あの後刹那が居たポイントでテロが起こった。

迅速に刹那と現場に居たエージェントが対応した事を後では聞いた。
犯人を確保した事から、国際テロネットワークは欧州を中心に活動する自然懐古主義組織、ラ・イデンラと断定された。
各活動拠点は既に全て放棄された後だったが、テロメンバーと思われる者のバイオメトリクス抽出情報がネットワークに流出した。
NROの主要暗号文、DND、DGSEの物までもが。

これは、他国にあるテロへの軍事介入が行えない為にどこかの軍から流された情報だろう。

エージェントが活動拠点を割り出し、そこからスメラギさんがマイスターに指示を出した。
その後は五機のガンダムが三箇所の活動拠点を潰した。

一つ気にかかった事と言えば、同行を続けたロックオンがやっぱり怖かったことだろうか。

テロというものを憎んでいる彼は、普段の優しい雰囲気は消して戦っていた。
アレルヤは受け入れてくれたけれど、きっとロックオンは別だろう。

そう、ベルリンで無差別大量殺戮をした私を、決して許しはしないだろう。


そう思いながらは小さく息を吐いて、ごろりとベッドの上で寝返りをうった。


ここはユニオンにある隠れ家のひとつ。
傍に置いた小物入れにもなるオルゴールからは、綺麗なメロディーが流れている。

それを両手で持って、歌を口ずさみながらベランダに出る。

青空がとっても綺麗で、は思わず空を仰ぐ。
また外にでも出てみようか。
世界の情勢も今のところ大きな動きも無いし。

そう思い、端末をポケットに入れて、部屋に戻る。

簡単に着替えを済まして、首からネックレスを下げる。
グラハムから貰った、若草色の石がついたそれは光にあたるときらりと輝いた。

軽い足取りで外に出ながら、端末をいじる。

休暇ともいえる今、こちらにアレルヤも向かっているようだった。

一人ぼっちで暇すぎてつまらない。

なんてメールを送ってみたら会いに行くと返信がきた。
スメラギさんにもきちんと許可をとったみたいで、本当に来てくれるようだ。

寂しい事が悟られちゃった?
・・・折角だし、食事でも用意してあげようかな。

はそう思いながらスーパーを目指して歩く事にした。


・・・それにしても、


ちらり、と辺りを目だけで伺う。
ユニオンの軍基地が近くにあるせいか、結構軍人の姿が見える。
あの青い制服はユニオンの制服だから。

休憩中なのかな。
なんて思いながら歩いていると聞き覚えのあるアルトボイスが聞こえてきた。


「こんにちは、麗しの姫君」

「え?」


声のした方へ振り返ると、一番最初に金色が目に入った。
直後、手に暖かな感覚。

彼女に跪き、手の甲に口付けをする彼は、


「・・・グラハム?」

「そうだとも、


会いたかったよ。
そう言ってグラハムは綺麗に微笑んだ。
結構な頻度で会うな、とは思いながら笑みを返す。


「私の贈り物を身に着けてくれているようで嬉しいよ」

「あ、これ?」


自分の首元にあるペンダントに触れてみると彼は嬉しそうに頷いた。
なんだか子どもみたいな反応に、思わず笑みがこぼれる。
そんな事は露知らずだろう、グラハムも笑みを返してくる。


「ところで、君は今日は何用で街へ出てきたのかな?」

「あ、食材を買いに」


ご馳走作りたくて。
そう言うと彼は顎に手をあてて「フム・・・」と言う。
何やら考え込んでしまった彼には小首を傾げた。


「・・・グラハム?」

「・・・否、君の手料理を頂く者が居るという事だろう?」


そうじゃないとと料理なんて作らないし。
がそう思いながら頷くと、彼は悲しげに眉を下げた。


「・・・ああ、その男が酷く羨ましいよ。君の手料理を胃袋に収める事ができる権利を持つ男が」

「・・・そんな大げさな」


おかしいな、アレルヤの事知らないはずなのに。
男?と、が思っているとグラハムは急に彼女の手を取って軽い足取りで歩き出した。
つられるように、も足を動かす。


「ならばせめてその時間まで共をさせて頂こう」

「え?グラハム、忙しくは無いの?」

「君と言う姫君に出会えたのだ。これは何よりも優先事項だとも」


そう言って彼は綺麗に微笑んだ。


「しかし君は不思議だ。何故か視線が外せない」

「・・・そんなに私変な事してる?」


そういう意味ではないさ。
と、言い彼は言葉を続ける。


「君はどこか危険な美しさを纏っている」

「きけん?」

「ああ、私の心をこんなにも射止めてしまったのは、あれ以外は無いと思っていたのに・・・」


グラハムはふふっと嬉しそうに笑った。
目元を緩め、頬を仄かに赤くして、なんだか恋をしている乙女みたいだ。
なんて思っていたら口に出ていたようで「私は乙女座だ」とちょっとよく分からない返答が戻ってきた。


そのままグラハムと一緒にスーパーで買い物をした。

荷物を家まで持っていく。というよりも送ると言ってくれた彼だったけれど、アレルヤと鉢合わせさせる訳にもいかないので断った。
彼は悲しげに瞳を揺らして「そうか・・・」と言って肩を落とした。
なんだか申し訳なさを感じたは、一歩近付いて彼を見上げる。

思わず何か一言声をかけようとした彼女よりも先にグラハムが口を開いた。


「・・・次はいつ会えるだろうね」

「・・・いつだろう?」

「私は次の休暇はいつかは分からないんだ。私にしては珍しく休暇も街に出てしまってな。
 ついつい君の姿を探してしまう」


あの日から。

そう言ってグラハムは懐かしむ様に瞳を閉じた。


「・・・しかし君も多忙な身なのか、それとも捕らわれの姫君なのか。中々街に出て来れないのだろう」

「・・・どうして?」


そう思うのか。
ついそう聞くと彼は至極当然の様にこう言った。


「仕事でも街中を歩く事はあるが、君の姿を見止められなかったからね」


ずっと君は此処にいなかった。そうだろう?

そう言ってくる彼に、は瞳を大きくした。

何かに感づかれている、グラハムは一般人ではない?
は少しだけ瞳を伏せて彼から視線を外した。

丁度その時、

ピピッ!との端末が音を立てた。
音が出るようにしておいて良かったと思い、「ちょっとごめん」と言い、自然な動作でそれを取り出す。

どうやらアレルヤが来たようだった。

ご馳走は一緒に作る事になりそうかもしれない。
そう思いながらグラハムを見上げてにっこりと微笑む。


「彼から連絡が来たから、」

「ああ、名残惜しいが今日はお別れだな」


そう言い、グラハムはの金色の髪を一束手で掬う。
そのまま其れに口付けを落とすと、彼は爽やかに微笑んで「また」と言った。

本当は一般人とこうして会う事はソレスタルビーイングには許されないことだろう。

けれど、どうしてだろうか。


また会う気がする

「きっとまた出会えるさ」


グラハムはそう言って去っていった。

本能で感じるのか、良く分からないけれど、彼とはまた会う。そんな気がした。




















「結構うめぇじゃねぇか」


がつがつとどっかり食べたくせに感想は以上の通り。
まったく、とは思いつつ、彼を見ていた。
彼はテーブルに皿とスプーンを置いた。
かちゃりと音を立てて、を見上げる。


「俺はもうちょっと濃い方が好きだがな」

「アレルヤが薄味好きみたいだったから味付けを薄くしたの」


もう。
そう言って腰に手を当てて金の瞳を見返す。


「ハレルヤ、どうしたの?」


今の彼はハレルヤだ。

グラハムと別れた後、アレルヤと合流して隠れ家に招いた。
そのまま少し雑談をした後、調理に取り掛かることにした。
手伝うと優しい彼は申し出てくれたが、仮にもお客様だからという理由では彼をテーブルで待たせていた。
真っ直ぐにキッチンを見詰めてきて、心なしか嬉しそうに銀の瞳を細めていたので、もアレルヤの為に美味しい料理を作りたいと思いながら楽しく作ることができた。

料理が出来て、彼の前に「おまちどうさま」と言って其れを置いた時のアレルヤの嬉しそうな顔といったら。
―それなのに、彼が「いただきます」と言って両手を合わせて頭を下げた瞬間、金の瞳が細められたのだ。

流石にアレルヤが可哀相なんじゃないかな。

なんて思いながら水を飲むハレルヤを見やる。


「まさかご飯食べたかっただけ?」

「丁度起きたからな。目の前に飯があったから食っただけだ」


意識が眠りから覚めたという理由で、楽しみにしていた物をそんなにあっさり取っていいのかな。
そんな事を考えながらお皿を下げる。

ハレルヤは満腹で落ち着いたのか、勝手にベッドに座り込んでいる。

最早我が家気分だよあれ。

はそんな事を思いつつも、さっと洗い物を済ませてハレルヤの隣に腰を下ろす。
きっといつもの意地悪い顔をしているのだろうと思い彼を見たが、予想に反して意外と真剣な表情をしていた。
なんだろうと思い視線の先を見てみると、ハレルヤはグラハムから貰ったオルゴールを見ていた。


「なんだあの箱」


あんなの持ってたか?
とでも言いたげに瞳を細めて言うハレルヤに少しだけ笑み、はベッドから立ち上がる。


「これね」


そう言って手にとって螺子を回す。
そのまま蓋を開けると、綺麗なメロディーが流れ出した。


「オルゴールだよ」


ハレルヤは「へぇ」とだけ零すとまじまじとオルゴールを見詰める。
珍しい物なのか、それとも意外と気に入ったのか、手に取って見ている。
音楽が途切れてきたら、さっきの私の行動から学んだのか螺子を回す。


「・・・綺麗な音楽だね」

「あれ、アレルヤ」


ぼけっとしてたらいつの間にかアレルヤに人格交代していたらしい。
彼は嬉しそうに微笑んだ後、銀の瞳を心地良さげに伏せた。


「こういうの、好き?」

「うん、結構好きかも」


ハレルヤも気に入ってたみたいだし。
そう言いアレルヤはゆっくりと瞳を開いて、私を見た。


は?・・・って、気に入ったから買ったんだよね」


ごめんと笑うアレルヤには思わず首を振った。


「それ貰ったの」

「貰った? 誰にだ?」

「え、この間知り合った人」


そう素直に答えると、額をべちんと叩かれた。
そのまま大きい手で押されて思わずベッドへ背をつける。


「うわわっ!」

「馬鹿かてめぇ」

「あれ、またハレルヤだ」


ハレルヤだ、じゃねぇよ。
そう言って金の瞳を細めて額にあてたままの手をぐりぐりと押し付けてくる。


「いいいい痛い痛い!!」

「痛くしてんだよ」


ばーか、なんて小馬鹿にしたように言ってくる。
もなんとかやり返してやろうと思って両手をばたばた動かすが、どうしても届かなかった。


「何ナンパされてんだお前」

「別にナンパとかじゃないって!」

「知らない奴から物貢がれて下心が無ぇ訳無ぇだろ」


馬鹿が。と何回目か分からない悪口を言ってデコピンをしてくる。

地味に痛い、体が強化されているので痛みなんて一瞬だったけれど。

なんで、と聞くと「だって男だろ」とかえってきた。


「なんで分かっ・・・いった!!!」

「ほれ見ろアレルヤ。こいつはどうし様も無ぇ馬鹿女だ」


まさか自宅にまで上げてるんじゃねぇだろうな。
なんて言うハレルヤにはぶんぶんと首を振る。


「まさかまさか!隠れ家に一般人を入れるわけないじゃない!」


即答したにハレルヤは「そうか」とだけ返した。


「・・・っていうかアレルヤはなんて?」

「心配だとよ」


舌打ちをしながら面倒そうにしながらも教えてくれた。
ハレルヤは寝転がったままのを見下ろして、小さく息を吐いた。

金の瞳が、真っ直ぐに向けられる。


「アレルヤはテメェを大事にしてぇんだと」

「・・・あ、うん。私もアレルヤ大事にしたい!」


意味が違ぇよ馬鹿。
そう言ってハレルヤはの額に拳を軽くぶつけた。
本日何回目の馬鹿なんだか。
そう思いながらハレルヤを見上げていると、彼はベッドに肘をついての上に覆いかぶさるような体勢をとった。

金の瞳が、近い。


「・・・うるせぇな。何もしねぇよ」

「ん?」

「・・・これもそいつからの貢物ってか?」


そう言って肘を着いていない方の手での首元のペンダントに触れる。
が思わず頷くと、彼は不機嫌そうに瞳を細めた。


「・・・気に入らねぇな・・・」

「ちょ、取らないでよ!グラハムから貰ったお守りみたいなものなんだから!」


ハレルヤがそれをぐ、と引こうとしたのでは慌てて止めた。

シンがくれたお守りみたいに、なんだか大事にしたくなったもの。
真っ直ぐさが似ていたからかもしれない。
だからか、何故かこの石をは手放したくなくなっていた。

若草の石を見ると、グラハムのことも思い出せるし。

そう思っているとハレルヤが舌打ちを一つした。


「・・・そうだな、アレルヤ。それは同意見だ」

「・・・さっきから二人で会話しすぎじゃない?私除け者?」


アレルヤとハレルヤの会話がちゃんと聞こえたらいいのに。
そう思いながらハレルヤを見上げる。
彼は苛立った様子で「うるせぇな」と言ってこっちを見た。ほんとに除け者?


「・・・今度覚えてろよ」

「え、何?」




ニブチンに怒るハプティズムさん(笑)