「私設武装組織ソレスタルビーイングによる武力介入の即時中止、および武装解除が行われるまで、我々は報復活動を続けることとなる」


今度は地下鉄で爆破テロが起こった。


「これは悪ではない。我々は人々の代弁者であり、武力で世界を抑えつける者たちに反抗する正義の使途である・・・か」


テロリストからの声明文を読み上げたアレルヤは、苛立った様子で拳をスイッチに叩きつける。


「やってくれるよまったく」

「無差別爆破テロ・・・」


刹那がぽつりと呟く。

テロ。

その言葉にも反応して思わず顔を俯かせる。

あの頃はステラを戦わせたくない一身で戦っていたけれど。
自分のエゴでどれほどの人が傷付き、死んでいったのだろうか。

デストロイは無差別殺戮兵器と化していた。
勿論、乗っていたも。

生体CPUは、MSの消耗パーツ同等の扱いでもあったし。

そう思いながら、は拳を握り締める。
何だか気分が落ち着かない。
もうシャワーを浴びて寝てしまおうか。

そう思い立ち上がると、刹那とアレルヤが視線をくれた。


、気分でも悪いの?」

「・・・私は、大丈夫。・・・時間も遅いし、今日はもう寝ちゃおうかなって思って・・・」


元気に返事はできなかった。
そんなが気にかかったのか、アレルヤが同行を申し出てくれた。


「・・・気分が優れないなら、少し外の風にでも当たるといいよ。僕も一緒するよ?」

「・・・アレルヤ」


隣に来た彼を見上げると、銀の瞳を細めて優しく微笑んだ。
今は彼の優しさに、甘えてしまおうか。
はそう思い、頷いた。


アレルヤと一緒に外に出て、砂浜に二人で何をするわけでもなく、ただ立ち尽くす。
王留美からの連絡が入るまで待機なのだから、正直する事が無い。

無差別テロ。

武力介入を中止するように訴えかけてきているが、ソレスタルビーイングはそれを易々と甘受するような組織ではない。
世間からの風当たりも更に強くなるだろう。
そんなの、前の世界では慣れっこだったけれど。

そうが思っていると、肩に温もりを感じた。

何事かと思い顔を上げると、アレルヤが肩に手を回したようだった。
それは厭らしさの欠片も無い、ただ心配ゆえの行動だろう。


、どうしたんだい?」

「・・・何が?」

「ずっと元気が無い」


心配そうに瞳を揺らすアレルヤに、なんだか申し訳なくなって「ごめん」と言ってしまう。


「謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ、君が心配で・・・」


僕は、君の力になりたいんだ。
君を、守りたい。

アレルヤの声が、静かな空間に響く。
波の音が響く中、私はじっとアレルヤを見上げた。
彼の瞳越しに見えた自分は、ああ確かに、眉も下がっていて頼りない表情をしている。


「テロの犯人、早く検討が着くといいね」

「・・・そうだね」


ね、アレルヤ。
と彼を呼ぶ。
海に視線を向けたまま、「もし、」とは言葉を紡ぐ。


「私が民間人も巻き込んで、無差別に市街を焼き払ったら・・・」

「責めない」


言い終わる前に言われた言葉に、思わず「え?」と短く声をあげる。
空色の瞳を丸くして振り返ったへ、アレルヤは真剣な瞳を真っ直ぐに向けた。


「だって、はきっと何らかの理由があってそれをする。君の意思じゃない」

「で、でも、どんな過程があろうと結局は私のエゴだよ?自分のエゴで無関係な民間人を大量に殺すんだよ?」

「君の行動は優しさ・・・誰かの為によるものだ」


だから、責めないよ。
そう言ってアレルヤはの両頬を優しく大きい掌で包んだ。


アレルヤの言葉は魔法みたいだった。

とろけるように心に入ってきて、すとんと一定の場所に落ち着く。

そしてそのまま、安心感を身体中に広めようとする。


でも、とは言う。


「・・・私、戦う事しか知らない。自分の意思で、戦ってないんだよ?」


ソレスタルビーイングに参加しているのも、王留美に拾われたから。
皆のように戦う意思なんてもの、持ってない。
それなのに、民間人も巻き込んで、たくさん人を殺している。


は気付いていないんだね」

「え?」


思わずまた瞳を丸くしてしまう。

そんなの頬を、アレルヤの親指が優しく撫でる。
彼は優しく微笑んで、こう言った。


「君は僕たちを守るために戦ってくれているじゃないか」


それは立派な戦う理由、意思になるよ。

ぽろり、と何かが剥がれ落ちる感覚がした。


「・・・あ、あれるや、」

「大丈夫。僕は、分かってきたから」


君が、強がりだってこと。

そう言って笑うアレルヤに、は思わず飛びついた。
彼の胸に顔を埋めて、腰に腕を回してぎゅうぎゅうとくっつく。
アレルヤは優しく頭と背を撫でてくれる。


「わ、わたし、なんかわかんなくって」

「うん」

「なんでたたかってるんだろって、おもったら、わかんなくって、」

「うん」

「みんなはちゃんといしをもってるのに、わたしはなくって、」

「うん」

「でも、わたし、たたかうことしか、しらなくって・・・」

「うん」

「ふつ、うの、おんなのこ、みて、わたしとぜんぜんちがくって、」

「・・・うん」

「わたし、わたし、」


なんかぐちゃぐちゃになっちゃって。
そう言ってアレルヤにぎゅう、と抱きつく。

なんでだろう、前の世界ではこんなに落ち着かない事なんて無かったのに。


「・・・?」


前の世界では、こんなこと、無かったのに。


「・・・あ、」


コクピットの中でも無いのに、手が震えた。
思わず、安心感を感じるアレルヤに縋るように抱きつく。
彼は驚いた様子を見せたけれど、直ぐに震えるを抱き締め返して安心させるように頭と背を撫でてくれた。


、大丈夫・・・」

「あ、」

「僕が、僕たちが君を守るから」

「・・・ぁ、」


まも、る。

思わずそう呟くとアレルヤが「そうだよ」と言った。
守る。アレルヤは、ハレルヤも、私を守ってくれる。


守る、守る、守る、

アレルヤが、ハレルヤが、

まもる。


頭の奥底まで、アレルヤの声が響いた気がした。


「・・・まもる、」

「うん」

「・・・アレルヤ、ハレルヤも、わたしを、まもってくれる、」

「うん、絶対に」


酷く安心を覚えた。
思わず嬉しくなって微笑むと、アレルヤを見上げた。


「アレルヤ、ありがとう」


そう言うと、彼の頬が真っ赤に染まった。
どうしたんだろう。


「・・・付き合ってくれてありがとう。そろそろシャワー浴びて寝ようか」

「・・・そうだね。夜の海風は肌寒いし」


ちゃんとあったまってね。と言ってアレルヤは歩き出す。
そんな彼に続いて歩く。











次の日、クルーザーの上でスメラギやクリス、フェルトも集合した。
イアンも居て、彼は腕を組んで胡坐をかいている。


「・・・何故、そんな格好を?」


アレルヤが眉を下げて問うた。
それは、女性陣が全員水着姿だったから。
フェルトはパーカーを、クリスはティーシャツを着ていたが、スメラギは肩と腰を出した露出の激しい水着だった。


「カムフラージュよ、カムフラージュ」


スメラギがそう言って笑う。
彼女が動く度に、腰に巻かれたバレオが揺れる。
「ちょっと、趣味が入ってるかも」と言って笑うクリスは可愛らしかった。


「今がどういう状況かわかってるんですか?」

「わかってるけど、今は王留美が放ったエージェントからの情報を待つしかないもの」


戸惑いがちに言うアレルヤにスメラギはそう即答した。
そのまま自身を手で仰ぎながら、歩いて行ってしまう。


「あ〜それにしても暑いわねぇ。冷えたビールとかないのぉ?」


そんなスメラギに、アレルヤが小さく溜め息を吐く。


「神経が太いというか何というか・・・」

「強がってんだよ」


アレルヤの言葉に反応したのはロックオンだった。
彼はイアンや刹那居る場所の下でソファに横になりながら、ゆっくりと目を閉じた。
そんな彼に、近付いて見下ろしてみる。

向こうではクリスがアレルヤに近付いて、彼を見上げている。


「こっちからエージェントに連絡できればいいのに」

「実行部隊である我々が、組織の全貌を知る必要はない」


だが、答えたのは後ろから来たティエリアだった。
アレルヤはそれに苦笑して、「ヴェーダの采配に期待するさ」とだけクリスに返した。
それにクリスは不安げな表情のまま、胸の前で手を組んだ。

彼女たちの隣では、フェルトがハロを抱えている。

そんな様子を見ていると、ロックオンが「それにしても」と言った。


「いいな、それ」

「それ?」


振り返って言うと、此方を見上げているロックオンと目が合った。
「いい角度だぜ」と言って右手の人差し指と親指を立てて、狙い撃つポーズを取る。
どの角度なんだぜ。とか思っていたら、何時の間にか傍に来ていたアレルヤが苦笑交じりに言った。


「それ、ちょっとセクハラになるんじゃないの?」

「俺の目の前で止まってる方が悪いだろ」


ロックオンはそう言って、缶を手に取った。

私も何か飲みたいな。でも薬をさっき飲んだばかりだからあまりまだ口にしない方がいいかも。
そんな事を思っていると、視線を感じた。
其方を見てみると、アレルヤと目が合った。
まだ隣に居たらしい。彼を見上げていると何故か頬を赤く染められた。


「えっと、は何か羽織らないの?」

「羽織る?」


クリスに捕まって、半ば強制的に水着に着替えたけれど何も羽織っていなかった。
これは何か着た方がいいということだろうか。


「そうだよね、見苦しいもの見せてごめんね」

「ち、違うって!そういう意味じゃなくて!」


アレルヤはあたふたと慌てたまま、近くにあったバスタオルを取って私に被せた。
わ、と短い声を上げつつもそれを肩にかける。


「日焼けしたらきっと痛いよ、は肌が白いから」


なるほど。そういう意味だったのか。

ありがとう、と彼に言うとぎこちなく微笑まれた。
バスタオルを肩にかけたまま、その場を離れる。
何か言いたげな視線をクリスから受けたけれど、話しかけてくる気配が無かったのでデッキに出る。

なんとなく刹那の隣に腰を下ろす。


「何だ」

「ううん、何してるのかなって思って」


別に、と短く答えた彼はどうやら海を見ているようだった。
お互いに何を言うわけでも無く一緒に海を見る。

なんだか落ち着くかもしれない。

ちらりと彼を盗み見てみると、赤い瞳が見えた。

あかい、ひとみ。


・・・シンと一緒だ


そう思いながらじっと刹那を見詰める。
年頃も、髪も、目の色も、ちょっとシンと似ているかもしれない。
ただ性格はどうかは分からないけれど。

記憶の限りではシンは結構かっと熱くなるところがあった。
ちょっと乱暴だけど、でも、優しくて。


あ、


なんだ。


・・・やっぱり二人似てるんじゃん


そう思いながら、立てた膝に顎を乗せた。
刹那が不意にこっちを向いて「なんだ」と言う。
「なんでも?」と笑って言うと、不思議そうな表情をしていた。

こうして見ると、刹那も歳相応だなぁ。

なんて考えていると、スメラギの端末が鳴った。
エージェントからの連絡だ。


「国際テロネットワークは複数の活動拠点があると推測されるわ。
 相手が拠点を移す前に攻撃するためにも、ガンダム各機は、所定のポイントで待機してもらいます」


スメラギの言葉で全員が動き出す。
水着のまま、インナーを着てパイロットスーツを身にまとう。
そのまま無人島の中の森林部に隠しておいたミカエルに乗り込む。


「GNシステム、リポーズ解除。プライオリティを・ルーシェへ・・・」


声紋で認識され、ミカエルが動き出す。


『GN粒子の散布濃度を通常値へ。キュリオス、目標ポイントへ飛翔する』


横からアレルヤが飛んでいった。
「ミカエルも目標ポイントへ行きます」と習って言って私も飛び立った。

海中からヴァーチェが出て来て飛んでいくのを見る。
今回はデュナメスと同行するプランだから、ロックオンを待つ。
コンテナからエクシアとデュナメスが出て、共に飛び立つ。

オーストラリアにはティエリア。
人革連にはアレルヤ。AEUには刹那だった。
私はロックオンとユニオン領で待機だ。

そう確認しながら、デュナメスの後方を飛ぶ。


『よろしくな、


「ロックオン、ハロもよろしく」

『ヨロシク、ヨロシク』


モニター越しにロックオンと笑い合い、操縦桿を握る手の力をこめた。




アレルヤとちょこっと。
その後に刹那とちょこっと。