「ん?」
「・・・傍に、居て欲しいの」
甘えてしまう。
レーゲンは当然のように了承してくれて、優しく、安心させるように撫でてくれる。
これは家族に対するような親愛のものでも、マリーは彼の優しさが嬉しくて仕方が無かった。
だから、こうやって彼が忙しい事を分かっていながらも甘えてしまう。
罪悪感を抱きながら、マリーはレーゲンを部屋へ招きいれた。
劇場版までの閑話です。
アレルヤたちが地上に降りるまでの話とかが入ります。