プトレマイオス2からガンダムが出撃した様子をジュビアは見ていた。
格納庫に集まった各々が、顔を見合わせる。
「さて、戦闘員ばかりだからクラウドはこれよりオートモードに移行してプトレマイオス2の防衛に当たる」
ミーアは地上だしな。
そう言いレーゲンは肩を竦める。
「本来だったら、俺とジュビアだけで機体に乗る予定だったんだけど・・・決行状況が変わった。
またMSに乗せる事になってしまい、すまない」
本来、ブーステンデッドである彼らは望まぬ戦いをしてきた。
やっと平和に、MSとは関係無く過ごせてきたのに、此処でまた過去の兵器に乗せてしまうなんて。
レーゲンはそう思い、彼らに頭を下げる。
そんなレーゲンにクロトたちは息を吐いた。
「別にー、ただ待ってるだけってのも暇だしよ」
「久しぶりに乗ってみたくなったんだよ」
「気にしすぎじゃないの、寧ろレーゲンが待ってなよ」
クロト、オルガ、シャニに続けざまに言われ、レーゲンは苦笑する。
そんな彼の肩を軽く叩き、レイが言葉を続ける。
「お前への恩義は当然感じている。だからといっても、それに報いる為に無理にこうしている訳ではない」
「・・・そうだよな、」
「目の前で起こっている事を見過ごせない。お人よしに感化されたものはあるだろうがな」
レイは目元を和らげてそう言った。
レーゲンは誤魔化すようにメットを被り、バイザーを下ろす。
「・・・ELSには触れるなよ。融合されたらどうにもならない」
「レーゲンが気をつけろって話しだ」
「馬鹿野郎が、レーゲンには俺が居るから大丈夫なんだっつーの!」
ジュビアとクロトの言い合いを聞きながら、レーゲンは笑む。
腕を伸ばして近場に居たレイとジュビアを引き込むと、シャニが直ぐに加わってくる。
クロトもオルガも傍により、レーゲンを見つめる。
「・・・いいか、誰一人欠けちゃいけないんだ。気張っていこうぜ」
「「「「「おう!」」」」」
それでよし。
レーゲンが笑顔でそう言い、各々機体に乗るように指示を出す。
オート設定にし、レーゲンもジュビアと共にサングリアに乗り込む。
「各機、順番に発進しろ。俺たちは最後に行くから」
『おっけー、じゃあ僕から行こうかな』
クロト、シャニ、オルガ、レイが順番に動き出す。
『んじゃ、クロト・ブエル、レイダーガンダム、撃滅しに行くぜ!!』
『・・・オルガ・サブナック、カラミティガンダム、行くぞ』
『なんか地味じゃん、オルガ・・・シャニ・アンドラス・・・フォビドゥンガンダム、いきまーす』
以前悪の三兵器とも呼ばれていた機体が出撃をしていく。
腕は全く衰えていないようで、難なく準備を進めている。
『レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!』
「俺らも行くぞ、レーゲン」
レイのレジェンドが発進した後、後部座席に座っていたジュビアが声をあげる。
そうだな、と言いレーゲンは操縦桿を握る。
「さぁ、ジュビア、共に行こう」
「おうよレーゲン!サングリア、発進だ!!」
ジュビアの掛け声に合わせてサングリアを発進させる。
サングリアを筆頭に各ガンダムがつき、進軍を開始した。
クラウドのガンダムが出撃したのを確認しながら、アレルヤはハルートで駆ける。
「ELS侵攻の防衛行動に移る」
「了解」
アレルヤにマリーが答える。
「理屈なんざどうでも良い・・・やるだけだ!!」
ハレルヤが声を張り、GNキャノンでELSを撃墜する。
ロックオンもサバーニャでELSを撃墜していっている。
「全力で狙い撃つ!」
『『ネライウッテ!ネライウッテ!』』
サバーニャに取り付けられているオレンジハロとブルーハロが声を揃える。
ELSのMSがビーム攻撃を放つ。
それをシールドで受けた後、ライフルビットを展開して応戦していく。
そんな二機の作った隙間を縫うように、高速でザドキエルが駆ける。
戦列に加わったソレスタルビーイングは、既に地球連邦軍も認知しているだろう。
ザドキエルに近付くELSを、サングリアが撃ち落す。
それに続くように、フォビドゥン、レイダー、カラミティ、レジェンドが連邦軍の援護に回る。
大型の、母艦にきっと、中枢がある。
そこに近付いて、対話ができれば、
はそう思いながらELSのMSが放ったビームを避ける。
『、今の戦況で中枢まで進むのは無茶が過ぎる』
「ティエリア、」
ザドキエルのコクピットに取り付けられたヴェーダの小型ターミナルユニットを介して、ティエリアが声をかけてくる。
分かってる、と言いはビームライフルを構える。
放ったそれは放たれたビームと相殺して消えた。
「少しでも情報があればいい!動きを止めないと!」
このままでは、人間もELSも消えていくだけだ。
GNフィールドを展開し、迫る大型ELSを防ぐ。
の脳量子波につられてか、多くのELSがザドキエルに集まってきていた。
そのザドキエルを狙うELSを、ハルートが撃墜する。
爆風に乗りながら移動をしつつ、は彼の名を呼んだ。
「ハレルヤ!」
((出来るのか、対話!やるならさっさとしろ!))
「・・・もっと進まないと!広範囲に広める為に!」
((そうか、だったら突き進め!))
うん!と返事をしては機体を進める。
ザドキエルの前方に迫るELSは、ハルートとレジェンドが薙ぎ払った。
それでも横から迫るELSに、は唇を噛みながらもGNメガランチャーを放とうとするが、突然ビーム攻撃が起こり、それらを破壊した。
『姫君には指一本触れさせんよ!』
「グラハム!」
通信モニターに映ったのはグラハムだった。
ブレイヴがザドキエルの真横に降下し、腕を掴んで一気に加速をする。
迫るELSは、ソルブレイヴス隊が撃墜してくれた。
『戦いが終わったら、君と直にこうして駆け回りたいものだ!』
「・・・そうだね、じゃあ、その時はエスコートをお願いしようかな・・・」
『喜んで』
グラハムは微笑んでザドキエルの背を押す。
背後に迫ったELSを前に、ブレイヴを動かす。
『彼女の下へは行かせんよ!』
はザドキエルを真っ直ぐに動かす。
迫るELSを避けつつ、前へ前へと進む。
「・・・お願い・・・進ませて!!」
そう声を張った直後、の瞳が金色に輝いた。
ある事に気付いたティエリアが声をあげる。
『! !いけない!』
瞳が大きく開かれる。
の頭に、ELSに取り込まれる人々、撃墜される人、共に自爆をする人、爆発するELSが浮かぶ。
ひゅ、と喉の奥で息が詰まる。
は唇を噛み、震える手でしっかりと操縦桿を掴む。
「・・・ぁ、こんな・・・!」
ELSのMSがビームを放つ。
それはハルート、サバーニャ、サングリアたちを傷つけていく。
どうして、ELSだって、分かって欲しいだけなのに、
人間だって、まだ準備が出来ていないのに、守る為に戦っているのに、
それは、どうして、
((!))
頭に声が響く。
愛しい人の、声。
苦しむに反応したそれにより、幾分か心が安らぐ。
脳量子波に反応してか、地球へ向かっていたELSも半数以上が引き返してザドキエルに向かう。
ヴェーダで抑えていても、ELSの叫びが響いてくる。
頭の痛みを感じつつ、は唇を結ぶ。
「・・・ティエリア、」
『ELSが君に向かって集まってきている・・・!一旦離脱を!』
「大丈夫だから、そう、私には、私の出来る事を・・・」
『・・・?』
は口の端をあげて、僅かに笑みを零す。
大きく息を吐いてから、背を伸ばす。
「ティエリア、意識をクアンタに移して」
『何を・・・!?そうすれば君は・・・!』
「データだけでも少し残してくれてればいいよ。意識はちゃんとクアンタに」
『何故だ!?』
諦めたというのか!
ティエリアが声を荒げる。
それに対しては笑みを零し、大丈夫と呟く。
「刹那が目覚めるから。準備しておいてよ」
『・・・刹那が・・・?』
「私に出来る事をする。だから、ティエリアも出来る事をして」
そう言い端末を繋ぐ箇所を操作する。
何か言いたげなティエリアの映像も、それにより途切れた。
「きっと、大丈夫だから」
はそう言い、全部の通信を遮断する。
イエローハロから送られて来たデータがあったから、一人でもこんなに動く事が出来た。
それをも遮断したは、息を大きく吸う。
「・・・トランザム!」
ザドキエルの体が赤く輝く。
そして、大量に粒子を一気に放出する。
「アブソラクション、発動!ELS!私に応えて!!」
がそう声をあげた直後、最初に放出された粒子がまたザドキエルの下に戻る。
広範囲に広まったGN粒子は、ELSの母艦から最終防衛線全てに及んだ。
「っつ――――――!!!」
頭に一気に流れ込んでくる情報。
その場に居る人々の思いもが混ぜ込んでいる。
それらはティエリアがヴェーダを介して直ぐに跳ね除けてくれたようだが、ELSの情報は膨大な量だった。
それでも、受け止めなくてはならない。
がそう思い、頭に流れ込んでくるELSの思いを受け止めようとする。
((!!!!))
頭に声が響いた。
それは、愛しい、ひとの、
「――――――ぁ、」
直後、
ザドキエルの肩に、足に、頭部に、ELSが突き刺さった。
「っ・・・!うああああああああああ!!!!!!」
脳に突き刺さる痛みに声をあげる。
それでも操縦桿からは手を離さずに、ELSを思う。
分かり合える!声を止めなければ、分かり合うことができる!
ELSを、相手を、受け入れなきゃ、
がそう思った直後、また別のELSがザドキエルに取り付いた。
浸食され始めるザドキエルに、全員が息を飲んだ。
突然のELSの行動の変化に戸惑いを抱いていたカティは瞳を見開き、フレイはショックのあまり立ち上がった。
「あの娘が・・・!」と言い顔を覆ったフレイは項垂れる。
プトレマイオス2のブリッジでは報告を聞いたスメラギがさっと顔を青くした。
レーゲンとジュビアは表情を引き締めながらも、ザドキエルの援護に向かおうとする。
ロックオンは「ちくしょおおおおお!!」と声を張り、ELSを撃墜していく。
マリーも表情を歪めるが、アレルヤは静かな物だった。
不審に思ったマリーが思わず振り返ると、彼は表情をなくしてただ前を見据えていた。
「・・・アレルヤ、」
「は諦めていない。僕たちも、出来る事をやるんだ!」
そう言いハルートを動かす。
(そうだろう、・・・)
((何が起ころうが、あいつが死なない限り大丈夫だ))
だって、そうだろう?
僕たちは、約束したんだから。
アレルヤはそう思いながら、ザドキエルの周りのELSにGNキャノンを放った。
―――刹那は夢を見ていた。
クルジス共和国。
晴れ晴れとした空の下に、刹那は立っていた。
荒れ果てた土地だというのに、一輪の花が根強く咲き誇っている。
舞った花弁を見上げると、景色が変わった。
アザディスタンではシェルターに入りきらなかった避難民が王宮に集まっていた。
かつての殺戮兵器だったオートマトンが物資を人々に運んでいる。
そして第一皇女であるマリナが人々に優しく声をかけている。
するとまた景色が変わり、宇宙にきていた。
作業用オートマトンに指示を出し、起動エレベータ防衛の為の作業をしている沙慈。
そんな彼を想い、脳量子波遮断施設で一人彼を想うルイス。
砲弾を浴びながらも、怯まずに進んでいくロックオン。
同じように機体を揺らされながらも、愛しい人を想って戦い続けるアレルヤ。
被害状況を密に伝え、援護をしているトレミーのブリッジクルー。
それらを見つめた後、刹那はぼんやりと暗闇に立っていた。
そんな中、まるで太陽のような光が舞い降りてきた。
刹那が愛しいと感じる彼女は、金色の髪を揺らして優しく微笑んだ。
『お寝坊さん』
ふふ、と笑って刹那の手を取る。
彼女はそのまま、彼の手を引いて歩き出す。
『あのね、頑張ろうと思ったんだけど・・・やっぱり私一人じゃ難しかったみたいなの』
『・・・何を・・・?』
『本当はもっとちゃんとしたかったんだけど・・・此処でも、もう限界かも』
ごめんね刹那。
そう言って彼女は困ったように空色を細める。
『待ってる。私も、みんなも。貴方を待ってるから』
『・・・あ・・・!』
刹那が手を伸ばした時には既に遅く、暗闇に光は溶け込んでしまった。
そのまま固まってしまった刹那に、背後から声がかかる。
『何してるんッスか』
溜め息交じりの声。
酷く懐かしさを感じるそれに刹那は肩を揺らして振り返り、その姿を見止めて嬉しそうに表情を緩めた。
『みんなまだ、必死に生きてるッスよ!』
『世界を変えようとしている』
かつて共に戦った仲間の言葉に刹那はハッとする。
そうだ、みんなはまだ戦っている。
そう思った直後、懐かしい声がまた響いた。
『お前はどうなんだ、刹那』
暗闇から出てきたのは、自分を変えてくれた人。
自分だけではない、仲間も彼に支えられ、進む事が出来た。
『こんな世界で満足か?』
彼はそう言い刹那の前まで歩いてきた。
応えない刹那に彼は緑の瞳を少しだけ細める。
『俺は嫌だね』
そう言い彼は手を動かし、まるで銃のような形にする。
そのまま刹那の肩をとんと押し、見つめる。
『言ったはずだぜ、お前は変わるんだ。変われなかった俺の代わりに』
そう言い、彼は口の端をあげた。
直後、彼ら三人の姿が暗闇に消えていく。
思わず手を伸ばした刹那の目の前に、光が舞う。
そこに現れたのは、あの一輪の花。
『生きている・・・そうだな、お前はまだ、生きているんだ・・・!』
待っていてくれている人が居る。
その言葉に刹那は頷き、花に手を伸ばした。
―――――良かった。
その呟きを最後に、は意識を失った。
直後、ダブルオーライザーの形となったELSがザドキエルを掴み、そのまま母艦の方へと戻っていった。
「! アレルヤ!が!!」
「取り込まなかったって事は別の目的があるんだろ」
マリーの言葉にはハレルヤが答えた。
彼は金と銀の瞳を細めながら、ハルートを動かす。
「俺らの役目は周りのELSを地球に行かせねぇ事だ。ぼさっとしてねぇでやるぞ!」
「・・・了解・・・!」
(てめぇもいいな、アレルヤ)
((分かっている。僕たちは彼女を信じるんだ))
それが一番、彼女の為になるのだから。
アレルヤはそう思い、前を見据えた。
ラストまで突き進みます、