ふわふわとした意識の中、ただ、受け止める。
恐れ、不安、戸惑い。
様々な感情が体に入ってくる。
そう、これがELSの伝えたかった"想い"。
((分かって欲しかったんだね))
こんな小さな想いを受け止めるだけでも頭がいっぱいになる。
受け止め切れなかった想いは溢れ出てしまう。
それではいけないんだ。
刹那と一緒なら、私は頑張れる。
彼が来るまで、少し待っていて。
そう言い、ELSに両手を伸ばした。
「ダブルオークアンタ、ELSの中枢へ突入した模様です!」
プトレマイス2のブリッジでフェルトが状況をスメラギに報告する。
良かった、と零してスメラギは再度口を開く。
「艦の汚染状況は?」
「44%を越えました」
フェルトがそう報告した直後、揺れが響く。
また新たなELSがプトレマイオス2に取り付いたようだった。
「GNフィールド、再展開不能です!」
パネルを操作しながらミレイナが声を張る。
このままでは、ELSに侵食されるのも時間の問題だった。
そう判断したスメラギは静かに、言葉を紡ぐ。
「総員、退艦の準備を・・・」
「・・・!嫌です!!」
しかし、フェルトが直ぐに反対の意を唱えた。
全員が彼女に注目をする。
「クリスの時のように、またのけ者にするつもりですか・・・そんなのは嫌です」
静かに言うフェルトに、スメラギの瞳が揺らぐ。
「今度こそ、全員で生き残るんです!」
「ミレイナも残るです!」
オペレーター組にそう言われ、スメラギは困ったように前を見る。
操縦桿を握るアニューも微笑んで肩を竦め、ラッセも静かに笑うだけだった。
『諦めるのはまだ早い!』
『最後の最後まで信じましょう!』
イアンとリンダが通信越しに激を飛ばす。
それにミレイナが明るい笑みを浮かべた。
『その通り!俺たちは・・・ソレスタルビーイング!!』
ロックオンの声が響く。
そうそう、という明るい声もブリッジに入ってきた。
『諦めが悪いのが・・・俺たちだろ!?』
レーゲンの声。
『切り開くんだ・・・!』
『未来を・・・』
『明日を!!』
アレルヤ、マリー、ハレルヤの声が響く。
みんな諦めずに、戦い続けている。
スメラギは表情を引き締め、そうね、と零す。
「・・・信じるわ、刹那を、を・・・!」
アレルヤはGN−XWに取り付いたELSを撃墜していた。
目の前の命を見捨てない。
そう決意したアレルヤは、ELSを撃墜しながら救援活動を行っていった。
の状態は分からないが、ティエリアが無事を伝えてくれた。
今はそれでいい。
そう思いながらアレルヤは操縦桿を強く握った。
「は自分の出来る事をしているんだ・・・!僕たちだって、出来る事を!」
『――そうだ、アレルヤの言う通りだ』
サングリアからの通信が入る。
レーゲンが機体を動かし、ジュビアが攻撃行動に移る。
ELSを牽制するようにビーム攻撃を放ち、サングリアはハルートの背後に回る。
『刹那も向かった。大丈夫だ、アレルヤ、ハレルヤ』
「・・・そう、ですよね・・・って、そうに決まってんだろーが!あいつは約束をしたんだ。俺らと結婚するってな!」
だから絶対戻ってくる。
そう言うハレルヤにアレルヤも頷き、前を見据えた。
ELSの中枢に突入したクアンタは導かれるように奥へと進んでいた。
花の蕾が綻ぶように開いたところに、刹那の想い人の姿があった。
思わずハッチを開いて彼女の体をクアンタの中へ導く。
ふわりと舞うように刹那の腕の中に、は納まった。
「・・・刹那、」
「無事か」
「うん、大丈夫」
は微笑んで言うと、真っ直ぐに刹那を見詰めた。
「ELSは悪意があってやってる訳じゃないんだよ、私を導いて、心配してくれた」
「・・・ああ、分かっている」
刹那は頷いた後、自分の膝上にを座らせた。
え、と瞳を丸くするに、柔らかい笑みを向ける。
そのまま刹那はクアンタをELSの奥へと向かわせる。
「待っていてくれて、ありがとう」
夢を見た。
刹那はそう言った。
は前を見る刹那をじっと見詰める。
「の声の後に、リヒテンダール、クリスティナ・・・そして、ロックオンの声を聞いた」
「・・・みんな何だって?」
「怒られた。俺だけ寝ているのかと」
口の端をあげて言う刹那にも微笑む。
操縦桿を握る手に自分の手を重ね、は前を見据えた。
「生きているから、私たちは」
「ああ、俺たちは生きているんだ」
だから、
そう言いELSの最深部に進む。
中心部はふわりと迎え入れるように開いていく。
立体映像で現れたティエリアが口を開く。
『我々を迎え入れようと言うのか』
「クアンタムシステムで高濃度意識共有領域を展開する」
『ELSの力は未知数だ。フルパワーで行くぞ・・・いいか、』
「大丈夫」
気遣わしげなティエリアには微笑んで返す。
それに対して彼も笑みを浮かべ、真紅の瞳を優しく細めた。
直後、クアンタムバーストを発動し、高濃度意識共有領域を展開する。
「これがラストミッション!」
『人類の存続を賭けた・・・』
「対話の、始まり!」
クアンタから光が舞う。
直後、刹那との中にELSの意識が急速に入り込んできた。
((この情報の奔流は僕とヴェーダで受け止める!余計な物は受け流せ!本質を、彼らの想いを見極めるんだ!))
頭にティエリアの声が響く。
情報の波に流されそうになりながらも、掴んだ手は離さない。
二人で受け止める、二人でなら。
ぎゅう、と強く互いの手を握った直後、全てを理解した――。
ELSは遥か彼方の銀河で産まれた。
しかし母性が死を迎えようとした時、恐れ、戸惑い、分かり合える仲間を求めて、彼らは生き残る為に母性から離れ、旅立った。
ただ、生きる道を探していただけ。
母星を失った辛さ、恐怖、不安、
全てをただ、理解して欲しかっただけだった。
繋がる事で、一つになる事で、同じになる事で、生きようとしている。
みんな同じなのに、どうしてこうもすれ違うのだろうか。
なまじ知性があるから、些細な事を誤解し、区別して、分かり合えなくなる。
答えは出ているのに、気付いていないだけ。
だからこそ、分かり合う必要があるんだ。
『そうか・・・彼らの母星は死を迎えようとしていて、生き延びる道を探していたのか』
「繋がることで・・・ひとつになることで、相互理解をしようとしていた・・・」
ティエリアと刹那が零す。
は小さく頷き、握る手に力をこめた。
「・・・行こう、彼らの母星へ。俺達は分かり合う必要がある」
「・・・刹那、」
『いいのか?』
もう戻れなくなるぞ。
そう言うティエリアに刹那は穏やかに微笑んで頷く。
「いいも悪いもない。ただ俺には・・・生きている意味があった・・・」
そう言い刹那はに向き直る。
彼女の肩に空いている手を置いて、真っ直ぐに見詰める。
意識空間の中で、阻む物は何もない。
刹那は柔らかく微笑んで、、と彼女の名を呼ぶ。
「どうか、幸せに」
「・・・刹那、私・・・!」
「」
刹那はそう言い彼女の頬を撫ぜた。
どこか求めるような刹那の視線に、空色を大きくする。
「・・・ソラン・・・」
そう呼ぶと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
彼の手を両手で握り、真っ直ぐに見詰める。
「・・・私、ソランを待ってるから」
「・・・ああ」
「あのね、戻ったら"結婚"するんだって。お祝い、って・・・ソランにも見て欲しい。
それで、子どもも抱いて欲しい・・・ソランに、」
「ああ、会いに行く」
「・・・絶対、だよ?」
ああ、絶対。
刹那はそう言い腕を軽く引いた。
小さくすまない、と謝ると彼は間近で空色を見つめた。
「頼りっぱなしで、すまなかった」
「ソラ―――、」
「愛している」
俺だけの―――、
刹那はそう言い最後のキスをした。
空色が見開かれた瞬間、握っていた手が離れる。
あ、と思った直後、眩い光に阻まれた。
ELSの中枢から外へ出たクアンタ。
ハッチを開き、愛しい金色を手放す。
「――ソランっ!私待ってるから!!」
「ありがとう、」
彼女の周りにELSが集まる。
飛び交うビーム攻撃から彼女を守るように動くELSに、刹那は笑みを浮かべる。
片足と片腕を失ったサバーニャ。
侵食されたハルートから脱出するアレルヤとマリー。
プトレマイオス2ではELSに侵食されて追い詰められたリンダ、イアンを案じるミレイナ。
懸命に前を見据えるスメラギ、フェルト、ラッセ、アニュー。
ELSに侵食された腕を自分で切り落とし、突き進むレーゲンとジュビア。
彼らの想いを感じながら、刹那はクアンタを動かす。
GNソードビットが展開され、輪を作る。
「示さねばならない。世界はこんなにも・・・簡単だということを・・・!」
直後、クアンタを量子化させ空間転移した―――。
「・・・いってらっしゃい、ソラン・・・!」
粒子が消えるまで見守っていたの瞳から、一滴零れ落ちた。
直後、ELSが動きを止めた。
攻撃をやめた事から、連邦軍側の動きも止まる。
月の隣に集まり、形を作っていく。
の周りに居たELSも彼女の周りをくるくると回った後に移動する。
想いが伝わった。
と刹那の想いを受け取ったELSは、それを形にした。
戦う事でもなく、融合する事でもなく。
ELSが集まり、巨大な一輪の花を咲かせた。
金属の花は、刹那の花。
彼の故郷にも咲くその花は、フェルトから貰い、と二人で世話をしていた花。
祈りが形となり、人々もその美しさに見惚れる。
「・・・見えるよ・・・ソランの想いが、形になったよ・・・!」
連邦軍も、地上の人々も、避難していた者も、ソレスタルビーイングも、全ての人々がその奇跡の花に見惚れていた。
きっと、分かってくれる。
この花を見つめて、笑い合う。手を取り合う。それだけで、分かり合えるという事を。
時間も言葉も、必要ないんだ。ただ、相手を思いやる、その心があれば。
はそう思い自分の腹部に手を当てる。
「・・・ねぇ、貴方も分かるよね・・・?」
きっと。
そう呟いた時、名前を呼ばれた。
振り返ると、バックパックを噴かして此方へ向かってくる、愛しい影が見えた。
は瞳を瞬かせて、柔らかく微笑んだ。
バイザーの中に雫が舞う中、もバックパックを噴かせて彼の下へ向かった。
二機のハロと一緒に宇宙空間に出たロックオン。
サングリアでマリーを迎えに行ったレーゲンとジュビア。
プトレマイオス2のブリッジでは皆が笑顔になり、地球連邦の司令部では各々が喜びの声をあげていた。
アンドレイとレイはモニター越しに笑い合い、フレイは落ち着く為に椅子に腰を下ろした。
きれーじゃん、とシャニが呟きクロトとオルガも眩しそうに瞳を細める。
地上ではシェルターの前で人々励ましていたミーアが、嬉しそうに微笑んだ。
は両手を広げて愛しい人の腕の中へ飛び込んだ。
言葉なんていらない。
ただ、触れ合えるだけで、こんなに幸せな気持ちになれるのだから。
バイザー越しに見つめあい、二人は幸せそうに微笑んだ。
映画本編終わりました・・・!
色々と消化不良な気もしますがまだ続くので・・・^^笑