ふわふわとした意識の中。
はゆっくりと瞳を開いた。
ザドキエルのコクピットの中で気絶していたは、辺りを見渡して瞳を瞬かせる。
様々な色合いが混ざっている。
きれい、と思わず零したところで、機体を動かせない事に気付く。
改めて辺りを見渡すと、ザドキエルを背後からELSが捉えている事に気付く。
しかし不思議と不快感も、頭痛も無い。
これは、と思っていると、頭に声が流れ込んできた。
―辛い、怖い、苦しい、寂しい
今のは、とが思った時、ヴェーダのターミナルユニットが反応をした。
手を伸ばし、ティエリアに呼びかける。
「ティエリア・・・ティエリア・・・?」
しかし不思議な事に反応は無い。
あれ、と思っていると、コクピット内までELSが入り込んできた。
悪意は感じられない。恐怖も無い。
は導かれるように、手を伸ばしていた。
そっとELSに指先が触れた瞬間、頭の中に一気に情報が流れ込んできた。
あまりの情報の多さに、頭を覆う。
「っ・・・!うあああああ・・・!」
しかし、が苦しんだと分かったのか、ELSが引いていった。
荒い呼吸を繰り返しながら、は顔をあげる。
コクピットの中にまで及んだELSが、まるで囲うように周りに展開している。
そのまま導かれるように、中枢まで移動していく。
そこでぴたりと止まり、コクピットが開かれる。
え、と瞳を瞬かせていると、ELSが動いて道を作るように広がっていく。
「・・・そっちに、行けばいいの・・・?」
小首を傾げてが問うた時、今まで反応しなかったヴェーダのターミナルユニットが起動した。
其方を見ると、映像は出ないが、ティエリアと通信を交わす事に成功した。
『!無事なのか!?』
「ティエリア!」
名前を呼び返すと、彼は良かった、と零した。
今の状況を問う彼に、はベルトを外しながら答える。
「分からないけど、ELSがいっぱい居るからあの大きいELSの中なのかな・・・害は無いみたい」
『そうか・・・君が無事で良かった』
ティエリアが言ったところで、ああ、と言葉を続ける。
『君に吉報だ。刹那が目を覚ました』
「起きたんだね!良かったー」
はそう言い安堵の息を吐く。
そのまま立ち上がり、ELSの方に向き直る。
「・・・じゃあ、刹那に伝えておいて。先に行ってるから早く来てね、って」
『・・・?待て、君は何をしようとしているんだ?』
「折角お誘い貰ってるんだから、行かないとって思って」
じゃあ、伝言よろしく。
はそう言い、ザドキエルのコクピットから身を乗り出した。
途端、ELSに囲まれるように導かれ、まるで蕾が花開いたように穴が広がる。
「一人じゃないから、大丈夫・・・」
腹部を撫でながら言い、はゆっくりと瞳を伏せた。
少し前に、刹那は目を覚ましていた。
ずっと刹那の傍についていたフェルトも、安堵と嬉しさからの涙を零して、微笑んだ。
フェルトにすまない、と言ってから刹那は体を起こす。
「・・・は・・・?」
「・・・ザドキエルで出撃したわ」
「一人だと難しかったと言っていた・・・早く行ってやらないと・・・!」
体をよろめかせる刹那を支えながら、フェルトが立ち上がる。
イノベイター同士、眠っている間でも何か感じるものがあったのだろうか。
そう思いながらフェルトは刹那を見上げる。
「・・・刹那、」
「ありがとう、フェルト・・・」
通路に出たところで、刹那はフェルトの髪に触れた。
短く切り揃えられた桃色の髪が、ふわりと舞う。
お互いに少し微笑み合った後、刹那は格納庫へ、フェルトはブリッジへ向かった。
クアンタに乗り込みながら、刹那はスメラギに通信を入れる。
「心配かけてすまなかった。ダブルオークアンタで出る!」
「当たり前だ!」
『刹那・・・お願い』
イアンとリンダが刹那がハッチに入るのを見送った後、放れていく。
ヴェーダのターミナルユニットが起動し、立体映像のティエリアが表示される。
ティエリアは複雑そうな表情で刹那を見返した。
『・・・刹那、君が目覚めてくれて良かった』
「彼女と、仲間の声が聞こえた。俺はまだ生きているんだと、教えてくれた」
『そうか・・・刹那、急いでELSの中枢まで突入するぞ。あまり時間が無い』
ティエリアの言葉に刹那は頷いた。
そのまま発進シークエンスに移動する。
『第三ハッチオープン。ダブルオークアンタ、射出準備・・・』
通信モニターにフェルトの顔が映る。
刹那は真っ直ぐに彼女を見詰め、「了解した」と返す。
『リニアボルテージ上昇。730を突破』
恐らくは、長い別れになるだろう。
仲間への思いを馳せた後、刹那は改めて前を見据えた。
『射出タイミングを、刹那・F・セイエイに譲渡します!』
「了解。ダブルオークアンタ、刹那・F・セイエイ、出る!」
クアンタを発進させ、刹那は真っ直ぐに駆けた。
そのまま前方でGN−XWに取り付いているELSを攻撃する。
近くでビームライフルを用いてELSと交戦をしていたサバーニャが反応をする。
『来たのか!』
刹那の意識を脳量子波を介して感じ取ったハレルヤが「遅ぇんだよ!」と声を張る。
新たに陣営に加わった機体を目にしたグラハムも、歓喜の声をあげる。
『待ち兼ねたぞ、少年!』
戦う仲間の姿を見止めながら、刹那はクアンタを動かす。
ティエリアは全ガンダムとの通信をオープンにして口を開いた。
『先ほど、ザドキエルとのコンタクトに成功した』
『何だって!?・・・っ、はどうだった!?』
爆音と共に響いたのはロックオンの声。
それに対してティエリアは安心させるように柔らかい声色で言葉を紡いだ。
『安心しろ。無事だ。ELSの中枢に導かれたようで、刹那を待つと言っていた』
『・・・無事だったんだね』
安堵の息を吐いたアレルヤ。
信じている。言葉ではそう言っても、不安な気持ちは多かったようだ。
『放っておくと、彼女は一人でもELSと対話をしてしまう。
ザドキエルも機能停止状態となった。急いでELSの中枢に向かう必要がある』
「分かっている」
夢に出て来てくれた彼女。
迷っている自分を、光に導いてくれたのは他ならないだった。
必ず会いに行く。そう決意した刹那の耳に、ロックオンの「任せろ」という声が響く。
サバーニャが前に出、ライフルビットを展開する。
『行くぜハロ!』
『『リョウカイ!リョウカイ!』』
『乱れ撃つぜええぇぇぇ!!!』
ライフルビットはハロが。サバーニャのライフルはロックオンが操作しながら眼前のELSを撃墜していく。
そのまま突き進んでいくサバーニャに、ハルートが続く。
『良いか!反射と思考の融合だァ!!・・・分かっている!』
『了解!』
ハレルヤの言葉にアレルヤとマリーが返す。
直後、ハルートはマルートモードを展開する。
頭部のバイザーが開き、カメラアイが六つ、妖しく光る。
アレルヤ、ハレルヤ、マリーに対しての各位のOSが起動し、リミッターが全て解除された。
『行くぜええぇぇぇ!!!!!』
GNシザービットが展開され、次々とELSを撃墜していく。
そして直ぐにGNキャノンを発射し、大型のELSまでも破壊していく。
『これが!超兵の力だ!!・・・違う!未来を切り開く力だ!!』
アレルヤが声を張り、サバーニャと連携して道を作る。
一直線の道が出来た時、ロックオンが刹那に呼びかける。
クアンタが直進し、大型ELS母艦の前まできたところで別方向から来たELSが攻撃をしかけてくる。
「俺は戦う為に来た訳では・・・!」
そう言った直後、奥に居るELSが合体をし、ある機体へ姿を変えた。
其れを見たティエリアが驚きの声をあげる。
『ザドキエルだと!?』
の乗っていた機体、ザドキエルに姿を変えたELSが、動き出す。
しかし、クアンタに向かってくると思われたそれはあろう事か、ELSのGN−XWに背後から組み付いた。
他にもミカエル、カマエルへと姿を変えたELSが、クアンタを狙うELSを阻止する。
「・・・これは・・・!」
『何を躊躇している、少年!』
ブレイヴがクアンタの背後に迫ったELSを撃墜する。
グラハムは周りのELSを攻撃しながら、クアンタを援護する。
『生きる為に戦うと言ったのは君のはずだ!
たとえ矛盾を孕んでも存在し続ける・・・それが、生きる事だと!!』
ブレイヴをトランザムさせ、ELSに猛攻をしかける。
生き残ったソルブレイヴス隊と連携をとりながらグラハムは突き進む。
『行け!少年!生きて未来を切り開け!!』
そう叫ぶグラハムの背後にELSのGN−XWが迫る。
が、真横から現れたカマエルの形をしたELSが体当たりで阻んだ。
ビームを喰らって頭を吹き飛ばすカマエルだが、そのままGNメガランチャーを放ってELSを牽制していく。
『も、諦めていないはずだ!!』
その言葉を聞いて、刹那は再度移動を開始した。
サバーニャはELSの猛攻を受け、左腕が吹き飛ばされていた。
ライフルビットで攻撃し、時には防ぎながらELSと交戦をする。
ELSの放ったビームが、ライフルビットを破壊していく。
「くそったれ・・・!けど、まだだぜ!トランザム!」
トランザム状態となったサバーニャを、直もELSが追撃しようとする。
が、真横から現れたザドキエルがそれを食い止めた。
ロックオンはそれを見ながらも、機体を上昇させる。
マルチロックをかけ、そのままELSに向かったミサイルとビーム攻撃を降り注ぐ。
アレルヤは目の前でELSに取り込まれそうな連邦のフラッグを見つけた。
いけない!と言い其方に向かうアレルヤに、マリーが声をあげる。
「アレルヤ!」
「もう遅ぇ!!」
マリーとハレルヤの静止の声を聞かずにアレルヤはGNソードでフラッグの腹部を切り、パイロットを脱出させる。
その際にELSに浸食された箇所を切り離し、GNキャノンで撃ち落す。
「テメェの行為は偽善だ!・・・それでも善だ!僕はもう、命を見捨てたりはしない!!」
トランザムを展開し、飛翔しながらELSを撃ち落していく。
そんなハルートの前に、大型のELSが迫る。
GNキャノンを構えるハルートの背後に、まるで寄り添うようにミカエルが下りてきた。
「・・・ミカエル!?」
ELSが合体してできたそれは、両手に持ったビームライフルを放ちながら背後に迫るELSを食い止めていく。
初めて出会った時の彼女の機体に背を預けながら、アレルヤは眼前の大型ELSを撃墜した。
連邦の艦隊の前に出ながら、フォビドゥンはビームを盾で屈折させる。
そのまま迫る敵にフレスベルグを放って一掃する。
エネルギー偏向装甲で艦隊を守りながら戦っているが、満足に動けない状況にシャニは苛立っていた。
それはオルガもクロトも同じようで、飛行形態のレイダーに乗ったカラミティが苛立たしげにシュラークを発射する。
「まだかよ対話ってのは!」
オルガが苛立たしげに声を漏らす。
GNキャノンを発射しながら、サングリアも援護に回る。
レーゲンはELSを撃墜しながら、侵食されているGN−XWをGNソードで切り放す。
レイもドラグーン・システムを使用して侵食される機体を解放していく。
そんな中、突出状態となっているGN−XWを見つけ、突撃ビーム機動砲を放ちながら援護に向かう。
「少し下がれ、体勢を立て直すんだ」
『その声は・・・レイか!?』
「! アンドレイか!」
GN−XWに搭乗しているおはアンドレイのようだった。
レイは援護しながらも共にELSを撃墜していく。
―――伝わってくる。
みんなの想いが。
は沈む体を、抵抗しないままそのままにしていく。
仰向けのままゆっくりと落下していく中で、ELSを介して外の様子が伝わってくる。
ごめんね、同士討ちみたいな事させて。
そう呟いたつもりが、声には出なかったようだ。
しかし脳量子波を介してか、ELSには伝わった様子で彼女の周りに集まってくる。
そんな中、此処に突入しようとする意識を感じては瞳を大きくした。
クアンタを導く為、トランザム状態で巨体なELSに突撃しようとしていたグラハムは、ブレイヴが動かなくなった事により声をあげる。
「何だ!?・・・これは、」
眼前に迫ったのは、カマエルのGNソード。
カマエルはブレイヴの胴体を真っ二つに切り裂くと、ELSごと爆破させた。
コクピットハッチから滑り落ちるように出たグラハムは、爆風によって宇宙空間へと投げ出される。
「っぐ・・・!? ・・・!!!!」
思わず手を伸ばす。
直後、グラハムを助けたカマエルは修復するELSの裂け目にGNメガランチャーを放ちながら突撃していった。
グラハムさんは生存です。
ハレルヤに言い返せるアレルヤは本当に成長したと思います。