ぎゅう、とがアレルヤの背に腕を回す。
嬉しそうに微笑んだ彼女は、そのまま瞳を伏せた。

心地良い。

胸に頭を預けていると、彼の鼓動が速まった。
どうしたんだろう、と思い顔をあげてみると、頬を赤くしたアレルヤと目が合った。


「・・・えっと、何かな?」


ぎこちなく微笑んだアレルヤにが小首を傾げる。
どうしたの?
そう問いながら彼の頬に手を伸ばす。
髪をかきあげながら彼の頬を撫ぜると、銀と金の瞳を擽ったそうに細めた。


?」

「アレルヤと一緒はあったかいね」


ふふ、と微笑みながら言うにアレルヤも微笑む。
の背に回した腕に力を込め、細い体を抱き締める。


いい匂いもする


思わず鼻をならす。
そんなアレルヤに呆れたハレルヤが脳内で声をかけた。


((変態かっつの))

君だって好きじゃないか

((お前って、むっつりってか普通に・・・))

「ムッツリ?」


むっつりって?とが小首を傾げたのでアレルヤは笑顔で誤魔化す。


「怒ってるって事?」

「違うよ」


良く分かっていないは小首を傾げる。
アレルヤは彼女の首筋に顔を埋め、体で彼女を感じる。


「君が好きだって事さ」


アレルヤの言葉には瞳を丸くする。
が、すぐに微笑んで彼に身を寄せる。


「・・・アレルヤ、あのね、たくさん呼びかければきっと届くと思うの」

「そうだね・・・僕だって、君に声が届いたんだから」


きっと、ELSも一緒だね。
アレルヤは微笑んでそう言ってくれた。
も頷き、空色の瞳を細めた。





スメラギは端末を使用してイアンたちと会話をしていた。
小さく息を吐いてモニターに映るイアンは頭をかく。


『本当に良いんだな?確かにザドキエルもアブソラクション機能で対話を試みる事が出来るが・・・』

『彼女、丁度悪阻とかが酷い時期でしょう・・・?』


イアンとリンダの心配も尤もだった。
スメラギも当然それは分かっている。
だが、刹那が目覚めない今、彼女以外にELSと対話出来る手段を持つ人物が居ない事も事実。

アレルヤとハレルヤと愛を育み、新しい命を体に宿す事が出来た。
血の繋がった、この世界で唯一の"家族"を生み出そうとしているというのに。


「・・・私だって、何とも思わない訳じゃないわ。それに、彼女は本来なら艦に残っていて欲しいくらいよ」


でも、しょうがないじゃない。
あんな事言われちゃあ。

そう言いスメラギは瞳を伏せた。

は優しい戦術予報士の気持ちを察していた。
刹那が倒れてから、直ぐにスメラギの下へ赴き自分がELSと対話すると言ったのだから。
レーゲンやジュビアが行くとも言ってくれたが、ザドキエルはの為に造られた機体だ。
彼女が乗り、対話を試みることが恐らくは最善だろうと、誰もがわかっていた。


『・・・クアンタも・・・刹那が起きた時は、直ぐに出撃出来るようにしておいてある』

「ありがとうございます」


通信はそこで途切れた。
スメラギは重たい息を吐いて、椅子に腰を下ろす。
背もたれに寄りかかり、震える息を零す。


「・・・・・・、これが終われば、貴女は本当に幸せになれるのよね?」


そう言い、ゆっくりと瞳を伏せた。


「大分お疲れみたいだな」


背もたれに肘を置いて彼女を覗き込んだのはレーゲンだった。
クラウドを今度はジュビアに任せた彼は今プトレマイオス2に移動してきていた。
スメラギは「当たり前でしょ」と言い彼を見上げる。


「・・・そっちの機体状況はどう?」

「もうカラミティ、フォビドゥン、レイダー、レジェンドは大丈夫だ。
 サングリアも全員で最終調整に入っている。十分間に合うさ」

「そう。ザドキエルも、もう此方に搬送されるから間に合うわよ」

「此方も薬も処置もする。彼女も腹の子も生きていなきゃいけないからな」


レーゲンはそう言いスメラギの頭を撫ぜる。
驚いた様子で瞳を丸くするスメラギに、レーゲンは優しく微笑んだ。


「俺たちも出るし、出来る限りのサポートもする。気を張りすぎすぎるなって」


そう言い彼女の目の部位を手で覆う。


「少し寝ると良い。肌も荒れているし隈もある・・・」

「・・・優しいのね」


本当に。
そう呟いてスメラギは縋るようにレーゲンの手に触れた。
真紅の瞳を柔らかく細め、彼女の髪を梳く。


「貴女の責任じゃない。俺も一緒に考える。貴女も、一人じゃないんだからな」


今はゆっくり。
穏やかな口調で言いレーゲンは瞳を伏せた。





はイエローハロと一緒にデータを閲覧していた。
ザドキエルの機体データ。
スメラギから渡されたそれを見ていると、気がやはり引き締まる。

明日になったらイアンたちとのランデブーポイントへ行きザドキエルとクアンタを受け取る。
ELSの地球圏到達までの時間はおおよそ一週間。
時間はもう無い。
は顔をあげ、イエローハロを見つめた。


「・・・ハロ、あなたはトレミーの端末で直接データ送信をよろしくね」

『マカセテネ!マカセテネ!』


今回イエローハロはプトレマイオス2の端末に取り付けられる事になる。
そこから確認出来るELSの位置や現在の状況を知らせてくれるサポートの役割を任されている。
なので、今回ザドキエルに搭乗するのは一人である。
戦況のサポートはもらえるが、動きのサポートは無い。
他のハロを取り付けようかという声もあったが、敢えて彼女はそれを断った。


「サポートよろしく!」

『ハナレテモイッショネ!イッショネ!』

「勿論!」


微笑んでイエローハロを抱き締める。


「明日はザドキエルを受けとるみたい。試運転とかあると思うからよろしくね」

『リョウカイネ!リョウカイネ!』

「・・・ELS・・・か」


頭に響いたもの。
また脳量子波の影響で精神的な乱れも起こってしまうだろうが、そこはアレルヤもロックオンも居る。
クラウドの彼らもサポートをしてくれる。
は体を伸ばして小さく息を吐いた。


「きっと、大丈夫だよね」


ねー?
そう言い彼女は腹部を優しく撫でた。




短いですが今回はこれで。
次回からELSとの対話に入ります。
ラストミッション、スタートです!