「いいと思うわよ」


っていうか、遅いと思ってたくらいよ。
そう言いスメラギは酒の入ったボトルを揺らした。
ですよねーと思いながらアレルヤは苦笑を返す。


「それで、本当に良いの?もっとぱーって盛大にやった方がいいんじゃないの?」

「否・・・僕たち、一応日陰者ですし」


そう、と言いスメラギは残念そうに息を吐く。


「まぁ、当人たちが良いなら良いけど・・・」

「ありがとうございます」


アレルヤはそう言い微笑む。
これでトレミークルーの台頭であるスメラギからの許可は貰った。
彼女にはサプライズ的にも取っておきたいという気持ちがあるので、後回しになっている。
アレルヤはにこそ最初に告げたかったのだが、ハレルヤに押し負けた。
なんだかんだで、彼女に告げる怖さもあると思うが。


「・・・こんな時にと思う人も居るかもしれませんが・・・」

「こんな時だからこそ、良い話しを取っておかないとね」


ふ、とスメラギが微笑む。


「この艦にそんな事言う人居ないから。刹那だって、の幸せを望んでいるんだもの。
 彼女の為に直ぐに目を覚まして対話の準備をすると思うわよ」


彼も中々の馬鹿だから。
そう言うスメラギにアレルヤは苦笑する。
本当に刹那はを想っている。
守るという約束を守り、常に彼女を案じている彼。
本当に、一途だ。
そう思いながらアレルヤは顔をあげた。


「刹那の気持ちも分かりますが、僕だって譲る気は無かったんです」

「そうね。が選んだのは貴方だもの。誰も文句なんて言わないわ」





『優しく私を支えてくれて、いつも想ってくれるアレルヤが、ハレルヤが・・・こんなにもダイスキなんだもん・・・!』





腕の中に彼女が戻って来てくれた時、彼女が告げてくれた言葉。
惜しみない愛を与えてくれて、真っ直ぐに見詰めてくれた。
彼女の想いが嬉しくて仕方なかった。

アレルヤは嬉しげに笑み、スメラギを見た。


「そうですね、は僕の恋人なんですから」


オアツイ事で。
スメラギはそう言い肩を竦めた。





スメラギと別れ、移動用レバーを使用して移動する。
そうしていると、丁度前からが同じようにレバーを掴んで来た。
あ、とお互いに短い声をあげる。


「アレルヤ」


嬉しそうにはにかみ、レバーから手を放す。
伸ばされたアレルヤの手を取って一緒に移動をする。
元来た道を戻る事になるのに、彼女は嬉しそうに微笑んだままアレルヤに寄り添う。


「どこ行ってたの?」

「ちょっと、スメラギさんの所に」


何か報告?と聞くにアレルヤは曖昧な笑顔を返した。
小首を傾げながら、見上げてくる。


「なに?」

「なんでもねぇよ」


ハレルヤに切り替わった彼は、彼女の腰に腕を回す。
抱き寄せられたは空色を瞬かせた。


「あんまウロチョロしてんな」

「ハレルヤを探してたの」

「そうかい」


頬を膨らませるにハレルヤは口の端を吊り上げる。
そのまま移動して自室に戻る。
部屋のロックを解除してドアを開けたハレルヤにも続く。


「ねぇ、何かゆらゆらしてるんだけど・・・何か隠してない?」


じ、と見つめてくるにアレルヤとハレルヤが内心冷や汗をかく。
妙なところで鋭い彼女はどうやら誤魔化せないようだ。
誤魔化すように「さあな」と言いハレルヤはベッドに腰を下ろす。
そんな彼の前に立ったは腰に手を当ててハレルヤを見下ろした。


「こーら!誤魔化さないの!」

本当になんでこいつ変に気付くんだよ

((僕らが分かりやすいのかな?))

ンな事はねぇよ

「あるってば」


アレルヤとの脳内会話も聞かれ、いよいよ言い逃れが出来なくなる。
腰に手を当ててじと目で見下ろしてくるに、ハレルヤは視線を彷徨わせる。
息を大きく吐いた後、観念したようにを見上げた。


「どーしてお前はそんなに急ぐんだよ」

「大好きな人が隠し事してるんだもん、気になっちゃうでしょ」

((ふふ、大好きな人だって))

「うっせ」


ハレルヤはそう言い、の左手首を掴んだ。
突然のハレルヤの行動に瞳を丸くするは、小首を傾げた。

座ったままの左手を下から支えるように持ち、唇を近づける。
手の甲にリップ音を立ててキスをした後、ハレルヤはを見上げる。


「俺とお前のガキが出来たな」

「え、あ、うん・・・?」

「僕たちはそれが嬉しくて仕方なかったんだよ」


アレルヤがそう言い「だから、」と言い薬指にキスをする。


「"ここ"、僕たちにちょうだい」


柔らかく微笑んで言うアレルヤにが空色を丸くする。
え、と短い声を漏らして瞳を瞬かせる。


「今の情勢も分かっている。けど、君との証が欲しいんだ」


そこまで言い、アレルヤは口を閉じる。
少し視線を彷徨わせた後、「いや、言い訳か」と零す。
そのままに両手を伸ばし、自分の方に引き寄せる。
彼女の腹部に頬をつけ、瞳を伏せる。


「・・・ただ、僕が君の家族になりたいだけなんだ」

「・・・かぞく、」

「僕には家族が居ない。けど、人々の命を奪った僕が、こうして君と新しい命を生み出す事が出来た」


それが、嬉しかったんだ。
の腹部を優しく撫でながら、彼は言葉を続ける。


「僕と、結婚して下さい」


祈るように、囁くように、アレルヤは言った。
彼の言葉には空色を大きく見開いた。

けっこん、血痕・・・違う、結婚!?

理解した途端、は頬を真っ赤に染めた。
え、と声をあげて頬を両手で抑える。
それを見たハレルヤが「照れすぎだ」と言って意地悪く笑う。


「で、返事はどうなんだ」

「・・・アレルヤだけにお返事すればいいの?」


そう問うに「てめぇ・・・」と言いハレルヤは眉を吊り上げた。
頭の中でアレルヤも笑っている。
舌打ちをした後、ハレルヤは顔をあげ、を真っ直ぐに見つめた。


「・・・一度しか言わねぇぞ」

「はい」

「・・・俺と、結婚しろ」


ふふ、とハレルヤの言葉に笑みを零した後、は嬉しそうにはにかんだ。


「よろしくお願いします」


アレルヤ、ハレルヤ。
彼らの名前を呼んで双方の目元にキスをした。
脳量子波を介して彼らの喜びが伝わってくる。
は微笑みながら、彼らからの抱擁を受け止めた。


「・・・結婚式っていうの、するんだよね」


本で見た事ある。
そう言うは彼の膝に腰を下ろした。


「そうだよ。綺麗なドレスを着て、家族や友だちにいっぱいお祝いしてもらって・・・」

「うん」

「愛の誓いをするんだ」


家族になる。
アレルヤはそう言った。
は正直結婚とかそのようなものが分からなかったが、嬉しそうな彼を見ていいものだと感じる。
調べないとな、と思いつつ彼の胸に背を預ける。
後ろからを抱き締めつつ、アレルヤは彼女の左手に指を絡める。


「本当は指輪とか用意してからにしたかったんだよ?」

「だから内緒にしてたんだ」


の言葉にアレルヤは困った様に微笑む。
聞き出しちゃって悪い事しちゃったかな、と思いつつ早く聞けて嬉しい気持ちもあった。


「この子の為にも、アレルヤとハレルヤと家族になる為にも、絶対に成功させなきゃ」


ELSとの対話を。
そう思うに、アレルヤの表情が変わる。


「ザドキエルもそろそろロールアウトするみたいだし・・・ギリギリまでは刹那を待てるけど、いざって時は、私が」

「・・・戦うんだね、君も」


悪阻で苦しむ彼女を見てきた。
食事を摂った後、全て戻してしまい、苦しげに呼吸を繰り返す姿も、寝苦しそうにしている姿も、全部見てきた。
その度彼女の為に何かしてやりたいと思っても、実際に自分に出来る事なんて無かった。
悪阻が酷い時期に、MSに乗って地球外生命体であるELSとの対話を試みるなんて。

対話をした時の彼女と刹那の様子を思い出し、アレルヤは瞳を細めた。


「・・・本当は、待っていて欲しいけど・・・」


君は、頑固だから。
アレルヤはそう言って後ろからを抱きしめた。


「ごめんね、心配ばっかりかけちゃって」

「本当だぜ。何の為に子ども作ったと思ってんだ」

「そういえば、言ってたね」


情事の時にハレルヤが言っていた言葉を思い出す。
はくすりと笑みを零した後、彼の手に触れる。


「大丈夫、私は絶対に戻ってくるから」

「約束だよ」


アレルヤはそう言い、の頬に触れる。
そのまま、触れるだけのキスをした。


「刹那もきっと戻ってくる。みんなで想いで呼びかけてるんだもん、きっと大丈夫だから」

「そうだね・・・それでも君は、ガンダムに乗るんだね」

「私も、ELSの想いを知りたいから」


が微笑むとアレルヤは困ったように微笑んだ。
心配しない訳がない。
何より自分たちの子どもを身篭っている愛しい彼女がMSに乗って異性体と戦うというのだ。
戦う、というよりは、対話に行く形となるが。
脳量子波を介してコミュニケーションを図ってくる相手だ。
の頭にも精神的にも、異常が無いという保障は無かった。

それでも、アレルヤはが梃子でも意思を変えないという事を分かっていた。
意外と頑固な彼女は一度決めた事を曲げない。
真っ直ぐな彼女はいつだって誰かの為に行動してきた。

そんな彼女を守りたい、支えていきたい。
アレルヤとハレルヤはそう決意しながら、彼女を見つめ返した。




プロポーズ回でした・・・!なんだこいつら恥ずかしい・・・!