心配だから、ついて行かせて。
そう言うと、アレルヤは困ったように笑った。

刹那と別れてから数時間後、アレルヤの部屋に行った。
何かミッションプランを制作していたらしい彼は元気なく微笑んで招き入れてくれた。
そこから一緒にスメラギの所へ行く事になった。


「どうしたのアレルヤ、も。もしかして君たちも怒ってるの?」


スメラギの室内に入った途端、鼻についたのはお酒の匂い。
ツンとしたそれに、アレルヤは少しだけ眉を潜めた。


「そうね、散々な目に遭わされたんだもの。ごめんなさいね・・・ダメな戦術予報士で」

「酔ってるんですか?」

「いけない?」

「少し控えた方がいい」


アレルヤがそう言うけれど、スメラギは「嫌よ」と言って手にあるグラスを揺らした。


「私はこれがないと生きていけないの。・・・ねえ、用がないなら・・・、」

「スメラギさんとヴェーダに、進言したい作戦プランがあります」


スメラギの言葉を遮ってアレルヤが口早にそう言う。
そのままデータの入ったメモリを手渡した。
反射的に手を伸ばしてそれを受け取ったスメラギは「作戦プラン?」と問うた。


「戦争を幇助する、ある機関に対しての武力介入作戦。その機関は、僕の過去に関わっています」


スメラギはアレルヤの言葉を聞いてちらりとを見る。

彼女はの体についてを知っている。

王留美がスメラギには伝えたらしいが、どこでそうなっていたかは知らない様だった。
はそんな彼女に曖昧な笑顔を返すことしかできなかった。


「詳しい事はデータに纏めました。酔いが醒めた時にでも見ておいて下さい」


確か、人類革新連盟軍超兵特務機関。
アレルヤとソーマが過ごしたであろう、人革連の施設。
そこをアレルヤは破壊しようというのだ。
戦争を幇助する、人間兵器を生み出す施設を破壊するプランをスメラギにたった今提出した。


「この悪夢のような連鎖を僕が断ち切る。今度こそ、僕の意思で・・・」

「・・・アレルヤ、」


ぎゅ、と手を握る力が増す。
アレルヤ大丈夫かな。
はそう思い彼を見上げるとこちらをちらりと見てきた。


「・・・ごめんね、。付き合わせて」

「いいよ。アレルヤの助けになりたいって言ったのは私なんだから」


そう言ってが笑うと、アレルヤはどこか嬉しそうに笑った。

安心したような笑顔は、本当に嬉しそうだ。

それはステラやアウル、スティングが見せるものと似ていた。
きっと頼れて安心できる存在が全然居なかったのだろう。

アレルヤも、ハレルヤもきっと。


ちゃんと彼らを支えてあげたい。


そう思いながらアレルヤの手を握る力を少しだけ強めた。

ブリーフィングルームへ着いて、二人で向かい合う。


「それにしても、ハレルヤは何て?」

「最初に進めてきたのはハレルヤだ。君も聞いていただろ?」


そう言うアレルヤは銀の瞳を少しだけ細めた。
きっとハレルヤとの間で色々葛藤があるんだろう。


「・・・本当は撃ちたくない、そうでしょ」

「・・・そんな事無いよ」


アレルヤは小さく息を吐いてそう言った。


「もう僕と同じ様な存在を作っちゃいけないんだ。それはだって思う事なんじゃないかな」

「・・・確かに、私もそうすると思う。けど、アレルヤが優しい事を私は知ってる」

「・・・臆病なだけさ」

「アレルヤは優しい」


だから躊躇う。

きっとハレルヤだってそれを分かってる。
でも、だからこそ、アレルヤにさせようとしているんだ。
きっとハレルヤだって同類を殺すなんて事、本心ではしたくないのかもしれない。

撃ちたくない。

きっと思っている事は一緒。
でも、

これ以上自分と同じ存在を作ってはいけない。

そう強く感じている。

だからこそ、葛藤があるんだ。
だから、躊躇うんだ。


「・・・だから、私は傍に居るね」

「・・・・・・」


だから、そんな二人を見守るしかない。

スメラギも分かっているらしくて、地上向きのミカエルを宇宙に残してくれた。
デュナメスとエクシアは南アフリカ国境紛争地域への武力介入をする。
ミカエルはヴァーチェと共にキュリオスのサポートになるだろう。

ミカエルの所に行こう。

きっとこの後はアレルヤがスメラギと話をするだろう。
は自分は彼らの為に機体を万全にしなければ、と思い動く。


「今はちょっと離れるけど、アレルヤ、後でね」

「・・・あ、!」


半重力の中移動しようとしたら、肩を掴まれた。
バランスが崩れて、の背にアレルヤの逞しい胸板にトンと当たる。

顔を上げると、戸惑った表情のアレルヤが見れた。
も瞳を丸くして、口を開く。


「ど、どうしたの?」

「あ、ごめ、その、」


銀の瞳を彷徨わせる。
不安なんだろうか、これからの事が。

はそのままアレルヤを見上げてくすりと笑った。


「・・・どうしたの?アレルヤ?」

「・・・ご、ごめん、なんでもないんだ!」

((よく言うぜ・・・))


あ、ハレルヤだ。
なんて思ってるとアレルヤが仄かに頬を染める。


((が居ねぇとサミシーってよ))

ハレルヤ!!

「えっ」


アレルヤの中から響くハレルヤの声。
どこか楽しそうな声色が響いた直後、顔を真っ赤にさせたアレルヤが両手を振る。


「あ、その、違うよ!?や、別に君と一緒に居たいのは本当なんだけど、その・・・」


最初は勢い良く声を張っていたけれど、段々と尻すぼみしていってしまった。
ごにょごにょと声を漏らすアレルヤに、は思わず笑みを零す。


「大丈夫、すぐ戻るから」

「あ・・・その、」


ねぇ。
そう言って彼を見上げる。


「じゃ、もうちょっとだけ一緒に居ようか」

「・・・いいの?」


何か用があったんじゃ、
そう言うアレルヤにゆっくりと頷いた。


「ミカエルの所にね。でも、ちょっとくらい一緒に居たっていいでしょ?」

「・・・、」

「私だって、」


アレルヤと一緒に、ほんとは居たいんだから。
なんてね。

口に出して言うと、アレルヤは瞳を丸くした後に嬉しそうににっこりと笑った。
「ほんと?」なんて笑ってくれるとなんだかこっちまで嬉しくなる。


「ほんと。アレルヤと一緒に居るの、好きだもん」


守ると言ってくれたアレルヤ。
彼の優しさにはいつも心が救われている気がする。

なんて思っていると「おい」と肩を引かれた。


「じゃあ俺とはどうなんだ?」

「・・・ハレルヤ・・・」


面白そうに口の端を上げているけれど、どこか不満げな声色だった。
ちょっと拗ねてるのかな、と思いながら彼の金の瞳を見上げる。


「もちろん、ハレルヤと一緒に居るのも好きだよ」

「そうか」


ハレルヤは満足げに頷くとどこか嬉しそうに笑った。
なんだかほんとに子どもみたい。
ハレルヤって、少し可愛いかもしれない。

ご機嫌な金の瞳を見上げていると、頭に声が響いた。


((ずるいよ、ハレルヤ。僕がと話をしていたのに))

「あ?うるせぇな。ちょっとくらい良いじゃねぇか」

((・・・僕だってと話がしたいのに))

「あーうるせぇな」


頭をがしがしとかくとハレルヤはを見下ろした。
そのまま手を動かし、私の肩に下ろした。


「・・・って事で、アレルヤがぴーぴーうるせぇから戻るわ」

「私は聞こえてるから三人で話ができるのに」

「コイツはそれじゃちぃとばかしご不満なようだぜ」


なんで?
思わずそう聞くとハレルヤはいつもとは違い、少しだけ優しく笑った。


「・・・ま、それはお互い様だけどな」

「え?」

「俺とあいつは鏡だからな。・・・ま、今は譲ってやるよ、アレルヤ」


よく分からないままに見守っていると、アレルヤが出てきたようだった。
彼は困った様に笑って、もう、と言った。


((ニブチンが))

「仕方ないよ、ハレルヤ」

「え?私のこと?」


そう聞き返してもアレルヤにもハレルヤにも苦笑されるだけだった。
ハレルヤは、姿が見えないから雰囲気だけれど。




ハプティズムと仲良し。