「貴方の影は 微笑み映して 涙の雫そのまま隠してる」


歌声が響く。
それを聞きながらオルガは言われた作業を行っていた。
久々にレーゲンが戻ってきた。
彼と会うのは自分たちが医療カプセルに入る前になるから、長く会っていなかった事になる。

彼が連れて来たイノベイターと一緒に行おうとしていた事。
戦う為じゃない機体を作るなんて、馬鹿げてるとも思ったが、異を唱えるつもりは無かった。
コーディネーターのミーア、知識のあるレイが主軸に手伝いをする中、細々とした事はオルガたちの仕事になった。


「あいつ、よく歌いながらあんな事出来るよな」


レーゲンに言われたデータをまとめながら、クロトが言う。
彼の視線の先では計算式を端末で組み立てているミーアの後姿が見える。
それにオルガは瞳を僅かに細めて口を開く。


「そっちのが集中出来るんだとよ」

「変な奴」

「おめーには言われたくねぇだろうよ」

「ンだと?」


苛立った様子のクロトの突っかかりを気にせずオルガは視線を動かす。
流された事に舌打ちをしたクロトを、シャニが横目で見ていた。
見てんじゃねぇよ、と言い息を吐いた後、クロトは階下のレーゲンに視線をやった。


「なぁ、まさかずっと作業かー?」

「否、流石にそれはね」


ソレスタルビーイングとも協力して作っていくさ。
そう言いレーゲンは顔をあげた。


「・・・今日は騒がしいな、クロト」

「あいつが居ないから寂しいんだって」

「デタラメ言うな、シャニ!」


ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるブーステンデットの彼らを微笑ましく見守りながら、レーゲンは微笑んだ。
猶予はまだある。
来るべき対話もあるが、それよりも刹那の望んだ戦いを終わらせる為の機体。
時間はあるが、出来る限り早く見せてやりたいものだ。
そう思いながらレーゲンは画面に視線を戻した。


「・・・レーゲン、宇宙のソレスタルビーイングから連絡が来ているぞ」

「んー?」


レイに呼ばれ、声だけを返す。
読み上げてくれ。
そう言いレーゲンは手を動かした。


・・・みんなが居れば、結構夢じゃないかもな


心強い奴らだ。
そう思いながらレーゲンはレイの言葉に耳を傾けた。










ぐっと腕を引かれた。
不意の行為に刹那が振り返る。
は空色の瞳を揺らしながら、真っ直ぐに刹那を見詰めていた。


「・・・どうした?」

「・・・あのね、刹那・・・」


安心させるように刹那は深紅色を細めた。
腕を掴む手に自分の手を重ねる。


「・・・言葉で伝えなきゃ、いけない事だから」

「・・・そうか」


想いが伝わる。
それでも、言葉で伝えなければいけないという彼女の決意を受け止める。
刹那は正面からを見据えて優しく微笑んだ。
それを見て彼女は瞳を大きくしてから小さく息を吐いた。


「・・・想ってくれて、ありがとう」


嬉しい。その感情が伝わってくる。


「貴方の想いに同じものは返せないけど、私だって、貴方を想ってる」

「ああ・・・分かっている」

「変革したからとか、そうじゃなくて、私は刹那を支えたいの」

「・・・ああ」

「好きだけど、違う好きなんだよね・・・難しいね、」


の言葉に刹那は再度「ああ、」と返す。
ぎゅ、と握る手に力を込めるとは眉を下げて笑んだ。


「・・・こんな私でも、刹那を支えてもいいの?」

「ああ。君は、俺の特別だから」

「・・・刹那が他のみんなを大事にしているのも知ってる。ひとつって絞れない事も、知ってる」


にこり、と微笑む。
刹那も柔らかい表情のまま、の手を引いた。


「君が好きだ」

「私も、好き」


同じではないけれど、気持ちは本物。
抱擁を交わす中で、二人は心地良さげに瞳を伏せた。

トクントクンと伝わってくる心音。
脳量子波を通じて伝わってくる相手の想い。

想われている。想いあっている。
ただ、少しだけ感情が違うだけで、こんなに、


―――想ってくれて、ありがとう。


はそう思いながら、ぽろりと涙を一滴零した。


「いいんだ。アレルヤと居るが良いんだ」

「ありがと、刹那」


ソラン。

頭に声が響いた。

が空色を開いて体を離すと、刹那が瞳を丸くしていた。
無意識のうちに思っていたのだろうか、
そう思いながらが小首を傾げる。


「ソラン?」



「あなたの、名前?」


ソラン。
もう一度呟く。
それに刹那は戸惑った様子で頷いた。


「へぇ・・・本当は、そっちで呼んで欲しい?」

「分からない・・・最近は分からない事だらけだ」

「色々、感じてるんだね・・・呼んで欲しい時に、呼んじゃうね」


いい?と問う彼女に刹那は無言で頷いた。
先ほどとは打って変わって子どものような表情。
まるで迷子の子どもみたいな刹那には加護欲をかきたてられ、ついつい頭を撫でていた。


「・・・くせっ毛だね」

「・・・お前もな」


ふふ、とお互いに笑い合った。
その時傍らにあった端末がぴぴ、と音を立てた。
直ぐに二人で動き、刹那が応答をする。


「なんだ?」

『ミッションなんだけど、いいかしら?』

「当然!」


が明るい笑顔で答える。
それにスメラギは肩を竦めて笑ってみせる。


『頼もしいわね。詳しくは通信で話すから、パイロットスーツに着替えてくれる?』

「「了解」」


通信が途切れ、二人で通路に出て移動をする。
移動用レバーを使い移動する中で、が振り返って刹那に声をかける。


「ね、どの機体使うの?」

「・・・俺は、フラッグだろうな」


ガンダムは使えない。
ソレスタルビーイングと悟られる訳にはいかない。
はアヘッドだろうか。
そう思いながら刹那は彼女の背を見つめた。

戦いは好きではない。
脳量子波対応型のアヘッドに搭乗しながらは小さく息を吐いた。
刹那はフラッグに搭乗した様子で、既に準備を進めている。
アヘッド・ロドクルーンと名づけられた専用の機体を起動させる。


『アロウズの残存部隊が地球連邦政府を狙っているわ。新政府への反抗勢力よ』

「部隊勢力は?」

『GN−XVが7機よ。スモークを発射して視界を奪ってから強襲してちょうだい』

「りょーかい」


はそう言いながらバイザーを下ろした。

戦いは好きではない。
それでも、ソレスタルビーイングとして戦う決意をしたのだから、逃げる訳にはいかない。
地上では、アレルヤだってレーゲンたちだって頑張っているのだから。

そう思いながらは操縦桿を握った。


「・・・・ルーシェ、アヘッド、出撃します!」




刹那失恋。
可笑しいくらい一途になってしまった・・・。