今日、ドレスを見に行った。
私なんかが着てもいいの?・・・っていうくらいすごく可愛くって、ふわふわしてた。
スメラギさんたちは褒めてくれたけど、何だか自分が自分じゃないみたいでドキドキした。
こういうのって、私よりステラの方が似合うと思うんだけどな。
・・・久しぶりにグラハムとか、アンドレイ中尉・・・あ、もう大尉か。
それに、マネキン夫妻も来てくれて・・・アロウズでちょこっと会っただけなのにね。
あのね、私と同じ"流れ者"もみんな来てくれたよ。
シンのお友だちの、レイ。フリーダムのパイロットを想ってるフレイ。
私と同じ、地球軍に体を改造されたオルガ、シャニ、クロト。
ただ一人を想いながらも、万人を想って歌うミーア。
みんなみんな、来てくれたの。
でもね、マリナさんはやっぱり忙しくって来れなかったんだ。
貴方と一緒だね。
一週間後、私はアレルヤとハレルヤと結婚します。
えっと、本当に、小さくていいの。結婚式も。
だからね、私たちの家であるトレミーでする事にしたんだ。
アレルヤも、そうしたかったみたいで私が話したらビックリしてた。
トレミーの通路、通って、展望室飾りつけして。
どうなるかは、私はまだ分からないんだけど・・・だってフェルトやアニューが張り切ってて見せてくれないんだもん。
当日のお楽しみです!・・・って、ミレイナにも言われちゃったしね。
・・・どうせ、は当事者だから構えていればいい。とか思ったんでしょ。
分かるよ、貴方の事だもん。
・・・そっちは、どうですか?
って言っても、まだ移動中かな・・・?遠いんだもんね。
・・・もし、粒子化して越えられる壁の中に、"世界"があったのならば。
私はどうしただろうね。
西暦という暦の世界からC.E:に戻る?
戻ったら、どうするんだろう。きっと、直ぐにシンに会いに行く。
元気な姿を見せて、私お腹に赤ちゃんが居るんだよって、結婚もするんだよって、報告する。
だって、シンは優しいから。
きっと、ずっと、気に掛けてくれていたから。
・・・貴方と一緒だね。
怒った時は炎の色。悲しい時は夕日の色。嬉しい時は、んー、りんご色?
兎に角、同じ目をしてた。だから、貴方が直ぐに優しい人って分かった。
あ、戻ったとしても、私きっとまたこっちに戻ってくると思う。
だって、私はもうこの世界に居るんだから。
ソレスタルビーイングの、ガンダムマイスターとして。
そして、アレルヤとハレルヤの、家族として。
ここに、居るんだから。
家族は彼らだけじゃない。トレミーのみんなも、勿論大切な家族。
その中には貴方も入ってるんだよ。
・・・一週間後の結婚式。
本当は来て欲しいけど、流石に移動中・・・だもんね。
写真とかいっぱい残すから。戻ってきたら、見せるね。
ずっと、待ってるからね。ソラン。
ピ、と音を立ててイエローハロの瞳が点滅をする。
今日の記録も残した。はそう思いながら小さく息を吐いた。
ELSの母星へと向かった彼は、きっと一週間後の結婚式には間に合わないだろう。
恐らくは、遥か遠くにある母星へ向かって未だ移動中だろうから。
それでも、想いは届けたい。
そう思い、は刹那と別れた次の日から、ずっとこうしてイエローハロに音声記録を残していた。
イエローハロを膝上で抱きなおしたの前に、カップが差し出された。
顔をあげると、そこには穏やかに微笑むアレルヤがいた。
「終わった?」
「うん・・・ありがとう」
そう言いアレルヤからカップを受け取る。
がイエローハロにメッセージを録音している時はアレルヤは静かに見守ってくれている。
刹那に向けたメッセージなので耳にしないようにか、席を外しているが終わった頃を見計らって直ぐにこうしてカップを差し出してくれる。
受け取ったカップを両手で包み、そっと傾ける。
そんな様子のを見ながら、アレルヤもカップを傾けた。
「・・・あと、一週間だね」
結婚式。
そう言うにアレルヤは小さく頷いた。
「なんだか、本当に色々あったね」
「・・・そうだね。初めて会った時の事、覚えてる?」
の問いかけにアレルヤは勿論、と返す。
隣に座る彼女の手に自分の手を重ねて、アレルヤは微笑んで口を開いた。
「最初はこんな女の子がガンダムに乗って戦うなんて、と思ったけれど・・・正直、今でもそれは変わらないよ」
君には戦って欲しくない。
そう言うアレルヤには困った様に笑った。
「でも、私だってソレスタルビーイングのガンダムマイスターだもん。力があるのに何もしないなんて、私には出来ないもの」
「そうだね・・・だからこそ、パイロットスーツも着ないで無茶もした」
アロウズに追い詰められた時、身動きが取れるのはだけだった。
戦いから離れていた彼女だが、皆を守る為に震える体を叱咤してガンダムに搭乗して敵を撃墜していった。
その時の事を思い出してか、アレルヤが渋い表情をする。
「あの時は仕方なかったでしょ・・・?」
「でも、嫌なものは嫌なんだ」
む、とが頬を膨らませると、彼の指が頬を撫ぜた。
「君の記憶の底も見た」
戦いを恐れていながらも、ステラたちを守る為にウィンダムに乗って戦った。
怖いけれど、ネオが言うから。ステラやアウル、スティングを守らないと。
ただその思いだけで戦場に身を投じて、彼らを守って散っていった。
そんな彼女を、守りたい、守らなければいけないとアレルヤは強く感じた。
だからこそ、彼女にはもう戦場に身を投じて欲しくない。
そんなアレルヤの気持ちを汲んでか、は彼の肩に頭を預ける。
「・・・世界は平和に向かってるんだもの。私もアレルヤも、ハレルヤだって・・・戦わなくて良い時が必ず来る」
「・・・、」
「ね、結婚したら、家族になるんだよね?」
そう言いは空色の瞳をそっと伏せた。
アレルヤが視線を其方に向けると、穏やかな表情で瞳を伏せる彼女が目に入る。
「ずっと一緒に居られるって事だよね・・・アレルヤとハレルヤと」
「うん・・・もうからは離れないよ」
絶対に。
そう言いアレルヤは彼女の肩に手を回す。
頬を摺り寄せるとアレルヤは嬉しそうに微笑む。
「君とこうしていられるだけで、本当に幸せだよ」
「うん、私もアレルヤに会えて良かった」
そう言ったところで「おい」という不機嫌めいた声が響いた。
顔をあげるとそこには細められた金と銀が見える。
「俺の事忘れてんじゃねぇぞ」
「ハレルヤの事を忘れる訳無いじゃん!だって、ハレルヤだって特別だもん」
「そーかい」
満足げに笑んで言うハレルヤはそのままの肩を引き寄せる。
「あのね、海が見える場所に住みたい」
「そうか」
「青い空と青い海が、大好きだったから、アレルヤとハレルヤと、この子と一緒に平和に暮らしたいの」
「そうだね」
「みんなでお買い物に行ったり、部屋の中でゆっくりしたりとか、何気ない事をしたい」
「おう」
「時間を持て余してみたりとか・・・ゆっくり過ごしたい」
「うん」
私のしたい事。
そう言うにアレルヤは「僕たちもだよ」と言い額に唇を落とした。
「子どもを産むとか、誰かと結婚するとか・・・何も考えていなかった」
あの頃は。
そう呟いては空色の瞳でアレルヤを見つめた。
「ただ、ずっと戦っていればいいと思ってた。自分で道なんて選ばないで、与えられた役割だけこなしてきた」
けど、今は違うから。
はそう言って微笑んだ。
「貴方と道を選んで、進んで行くの。私たちのこれからを」
今から、とても楽しみ。
そう言い微笑むに、彼も幸せそうに笑んだ。
「貴方たちはどうするの?」
スメラギに問われてプトレマイオス2にまだ残っていたレーゲンたちは顔を見合わせた。
ジュビアはすぐに「俺はレーゲンと一緒」と言い彼の腕を掴む。
それに苦笑しながら、レーゲンはスメラギに向き直る。
「俺たちは地上にある家に戻る・・・そこでまた暮らすよ」
「そうね・・・そこが、貴方たちの家だものね」
レーゲンの言葉に異論は無いようで、クロトたちも口を閉ざしている。
スメラギが「連邦軍には?」と問うと脇に立っていたフレイが反応した。
「あたしとレイは行くわよ。元々連邦軍所属だったし・・・」
「俺も技術的に協力しようかな、なんて」
レーゲンは微笑んで言い、スメラギを改めて見る。
「君も、落ち着いたらとか考えているんじゃないか?」
「あら、お見通し?まぁ、裏的な手伝いでも出来たらと思っているわ」
「カティも歓迎するわね」
フレイが口の端をあげて言う。
スメラギはそうかしらと肩を竦めるだけだったが、表情は笑っていた。
つられるようにフェルトやミレイナも笑む。
そんな中、マリーがちらりとレーゲンに視線をやる。
それに気付いたレーゲンは「ん?」と言い小首を傾げる。
「どうした、マリー」
「あ、い、いえ・・・」
その、と口ごもって金の瞳を揺らす。
そんなマリーにレーゲンは笑み、頭を軽く撫でる。
「・・・それじゃあ、そろそろ解散にするか。一週間世話になるぞ」
「ええ。その間は、メディカルルームをお願いね」
「勿論」
そう言いブリッジのドアを開けるとクロトたちが出て行く。
一週間後の結婚式まではプトレマイオス2で過ごす予定である。
レーゲンのみはの診察の為に残るかもしれないが、他は式の後は地上の家に戻る予定だ。
通路へ出たレーゲンをマリーが追ったのを見て、ブリッジに残った面々が顔を見合わせる。
スメラギは背もたれに寄りかかりながら「あっちはどうなるかしらね」と呟いた。
「レーゲン・・・!」
移動用レバーを握りながらレーゲンが追いついたマリーの手を引いてくれる。
どうした、と問う彼にマリーは微かに頬を赤らめる。
「・・・その、の体調を看るのでしょう・・・?」
「ああ、トレミーには残る事になるかな」
「そう・・・アレルヤもにつくと思うし・・・その、巡礼の旅も、私・・・」
きゅ、と握る手に力を込める。
レーゲンは静かに彼女の話を聞いていた。
言わなければ、きちんと伝えなければいけない。
それはマリーも分かっているが、上手く言葉が纏まらないでいた。
「・・・あの、わ、私・・・!」
顔をあげて真っ直ぐにレーゲンを見やる。
頬を赤く染めながらも、懸命に言葉を紡ぐマリーにレーゲンは真紅の瞳を僅かに大きくした。
そんな二人の様子を見てオルガがシャニとクロトの背を押し、レイとフレイが二人でジュビアを拘束するように連れて行った。
腕を引いてレーゲンの足を止めると、半重力空間に二人の体が舞う。
「・・・マリー?」
「私を・・・ソーマもマリーも必要としてくれた貴方の傍に居たい・・・!!」
レーゲンの、傍に居たい。
頬を染めながら、声を震わせながら、彼女はレーゲンにそう告げた。
「レーゲンの、傍に居たい・・・!」
握った手に力を込めて、まるで懇願するように言う彼女。
レーゲンは真紅の瞳を大きくした後、小さく息を吐いてから微笑んだ。
軽く手を引いて、彼女を引き寄せてから床を蹴って移動する。
「レーゲン、」
「傍に居るんだろう?」
そう言ってレーゲンは優しく微笑み、彼女の手を少しだけ強く握った。
想いに気付いているようで気付いていないようで、ちょっとレーゲンも戸惑っているけれど
彼女を大切にしたい気持ちはあります。
次回最終話です。