ナドレはパイルダーオンされていつものヴァーチェに戻った。
キュリオスや、損傷のあったミカエルは修理されている。
デュナメスの脚部も取り付けられたし、エクシアも整備されている。
ブリッジでは、ティエリアが赤い瞳を細めてスメラギを見下ろしていた。
「今回の人革連による軍事作戦、キュリオスとミカエルを鹵獲寸前まで追い込まれ、ナドレの姿を敵に露呈してしまった」
キュリオスとミカエルは助け助けられでなんとか無事だったようなものだった。
ティエリアの横に立つロックオンは少しだけ瞳を細めた。
「スメラギ・李・ノリエガ。全ては作戦の指揮者である貴女の責任です」
「ごめんね。でもね、わたしも人間なの。時には失敗もあるわよ」
「そんな問題では済まされない。計画にどれだけ支障が出たか」
いきり立つティエリアにロックオンが口を挟む。
「ナドレを敵にさらしたのはお前だろ?」
「そうしなければやられていた」
「そうだとしても、お前にも責任はある。ミス・スメラギばっか責めるなよ」
命があっただけでもめっけもんだ。
そう言ってロックオンは肩を竦める。
ロックオンの言葉にティエリアは少しだけ口を閉じた後、苛立った様子で動き出した。
「今後はヴェーダからの作戦指示を優先する」
失礼。
短くそれだけを言ってブリッジを後にした。
操縦席に座っていたリヒテンダールが大きく息を吐いた。
「緊張した・・・」
「あんなこと、みんなの前で言わなくたっていいのに・・・」
不満げに唇を尖らせるクリスに、ロックオンが「まあ、」と言う。
「可愛いよな、生真面目で・・・他人に八つ当たり何かしてさ」
さっきのは完全な八つ当たりだった。
いつも仏頂面か無表情しかしていないティエリアが、にはなんだか人間らしく感じられた。
も小さく息を吐いて、ブリッジを後にすることにした。
向かうはアレルヤのところ。
((あの機体、ティエレンの高機動超兵仕様・・・。間違いない、あれに乗っていたパイロットは、僕と同じ存在))
アレルヤの部屋の前に来たところで、頭に彼の声が響く。
((まさか、続いて・・・、あの忌まわしい研究が・・・))
そこで、ドアをノックした。
アレルヤはすぐにドアを開けて、を見ると銀の瞳を丸くした。
「あれ・・・?ブリッジで話を聞きに言ってたんじゃ・・・」
「ティエリアが怒って出て行っちゃった」
暗にする事が無くなったという意味を込めて言うと、アレルヤはにこりと笑った。
「じゃあ、展望室にでも行こうか」
一緒するよ。
そう言ってアレルヤはの手をとった。
きっとこれは無意識だろう。
今はきっと、誰かに縋りたくて仕方ないんだ。
きっと、強がっている。
(どうする?この事実を報告するか?それとも・・・。・・・どうしたらいい?)
またアレルヤの声が頭に響く。
さっきよりもはっきりと。
きっとアレルヤと触れ合っているからだろう。
はそう思いながら、アレルヤをちらりと見た。
「・・・アレルヤ、」
展望室に着いてから、は口を開いた。
アレルヤが隣に立つを見る。
「アレルヤは、どうしたいの?」
「え、」
銀の瞳を丸くしたアレルヤに、苦笑する。
「あの、相手の人の脳量子波のせいかな・・・?アレルヤとハレルヤの声もよく聞こえるよ」
「・・・そう・・・体に異常は?辛くない?」
「・・・大丈夫だよ、私は」
アレルヤのお守りが、守ってくれるから。
そう言ってガラスに映る自身の髪に留められているそれを見る。
「・・・アレルヤ、私はアレルヤの手助けをするよ」
「え」
「アレルヤは、どうしたいの?」
そう問うと、アレルヤは「僕は・・・」と小さく呟いた。
直後、頭に声が響く。
((やることはひとつだ))
「・・・ハレルヤ・・・」
アレルヤが憂いを帯びた表情をする。
彼にとってハレルヤはどんな存在なのだろう。
厄介な物としか思っていないのだろうか、ハレルヤは何だかんだでアレルヤのためを思っているだろうに。
((あの忌々しい機関が存続していて、俺らのような存在が次々と生み出されている))
そいつは戦争を幇助する行為だ。
ガラスに映るアレルヤは、ハレルヤの表情をしているように見えた。
金の瞳を楽しげに細め、口の端を釣り上げている。
「叩けと言うのか?・・・仲間を・・・同類を・・・」
((お優しいアレルヤ様にはできない相談か?
なら体を俺に渡せよ、速攻で片つけてやっからさぁ・・・あの時みたいに))
あの時。
アレルヤが過去の宇宙空間を漂った時の事を思い出したのか、目を閉じて頭を振った。
やめてくれハレルヤ!と言いアレルヤはゆっくりと銀の瞳を開いた。
その目は、不安で揺らいでいる。
「何も殺すことはない、彼らを保護することだって、」
((戦闘用に改造された人間にどんな未来がある?そんなこと自分が一番よくわかってるだろ))
ソレスタルビーイングのガンダムマイスターさんよ。
そう言うハレルヤはきっとの事も含めて言っているのだろう。
アレルヤは体を戦闘用に作り変えられた。
改造された人間には、もう普通の日常に戻るには深い傷を負いすぎた。
MSを動かす能力、優れた身体能力、それらを持ってしまった自分たちにできることは、
「戦う事しか、できないから」
が思わずそう呟くと、隣に居たアレルヤが「違う!」と声を震わせた。
「僕がここに来たのは・・・!」
((の言う通りだ、戦う事しかできないからだ))
「違う!」
((それが俺らとの運命だ!))
「違う!僕は!」
頭を振ったアレルヤが逃げ出すように振り替える。
そこには何時来たのか、刹那が居て、不思議そうな表情を私たちを見つめていた。
呆気に取られたアレルヤが「あ、」と短く声をあげる。
刹那のお陰で現実に戻ってこれたみたい。
アレルヤはそのまま、硬くなっていた体を解すように深い息を吐いた。
「どうした?」
「・・・否、なんでもないさ・・・」
刹那の問いにそう答えたアレルヤは、そのまま歩き出した。
振り返らずに、そのまま「」と私の名前を呼んだ。
「・・・ちょっとする事があるから、部屋に戻るね」
ごめん。
そう言うとアレルヤは展望室を後にした。
再び宇宙に視線を戻すと、今度は隣に刹那が来た。
何気なく「いつから居たの?」なんて聞いてみると、刹那は宇宙を見詰めながら口を開いた。。
「戦う事しかできない。お前はそう言った」
何故だ。と瞳が語ってくる。
刹那は正直な人間だと思う。
こんなにも真っ直ぐな気持ちを持っているのだから。
は小さく息を吐くと、自分の両手を見詰めた。
「・・・私、物心がついた頃はもう施設に居た」
「施設?」
刹那の問いに小さく頷く。
そう、気付いたらロドニアのラボに居た。
そして気付いたら毎日実験をしていた。
同じ目的で実験されている子どもと戦ったり、命を奪ったりもした。
MSを操縦する訓練だってしたし、体や脳を弄り回された。
きっと検査とかをしたら、私の体には人間が持たない遺伝子や細胞が入っているのが明確になるだろう。
思う前に体が反応する。
そう作られているから。
MSを前にすると心が騒ぐ。
でもコクピットでいざ戦いの場へ赴くと恐怖から体が震える。
けれども戦う事を望んでいる、それが唯一の存在価値だから。
しかしやはり戦いは怖い。
だから、震えて、泣いて、恐怖に追いかけられる。
だから、
「・・・戦う事しか、ずっと知らなかったから。私は、戦いの為に作られたから、戦う事しかできないの」
大雑把だが、刹那にそれだけを伝えた。
彼は何も言わなかったけれど、真っ赤な瞳を真っ直ぐに向けてくる。
「・・・刹那は真っ直ぐだね。そういうところ、好きかも」
「・・・俺もお前は嫌いではない」
のってくれたのか、刹那がそう返してくれた。
は思わずくすりと笑って、彼の頬をつんとつつく。
「あ、柔らかい。刹那のほっぺぷにぷにしてるね」
「・・・触るな」
「やーだ」
背を反らせて口ではそう言うけれど、あまり拒絶の色は見られない。
刹那を真っ直ぐ見詰めた後、は彼の肩に額をあてた。
「・・・刹那は怒るかもしれないけどね、私ほんとは怖くて仕方が無いの」
「・・・ならば何故ガンダムに乗る」
「気付いたら乗ってた。王留美に乗るように言われたから」
でも、と続ける。
「ガンダムで、戦争を根絶、したい。私はみんなの手伝いがしたい」
「手伝い?」
「うん、だって、戦う事でしか、私、役に立てないから」
だから。
そう言うと刹那は黙ってしまった。
「・・・お前はガンダムになれない者なのか?」
「・・・でも、戦争を根絶するみんなを、ちゃんと手伝いたい」
怖いけれど、頑張りたい。
じゃないと、此処に居る意味が無くなってしまうから。
そう言うと刹那をまとう雰囲気が変わった気がした。
顔を上げてみると、先ほどより穏やかな表情の刹那がそこに居た。
「お前の気持ちは分かった」
「・・・怖がってるなんて情けないって?」
「違う」
きっぱりとそう言い切って、真っ直ぐに見詰めてくる。
「お前は、ガンダムだ」
「・・・私が、ガンダム・・・?」
どういう意味だろう。
そう思い刹那を見つめていると、刹那は頷いた。
「・・・戦争を根絶する・・・。俺がガンダムと共に成す」
「・・・私も、手伝う」
「ああ、お前の力も必要だ」
でも、と思い思わず目を逸らす。
そのまま真っ直ぐを向いて宇宙空間を見詰める。
「・・・やっぱり、戦いが怖いのは、」
駄目なんじゃないかな。
思わずそう呟くと隣の刹那が直ぐに「何故だ」と言った。
「だって、ガンダムに乗ってるのに、怖くてコクピットで震えるなんて・・・」
「戦いを恐れる事は、別におかしくはない」
励ましてくれてるのかな。
刹那が背を押してくれてる。
そんな風に思えた。
人間だから、恐怖だって抱く。
ただ感情の起伏が激しいとって、それは良い事なのか悪い事なのか。
「・・・そっか」
戦う事が自分の存在価値なら、戦うしかない。
でも、やっぱり怖い、戦う事が。
それは人間だから仕方ない。
割り切って戦うしか、ない。
戦争根絶、できたらしたいもんね。
自分やアレルヤみたいな、戦う為の人間を作り出さない、平和な世界。
誰もが笑顔で、なんて事までは言わないから。
はそう思い、刹那を真っ直ぐに見詰めた。
「・・・刹那、私は戦うよ」
「・・・そうか」
「戦う、それが私の価値だから」
「・・・奴にとっては、それだけでは無いだろうがな」
奴?
そう刹那に問い返すと彼は小さく首を振った。
そのまま窓から手を離して歩き出す。
「戦え、お前の想いのままに」
私の想いのままに、
戦うことしか出来ないなら、戦うしかないからね。
そう思いながら、出て行く刹那の背を見送った。
悩むアレルヤ。
後はせっちゃんと会話。