「粒子残量0、ブースター切り離しました」


もうすぐランデブーポイントへ到着します。

ブリッジにフェルトの声が響く。
現在プトレマイオス2はトランザム状態でクアンタとザドキエルを受け取るランデブーポイントへ向かっていた。


「ELS、地球圏への到達まで四千万キロメートルを切ったです」

「後、7日ってところか・・・」


ミレイナの報告にラッセが零す。
後ろの方の座席でモニターを見ていたアレルヤが顔をあげる。
振り返ると、背後の座席に座っているが見えた。

ザドキエルを受け取ったら、彼女は、

そう思い、アレルヤは瞳を細めた。


「ランデブーポントへ到着。機体の収納準備に入ります」


フェルトの声に反応してスメラギが腰をあげる。
それに習ってもドアへ向かう。


「ザドキエルとクアンタを受け取ってくるわ。格納準備をよろしく」


マイスターは格納庫で待機を。
最後にスメラギはそう言いと共にブリッジを後にした。
残ったロックオンとアレルヤ、マリーは立ち上がり移動をする。
通路へ出たところで、マリーがアレルヤを呼び止めた。


「いいの・・・?」

「良いも何も、そうするしか無いんだよ」

「でも、が・・・!」


言い募るマリーに、アレルヤは安心させるように微笑む。
彼女の肩を軽く叩くと、大丈夫と言う。


は優しい女性だ。ELSの想いも、受け止められる」


きっと、大丈夫。
そう言うアレルヤに、マリーは金の瞳を細めた。
脳量子波を介して伝わってくる。

アレルヤだって、不安で仕方がないんだ。
けれど、今この現状を打破できるのは、しかいない。
分かっていても、抑えられない思い。

マリーは唇を噛みながらも、二人の後に続いた。



とスメラギは宇宙空間に出ていた。
技師技術を持っているミレイナも同伴し、クアンタとザドキエルを受け取る。
ハッチが開かれ、中に横たわっている二機が姿を現した。
超高濃度粒子で意識共有率を格段に上げる事が出来る機体。
正に、イノベイターの為の機体だった。


「刹那は未だ起きんのか・・・!」

「私は刹那が回復すると信じてる。クアンタも最終調整をお願い」


スメラギの言葉にイアンが小さく頷く。
その時、リンダの持っていた端末のモニターにティエリアが映った。


『僕からも頼みたい事がある。
 イアン。ヴェーダの小型ターミナルユニットをクアンタとザドキエルに搭載して欲しい』

「どういうつもりだ?」

『ELSから送られてくる情報を、ヴェーダを使って制御する。
 そう・・・GNドライヴ、ヴェーダ、イノベイター・・・イオリア・シュヘンベルグが求めたこの3つで、来るべき対話を実現させる』


ティエリアの言葉にイアンが表情を歪める。
「分かっている」と言い彼はモニターを見返した。


「わし等は最善を尽くすしかない・・・!刹那の回復を・・・!」


イアンがスメラギに言う。
ザドキエルを見ていたがバックパックを使い彼らに近付く。


「ティエリア・・・」

。君も本調子ではない・・・出来れば、無理はして欲しく無いのだが・・・』

「刹那が起きるまででも良い。私も出来る限りの事はしたいの」


ね、イアンさん。
そう言って微笑む彼女に、「無茶はするなよ」と言いイアンも瞳を細める。
それを見ていたスメラギは小さく頷き、全員に通信をかける。


「スメラギより全員に通達。トランザムで最大加速、ELSとの接触を行います。
 最後のミッションとなるわ・・・みんな、気を引き締めて」


スメラギの言葉に全員が頷く。
プトレマイオス2へクアンタとザドキエルを積み込み、トランザムで加速する。
絶対防衛線まで行く中で、クラウドとも合流予定だ。

ブリッジに戻ったスメラギが、クラウドとの通信を開く。
既にあちらに戻っていたレーゲンが直ぐに応じた。


『ELSと接触か・・・の調子は?』

「安定しているわ。けど、いざとなったら分からない・・・」

『イノベイターの男はどうした』


画面にジュビアが割って入ってくる。
レーゲンが真紅を丸くしているが、彼はお構いなしに言葉を続ける。


『どーせまだ寝てんだろーが・・・惚れた女に全部背負わせる気かっつーの』

「・・・刹那も、目覚めてくれるわ・・・きっと・・・!」

『そうだな。俺たちも信じているさ』


レーゲンが優しく微笑む。


『此方も機体状況は万全だ。データは送った通りだから問題無いはずだが』

「ええ・・・。・・・クアンタとザドキエルにはヴェーダの小型ターミナルユニットを搭載するわ」

『その方が良い。刹那とにとっても、あの情報量は膨大すぎるからな』

「貴方は大丈夫?」

『俺にはジュビアが居るから問題無いさ』


そう言うレーゲンの背後で嬉しそうに笑ったジュビアが腕を回している。
彼を見てスメラギは思わず笑みを零した。





は格納庫でザドキエルのコクピットを覗き込んだ。
イアンが今急ピッチでヴェーダの小型ターミナルユニットを取り付けてくれている。
それさえあれば、ティエリアが協力してくれるので、ELSからの介入も制御できる。


私には私の役割を・・・


そう思い、ザドキエルにイエローハロを取り付けた。
データを受信し始めたので、近くにイエローハロを置く。
はそのまま腰を下ろして端末を繋げる。
データを見る中で、特にアブソラクションの物を見る。
以前使用した時はアブソラクションのせいでリボンズの意識を引き込んでしまった事がある。
しかし今回はイアンが調整もしてくれたし、ヴェーダの制御もかかる。
前回のようにはならないだろうけれど、念のためにチェックをしようとは思っていた。

レーゲンから薬も渡された。
特別なパイロットスーツまでも用意してもらった。
は空色の瞳を鋭くさせ、熱心にデータを閲覧した。





絶対防衛線。
ソレスタルビーイング号に搭乗しているカティ・マネキンが今回の作戦司令官となっていた。
彼女の呼びかけに応じたフレイも、彼女の隣のCIC席に腰を下ろしていた。


「大型ELS、距離千まで接近!」

「後0032で長距離ミサイルの射程距離に入ります!」


報告を耳にしながら、フレイは手元の端末を操作する。
前面に大型、中型、小型のELSが大量に並んでいる。
背後にあるものは、月と同じくらいの大きさの巨大な母艦ELSだ。


「本当に真っ直ぐ来たわね・・・准将、こっちに来てくれて助かりましたね」

「ああ・・・しかし此処からが本番だ。
 各艦、目標が射程県内に入り次第攻撃を敢行する。粒子ミサイルはELSとの接触を避け近接信管にセット!」


取り込まれては敵わん。
カティがそう言ったところで、通信モニターが表示される。
そこに映ったのは彼女の旦那でもあるパトリックだった。


『行ってきます、大佐!』

「准将だと何度言えば・・・」


そこまで言ったところで、パトリックが微笑む。
その笑みを見てカティは唇を結ぶ。


「・・・死ぬなよ」

『了解です!』


そこで通信は終了した。
おあつい事で、とフレイが茶化すとカティは彼女を不機嫌そうに見下ろす。


「・・・平和の為の礎なんて、いらないんだから・・・」


生きていてくれなきゃ、平和だって嬉しくない。
フレイはそう呟いて、グレーの瞳を細めた。
彼女の言葉に「そうだな、」と返しカティは前を見据える。


「全艦第一波ミサイル攻撃、開始!!」


彼女の指示により、ミサイルが発射された。
ミサイルでは取り込まれてしまう。
なので、接近したところで起爆システムを起動させ、ELSを爆発に巻き込む作戦だ。
「全弾命中!」という声と共に爆煙に包まれる。
全員がモニターを食い入るように見つめる中、フレイは違った。
瞳を細めながらも、パネルを操作する。


「何よ・・・私にまで干渉しようとして・・・!何したのよ・・・!」


奥歯を噛み締めながらも、データを照らし合わせる。


「GNフィールドもどき展開したわよ!まだ来る!」


フレイの声が響いた。
直後、周りに居たCICも忙しなく手を動かし始める。
以前此方の艦を取り込んだ際にGNフィールドまで理解したようだった。
動揺する副司令官を無視し、カティが再度指示を出す。


「大型粒子砲発射準備!MS隊で近接戦闘を仕掛ける!」

「全MS発進準備!・・・!


自分の前に現れた通信モニターにフレイが瞳を丸くする。
突如現れたそれにはアンドレイが映っていた。


「・・・アンタ、」

『戦力差はざっと見て1万対1、状況は最悪だ。しかし、守ってみせるさ、父と母が求めたものを。・・・そして、君も』

「!!!」

『戻ったら、伝えたい言葉がある。聞いてくれるか?』


穏やかな表情で言われ、フレイは瞳を見開いた。





『ごめん・・・後で・・・、帰ってから』





帰ってから。
そう約束して戻らなかった彼が脳裏に過ぎる。

咄嗟にフレイは「嫌よ」と返していた。


「・・・嫌よ・・・私は・・・約束なんか、嫌いなんだから・・・」


顔を伏せるフレイに、アンドレイが瞳を丸くする。
なら、と言って彼はGN−XWを発進させた。


『意地でも帰って、君との約束を果たすさ。君を縛るものを、解き放ちたいんだ』

「・・・ちょ、ちょっと・・・!」


フレイが言いかけた時には、アンドレイに通信を切られてしまった。
唖然とした様子の彼女を横目で見た後、カティは前を見据えた。


「近接戦闘になる!取り込まれぬよう各機GNフィールドを展開せよ!」


カティの声を聞き、フレイは唇を噛んで手を動かした。

グラハム率いるソルブレイヴス隊は出撃前のミーティングを行っていた。
これより、最終防衛線に加わりELSと交戦する事になる。


「ソルブレイヴス隊の精鋭に通告する。これから出向く戦場では、諸君等の命を賭けてもらう事になる」


隊長であるグラハム・エーカーは自分の隊員を一人ひとり見つめて言葉を続ける。


「だが、敢えて言おう・・・死ぬなよ!」

「「「「「了解!!」」」」」


グラハムの言葉に全員が敬礼を返す。
それから各員がそれぞれの機体へ乗り込む。
隊長機に乗り込みながら、グラハムは瞳を鋭くさせる。


、君も出るのだろう・・・どうか、死なないでくれ


無茶がすぎる愛しい女性へ思いを馳せながら、グラハムは操縦桿を強く握った。


フレイは大型粒子砲のチャージが完了した事をカティに告げた。


「チャージ100%!」

「掃射開始!」

「掃射、開始します!」


フレイが声をあげる。
直後、大型粒子砲から巨大なビーム攻撃が放たれ、大型のELSらを破壊する。


「艦隊、粒子砲で攻撃しつつMS隊も同時攻撃。掃討作戦に移る!」


全機突撃!
カティの号令に従い、地球連邦のMS隊が進軍を開始した。
MS隊はELSに応戦し、取り込まれそうになってもGNフィールドを展開して抑える。
しかし、それでも数万もの軍勢のELSに、MSが取り込まれていく。
そんな中、ELS同士が融合し合い、ある物へと変形を始めた。
モニターでそれを確認したフレイは息を飲み、カティを見上げる。


「ELSが次々とMSに変形していきます!」

「融合する事で・・・我々の情報を・・・!」

「じゃあ、武装も・・・!?」


嘘でしょ!?
フレイが声をあげる。
GN−XWの形へと変形したELSがビーム攻撃をしかけてくる。
次々と連邦のMSが撃ち落され、融合されていく。
そんな中、多くのELSが融合し、ある物へと変形し始めた。

その時防衛線に辿り着いたソルブレイヴス隊が、変形したELSに気付く。
「隊長!」と呼ぶ声にグラハムは「うろたえるな!」と返す。


「とはいえ・・・相手がガンダムタイプとは!」


融合が完了したELSのダブルオーライザーに向かって、グラハムは機体を進めた。
MSとELSが混戦する中、数多の流れ弾が飛び交う。
ブレイヴにもそれは命中し、バランスを崩したところに別の砲撃が襲い掛かり、機体は爆散する。


「イェーガン!」


手を伸ばすが、届かない。
目の前で消えた同胞を思い、グラハムは苦渋の表情を浮かべる。


「敢えて言ったはずだ・・・!」

『隊長!ポイント336を!』


通信越しに言われ、グラハムは其方を見やる。
大型のELSに小型のELSが集まり、今度は巡洋艦へと変貌した。
巡洋艦までもか、と呟きグラハムはブレイヴを動かす。

モニターで戦況を確認していたフレイが声をあげる。


「巡洋艦、二隻沈黙・・・!」

「陣形を立て直せ!チャージまでの時間は!?」

「出力55%ですが、撃てます!」

「敵の規整を削ぐ!粒子砲、発射せよ!」


カティの声に習い、フレイが手を動かす。
直後、大型粒子砲が発射され、大型のELS母艦に命中する。
しかし、蔦のような表面がくるりと避け、ビームを屈折させ、直撃を凌いだ。


ビームを屈折させた!?

「学習しているんだ・・・!」


それを見ていた学者のミーナとビリーが声をあげる。
ELS母艦は直ぐに修復を計り、元通りの形状となった。

ELSの猛攻に突破された箇所もある。
バックアップを、と焦りの声も響くがどの部隊がカバーに向かっても間に合いそうもない。
アンドレイはGN−XWを駆使し、地球へ向かうELSを追う。


「行かせるかああぁぁぁ!!!」


邪魔をしてくるELSのMSも切り倒しながら追うが、到底間に合わない。
その時、脇から粒子ビームが伸び、地球へ向かっていたELSを全て撃墜させる。


「・・・あの粒子ビームは!?」


アンドレイがそう言い視線を動かす。
緑色と、橙色のガンダムが真っ直ぐに此方へ向かっていた。





はイエローハロを端末に取り付けた。
此方を見上げてくるイエローハロに笑みを向け、球体を優しい手つきで撫でる。


「情報、お願いね?」

『マカセテネ、マカセテネ』


私も頑張るから。
そう言いは床を軽く蹴って体を無重力に委ねる。
真っ直ぐにザドキエルまでとんだ彼女は、コクピットハッチを開いて中に入ろうとする。
そこで、名前を呼ばれた。
振り返ると、そこには自分と同じようにパイロットスーツを身に纏ったアレルヤ、マリー、ロックオンが居た。


「どうか、無理はしないで・・・」

「アレルヤは心配性だね。パパになるんだからもうちょっとどっしりしてないと」

「ぁ、えっと・・・パパ、か・・・」


そっか、と言いアレルヤは目元を赤く染めた。
バイザー越しにでもはっきりと分かる色にはくすりと笑みを零す。
ロックオンは肩を竦め、改めてに向き直る。


「マジな話だ、俺たちだって心配してるんだぞ?」

「大丈夫。生き残る為に戦うから・・・アニューから惚気話、まだ全然聞けてないもの」

「惚気って・・・何話してるんだか」


小さく息を吐きながら笑むロックオン。
マリーが床を蹴って、の肩に触れる。


「お願い、無茶はしないでね・・・?」

「うん、マリーもね。レーゲンが心配しちゃうから」

「・・・彼は、誰でも心配するわよ?」


金の瞳を和らげるマリーに、も微笑む。
そして彼女の手を取って、優しく包み込んだ。


「私にとってはマリーもソーマも掛け替えの無い友だちだもん。これから先、一緒に過ごせる未来の為に、私は頑張るの」

「・・・、」

「終わったらお話、たくさんしようね」


私の事、貴女の事。たくさん話したいから。
そう言い微笑んだにマリーは頷いた。


「頑張ろう、未来の為に!」


ぐ、と拳を出すに全員が拳をあわせた。

各機に乗り込み、発進準備をする。


『スメラギより全員に通達。これより、ELSとの接触を行います。
 これがソレスタルビーイングの、いいえ、私たちに残されたラストミッションよ!』


スメラギの声に習うように、各ガンダムが発進する。


『ガンダムサバーニャ、ロックオン・ストラトス、狙い撃つぜ!』

『ガンダムハルート、アレルヤ・ハプティズム、ソーマ・ピーリス、防衛行動に入る!』


サバーニャとハルートが出撃をする。
は小さく息を吐いてから、腹部に手を当てる。


「パパも頑張るんだから、あなたもちょっと頑張ってね・・・」


私も、ママも頑張るから。
そう言い開かれるハッチを見つめる。


、分かっているとは思うけれど、アブソラクションはELSを自分に引き込む物よ』


使い方を間違えれば、融合される。
スメラギはそう言っているのだろう。
は頷き、分かっていますと返す。


『無理をさせてごめんなさい・・・お願いするわ』

「任せて下さい。刹那だって、直ぐに起きますから大丈夫ですよ」


通信モニター越しにスメラギが力なく微笑む。
優しい戦術予報士は、何よりもの身を案じてくれた。
スメラギだけではない、トレミークルーたちには支えられてきた。
みんなの為にも、自分の為にも、頑張らないと。
そう思いは操縦桿を握る。


「ガンダムザドキエル、・ルーシェ、行ってきます!」


ラストミッション。
ELSとの対話の為に、は出撃した。




ラストミッション、スタート!