「自然な事なのよ」


薄紫の髪が舞う。
彼女はそう言い彼女の髪を梳いた。


「愛する人に触れたいと思う。それは普通な事なのよ」


横の髪を纏められる。
そこに彼から貰った髪飾りをつけてもらう。
鏡でそれを見ながら、はアニューを見た。


「・・・アニューも同じ?」

「・・・ええ。私も同じよ」


真紅の瞳を柔らかく細め、アニューは優しく微笑んだ。
ありがとう、と言いは立ち上がる。
短くなった髪では自分で髪飾りをつけられなかった。
しかし、出立の時くらいは、彼から貰った髪飾りをつけたかった。
偶々アニューと出会って頼んで、今に至る。


「・・・ねぇ、会いたいと思う事も、全部普通の事?」

「勿論。寂しいと思う気持ちもね」


アニューの言葉には空色を大きくする。
すぐに瞳を細め、「そっか」と言い肩を下ろした。










今日はアレルヤたちの出立の日。
既にスメラギは彼らと話をしているようで、マイスターや他クルーたちも集まっている。
はアニューと一緒に、彼らのところへ向かった。
彼女の姿を目に留めた途端、アレルヤの表情が柔らかくなる。


、」


スメラギたちが道をあける。
がアレルヤの前へ行くと、彼は嬉しそうに目元を和らげた。


「・・・それ、つけてくれたんだね」

「今日くらいはつけたくて・・・貴方に貰ったものだから」


はにかんで言うにアレルヤが微笑む。
甘々なこって、とロックオンが零すのをアニューが諌める。
出立組に入っているレーゲンたちも苦笑する。


「それじゃあ、スメラギ。定期的に連絡はするから」

「ええ。色々頼んじゃって悪いわね」

「レーゲンには俺が居るんだから大丈夫だっつの」


会話に割り込んできてレーゲンの肩を抱いて言うジュビアに、スメラギは苦笑した。
相変わらずね、と言い次にアレルヤに向き直る。


「貴方も、にはしっかり連絡をね」

「勿論です・・・あ、も、勿論定期連絡はしますよ?」

「勿論よ」


腕を組んで言うスメラギにマリーが笑む。
トレミーへの定期連絡よりも、への個人的な連絡が主になりそうだと誰もが思った。
はアレルヤを見上げ、彼の手を両手で包んだ。


「気をつけてね・・・」

も、色々と気をつけて」


アレルヤの言葉にロックオンが噴出する。
色々だってさ、と言い彼は隣に居た刹那の肩を軽く叩くが、振り払われていた。
そんな二人に、アニューたちが笑みを零す。


「私には刹那たちが居るから大丈夫だよ」

「それが問題なんだけどね」


アハハ、と笑いながらアレルヤは刹那を見やる。
視線が合った二人に、周りが注目する。
ミレイナは「ドキドキですー!」と言いはやしたて、フェルトも興味津々といった様子で見つめている。


「・・・俺に任せてくれてもいい」

「凄く心配なんだけどね・・・何かあった時は頼むよ」


君も元気で。
アレルヤはそう言い刹那から視線を逸らした。


「私も、連絡するし会いに行くから」

「・・・うん。そうだね」


お互いとれる時間は極僅かなものになるだろう。
それでも二人は、その道を選んだ。
寂しさはあるが、後悔なんてない。


「・・・気をつけてね」

「そればっかり」


ふ、とアレルヤが微笑む。
そのまま彼女の頬に触れ、軽く指先で撫ぜる。


「好きだよ。離れていても、この想いは変わらないから」

「ア、アレルヤ・・・!!」


突然そんな事を言われ、が赤面をする。
二人のラブシーンにミレイナは大はしゃぎをし、フェルトも顔を真っ赤に染めた。
擽ったそうに身を捩るだが、アレルヤが離さなかった。
一瞬ハレルヤになったのではないかとも思ったが、優しげに瞳を細めるそれは、アレルヤのものだった。


「あ、あの・・・」

「だから、忘れないでね」

「え・・・?」

「僕たちの気持ちを」


たち、というのはハレルヤの事も含まれているのだろう。
は瞳を瞬かせた後、こくこくと頷いた。
その様子に満足したのか、アレルヤは「いいこ、」と言って彼女の髪を撫ぜた。


「あまりこうしていると名残惜しくなっちゃうからね・・・そろそろ行くよ」


マリー、準備はいいかい?
固まるを前にして、アレルヤはそう言う。
声を掛けられたマリーもフェルトやミレイナへの別れの言葉を告げて歩み寄る。
レーゲンとジュビアも、準備は出来ているようだった。

アレルヤ、マリー、ジュビア、レーゲンが連結路の前に立つ。
スメラギを筆頭に、トレミークルーが彼らを見送る。


「それじゃあ、またな」

「ええ。気をつけてね」

「いつでも帰って来いよ。此処はお前らの家でもあるんだからな」


ラッセの言葉にアレルヤたちが笑む。
それでは、と言い背を向ける彼らに、固まっていたが慌てた。


「あ、アレルヤ!」


の言葉にアレルヤが振り返る。


「・・・わ、私も・・・、その・・・気持ち、変わらないから・・・!」


両手の拳を強く握って言う彼女に、アレルヤが瞳を丸くする。
が、すぐに破顔し、応えるように片手をあげる。


「マリーも、気をつけてね・・・」

「ええ、もね」

「何かあったらすぐ連絡だぞ」

「レーゲン、心配性・・・」

「てめぇ、レーゲンが折角親切で言ってんのによ・・・」


各々もと別れの挨拶をし、連結路から出て行く。
最初にジュビアとレーゲンが入り、マリーが続く。
最後にアレルヤが出て行く間際に、振り返る。
まだ何かあるのかな、と思い小首を傾げる


「・・・今度会った時は覚悟しておけよ。もう抑えはきかねぇからな」

「・・・え?」


じゃあな。
そう言い彼は扉の奥へと消えた。
残されたは瞳を丸くして、理解が追いついていない様子だった。
小首を傾げるに、ロックオンがまた噴出す。


「かっこつかねぇな、あいつ」

「ライル・・・」


アニューが諌めるような声を出すがロックオンは気にした様子は無かった。
肩を竦めた後、彼はの肩を軽く叩く。


「ま、頑張れよ」

「え?・・・は?」

「ライル・・・!・・・もう、、行きましょう」

「え、あ、うん」


アニューに腕を引かれ、半重力の中を移動する。
移動する直前、スメラギやラッセたちの苦笑も見えた。
最後のハレルヤの言葉は何だったんだろう。
そんな事を思いながらはアニューと一緒に移動をした。

着いた先は展望室で、ガラス越しにアレルヤたちの乗った小型艇が見えた。
ガラスに手をついて其方を見ていると、隣にアニューが並んだ。


「寂しくなるわね」

「・・・うん、でも、想いは代わらないから」


私は大丈夫。
そう言って微笑んだにアニューも笑みを返した。
は小型艇が見えなくなるまで見送った後、視線を外した。
そこにイエローハロを持った刹那とロックオンが展望室に入ってくる。





刹那の手から飛んでの目の前まで耳のような部位を開閉させながら近付いてきた。
両手でイエローハロをキャッチすると、はそれを見下ろした。


『サミシイノ、、』

「ちょっとね。でも、みんなが居るから大丈夫だよ」


ね、と言いは刹那たちを見やる。
それに頷き、刹那も彼女に近付いた。


「本当に、大丈夫なんだな」

「・・・心配性なんだから・・・大丈夫だってば」


微笑んで言うに刹那も深く聞く事は無かった。
ロックオンはそんな二人の間に入るように腕を伸ばしての髪に触れた。


「しかし、似合うじゃないか。髪が伸びたらもっと結えば良い」

「・・・じゃあ、アニューとライルにお願いしちゃおうかな」


悪戯っぽく笑って言うにロックオンが瞳を丸くする。
「俺も?」と問う彼に頷く。


「うん、ライルも得意なんでしょ?」

「俺も・・・って、おいまさか、」


ロックオンの瞳が僅かに大きくなる。
彼の言いたい事を理解して、は困ったように笑った。


「駄目、かな?」


以前、彼と約束をした。
スローネに再度武力介入をする為にエクシアと強襲用コンテナ、ミカエルが地上に下りる時に。





「帰ってきたら、前に約束した事しようぜ」

「前に約束?」


小首を傾げるにロックオンは「おいおい、忘れちまったのか?」と言いわざとらしく肩を落とした。


「髪、結ってやるって言ったろ?」


結構前だけどな。
そう言うロックオンには「あ!」と声をあげた。

確かルイスに三つ編みをしてもらった時だった。
ロックオンもいつかしてくれると。

はそう思い、自分の髪にそっと触れた。


「じゃあ、帰ってきたらやって?」

「ああ。とびっきり可愛くしてやるよ!」





約束が果たされる事は、無かったが。
前代ロックオンであるニールとの事を思い出していた。
はロックオンを見上げて口を開いた。


「前に髪を結ってもらう約束をしたんだけどね・・・」

「兄さんは約束を守れなかったって事か」

「代わりって意味じゃないんだけど、アニューだけじゃなくてライルにもやって欲しいなって思って・・・」


駄目?
そう小首を傾げて問うにロックオンは小さく息を吐いた。


「駄目なもんか」


そう言うと彼は手を伸ばしての髪を優しく撫ぜた。
空色の瞳を丸くして見上げると、彼は優しく微笑んだ。


「大切な妹のおねだりだ。聞かない訳にはいかないだろ」


つられたようにも笑い、うん!と明るく返事をした。




アレルヤたちとお別れ。
次回から新章です。