ラグランジュ3宙域の建設中コロニーにアザディスタン第一皇女マリナ・イスマイールは視察に来ていた。
しかし、直接の視察を許可されずに、同行していたシーリンが怒りを露にしていた。
「直接視察出来ないってどういう事です?」
「バフティヤール議員」
スペースシップの中でシーリンがコロニー公社の者へ詰め寄る。
「コロニーの開発はまだ初期段階で危険も多い。中東使節団の代表である貴女方の身に、万一の事があってはなりませんから」
「作業班の大半は、前政権の中東政策でコロニーに強制移住をさせられた人たち。彼らの中には本国への帰還を望む者も居るはず!」
「我々コロニー公社は、連邦法に定められた通りの環境を、作業員に与えております。それに、高収入であるこの仕事を、止めたがる者など居りませんよ」
「なら視察をしても!」
「危険だと申しました」
シーリンの言葉を遮るようにコロニー公社の男が口を開く。
そのまま言葉を続ける男に、シーリンは瞳を細めた。
「視察は、資源衛星宙域のみで行っていただきます」
「其方のご都合は、良く分かりました」
言い争いの中で、凛とした声が響く。
その場にいた全員が視線を声の主である、マリナへ向ける。
「出来れば、作業員とその家族達に、直接面会をさせていただけませんか。私たちは、彼らに直接話を聞いてみたいのです」
「・・・話を、ですか」
マリナの言葉にコロニー公社の男の表情が曇る。
直後、傍らに居た男がその男へ何事かを囁く。
それに頷いた後、また人の良さそうな笑みを返し、男は口を開いた。
「分かりました。では、作業員宿舎への慰問を日程に組み込みましょう」
「ありがとうございます」
「では、視察後の会談で」
そう言い彼らはスペースシップから降りていった。
一人の男が残ったが、シーリンは彼らのやり取りに違和感を感じていた。
スペースシップが移動を開始し、資源衛星の中を進んでいく。
が、徐々にルートが変更されている事に気付いたシーリンが声を掛ける。
「視察ルートから外れていない?」
「ご要望にあった、作業員宿舎に向かっています」
「わざわざ資源衛星に宿舎を作る?」
どういう事。
シーリンが問いかけるが男は「さあ、そこまでは」と淡々と返すだけであった。
そのやり取りを見ていたマリナが、男に声をかけた。
「貴方は、このコロニーの開発現場をどう捉えていますか?」
「・・・連邦法の労働条件は、満たしていますが」
「貴方の言葉で話してもらえませんか?私は、中東の民は勿論ですが、貴方にも幸せになってもらいたいのです」
「・・・家族が幸せであれば、私も幸せです」
男の言葉にマリナは僅かに表情を悲しげにゆがませた。
確かに男の本心なのであろうが、それはマリナの求めていた回答ではなかった。
マリナは次にシーリンに声をかける。
「シーリン。コロニー公社が私たちの直接視察を許可して下さってよかったわね」
「マリナ姫・・・連邦政府がひとつとなったからといって、全てがひとつになったとは限りません。
公社では、強制移住で手に入れた労働者を手放したくない者も居るでしょう。
全てが協力的だとしても、少しは疑っていただいた方が・・・」
「様々な事情があるのは分かっています」
マリナはそう言いやわらかく微笑んだ。
直後、
『船長より乗客の皆様へ。所属不明のMSが接近。念のため、シートベルトを着用して下さい』
艦内放送が響いた。
直後、GN−XWが数機、此方に接近しているのが見えた。
「コロニー公社のMSじゃないのか・・・!?おい!!」
中東使節の内の一人が声をあげるが、コロニー公社の男は微動だにしなかった。
来るぞ!
誰かがそう言った直後、GN−XWはビームライフルを構える。
シーリンが咄嗟にマリナの肩を掴む。
直後、別方向からのビーム攻撃がGN−XWを襲う。
変形状態のフラッグが突如現れ、GN粒子入りのスモークを発射する。
視界を奪われたGN−XWの背後から一気に接近し、撃墜していく。
3機居る内の1機がスペースシップに向かう中、もう1機また撃墜。
GN−XWがスペースシップに狙いを定めるが、意外な事に避けられてビームが当たらない。
急回避による揺れの中で、マリナはシーリンの腕を掴んだ。
顔を上げた直後、フラッグに撃墜されているGN−XWが見えた。
あれは、
マリナがそう思っていると、銃特有の音が響く。
振り返ると、先ほどのコロニー公社の男が銃を構えていた。
止めに入ろうとした中東使節の男の肩が撃たれる。
周りの者も頭をおさえたりし、震える者も居た。
シーリンはマリナを守るように彼女を抱き締める。
「こんな事をして・・・!」
「・・・これで、貴方の家族は幸せになれるのですね・・・?」
マリナの言葉に男の瞳が見開かれる。
銃口を向けられながらも、真っ直ぐに男を見返すマリナ。
男が眉を潜めた瞬間、ドアのスライド音が響く。
咄嗟に男が振り返り銃を構えるが、それより先に別の銃声が響いた。
撃たれた。
男は体制を崩し、半重力空間を舞う。
それに周りに居た男たちが取り押さえ、銃も確保した。
「襲撃が駄目なら暗殺かい?コロニー公社も無茶するねぇ」
運転席から出てきた男が両手を上げながら言う。
マリナが「貴方は?」と問う。
「名乗るほどの者でも無いさ」
そう言い彼は軽い動きでドアの方へ向かう。
「それじゃあな」と言い軽く手をあげる。
シーリンが「待ちなさい!」と声を張るがそれより先に彼は宇宙空間へと出て行ってしまった。
フラッグに乗り込む男を見送りながら、「ジーン1・・・」とシーリンが呟く。
「・・・ソレスタル、ビーイング!?」
彼ら、まだ活動を続けていたの。
マリナはそう思いながら去るフラッグを見つめた。
「挨拶しなくていいのかい?」
通信モニターに映るロックオンが問う。
刹那は「その必要を感じない」と短く返すとロックオンも「あっそ」と言い背もたれに寄りかかる。
それに、気になる事もある。
急いでプトレマイオスに帰還する。
そう言う刹那にロックオンは大きく息を吐いた。
「ったく、相変わらず女心に鈍いんだよ。イノベイターの癖に」
そのままフラッグは難なくプトレマイオス2に帰還した。
格納庫まで迎えに出ていたフェルトが、ロックオンと刹那を出迎える。
「お疲れ様」
そう言いドリンクボトルを差し出すフェルトに、ロックオンが笑みを返す。
「気が利くねぇ。良い女になってきたんじゃないの?」
「そうかな?」
ロックオンの言葉にはにかむフェルト。
そんな二人の真横を、刹那は無言で通り過ぎた。
フェルトが振り返り、「ミッションは?」と刹那に問う。
「ヴェーダの情報のお陰で、未然に防げた。スメラギに報告する」
口早にそう言い去って行ってしまった刹那にフェルトが短く声をあげる。
これ、と言い手に持っていた残りのドリンクボトルを動かす。
それを見ていたロックオンが「あいつの鈍さは筋金入りだな」と言い大きく息を吐いた。
格納庫を出た刹那は、パイロットスーツを脱いでソレスタルビーイングの制服へ着替えた。
スメラギに報告をするために、ブリッジへ向かう。
その道中で、視界の端に金色を捉えて動きを止めた。
「・・・、」
名前を呼ぶと、彼女が振り返る。
ふんわりと緩く結ばれた三つ編みが舞う中、は空色の瞳を刹那に向けた。
「あ、刹那。おかえり!」
「今戻ったところだ・・・変わりは無かったか?」
「・・・ん、レーゲンが帰ってきたよ」
定期的にトレミークルーの健康診断もしないと、と言い何度かプトレマイオスに戻って来ていたレーゲン。
今も戻って来ているようなので、刹那も後で顔を出すかと考える。
は少しだけ笑みを浮かべて刹那は、と問い返す。
「ミッションはどうだった?」
「・・・ヴェーダからの情報のお陰で未然に防ぐ事が出来た」
「そう・・・それなら良かった」
そう言い黙ってしまったに違和感を感じ、刹那は小首を傾げる。
彼女から感じるこの感情は、不安。
ミッションに出る前までは彼女は元気そのものだったのに、何かあったのだろうか。
そう思っていると、が刹那の背を軽く押した。
「ほら、スメラギさんに報告に行くんでしょ?」
「・・・ああ」
「だったら、こんな所で止まってないで行かないと」
ね?
そう小首を傾げて言うに、刹那は口を噤んだ。
「・・・私は、大丈夫だから」
困った様に微笑んで言うに、刹那はそれ以上なにも言えなかった。
ならばせめて、というように彼は彼女の腕を掴んで、そのままブリッジへ向かった。
ブリッジではスメラギが出迎えてくれた。
「よくやってくれたわ。これで連邦が、コロニー側の救済にも力を入れてくれれば・・・」
「新政権が立ち上がってまだ2年。小さな問題は俺たちの手で刈り取るしかない」
「ガンダム出せば世界の抑止力になるです」
オペレーター席に座りながらミレイナが言う。
ツインテールではなく、髪を下ろし、大人びた様子となった彼女にスメラギは苦笑する。
「ミレイナ、政府が宥和政策を推し進めている今、下手に事を荒立ててもしょうがないでしょう?」
「その通り。俺たちは、ただ黙って存在するだけでいい。いざという時まではな」
ラッセの言葉にスメラギもミレイナも頷く。
その後に、フェルトがヴェーダからの定期報告を受信する。
「ヴェーダからの定期報告です。連邦軍が地球圏に落下してくる探査船の撤去作業を行うと」
「・・・探査船の、撤去作業?」
がそれに反応して呟く。
スメラギが「どこから来たか分かる?」と問うとフェルトが応える。
「木星です」
「・・・その船の詳細データ、分かるか?」
刹那の言葉に、全員が彼に視線を集める。
フェルトはすぐに「やってみます」と言い探査船のデータを探す。
「何か、気になるのか」
ラッセに言われて、刹那は瞳を丸くする。
が、直ぐにいつもの表情に戻ると「分かり次第教えてくれ」と言いの手を引いてブリッジから出て行こうとする。
しかし、いつもなら刹那に続くが動かなかった。
「・・・?」
「・・・ぁ、」
肩を揺らしては刹那を見返す。
彼女の瞳も、困惑に揺れている。
も何かを感じたのか。
刹那はそう思いながら「行こう」と優しく彼女に言葉を掛ける。
ぎこちないながらもは頷き、刹那と一緒に出て行った。
入れ違いになるように、レーゲンがブリッジに入る。
すれ違い様に彼らを見送ったレーゲンが、小さく息を吐いた。
「・・・セイエイさん、最近謎めいてます」
「イオリア・シュヘンベルグが提唱した新人類、イノベイターに刹那はなった。俺たちにはわからない何かを感じているのかもな」
「・・・ルーシェさんも、同じですよね」
ミレイナの言葉に、フェルトが表情を曇らせる。
彼らの言葉を聞いた後、レーゲンが肩を竦める。
「・・・まったく、久々に会ったらこれかい」
「ごめんなさいね・・・何だか最近、刹那も戸惑っているみたいで」
「予想はしていたさ。ま、彼女相手には別だろう?」
まあね。
スメラギがそう返すとレーゲンは頭をかいた。
そういえば、とスメラギは思う。
「の身体検査、先にしたんでしょう?異常は無かった?」
身体的にも精神的にも手を加えられた体は安定しているとは言いがたい。
それに今は彼女を支えるアレルヤが不在である。
代わりのように刹那が彼女の様子をよく見ているようだったが、それも十分ではない。
だからこそ、レーゲンに定期的に検査して貰っているのだ。
レーゲンは「あー、」と声を零し、言葉を濁す。
「・・・正直、彼女には長期休暇を取って欲しいくらいだよ」
「・・・え?」
思いもよらなかったレーゲンの言葉にスメラギが瞳を大きくする。
それは他のブリッジクルーも同じだったようで、驚いて振り返る。
「、どこか悪かったんですか・・・!?」
焦りの声をあげるフェルトにレーゲンが慌てて両手を振って否定をする。
「あ、いや、悪かった。異常はあるんだが悪いって訳じゃないんだ!」
「じゃあ何だってんだよ」
ラッセの急かすような言葉にレーゲンはコホンと一つ咳払いをする。
当人たちの居ないところで言うのも憚られるが、と呟く。
「えーっと・・・つまりはおめでたなんだよ」
レーゲンの言葉にブリッジがしん、と静かになった。
つかの間の静寂の後、
「え・・・ええええええええええ!?」
ブリッジクルーの驚きの声が響いた。
\デデドン/
!(゜∀゜)?
色々描写がアレですがご了承くださいませ。