ガツンッ!と音が響いた。
夜の砂浜。パイロットスーツを身に纏ったまま、五人のガンダムマイスターが集まっていた。
ミッション終了後も休まずに夜の海岸に全員が集まった理由は、刹那の行動のせいだ。
ロックオンに殴られた刹那は、その衝撃で砂浜へ倒れこんだ。
殴った方の手をひらひらと振りながら、ロックオンが口を開く。
「殴られた理由はわかるだろ?」
そう言って、ロックオンは続けた。
「ガンダムマイスターの正体は、太陽炉と同じSレベルでの秘匿義務がある・・・なぜ敵に姿をさらした?」
ロックオンの問いかけに、刹那は無言のままだった。
「理由ぐらい言えって」とロックオンが続けても、刹那の態度は変わらなかった。
止める事はしない。
刹那のせいで、ここに居る皆が危険に晒されたのと同じなのだから。
それに、無茶をした刹那をロックオンに叱って欲しかった。
「強情だな。お仕置きが足りないか?」
「言いたくないら言わなくてもいい」
口を挟んだのはティエリアだった。
彼は銃を取り出し、銃口を刹那へ真っ直ぐ向ける。
「君は危険な存在だ」
流石に銃まで取り出した事にも驚いた。
それは皆も同じだったのか、ロックオンがティエリアの銃を掴む手を押さえて諌める。
「止めろティエリア」
「彼の愚かな振る舞いを許せば、我々にも危険が及ぶ危険性がある。
まだ計画は始まったばかりだ。こんなことで躓いて・・・、」
「俺は降りない」
ティエリアの言葉を遮って、刹那が言う。
砂浜に腰を下ろしたまま、彼も銃を取り出して照準をティエリアに向けていた。
「エクシアからは降りない。俺はガンダムマイスターだ」
彼の言葉にティエリアは表情を歪め、再び銃を構える。
お互いに銃口を向け合う二人に、ロックオンが声をかける。
「銃を下ろせ刹那!」
「命令違反をした僕が言うのもなんだけど、僕たちはヴェーダによって選らばれた存在だ」
アレルヤもロックオンに続いて割って入る。
彼に続くようにも「そうよね」と言って一歩前へ踏み出し、未だ砂浜に腰を下ろしたままの刹那を見る。
「刹那がガンダムマイスターに選ばれた理由はあるって事でしょ?」
そう言うと、ティエリアは仕方なさげに銃を下ろした。
真紅の瞳を細め、彼は口を開く。
「ならば、見せてもらいたいな。君がマイスターである理由を」
「俺の存在そのものが理由だ」
銃を下ろして言う刹那にティエリアが「何?」と返す。
「俺は生きている・・・生きているんだ・・・」
刹那の言葉に、その場が静寂に包まれる。
波の音だけが響いていた中、ハロが跳ねながら来た。
『ミンナ、ナカヨク!ナカヨク!』
そのまま刹那の方へ寄ろうとしたハロだったが、寄ってきた波に攫われてしまう。
「アー!」と悲しげな声をあげて流されていくAIに、思わず笑みを零して助けに向かう。
刹那の横を通り、波のせいで行ったり来たりしているハロを両手で抱え上げる。
「、」
「大丈夫?」
『アリガトウ、アリガトウ!』
どういたしまして。
そう返しながら海から出ると、アレルヤと目が合った。
彼は何か言いたげにしていたが、この空気のせいか少しだけ口を開閉させた。
「おーい、お前たち!」
整備士のイアン・ヴァスティが片手を上げて走ってきた。
慌てている様子に、何かがあったことを全員が悟る。
駆け寄ってくる彼に、みんなの表情が強張った。
「大変なことになってるぞ!」
「何があった、おやっさん」
ロックオンが一歩彼に近付いて問う。
「世界の主要都市7カ所で、同時にテロが起こった!」
「何だって!?」
「多発テロ?」
驚きの声を上げたロックオンとは対照的に、落ち着いた様子で刹那が呟いた。
「被害状況は?」とアレルヤが問うとイアンは息を整えてから話し始めた。
「駅や商業施設で時限式爆弾を使ったらしい・・・。
爆発の規模はそれほどでもないらしいが、人が多く集まる所を狙われた。100人以上の人間が命を落としたそうだ」
「何てこと・・・」
つまりは、無関係の民間人が100人以上亡くなったという事。
思わずがそう呟いた時、ロックオンの端末が鳴った。
彼は手早い動作でそれを取り、「俺だ」と言う。
通信は王留美からだった。
『ガンダムマイスターの皆さん。同時テロ実行犯から、たった今ネットワークを通じて犯行声明文が公開されました』
王留美はそのまま続ける。
『ソレスタルビーイング武力介入を中止し、武装解除を行わない限り、今後も世界中に無差別報復を行っていくと言っています』
正直、予想通りだった。
同じ考えだったのか、ティエリアが「やはり目的は我々か」と口に出していた。
「この声明を出した組織は?」
『不明です。エージェントからの調査報告があるまで、マイスターは現地で待機してください』
そう言い、王留美は接続を切ったようだった。
端末を仕舞いながら、ロックオンが口を開く。
「どこのどいつかわからねぇが、やってくれるじゃねぇか」
「無差別殺人による脅迫・・・」
ロックオンとアレルヤはどこか思いつめた表情をしている。
それはイアンもそうだった。
は小さく息を吐いた。
無差別殺人。
まるで私が行った事みたいだ。
そうが思っていると、隣に居たティエリアがフ、と鼻で笑った。
「そんな事で我々が武力介入をやめると思っているのか?」
「何だとティエリア!」
そう淡々と言うティエリアにロックオンが反応をした。
彼にしては珍しく苛立った様子で声を荒げた。
ロックオンに続くようにイアンもティエリアに異を唱える。
「一般人が犠牲になっとるのに何とも思わんのか!?」
「思いません」
ロックオンとイアンの言葉に、ティエリアはきっぱりとそう言い切った。
「このような事態が起こることも計画の中には予測されているはずだ」
確かに。
ティエリアの言う通りではあるが、どこか納得のいかない部分があった。
そう思っていると、ロックオンが「貴様!」と言いティエリアの襟元をつかんだ。
珍しく感情的な行動を起こすロックオン。
彼の表情はいつもの様子からは酷くかけ離れたものだった。
ティエリアは動揺した様子も無く、ロックオンを見返して「どうしたんですか?」と言った。
「いつも飄々としている貴方らしくない態度ですね」
確かにと思いは彼らを見た。
ロックオンは激昂した様子で「うるせぇぞこの野郎!!」と声を張った。
男の人の怒った声、なんだか少し怖いかもしれない。
ティエリアは真紅の瞳を少しだけ細め、口を開いた。
「そんなにテロが憎いのですか?」
「・・・悪いか?」
「世界から見れば、我々も立派なテロリストだ」
「テロが憎くて悪いか!?」
テロ。
きっとこれがロックオンのスイッチなのだろう。
もし彼が私がベルリンでした事を知ったら、私も怒られるのだろうか。
きっと怒るだろう、そして殴られるかもしれない。
ロックオンの戦う理由はテロがかかわっているのだろう。
きっと、紛争根絶の為に戦うロックオンは、テロをなくす為に戦っているのだろう。
それが、彼の意思。
私は?
がそう思っていると、刹那が体を起こしながら口を開いた。
「その組織は、テロという紛争を起こした」
「・・・刹那、」
「ならば、その紛争に武力で介入するのがソレスタルビーイング。
行動するのは、俺たちガンダムマイスターだ」
刹那は真っ直ぐな心でそう言った。
気付いたらロックオンもティエリアから手を放し、唖然とした様子で刹那を見返している。
は大きく息を吐いてから、「そうだね!」と言ってにっこり笑ってみせた。
「とりあえず王留美からの連絡を待つしかないね!」
体べたべた。シャワー浴びたい。
はそう言って思い切り伸びをして設備のある方を向く。
その言葉に反応したのは、意外にもロックオンだった。
「・・・そうだな。何ならシャワー、一緒するか?」
「それはちょっとお断りします」
はい、謹んで辞退します。
がそう言うとロックオンは肩を竦めて「つれねぇな」と言った。
なんだか彼は大人の色気を感じるなぁ。
さすが最年長マイスター。
なんて事をが思っているとティエリアが歩き出した。
もうこれは自由行動でいいんだろうか。
「・・・」
「ん?」
振り返ると、アレルヤが苦笑していた。
アレルヤはちょっと安心したような笑顔を浮かべていた。
一触即発の空気が無くなって安心したようだった。
「今日は三つ編みなんだね」
「・・・うん、ちょっとね」
ルイスに結ってもらった髪。
あんな風に普通の女の子と過ごす事なんて無かったから、自分まで普通の女の子になったみたいで楽しかった。
はそう思いながら自分の髪に触れる。
でも、やっぱり私はガンダムマイスターで、戦うために此処に居て。
「・・・女の子らしく、してみたかっただけなんだけどね・・・」
思わずそう呟く。
アレルヤには聞こえなかったみたいで「え?」と小首を傾げた。
それを誤魔化すようには笑ってみた。
「別に、」と言おうとした彼女に、背後から声をかけられた。
「女じゃないか」
「え?」
が振り返ると、そこには刹那が立っていた。
刹那は真っ直ぐに彼女を見詰めていて、再度口を開いた。
「お前は充分女らしい」
「刹那・・・」
それだけ言うと、彼はコンテナに向かって歩いて行ってしまった。
きっとエクシアの所にでも行くのだろうけれど。
「・・・意外だな。アイツが女を口説くなんてな」
「あれは口説くに入らないんじゃない?」
やっぱ厳しいね。
そう言ってロックオンは笑った。
頭を撫でてくる彼を見上げると、「今度は俺が結ってやろうか?」と言ってきた。
「手先は結構器用なもんでね」
「・・・じゃあ、今度お願いしようかな」
そう言って、えへへと笑みをこぼした。
ロックオンと少し仲良く。