セラヴィー!!


ティエリアがそう声を張った直後、ELSがセラフィムに向かって迫る。
肩に着いていたアームが着き、嘗て彼が登場していたセラヴィーの形となって離れる。


『僕にも脳量子波は使える!!』


セラフィムはその間に迫るELSを撃墜していく。
其方にELSの意識が集中している間に、セラヴィーがダブルオーライザーに近付く。
集中攻撃を喰らうセラフィムを援護すべく、ハルートとサバーニャがビームを放つ。


『ティエリア!』

『刹那とを頼む!』


ティエリアの言葉にロックオンが「お前!」と声を張る。


『対話の為に、彼らをやらせる訳にはいかない!』


頼む。
そう言うティエリアから彼の決意を受け取ったロックオンが、サバーニャの動きを止める。
反転させ、ダブルオーライザーの下へハルートと共に進んだ。
GNビットがセラフィムを援護する中、ティエリアはELSを引き離そうと動く。

先にダブルオーラザーの下に辿り着いたセラヴィーが、ロック解除されているコクピットを取り出そうと掴む。
直後、セラヴィーの腕もELSに侵食される。
侵食の痛みが伝わったティエリアが怯んだ直後、セラフィムにELSが突き刺さる。


ティエリア!!

ぐああああああああっ!!


離れた位置でELSを引き付けていたが反応する。
直後、ぴしりとした音がコクピット内まで響いてきた。
オーライザーにも組み付いていたELSが、再度侵食を開始し始めた。

痛みに表情をゆがめながらも、セラヴィーの抜き取ったコクピットをサバーニャが受け取った様子を見る。

良かった、これで刹那は大丈夫。

サバーニャとハルートはトランザムで一気にプトレマイオス2に戻るみたいだ。
私も行かないと。
アレルヤの不安の想いが伝わってくるから、行かないと。

そう思いながら、オーライザーを動かす。
直後、アラームが鳴り響いた。


『スメラギさん!オーライザーの粒子残量がもう!』

『何ですって!?・・・アレルヤ!


スメラギの言葉を聞いたアレルヤが「!」と声を荒げる。
オーライザーに迫るELSをビーム攻撃で破壊しながら撤退を援護する。
オーライザーごと引いて行こうとしようとしたアレルヤだが、静止の声に動きを止めた。


駄目!今触ったら、ハルートも侵食される!」

『・・・じゃあ、どうしたら・・・!!』


そこまで言った所で、セラフィムとセラヴィーがELSを巻き込んで爆発をおこした。
ティエリアが、とが思った直後、


『・・・ピーリス!!』


『了解っ!!』


ハルートがスピードを緩めた。
何を、とが思った直後、ハレルヤとソーマの脳量子波に惹かれてELSの大半が其方に向かった。


「ハレルヤ!ソーマ!!」

『お前は先に戻ってろ!』

は追わせん!!』


彼らがELSをひきつけながら、GNミサイルを発射する。
それはELSに命中し破壊をしていくが、あまりの量にミサイルが足りなくなる。

私のために、
がそう思った直後、別方向から違う感覚が起こった。
新たに現れたELSが、サバーニャを狙う。
は唇を強く噛み、瞳を伏せた。

今脳量子波を開放したら、オーライザーに組み付いているELSの侵食速度が増す。
残りの粒子残量も少ない。
今、私に出来る事は、

が瞳を開く。
金色に輝いた瞳は、脳量子波を解放していた。

の脳量子波に惹かれたELSがサバーニャから離れる。


! !?

「ライルは早く刹那を!」


そう声を張って最大加速をかける。
迫るELSから逃げる中、やはりオーライザーに取り付いていたELSが侵食を開始する。
ばきり、という音が響いてコクピット内にまで及ぶ。

頭痛が襲う。痛みが襲う。
それでも、この手は離せない。


((!!))

((馬鹿野郎!何やってやがる!!))


あまりの痛みに耳が聞こえなくなる。
自分が操縦幹を握っているのかすらも分からない。
脳量子波を介してソーマとハレルヤの声が頭に響く。

オーライザーを追うELSだが、サバーニャのシールドビットとハルートのシザービットに阻まれる。


「・・・・・ごめん!!!」


苦々しく告げ、はオーライザーのGNミサイルを発射する。
それは真っ直ぐにELSに向かい、彼らを破壊した。

直後、


「っ・・・!うあああああああああああああああっ!!!!!


侵食が増し、コクピット内がELSに覆われる。
直後、粒子残量も切れた。


『『((((!!!!!!!))))』』


みんなの声が響く。
スピードを失ったオーライザーにELSが突き刺さる。
最後の力を振り絞り、はコクピットハッチを開いた。

今ここで、ELSに侵食されてしまったら、この子まで・・・!

その思いだけで、咄嗟に操縦桿から手を離した。
直後、操縦幹が完全に侵食される。
危なかった。
そう思い痛む頭、揺れる意識の中ハッチから出ようとする。

すると、大型のELSが眼前にまで迫っていた。
ひゅ、とが息を飲んだ瞬間、
巨大なビーム攻撃が巨大ELSを襲い、別方向からの援護射撃が他のELSを破壊した。

爆風とチャンスを利用して、オーライザーを蹴って宇宙空間に飛び出す。
直後、侵食されたオーライザーがビーム攻撃によって破壊された。
そのまま体を丸め、爆風と共に宇宙空間を移動する。

バックパックを瞬時に展開し、辺りを見渡すと自分たちを援護してくれた機体が見えた。
何かの小隊だろうか、隊長機である青いそれに緑色の同じ機体が続いている。
変形し、MS型となったそれは、どことなくフラッグに似ている。

がぼんやりと考えてそれを見ていると、サバーニャがプトレマイオス2に到着しているのが見えた。
刹那を渡したようだが、すぐにまた反転して此方に向かってくる。
もバックパックを噴かせてサバーニャに向かう。
その間、を狙うELSはロックオンが撃ち落してくれた。

ハルートも小隊からの援護により、離脱を開始したようだ。
を狙うELSも、青い機体が撃ち落してくる。
爆風で吹き飛びそうになった彼女を支えるように、青いMSが手で一瞬支えてくれた。

そこで到着したサバーニャが、手を差し出す。
はバックパックを噴かせてそちらに向かう。
青い機体が援護をしてくれている中で、はサバーニャのコクピット内に収まった。
ふらりと膝を折って倒れこんだにロックオンが焦りの声をあげる。


「おい!・・・を回収した!これより帰還する!」


ロックオンはそう言うと真っ直ぐにプトレマイオス2に向かった。
コクピットの端っこの方で頭を抱えて苦しげに荒い息を繰り返す彼女に、ロックオンは表情を歪める。
そのままクラウドにも連絡をいれる。


の様子が可笑しい、レーゲン、準備頼む!」

『分かった。帰還後メディカルルームで待機していてくれ。俺も直ぐにそっちに行く』


連絡をしながらプトレマイオス2に戻ったロックオンはサバーニャを収容する。
その間にを抱きかかえて降りる準備をする。


「おい、大丈夫か?」

「・・・ラ、ライル・・・」


ひゅ、と苦しげに息をする
ロックオンは彼女のメットを取ってやり、優しく頬を撫ぜてやった。


『粒子撹乱を行い、私たちは現宙域から撤退します!DFT223で合流を!』

『セイエイさんを医療ボックスに収容したです!』

『ラッセ!粒子撹乱ミサイル発射、アニュー、各MS収容と同時に現宙域を離脱!』


スメラギの指示にラッセとアニューが了解、と声をあげる。
クラウドでも同じ指示を出したようで、粒子撹乱ミサイルが発射され、動き出す。

ロックオンはを抱きかかえ、急いでメディカルルームへ向かった。
通路に出たところでアレルヤとマリーも走ってくる。


「ロックオン!は・・・!?」

「酷く憔悴しちまってる・・・悪いがこいつは任せた。俺は刹那の方に行って来る」


ああ、と言いを受け取ったアレルヤは急いで移動し始めた。
そんな彼に、マリーも続く。
腕の中のは苦しげに眉を潜め、空色を薄っすらと開いている。
それでも手は、まるで守るように腹部に当てられている。

そんな彼女に、アレルヤは瞳を細めた。


「・・・、」

「・・・ア、レルヤ・・・私・・・」

「いいんだ、今は何も考えなくって。直ぐにレーゲンも来る」


そう言いメディカルルームに入る。
彼女を横にしてやると、マリーを振り返る。


「僕は此処に残る。マリー、代わりに刹那の様子を少し見てきてくれないか」

「分かったわ」


マリーはそう言い、隣にある医療ボックスに向かった。
残った空間で、アレルヤは震える彼女の手を握る。

少しの間そうしていると、メディカルルームのドアが開いた。
そこにはノーマルスーツを身に纏ったままのレーゲンがいた。
彼は直ぐに近付くと、直ぐに彼女の治療に入る。


「刹那はヴェーダに、ティエリアに任せられる」

「レーゲン、は・・・?」

「・・・ELSとの対話を計った時、あまりの情報量の多さに頭がパンクしたんだろ・・・脳細胞のダメージは、無いな・・・」


パニックになったか。
そう言うレーゲンに、アレルヤが視線を動かす。
刹那よりも容態は軽い様子の彼女は、それでもELSの侵食を長時間受けていた。
ダメージが無いわけではない。

それなのに、はその身を起こした。


「・・・刹那は?」

「隣で寝てるよ。・・・動けるなら、声をかけてやって欲しい」

「・・・」


腹部に手を当てたまま、が動き出す。
彼女の意思を汲んでか、アレルヤが何も言わずに彼女を支える。


「無事だよ。刹那も、お前の子どもも」


微笑んで言ったレーゲンがドアをあけてくれる。
も笑みを浮かべ、アレルヤに寄り添いながら歩き出す。










刹那は眠っていた。
脳細胞の再生処置は施したようだが、一度受けたダメージは消えない。
意識障害等が起こる可能性もある。
ガラス越しに刹那を見つめ、涙を流すフェルト。
そんな彼女の肩に手を置き、が腰を折る。
フェルトは顔をあげるとを見つめ、くしゃりと表情を歪ませて両手を広げた。


!」


ぎゅう、と強く抱き締めてくるフェルトの背を撫ぜる。
不安なんだ。
刹那がこのまま起きないのではないのかと。
刹那が苦しんでいるのに、何も出来ない自分が歯がゆいんだと。
は理解していた。

フェルトの頭を撫でてやり、大丈夫と言う。


「刹那は、きっと答えてくれる」


呼び続けて、思い続ければ。
そう言うに、フェルトは若草色の瞳を大きくする。
ね、と微笑む
彼女だって、不安に思わないはずはないのに。
フェルトがそう思っていると、アレルヤが二人の肩に手を置いた。


「・・・届くよ、想いは。僕たちはそれを知っている」

「・・・アレルヤ・・・」


フェルトが再度刹那に視線をやる。
変わらず苦しげに瞳を伏せている刹那だが、想いは必ず彼に届く。
は瞳を伏せ、彼を想う。


((・・・ソラン・・・起きて。みんな待ってるよ・・・))


フェルトも、アレルヤも、みんな、私も。
そう思い続ける。
これが今、私たちに出来る事だから。


「人と人とが分かり合える道を模索し続け、ELSにすらそれを行おうとするとは」


そんな中、不意に声が響いた。
移動用レバーから手を放して近付いてきたのは、地球連邦軍のノーマルスーツを身に纏った男だった。
顔に傷跡のある男に、は瞳を大きくした。


「未来を切り開く。それが、君の戦いなのだな、少年」


そう言い刹那を見た後、に視線を向ける。
久しく見なかった若草色に、空色を大きくした。


「・・・グラハム・・・!」

「久しいな、


久しぶりに会った彼に、は微笑む。
グラハムは「しかし驚いた」と言い開かれたのパイロットスーツの間にあるペンダントを見やる。
まだつけていてくれたとは。
そう言い彼はの頭を撫でる。


「無茶が過ぎる。ELSの溢れる宇宙空間に出るなんて」

「あのまま乗ってても浸食されちゃったから・・・それに、いっぱい引き付けちゃったの私だし」

「・・・君は、イノベイターに成り得る因子を持っているのだな」


グラハムの問いに口を噤み、は視線を刹那に戻した。


「・・・刹那はイノベイターに革新した。誰よりも、ELSの声が響いたはず」

「んで、こいつの方がダメージでかかったわけか」


さり気無くの肩に手を置いて自分の方に引き寄せながらハレルヤが言う。
瞳を瞬かせた後に、が頷く。
そんな彼女を見た後、ハレルヤは口を再度開く。


「お前もダメージ受けてるんだから、早く休め」


お前一人の体じゃねぇんだぞ。
そう言うハレルヤにが頬を染め、視線を逸らす。
そんな二人を見ていたグラハムは若草色を丸くした後、「なんと、」と声を漏らす。


「もしや、何時しかの君の手料理を味わえる羨ましい相手か」

「・・・は?」


グラハムの言葉にハレルヤが短く声をあげる。
なるほど、と言い一人納得した様子のグラハムは口元に手をあてる。


「そして、君は・・・」


じ、とに視線をやる。
腹部を見つめられたは視線から逃げるようにハレルヤの背に隠れた。
おやおや、と言いグラハムは手を伸ばす。


「麗しの姫君、おめでとうと言わせて貰おうか」


そう言いの三つ編みを手に取り口付けをする。
残念でもあるがな。
そう言いグラハムは静かに睨んできているアレルヤの視線から逃れるように一歩下がった。
を見て微笑んだ後、刹那に視線をやる。


「恋愛的に言えば越える壁は君なのだろうが・・・私が今越えなければならないのは、この少年だ」

「・・・刹那を?」


が空色を丸くする。
アレルヤの背から身を出したは、グラハムを見上げる。


「・・・はっきりと目標が決まったんだね、グラハム」

「ああ。やっとな」


若草色を和らげる。
も彼に笑みを向けようとした直後、肩を大きく跳ねさせた。
そのまま自身を抱きこむように腕を回し、ふらりと体を揺らす。
驚いたグラハムが咄嗟に手を伸ばして彼女を支えた。


「どうした!?」

「・・・こ、これ・・・!」


その時、彼の携帯端末が着信音を鳴らした。
「私だ」と言い片手で其れを操作したグラハムは応答をする。


『隊長!木星から新たなELSが出現したとの報せが!』

!!!


その報せにその場に居た全員が反応をする。
は唇を震わせ、強く閉じていた瞳を開く。
その瞳の色は、金色に輝いていた。


「補給完了後、我が隊は母艦に帰投する!」


グラハムはそう言い端末をしまい、腕の中で震えるを見下ろす。
は金色の瞳で、グラハムを見返した。


「・・・来る・・・地球に・・・ELSが・・・!」

「・・・そうだな」


そう言いグラハムはアレルヤにを預け、身を整える。
姿勢を正しくした彼は、真っ直ぐにを見詰める。


「我々もやれる事はやるさ。たとえ他者を傷付ける結果となったとしても、未来を切り開く」


それが、私の道だ。
そう言うグラハムに、は柔らかく微笑んだ。




お久しぶりなグラハムさん。
刹那がお休みモードに入ったのでやっとアレルヤのターンです。