「太陽光受信基地からの送電停止・・・それが、そんなにも気になるのかい?」
巡礼の旅の途中に、アレルヤとマリーも木星探査船の破壊活動についてを耳にしていた。
各地で起こる不可解な出来事。
恐らく、ソレスタルビーイングも何か手掛かりを探っているだろうが。
宇宙の部隊とコンタクトが取れないまま、マリーが気にしていた、モンゴルの太陽光受信基地に行ってみる事になった。
「ええ・・・何だか、妙な胸騒ぎがして・・・ごめんなさい、私のわがままに付き合わせて・・・」
「構わないさ。たまには寄り道も悪くない」
小高い丘を越えて、太陽光受信基地を見下ろす。
そこは人の気配が無く、ヘリコプターやトラックが放置されていた。
そして何より、えぐるような穴。
何かが落ちてきたのか、それとも・・・。
そう思いながらアレルヤがマリーに視線をやる。
「太陽光受信基地で一体何が・・・何か知っていたのかい、マリー」
アレルヤの問いにマリーは首を振った。
そのまま基地へ入っていき、窪みの部分に駆け寄る。
「・・・変電施設が無くなっている・・・」
どうして、と呟いた二人は辺りを見渡す。
人気がすっかり無いが、とりあえず情報だけでも。
そう思い、建物の中に入ってみる事にした。
中に入る際に「すみません」と声をかけてみても、返事が戻ってくる事は無かった。
二人で顔を見合わせた後、進んでいく為に前に出た瞬間、
「!!」
異様な光景が目に入った。
明らかに人の形をしている"それ"だが、銀色の金属部分が体に刺さっているのか、生えているのか。
グロテスクな光景に唖然としたマリーが思わず一歩下がる。
「・・・これは・・・!?」
アレルヤが表情を歪めた直後、突然二人に光が照らされた。
轟音と共に接近するトラックのライトに一瞬怯んだものの、アレルヤは咄嗟にマリーを抱えて横に跳んでそれを避けた。
直ぐに体勢を立て直して振り返るが、そこには無人のトラックがあるだけ。
二人が瞳を大きくしている間にも、周りにあったトラックが次々と動き出した。
明らかに此方に向かって来ている。
それを理解したアレルヤは「こっちだ」と言いマリーの背を押して走り出した。
施設から外に出た二人は迫り来るトラックから走って逃げる。
広い荒野よりも、入り組んでいる基地内の方が逃げやすいし情報も掴みやすい。
トラックを引き付けて、高台から一気に飛び降りる。
二人の頭上を通り抜けたトラックは転がり落ち、地面の上を滑ったが、直ぐに光に包まれて元通りに直った。
二手に別れたアレルヤとマリーだが、トラックは迷うことなくマリーの方を追い始めた。
「! マリーを狙ってる!」
((決まってんだろ。マリーの脳量子波に群がって来てんだよ))
「・・・ハレルヤ、どうして君が・・・!」
((うだうだしてる暇は無ぇ!体を借りるぜ相棒!!))
家族であるマリーは今でもアレルヤにとって大切な存在。
瞬時にハレルヤはアレルヤと精神を入れ替え、邪魔な荷物をその場に落とした。
ハレルヤに切り替わった瞬間、トラックが急カーブをし、此方に向かってくる。
「思った通りだ・・・俺の脳量子波に惹かれて来やがった!!」
そう言い駆け出す。
先ほど自分たちが飛び降りた壁に飛びついて急いで上に上る。
トラックは壁にぶち当たり大破した。
基地内に戻ったところで、また別のトラックが追いかけてくる。
ハレルヤは舌打ちをし、また駆け出した。
狭い道を通り、管の下を滑り抜ける。
トラックは怯まずに管を破壊し、突っ込んでくる。
そうしていると、前方からも別のトラックが迫ってきた。
((跳ぶよ!))
頭にアレルヤの声が響く。
ハレルヤはそれに従うように咄嗟に足を動かし、前方から迫っていたトラックの真上を飛び乗っていった。
ジャンプの勢いのまま高台へ上る。
その際に、違和感を感じた。
トラックに飛び乗る直前、何か違和感を。
「・・・今のは・・・?」
そう言い先ほどのトラックを振り返った直後、背後から破壊音が響く。
よく見ると、高所作業車が人が乗る部分をあげたまま迫ってきている。
((上だ!))
ハレルヤは頭上にあったパイプを跳んで掴み、そのままぐるりと体を回す。
高所作業車を避け、回った勢いで屋上まで移動する。
はずみで腰を下ろした後、下に集まっているトラックを見下ろす。
「へっ、来れるもんなら・・・、」
ハレルヤがそこまで言った瞬間、何かを感じた。
不思議な違和感。
それを疑問に思うよりも先に、背後からヘリコプターが迫った。
背後にはトラック。前方にはヘリコプター。
逃げ場の無くなったハレルヤは辺りを見渡す。
アレルヤも逃げ道を探しているようだが、どうにも見つからない。
一気に急降下してくるヘリコプターに、舌打ちをする。
瞬間、空からのビーム攻撃がヘリコプターを貫いた。
爆発したそれにより起こった風に、ハレルヤが足に力を入れる。
振り返ると、夕焼け空に懐かしい緑の機体が見えた。
嘗て成層圏の向こう側まで狙い撃つと豪語していた男が乗っていたガンダム、デュナメス。
粒子貯蔵タンクで動いているそれは、次々とトラックを狙撃して破壊していった。
GNフルシールドを畳んで目の前に下りてきたそれのコクピットが開く。
「悪いな。休暇は終わりだそうだ」
そう言った嘗てその機体に乗っていた男の弟を見据え、ハレルヤは瞳を細めた。
やはりただ事ではない。
マイスターを集めている事からそれを直ぐに理解したハレルヤは、アレルヤと意識交代をする。
「・・・何が起きているんだい?」
「さぁな。今分かっているのはこの不可解な現象は脳量子波の高い人間を襲っているって事だけだからな」
マリーも近付いてきて、話に耳を傾ける。
ロックオンの言葉に、アレルヤは表情を歪めた。
「・・・脳量子波の高い人間・・・?レーゲンたちは?」
「レーゲンなら丁度宇宙に上がってた。ジュビアとかは早急に地上から退避したそうだ」
「・・・そうか」
デュナメスのコクピットに入ったアレルヤが、マリーに手を差し出す。
レーゲンが無事という言葉に安堵の息を吐いた彼女もコクピットへ入る。
「とりあえず刹那と合流して宇宙にあがるぞ。も待ってる」
「・・・うん、そうだね」
アレルヤはそう言い柔らかい笑みを浮かべた。
移動するデュナメスの中、アレルヤはロックオンに問いかける。
「は元気かい?」
「この間会っただろ?・・・しっかし、ちゃっかり手出すとはな・・・」
「なっ!?」
ロックオンの言葉にアレルヤが頬を赤く染める。
そして相棒に何かを言われたのか「黙って、ハレルヤ!」と焦りを含んだ声を出す。
あたふたした様子のアレルヤにマリーが小さく息を吐いた。
「分かりやすかったぞ、有頂天」
「え、そ、そう・・・?」
金色の瞳を鋭くさせた彼女は若干冷めた目でアレルヤを見た。
どうやら彼女の中の一部は未だにとアレルヤの交際を認めていないようだった。
ロックオンは苦笑しながら刹那との合流ポイントへ向かった。
その後、刹那と合流したロックオンは宇宙へ戻った。
プトレマイオス2へドッキング完了し、連結通路を通る。
ドアがスライドし、刹那たちを出迎えたのはミレイナ、フェルト、だった。
「ハプティズムさん、ピーリスさん、お久しぶりです!」
「おかえり、アレルヤ、マリー・・・刹那とライルもお疲れ様」
アレルヤは微笑を返し、壁に手を着いて体を支える。
に「ただいま」と言い笑みを交わした後、ミレイナに向き直る。
「随分雰囲気が変わったね」
「その髪型、とても似合っているわ」
マリーがミレイナの前まで移動をする。
ツインテールから髪を下ろした彼女は明るい笑みを浮かべ「大人の女に脱皮中です」と言った。
アレルヤがフェルトに向き直り「フェルトも、」と言うと彼女は笑みを返した。
髪をばっさり切って短くしたフェルトも、随分印象が変わったように見えた。
「ピーリスさん、ルーシェさんとおそろいですか?」
「そうなのよ。と一緒の髪型にしたくって」
ふふ、と笑い合いながら言う。
マリーのそれとは反対の、金色の三つ編みが半重力の空間で舞う。
は改めて、アレルヤの前に立った。
「まだ切ってなかったんだね、髪の毛」
「なんだか、機会が無くて」
背まで伸びた髪を一つに結わいているアレルヤ。
幾分か久しぶりに愛しい彼女に見上げられ、照れたように視線を彷徨わせる。
そんな彼にはふふ、と笑みを零した。
「似合ってるけど、ちょっと邪魔になっちゃうんじゃないかな?後で切ってあげようか」
「お願いしようかな」
微笑んで言うアレルヤ。
彼を見上げながら、は笑みを柔らかくする。
大丈夫、きっと彼なら喜んでくれる。
分からない事もきっとたくさんあるだろうけれど、二人一緒なら、
そこまで考えてはふとある事を思いたった。
一緒?
もし、これから二人一緒になるのであれば、アレルヤの旅はどうなるのだろうか。
まさか着いていくわけにもいかないし、もしかしたら、彼の足を止めてしまうのではないだろうか。
そう思うと、段々不安になってきた。
自分のせいで、彼の足が止まってしまったら、
急に表情が曇ったに、アレルヤが小首を傾げる。
直後、刹那とロックオンが入ってきた。
フェルトが「怪我は無い?」と刹那に問うと彼はどこかぼんやりした様子のまま「ああ」と返した。
そこにスメラギとラッセが移動してくる。
「刹那、クロスロード君たちは?」
「連邦政府の対応で脳量子波遮断施設に避難している」
「流石新政府。良い判断だわ」
「それより頼んでいた件だが・・・」
刹那の問いかけに、スメラギの表情が歪む。
「その事だけど・・・」と言葉を濁した彼女を見て、ロックオンが声をあげた。
「その前に、一息吐かせてくれ」
「・・・そうね、じゃあ、0012にブリーフィングルームに集合で」
スメラギに「りょーかい」と片手をあげて返すと、ロックオンは歩いていった。
恐らく、アニューの下へ向かったのだろう。
はそんな彼の背を通路に出てぼんやりと見送っていた。
「アレルヤたちも休めよ。部屋はそのままにしてあるぜ」
との話は、その後でもいいだろ。
そう言うラッセにアレルヤは「ありがとう」と返す。
「、すぐに戻るから」
「・・・あ、うん」
私が案内します!と言いミレイナはアレルヤとマリーを連れていった。
恐らくマリーは身支度が終わったらレーゲンに会いに行くだろう。
アレルヤはきっと言った通りに直ぐ戻るはず。
そう思っていると、フェルトが刹那に近付いた。
「刹那、どうかした?」
「・・・否、別に」
素っ気無く返す刹那にフェルトが眉を下げる。
「何か、感じたんでしょ・・・?」
「ああ・・・だが上手く言葉に出来ない・・・」
刹那はそう言い、俯いてしまった。
そんな彼の隣に立っていたは彼を見上げる。
「・・・どうしたの?」
「・・・」
顔を覗き込む。
は、刹那の表情を見て瞳を大きくした。
脳量子波を通じて感情も流れてくる。
不安、恐れ、戸惑い、
一気に刹那の感情を感じて、は体を固くした。
そして、
「・・・刹那、」
眉を下げ、深紅色の瞳を細めて。
まるで、迷子の子どものような表情。
が名前を呼んだ瞬間、刹那に手を握られた。
瞳を丸くしていると、そのまま引かれる。
あ、というフェルトの声を聞きながら、は刹那に引かれていった。
残されたフェルトに、スメラギが近付く。
「刹那の事が、気になるのね」
「・・・何だか、怖いんです。刹那がイノベイターになってから、出会った頃の彼に戻ってしまったようで」
誰にも心を開かなかった、あの頃に。
そう言いフェルトは若草色の瞳を揺らがせた。
否、唯一には心を開いている。
けれど、彼女は、
「変革した自分に戸惑っているのよ」
そして、その能力にも。
そう言いスメラギは刹那の背を見やる。
「私たちと違う自分を、強く意識してる」
「・・・私、刹那に何をしてあげれば・・・」
「彼を、想ってあげて」
スメラギの言葉にフェルトが瞳を丸くする。
彼を、想う?と反復したフェルトにスメラギは寂しげな笑みを返す。
「そう・・・それが分かり合う為に必要な事。
たとえすれ違ったとしても、想い続けなければ、その気持ちは相手にも届かない」
スメラギの言葉を聞いて、フェルトはアレルヤとを思い出していた。
そう、確かに二人もすれ違っていた。
何度も何度もすれ違って、お互いを傷付けて。
けれども、最終的に二人が分かり合えたのは、お互いを想っていたから。
「強い想いが、人と人とを繋げていく・・・本当の意味で分かり合う為に」
スメラギはそう言い、フェルトの肩に手を置く。
顔をあげたフェルトに、微笑む。
「彼への想い、失くさないでね」
今は届かなくても、想い続けていればきっと分かり合える。
だけじゃなくて、私たちも。
フェルトはそう思い、はい、と言って頷いた。
刹那はの手を引いたまま通路を移動していた。
自分の部屋の前に来たところで、彼女の手を離す。
端末の明かりだけが、室内を照らす。
「・・・どうしたの、刹那」
「・・・」
力なくベッドに腰を下ろした刹那に近付く。
彼は深紅色の瞳を揺らがせ、を見上げた。
「・・・ソラン、」
加護欲がかきたてられる。
は彼の本当の名を呼ぶと、優しく髪を撫ぜた。
それになにかがたまらなくなったのか、刹那が一気に彼女の腕を引いてかき抱いた。
「・・・分からないんだ、本当に・・・!」
「うん・・・」
「離れて欲しくない、だが、お前の幸せを望みたい、」
「ソラン、私・・・」
「お前の中に、アレルヤの子どもが居る」
そう言い刹那はの腹部を撫ぜる。
その手は優しい動きで、どこかくすぐったさも覚える。
「離れて欲しく、ない」
縋るように抱き締めてくる。
は瞳を細め、刹那の背を撫ぜた。
「・・・私だって、ずるいよ、刹那」
このまま行っても、彼を傷付けるだけ。
それなのに、拒みきれない。
彼に向けている特別な感情は恋や愛ではない。
仲間に向けている、守りたいというもの。
彼は違うのに、
「・・・俺も、分かっているんだ」
分かっているのに、こうして甘えるずるい男だ。
そう言い刹那はゆっくりと身を放した。
「・・・金属異性体が、ルイスを襲っていた」
「・・・脳量子波に集まる、っていう?」
「その中で感じたんだ・・・否、頭に響いて、声とは違う、何かが・・・」
そう、まるで叫びだった。
そう言い刹那はの頬を撫ぜる。
叫び、と反復したは刹那の深紅色を見つめた。
「もしかしたら、お前も狙われるかもしれない。その時は、」
「私も戦うよ」
刹那の言葉を遮って言った。
だが、と言い淀む刹那に彼女は苦笑する。
「妊娠初期は、不安定で危ない。レーゲンにも言われた。でも、私が動けないだけで大きな戦力低下になる」
「・・・機体は・・・ザドキエルもクアンタも未だ・・・」
「レーゲンがパイロットスーツ、特別な物にしてくれた。それに、機体はあるじゃない」
どこに、とは言えなかった。
瞳を丸くした刹那にが笑みを返す。
その時、ブザー音が響いた。
二人でドアの方を見やる。
「・・・アレルヤか」
刹那がそう言い、ドアをあける。
そこにはソレスタルビーイングの制服に着替えたアレルヤが居た。
「やっぱり此処だった」
「すまない、少し話をしていた」
眉を下げて言うアレルヤに刹那が詫びる。
が刹那の後ろから出て行こうとすると、何故か刹那に立ち塞がれた。
あれ、と小首を傾げていると、アレルヤが眉を潜めた。
「・・・どういう事かな?」
「お前が地上に降りている間、俺は彼女に甘えていた」
突然の告白にが驚く。
淡々と告げる刹那とは反して、アレルヤの表情は穏やかなものではなかった。
「変革した自分に戸惑いながら、想い人である彼女の隣にずっと居続けていた」
「・・・知っているよ。からも刹那を放っておけないって言葉を聞いた」
「俺はどうやら、理性があまり無いようだ」
そう言い刹那は後ろに居るを部屋の中に押しやった。
突然の事に対応出来なかったが瞳を丸くしている間に、ドアが閉まってしまった。
中から開閉ボタンを押しても、一向に反応しない。
一人だけ部屋の中に押し込まれてしまったは、刹那とアレルヤの会話が聞こえなかった。
一途なフェルト。
そしておかえりなさいだけど男同士のバトル(笑)