「作戦プラン、見させてもらったわ。あなたの過去も」
そう言いスメラギは表情を歪ませた。
戦術予報士として時には非情なミッションプランを出しても、やはり彼女は優しい人間だ。
「確かに武力介入する理由があるし、ヴェーダもこの作戦を推奨してる・・・でも、いいの?」
あなたは自分の同類を、
そこで言葉を止めて、スメラギはアレルヤを真っ直ぐに見据えた。
構わない。僕はそう決意したのだから。
アレルヤはそう思い、直ぐに頷いた。
「構いません」
思いのほか、冷たい声が出た気がする。
「もう一人のあなたはなんて?」
「聞くまでもありません」
「本当にいいのね?」
念を押すように聞いてくるスメラギ。
もこんな風に僕に問いかけてきたっけ。
そう思いながら思わず自嘲的な笑みを浮かべていた。
「自分の過去ぐらい、自分で向き合います」
そう言うとスメラギは肩を竦めて笑った。
「分かったわ」と言った彼女はデスクに手を置く。
「・・・は、なんて?」
先ほどのハレルヤに関しての問いかけはすぐ答えられたのに、言葉に詰まった。
は・・・、
「・・・僕の、傍に居ると言ってくれました・・・」
支えてくれる、って。
スメラギは「そう、」とだけ言うと瞳を伏せた。
優しい。
彼女の存在は以前研究施設で出会ったマリーの事を思い出させた。
戦いを恐れながらも、戦いに身を置く彼女は、酷く儚くて、優しい存在だった。
初めて出会った時はまさかガンダムにあんな女の子が乗ってるなんて思わなかったから驚いた。
自分と同じように体を改造された強化人間。
でも、細い肩、柔らかい体。
それらから彼女はただの、普通の一人の女の子だという事がわかる。
わ、わたし、なんかわかんなくって
なんでたたかってるんだろって、おもったら、わかんなくって、
みんなはちゃんといしをもってるのに、わたしはなくって、
でも、わたし、たたかうことしか、しらなくって・・・
ふつ、うの、おんなのこ、みて、わたしとぜんぜんちがくって、
わたし、わたし、
くしゃりと表情を歪ませて彼女はそう言った。
いくらガンダムに乗って、素早い動きで白兵戦も得意でも、やっぱりただの女の子なんだ。
だから、強く思ったんだ。
絶対に彼女を支えて、守ってあげなきゃいけないんだって。
僕の気持ちに共感するように、ハレルヤの彼女に対する気持ちも強まった事を感じた。
だから、二人で決めたんだ。
僕もハレルヤも、一緒にを守るんだ。
は僕たちを癒し、心を支えてくれた。
だから、僕が支える。
絶対に。
そのためには前に進まなければならない。
いつまでも過去に縛られていないで、強くならないと。
それに、これ以上僕たちと同じ存在を生み出す施設を放っておく事なんてできない。
放置しておけば、戦場で出会った人革連の超兵と同じように、人間を戦闘兵器として使われてしまうだけだ。
(もついてくるみてぇだな)
「・・・そうだね。僕としては、できれば待っていて欲しいんだけど・・・」
(そりゃ無理だな)
あっさりとハレルヤが告げる。
(あの女は自分の存在意義を戦う為だけとしか思ってねぇ)
「分かっているよ・・・。僕たちにとって、居てくれるだけで嬉しいのにね」
(今までどんな扱い受けてきたのかがまる分かだ)
ハッ、とハレルヤが鼻で笑う。
ハレルヤの言う通りだ。
は人に頼るという事をあまりしない。
否、できないようだった。
僕はついついに縋り、頼ってしまうけれど、僕にも頼って欲しい。
でも、それをしてもらえないのはきっとがずっと誰かに頼らないで過ごしてきていたからだ。
その代わり、とでもいうように物に執着をしている様子が見られる。
貰ったと言っていたオルゴールとネックレスをとても大切にしているし、僕にくれたお守りもそうだ。
僕があげた髪飾りも、髪に留めてくれているし、そうしていない時は服につけていたりと肌身離さず持っていてくれてる。
そして、ずっと持っているあのハンカチ。
出会った当初からずっと持っていたあのハンカチは、きっとずっとの心の支えになっていたものだろう。
きっとあのハンカチをくれた人を想っているのだろう。
それが恋情なのか、親愛のものなのかは分からないけれど・・・。
気がついた時からの事ばかりを気にしていた。
ずっと、彼女を見て居いたい。触れていたい。
大切にしたい。
そう想う。
の傍にずっと居たい。
ハレルヤ、君もそうだろ?
(・・・さぁな)
「・・・同じなくせに」
素直じゃないんだから。
そう思っていると、うっせ、という声が頭に響いた。
「・・・好きなんだ」
こんなにも。
が好きなんだ。
君もそうだろ、ハレルヤ。
が廊下を移動していると、ティエリアが一室から出てきた。
彼の表情は珍しくどこかすっきりしたようなものだった。
どうしたんだろう、と思って半重力の中を飛んで彼に近付いた。
「ティエリア、どうしたの?」
「・ルーシェか」
の名前を呼ぶとティエリアは腕を組んだ。
そのままを赤い瞳で見下ろすと、また口を開いた。
「人類の愚かさを垣間見た。だが、アレルヤ・ハプティズムがガンダムマイスターとしての使命を全うしようとしている」
「・・・人類の愚かさ?」
それは?
ティエリアに問いかけると彼は鼻をふんと鳴らした後、「超人機関だ」と言った。
「君も知っているのだろう。アレルヤ・ハプティズムの個人情報を」
「・・・そりゃ、知ってるけど・・・」
なんでティエリアも知ってるんだろう。
マイスターの個人情報はSレベルの極秘情報だったはずだし、守秘義務だってあったはずだ。
アレルヤがティエリアに自分から進んで話すとは思わないし・・・。
はそう思いながら、ティエリアの話を聞く。
「彼は以前ミッションを放棄するという有り得ない行動に出たが、今回は自らの過去を自らの手で払拭しようとしている」
なるほど。
今回の過去と向き合うアレルヤはティエリアにとって好感が持てるらしい。
「戦う為の兵器を生み出す施設を紛争を幇助するものと見なして攻撃をする。そして人革連の行いも世界に明確にされる」
良い事だ、とでも言うように上機嫌なティエリアが語る。
そっか、とは返して少しだけ笑った。
「デュナメスとエクシアは地上に下りる。俺とお前で次のミッションにあたるぞ」
「うん、アレルヤをフォローしなきゃね」
がんばろ、ティエリア。
そう言っても彼は何も返してくれなかったが、一緒に格納庫へ行く事は許してくれているようだった。
今日のティエリアはなんだかご機嫌だ。
きっとこれからのことを考えているアレルヤは正反対の気持ちだろうけれど。
アレルヤ視点を前半に。