レーゲンは申し訳なさげに頭をかいていた。
彼からの報告を受けたスメラギは苦笑し、「いいのよ」と言う。
「しかし、正規メンバーじゃない彼らをこっちに呼び寄せるのも・・・」
「新型GNドライヴの開発に手を貸してくれた時点で、もう仲間って言ってもいいじゃない」
そう言い肩を竦めるスメラギにレーゲンは眉を下げる。
ラッセが「いいじゃねぇか」と言い彼の肩に手を置く。
「スメラギさんもこう言ってるんだ。それに、お前の仲間なら信用出来る」
「・・・ラッセ、」
それに、事態が事態だ。
そう言われてレーゲンは小さく頷いた。
そこから、クラウド乗艦メンバーがプトレマイオス2と合流する事になった。
連結通路を通ってプトレマイオス2に移って来たのは、ジュビアとレイだった。
出会い頭にレーゲンに一気に詰め寄ったジュビアに、出迎えたスメラギやアニュー、ロックオンが苦笑する。
「何なんだよこの事態はよぉー!」
「ジュビア・・・クラウドを動かしてくれてありがとうな」
ところでメンバーは?
レーゲンが問うと、答えたのはレイだった。
「俺たちとブーステンデッドだ。フレイは地球連邦の任務で宇宙にあがっているし、ミーアは自分の意思で地上に残った」
「ミーアって、あの歌姫だろ?一人で残してきたのか?」
ロックオンの言葉にレイが視線を向ける。
彼女には彼女の役割がある。
短くそう言い、レイはレーゲンに向き直った。
「問題がある。俺たちの機体は未完成だ」
「・・・そうだったよなー・・・否、念のために作ってただけなんだけど、こうも事態が早いとな・・・」
「そっちの手伝いして遅れたんだからさ、そっちが今度はこっちの手伝いするってのが道理じゃねーの?」
なぁ、おねーさん。
ジュビアがそう言いスメラギを見やる。
それに彼女は笑みを返し、そうねと言う。
「出来る限りの手伝いはするわ。此方の新型も完成しているわけだし」
「ありがとう」
レーゲンの礼にスメラギは「今度一緒に飲んでよね」と言い片手を動かす。
それに小さく頷いた後、「遅れたが紹介する」と言いレーゲンがレイの横に立った。
「彼は流れ者の内の一人だ」
「レイ・ザ・バレルだ。地球連邦にも所属しているが、今はレーゲンたちの手伝いに回っていた」
「ご丁寧にどうも」
ロックオンが言い、各々が自己紹介をする。
クラウドの中にブーステンデッドを残したまま、レイとジュビアはブリーフィングに参加する事になった。
はあの後部屋から出して貰ったが、二人からどんな話をしたかを聞く事が出来なかった。
刹那に背を押されて、アレルヤに支えられてから二人で移動をした。
今度はアレルヤの部屋に移動し、約束をしていた髪を切る事になった。
「・・・ねぇ、刹那と何を話していたの?」
「・・・そうだね、色々、かな」
それじゃ分からないよ。
そう言い頬を膨らませたにアレルヤが笑む。
鋏を動かし、彼のダークグリーンの髪を切っていく。
「・・・アレルヤ、変わり無かった?」
ちょき、ちょき、という音が響く中がアレルヤに問いかける。
彼女の指先が首に当たり、くすぐったさを覚える。
口元を綻ばせながらアレルヤは「ああ」と言う。
「君と別れた後、モンゴル地方を巡っていたんだ。色々な動物も見たし、色々な暮らしをしている人々にも会ったよ」
「羊とか居た?」
もっこもこの。
無邪気に問う彼女が可愛らしくて、アレルヤは表情を柔らかくする。
「は、どうだった?」
変わりは無かったかい?
そう問うアレルヤに、の手が一瞬止まる。
が、直ぐに動き出し、彼の髪を梳いていく。
「・・・あったって言ったら、どうする?」
「・・・何かあったのかい?」
静かな声でそう言うに、アレルヤが返す。
はそれに明確な返事はせずに、ごまかしの笑みを返した。
「・・・ねぇ、アレルヤは私の事、どう思ってる?」
「・・・どう、って・・・そりゃあ、勿論・・・大切で、愛しいと思っているよ」
「ハレルヤも?」
の問いかけに応じてか、一瞬アレルヤが黙り、ハレルヤが出てくる。
前を向いたまま、彼は「そうだな」と言う。
素っ気無い返事だが、彼自身の同意の言葉に嬉しくなる。
「そっか」と言いは続けて彼の髪を切っていく。
「んだよ、離れてて不安にでもなったか?」
「どうだろうね。・・・あのね、私もアレルヤとハレルヤが大好きだよ」
大切で、とっても大好きで、そう、アイシテルの。
そう言うと、彼の肩がぴくりと跳ねた。
はそれに気付かないまま言葉を続ける。
「一緒に居ると落ち着くし、触れてもらえると嬉しい。もっと、触れて欲しいって思いたくもなる」
「・・・、その、」
「アレルヤになら、ハレルヤになら、何をされても良い。全部が嬉しい」
耳まで赤くしながら、アレルヤはの話を聞いていた。
しゃき、と髪を切る音が響く。
「・・・でも、大好きだからこそ不安にもなっちゃうんだね」
全部受け止めてくれるかな。私のわがまま、邪魔に思われないかな。
そう言うにアレルヤが瞳を大きくする。
「・・・、僕は・・・」
「私が戦えなくなっても、必要としてくれる?」
「――って待ておい。どういう事だ」
鋏を持っている手を掴み、振り返る。
戦えなくなっても?
自分の存在意義を戦う事とまで思っていた彼女から発せられた言葉につい反応をする。
「戦えなくなるって、どういう・・・君が傷付かないなら僕はいいんだけど・・・ってそうじゃねぇだろ何でだって聞いてるんだよ」
「混ざってる混ざってる」
ぽんぽん、と彼の肩を叩きながら言うにハレルヤが苛立つ。
は空色を少し揺らし、彼を見つめた。
「・・・えっと、こういう時なんていうのか分からないし、貴方の足を止めてしまう事になるかもしれないけど・・・」
「・・・いいからはっきり言え。僕たちが君を否定する事は無いから」
彼らの優しさが伝わってくる。
は微笑んで、座ったままの彼の額にこつんと自分の額をくっ付けた。
「・・・できちゃいました」
間近で見開かれる金と銀。
「・・・え?」
「えへへ」
「否、えへへじゃねぇだろ」
そう言われて両頬を両手で挟まれる。
マジなんだな、と言うハレルヤにマジなんですと返す。
そうしたところで、口の端があがる。
「でかした」とハレルヤは言って右頬にキスを落とす。
が瞳を丸くしている中、今度は「ありがとう」と言いアレルヤが左頬にキスをする。
「・・・そうか・・・あの時の・・・」
「・・・アレルヤ?」
「ありがとう・・・僕は今嬉しくて仕方が無いよ」
どうして?
そう問うに「決まっているじゃないか」と言い彼女を抱き締める。
「僕と君で、新たな命を創る事が出来るんだ・・・こんなに喜ばしい事は無いよ」
「命を、創る」
私と、彼で、
そう思っているとまた強く抱き締められた。
「分からねぇ事だらけだぜ・・・あー・・・でも俺は、良いと思うぜ」
「ハレルヤ・・・」
「ガラじゃねぇが、なんだ・・・」
頭をかいて言葉を濁すハレルヤに、は微笑んで体を動かした。
ちゅ、と視線を彷徨わせていたハレルヤの唇にキスをする。
突然の事に驚いた様子のハレルヤだったが、直ぐにアレルヤに切り替わり「ずるい」と言う。
「ハレルヤだけにキスなんて、ずるいよ」
「・・・だって、可愛かったから」
クスクス笑みを零して言うにアレルヤは瞳を細くする。
ムッとした表情になった彼に向かい、瞳を伏せる。
「・・・じゃあ、アレルヤからして」
ん、と唇を尖らせてみる。
喜んで、と言いアレルヤからのキスを受け止める。
そうすると、今度は頭にハレルヤの不満の声が響く。
それでも、は嬉しかった。
受け入れてくれた。
自分の心配なんて杞憂だった。
彼が邪魔なんて思うわけ無かった。
「・・・私、貴方の足を止めちゃうかと思ってたけど・・・」
「杞憂だそりゃ」
ハレルヤはそう言い、の唇にキスをする。
はむ、とひと噛みした後に少しだけ離れる。
「寧ろ俺はお前と居たかったんだ。それでいいんだよ」
「ハレルヤ・・・」
「僕は、世界をこの目で見たかった。僕の罪は消える事は無いし、僕自身も矛盾している。それでも、僕は君と幸せになる道を歩みたい」
「え?」
が瞳を丸くした瞬間、アレルヤにもまたキスをされる。
ハレルヤとは違い、今度はひと舐めして離れたアレルヤは微笑む。
「・・・一緒になっても、良いって事かな」
「・・・アレルヤ?」
「そうだな、悪く無ぇんじゃねぇか」
それは、お楽しみに。
用意するもの用意してから改めて言うね。
そう言いアレルヤはを抱きしめた。
あいている手で、彼女の腹部に手を添える。
「・・・ここに居る、僕たちの家族の為にも」
アレルヤ、とが呟く。
改めて彼を見つめ、は瞳を瞬かせた。
「・・・嬉しい、とっても、嬉しいんだけど・・・」
その、と言い少しだけ視線を逸らす。
「髪、ちゃんと切ってもいい?」
「・・・あ」
見事なアシンメトリー。
そんな様子を見ては笑みを零しながら鋏を持ち直した。
ブリーフィングルームにマイスターとスメラギ、ラッセ、フェルト。
そしてレーゲンにジュビア、レイが集まったところで話が行われた。
「刹那の目撃したリボンズ・アルマーク・・・いえ、その人物の正体は130年ほど前に行われた木星有人探査計画の乗組員だったわ」
フェルト、とスメラギが呼ぶ。
それに応え、フェルトは床にあるモニターに映像を表示させる。
「木星有人探査計画は裏でGNドライヴの開発も行っていました。リボンズタイプのイノベイドが居たとしても、可笑しくはありません」
「それが、金属異性体に取り込まれた・・・」
刹那の言葉にロックオンが頷く。
そう考えるのが正しいだろうな、と言った後にスメラギが口を開く。
「ヴェーダの情報だと、地上でも同じような被害で出ているらしいわ」
「異性体の目的は、一体何なのでしょうか」
アレルヤの言葉にスメラギは「分からないわ」と零した。
「そもそも意思があるかすら分かっていないのに・・・」
意思。
もし、異性体に意思があるのであれば、刹那の訴えも納得できる。
叫びを感じたと。
がそう思っていると、警告音が鳴り響いた。
直後、モニターにミレイナの映像通信が映る。
『Eセンサーに反応!本艦に接近してくる物体があるです!』
光学カメラ、最大望遠で映すです!
そう言いミレイナが映像を回す。
映像に映ったものは、何かの輸送艦のようだった。
連邦の輸送艦か?と言うロックオン。
しかしそれはと刹那が否定をした。
「違う・・・」
一歩後退したとそう呟いた刹那。
そんな二人に全員が注目をする。
「ミレイナ、シルエットに適合する船体を割り出して」
スメラギの言葉にミレイナは了解です、と言いパネルを操作する。
『尤も酷似しているのは、船籍番号9374・・・木星有人探査船・・・エウロパです!!』
ミレイナの驚きの声にアレルヤも「何だって」と声をあげる。
破壊されたはずの船がある。
異常を察知した刹那が声を張った。
「ガンダムで出る!」
刹那の声に各々が動き出す。
も動き出すのを見てアレルヤとスメラギが声をかける。
「、君も出るのかい!?」
「ちょっと、貴女自分の体を・・・!」
「私も!」
引き止める二人には声を張った。
空色の瞳を鋭くさせ、彼女は二人を見据える。
「確かめたい事が、あります・・・」
「・・・貴女も、何か感じたの?」
刹那と同じように。
そう言うスメラギには頷く。
でも、機体が、と呟くフェルトには微笑む。
「サポートに専念します。あれに乗せてください」
そう言いは駆け出した。
身重の体を案じてアレルヤも彼女に続く。
あれ、とは言った。
予想出来る機体はひとつだけ。
スメラギは瞳を細め、仕方ないか。と呟いた。
『トレミー、第一、第二、第三ハッチオープンします』
『リニアカタパルト、ボルテージ上昇!射出タイミングをストラトスさんに譲渡するです』
プトレマイオス2のハッチが開き、各ガンダムが出撃準備をする。
最初に出撃準備が完了したサバーニャに搭乗したロックオンが「オーライ」と返す。
『ガンダムサバーニャ、ロックオン・ストラトス・・・狙い撃つぜ!』
そう言いサバーニャは出撃した。
プトレマイオス2のブリッジでは操縦桿を握りながらアニューが彼を見守っていた。
次に出撃準備が完了したのはハルートだった。
「お願いだ、絶対に無茶だけはしないでくれ」
「分かってまーす・・・でも、私も、自分で感じないと・・・」
後部座席に座ったアレルヤは前に座ったを気遣わしげに見つめる。
ザドキエルは未だに到着していない。
となれば、最初に搭乗予定だったハルートに乗るしかない。
「脳量子波に惹かれるのかな・・・兎に角、刹那にばっかり任せる訳にはいかないもの」
「・・・」
『射出準備が完了しました』
フェルトの声が響く。
それにアレルヤが「了解」と返す。
「ガンダムハルート、アレルヤ・ハプティズム、・ルーシェ、迎撃行動に向かう!」
そう言いハルートも出撃した。
が操縦桿を握り、操舵を担当する。
次にダブルオーライザーが出撃の準備に移る。
『刹那、分かっているとは思うけど、ダブルオーライザーは太陽炉の代わりに粒子貯蔵タンクを増設した急場凌ぎの機体よ』
絶対に無理はしないで。
そう言うスメラギに「了解」と返し刹那も出撃をする。
『ダブルオーライザー、刹那・F・セイエイ、出る!!』
出撃したダブルオーライザーも続き、エウロパと同じ形の船に近付く。
あれか、という刹那の通信を聞きながらは眼前の船を見やる。
近付くにつれ、エウロパから何かが射出されてきた。
それは銀色で先端が尖ったものや、筒状の物が合わさったものがある。
金属異性体はまるでミサイルの様に向かってくる。
『何を企んでいようが、この先に行かせる訳にはいかねぇな!』
ロックオンがそう言いGNビームピストルで撃つ。
金属異性体に命中し、それは爆散する。
それを横目で見ながらはハルートを動かす。
すると、サバーニャに向かっていた金属異性体は突如方向を変えて追いかけてきた。
「やはり異性体!も狙って!」
そう言いアレルヤがミサイルを放つ。
それは真っ直ぐに金属異性体に飛んでいったが、爆発の中で不可解な現象も起きていた。
ミサイルが取り込まれ、金属異性体と同化し、そのまま此方に迫ってきている。
「ミサイルが!?」
「あれは、何・・・!?」
も迎撃をしようとハルートを変形させようとしたが、
「っ―――!?」
刺すような、響くような痛みが頭を襲う。
思わずそのまま逃げの道へ進んでしまった。
それは刹那も同じだったようで、ダブルオーライザーは金属異性体に攻撃せずに逃げ回っている。
「刹那!?」
「っ・・・!ぅああっ!!」
「!?」
刹那を気に掛けていたアレルヤだが、前のシートでが呻き声をあげた事に声を張る。
息を荒くし、最大加速で金属異性体から離れる。
脳量子波を通じて刹那の戸惑いも伝わってくる。
これは、何・・・!?
がそう思っていると、プトレマイオスからの通信が響く。
『ダブルオー、戦前を離脱です!』
「!」
が其方に目をやると、金属異性体から逃げていくダブルオーライザーが見えた。
いけないと思いハルートの進行方向を変える。
「刹那!!」
意識が通じ合う。
刹那の感覚が伝わってくる。
((この感覚・・・!))
「なに、なんなの・・・!?」
((一体・・・!?))
「これは・・・!」
アレルヤがミサイルやビーム攻撃を放って迫る金属異性体を撃破する。
その度に感じる痛み。
ダブルオーライザーの腕に金属異性体が突撃し、組み付いていく。
直後、物凄い衝撃が走った。
思わず操縦桿から片手を離し、は頭を押さえた。
「ぁうっ――――!!?」
「!?」
咄嗟に軸がぶれたハルートのカバーを行う。
アレルヤが操舵を咄嗟に担当し、異性体を振り切ろうと動く。
((うあああああああああああああああ!!!!!))
「駄目ぇぇ!!」
がそう叫んだ直後、何処からかビーム攻撃が起こった。
それは刹那を狙っていた金属異性体を撃破していった。
ダブルオーライザーの侵食された腕をもぎ取り、破壊する。
その勢いのまま、赤く染まった機体が現れ、ハルートを追っていた異性体を撃破する。
肩部に黒いアームをつけた機体は擬似太陽炉を搭載していた。
トランザム状態のまま、エウロパに今度は巨大なビーム攻撃をしかける。
一瞬にしてそれらを破壊した機体、ラファエル。
唖然としてアレルヤとロックオンはそれを見つめていた。
『ノリエガさん!あの機体は!』
『ええ・・・彼が、来てくれたんだわ』
ミレイナとスメラギの声が通信越しに響く。
しかしはそれどころではなかった。
先ほど刹那を通して感じた痛み。
痛みというか、なんというか、刺さるような感覚。
あれは何だったのか。
そして、眼前に迫った時に頭に響いたもの。
『ガンダム各機、地球圏に向かっていく破片の撤去作業に集中して』
アレルヤは了解、と返しハルートを動かす。
「・・・、大丈夫かい?」
「・・・うん」
ごめんね、アレルヤ。
はそう言いながら、顔を俯かせた。
ハルート搭乗。
次回は久しぶりな彼と再会。