『まさか、ここに戻ることになろうとは・・・』


アレルヤの声が通信越しに聞こえる。
人革連のスペースコロニーを眼前に、アレルヤには何か思うところがあるのだろう。
先行するキュリオスに、ヴァーチェとミカエルが続く。

宇宙型のティエレンがコロニーから発進してくる。
迎撃体勢を取る相手を、ヴァーチェがGNバズーカを使用して薙ぎ払う。


『ミッション通り、ここは引き受ける。目標を叩け』

『感謝するよ。行くよ、


ティエリアとアレルヤの会話を聞きながら、はキュリオスを追う。


『過去というものが、あの男を歪ませているのなら、それは自らの手で払拭する必要がある』


それでこそ、ガンダムマイスターだ。
ティエリアはそう言い、キュリオスとミカエルを追おうとしたティエレンを撃墜させた。

コロニーの港口から侵入し、セキュリティを解除する。
『セキュリティシステム制圧完了』というアレルヤの声を聞きながらキュリオスに続く。
ハッチが開いて、コロニーの中へ機体を滑り込ませる。


『ここから先は・・・出たとこ勝負!』


コロニー内部には町々が見れた。
実際立ってみると分からないが、ガンダムに乗って見ると確かにコロニーは円形なのだと分かる。
が、機体全体がガタガタと激しく揺れて、視界も安定しない。


「アレルヤ、気流に流されてる」

『・・・コロニーの回転にキュリオスを同期』


アレルヤに習ってミカエルもコロニーの回転に同期させる。
はキュリオスを追いながらそれを行った。

そのままあっさりと目的の建物まで進む。

攻撃が無いのは、コロニー内部での戦闘行為は禁止されているからだ。
敵も手出しが出来ない状況なのだろう。


『スメラギさんの予想通り、コロニー内での反撃はない・・・うっ・・・!』

「・・・アレルヤ?」


アレルヤの様子がおかしい。
それにが気付き、どうかしたのかと思い、彼を強く想う。
その時、


((来るな!!))

!!!!


頭に声が響いた。
まだ、幼い声色。

どこから、と思わずコクピット内で首を動かす。

―あ、


((来ないでぇ!))


どこから、なんて、決まっている。


((やめてぇ!))

((痛いよ!))


目の前にある、超人機関研究施設からだ!

声は男女共、幼いものだった。
アレルヤと、それに似ている私の脳量子波の影響か、苦しんでいるようだった。
それとも、実験のせいか。


『居る・・・僕の同類が・・・あの忌わしい場所に・・・!』


アレルヤが苦しげに声を漏らす。
きっと頭痛が酷いのだろう。

彼の心の痛みを少しでも和らげたい。

そう想いながら、はキュリオスの背を見詰めた。


『躊躇わないぞ・・・!僕はガンダムマイスターだ!』


まるで自分に言い聞かせるように言う。
否、実際そうなのだろう。

彼は優しいから。

キュリオスはミサイルランチャーを構え、照準を真っ直ぐに超人機関研究施設へ向ける。

そんな様子を見て、はゆっくりと瞳を閉じた。
子どもたちの苦しむ声が頭に響く。

痛い、怖い、辛い、助けて。

誰もが、そう叫んでいる。
恐怖状態に陥ったステラ、スティング、アウルと同じ。

はぎゅ、と胸の前で手を握る。
そしてアレルヤ、と小さく彼の名前を呼ぶ。

その時、ぽつりとアレルヤが呟いた。


『・・・殺す必要があるのか・・・?』


ほら、彼は優しいから。
絶対に躊躇する、はそう思ってた。

震える声でアレルヤは続ける。


『・・・そうだ・・・彼らを保護して・・・、』

((甘いな))


ハレルヤの声が響いた。

突然の言葉に、アレルヤは『ハレルヤ!?』と声を跳ねさせた。


((どうやって保護する?どうやって育てる?))


戦う事しか知らない子どもたちを。

そう、自分たちみたいな。


((施設から逃げたお前が、まともに生きてこられたか?))


外は知らないことばかりだったろうに。
宇宙で漂流して、死にかけて。

その後は?

結局戦いに戻ってきたアレルヤは、
はそう思いながら、彼らの会話に耳を傾けた。

ハレルヤは鼻で笑うと声を張り上げた。


((できもしねぇこと考えてんじゃねぇよ!))

『しかし・・・!このままでは彼らがあまりにも不幸だ・・・!』

((不幸?))


ハレルヤの声のトーンが少し上がる。
そのまま彼は笑い声を零す。


((不幸だって?施設に居る奴らは自分が不幸なんて思ってねぇよ))

『いつかはそう思うようになる・・・!』

((だが、ティエレンに乗っていた女は自分が不幸だと感じているのか?))


ソーマのことだ。
彼女は自分が不幸だなんて、思っていないだろう。
寧ろ、戦える事を誇りに思ってさえいそうだ。


「・・・そして、彼女は私を不幸だと思っている」


戦う事を利用されている、自分を。
は思わずそう呟いた。

本当は、ソーマだって同じなのに・・・。
戦える力を植えつけられて、軍に利用されているだけなのに。


((そうじゃないだろ?))


ハレルヤが続ける。


((独り善がりな考えを相手に押しつけんな))


アレルヤの考えをハレルヤは前面否定をした。
アレルヤは超人機関施設での日々を不幸だと思っている。
でもソーマは違う。

も、自分が不幸だなんて考えた事は一度も無かった。


ただ、眼前の事に集中した。
ただ、ステラたちを守った。
ただ、言われた通りに動いた。
ただ、ただ、戦った。


恐怖は毎日感じた。
今だって手が微かに震えている。
さっきから鳴り止まない子どもたちの悲鳴にも心が張り裂けそうになる。

だが、は不幸だなんて思った事は無かった。


((どんな小奇麗な言葉を並べ立てても、お前の優しさは偽善だ))


偽善、とアレルヤは呟いた。


((優しいふりして、自分が満足したいだけなんだよ))

『ち、違う・・・!』

((違くねぇよ。にだってそうだろ?そうすれば隣に居てくれるもんな))

『僕は・・・!』


アレルヤは寂しがりだ。
人一倍愛情に飢えている気がする。
だから安心できる場所を探す。

・・・私と一緒。

はそう思いながら無意識の内にハンカチのある箇所に手をあてていた。


『・・・彼らは生きてる』

((改造されてな!そしていつか俺らを殺しに来る!敵に情けをかけるな!))


躊躇うアレルヤの背を、ハレルヤが押していく。
一歩一歩、アレルヤは前に押されているようだった。


((それとも何か?また俺に頼るのか?))


あの時みたいによ。
ハレルヤの言葉が頭に響く。

仲間を殺した時みたいに。


((自分がやりたくない事に蓋をして、自分は悪くなかったとでも言うのか?))


淡々と話すハレルヤの言葉は、アレルヤにどう捉えられているだろう。
目を閉じていると、目の前で二人が話しているような気がした。

ハレルヤは金の瞳を細め、口の端を吊り上げた。


((俺はやるぜ))


揺ぎ無い、ハレルヤの想い。
きっとそれは、自分と、アレルヤのため。

俺はやる。
お前はどうなんだ?

ハレルヤがそうアレルヤに問いかけている。


((他人なんざどうてもいい!俺は俺という存在を守るために戦う!!))

『そんなこと!』


暗闇の中で言い合う二人。

ハレルヤが銃を取り出してアレルヤに向けると、アレルヤもまた銃を取り出してハレルヤに向けた。


((なら何故お前はここに来た!?))

『僕は・・・ソレスタルビーイングとして・・・!!』

((殺しに来たんだろ?))


ハレルヤの問いかけに『違う!』と即答をするアレルヤ。


『ガンダムマイスターとして!』

((立場で人を殺すのかよ?))


自分の意思とは関係なく?
ガンダムマイスターだから人を殺しているのか?

ハレルヤはそう問う。
彼はそのまま口の端を吊り上げ、両手をあげた。


((引き金ぐらい感情で引け!おのれのエゴで引け!!無慈悲なまでに!!))


自分の為に引き金を引け。
自分を守るためには相手を殺すしかない。

自分たちは、それしか知らないのだから。


『撃ちたくない・・・』


首を振ってアレルヤが声を震わせる。
小さく呟いた言葉を許さないとでも言うように、ハレルヤが声を張った。


((アレルヤァ!!))

アレルヤ!!



気がついたら、も彼を呼んでいた。


撃ちたくないんだあああぁぁぁぁぁっ!!


次の瞬間、
キュリオスのランチャーからミサイルが発射された。
ミサイルは何十発も打ち出され、真っ直ぐに超人機関研究施設へ降り注いだ。

施設が爆発する。

炎があがる。

頭に響いていた声が、消えていく。


・・・うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!!


アレルヤが悲痛な叫びをあげながら、ミサイルを連射する。
引き金を己の意思で引いた彼は、一体何を思っているのか。

もう、いいよ。

がそう思い思わず瞳を伏せた時、キュリオスの攻撃が止んだ。
燃え盛る超人機関研究施設を少しの間見詰めた後、変形してキュリオスは離脱を開始した。

勿論、ミカエルも彼に続く。
途中からキュリオスに捕まり、一緒に飛行をする。

コロニーを出て宇宙へ来て直ぐに、笑い声が響いた。


『ハハハハハァッ!』


これは、ハレルヤ。
アレルヤは自分の意識の底に沈んでしまったのだろうか。
それとも、ハレルヤが自分から表へ出てきたのだろうか。

はそう思いながら通信の声に耳を傾ける。


『よくやった!それでこそ俺の分身・・・!』

「・・・ハレルヤ」

『面白くなりそうだぜ・・・』


泣いてる。
音声通信のみだったので、姿は見えなかったけれど、そんな気がした。

アレルヤが、ハレルヤが泣いてる。

すぐ目の前まで見えてきたプトレマイオス。
コンテナが開いて、ミカエルとキュリオスを其々迎え入れる。


「・・・ハレルヤっ!」


格納庫へ固定された瞬間、はコクピットから出た。
そのままミカエルを蹴って、ハレルヤの下へ飛んだ。
勢いを付けすぎたのか、そのまま彼のオレンジのパイロットスーツにぶつかった。


「・・・ハレルヤ・・・!」

「・・・おいおい、なんだよ」


やっぱり泣いてる。
いつもの意地悪い笑みを浮かべているけれど、ハレルヤは確かに泣いていた。
アレルヤの涙なのかもしれないが。

―否、きっとこれは二人の涙。

そう思い、はハレルヤのメットを取り、両手で彼の両頬を包む。

半重力の中、雫が舞った。


「・・・ハレルヤぁ・・・!」

「・・・そればっかじゃわかんねーよ」


ちゃんと喋れよ、ばーか。
そう言ってハレルヤはのメットを取った。


「アレルヤも、ハレルヤも、仲間を殺したくなかった」

「・・・」

「私、わかるんだから・・・ほんとは嫌だったけど、自分たちじゃないとできないって・・・」

「・・・


金の瞳が細められた。
そのままハレルヤはの肩に額をくっつけて、片手を背に回した。


「・・・ハレルヤも、アレルヤも、優しいの、知ってるんだから・・・」

「・・・これで、僕たちと同じ苦しみを持つ者は生まれなくなる・・・」


アレルヤだ。
彼は銀の瞳を悲しげに細めた。
そのまま、開いていた片方の手も、の背に回した。


「・・・僕は、正しい事をしたんだろうか・・・」

「・・・立場上仕方なく、アレルヤは撃ったの?」


はそう問いかけながら、そっと彼の胸を押す。
銀の瞳から涙を零しながら、彼は俯いた。


「・・・違う、僕は自分のエゴで引き金を引いたんだ・・・。
 撃ちたくなかった・・・でも、ここで撃たないと、僕らのような人間がまた造られる・・・!」


だから!!
そう言い表情を歪めるアレルヤの後頭部に手を回して、は彼の頭を抱え込んだ。

ぎゅ、とアレルヤを強く抱き締める。


「・・・やっぱり、優しいよ。アレルヤもハレルヤも」

「・・・僕たちは、同類を殺したんだ・・・」

「うん、でも、優しさからの行動だって私は知ってるよ」


彼らを保護したとしても、ハレルヤの忠告通りになっただろう。
このまま人体実験を続かせて、将来人間兵器となるよりも、此処で全てを終わらせてしまえばいい。

罪を背負う事になっても、やり遂げ無ければならなかったんだ。

行いの根本は、彼らの優しさから始まって、様々な感情が枝分かれしている。

それを、私は知っている。

はそう思いながら、アレルヤの背を撫でた。


「知ってるよ、アレルヤ、ハレルヤ」

「・・・


細められた瞳はどちらのものだっただろうか。
彼はの胸元に顔を埋め、ぎゅうぎゅうと強く彼女を抱き締めた。

」とまた名前を呼んでアレルヤは銀の瞳を少しだけ揺らした。


「・・・その、後で僕の部屋に来てもらえないかな・・・?」

「部屋に?」


良いに決まってるのに。
そうが思わず目を丸くして聞き返すと彼はどこか恥ずかしそうに言った。

泣き顔を見られたからではないようだ。
今もまだやりきれない表情をしているけれど、少しは落ち着けたみたいだった。

が頷くと、彼は「よかった」と言って微笑んで手を引いた。
そのままガンダムから離れ、移動をする。


「・・・とりあえず、着替えてからにしよう」

「うん。あ、スメラギさんの所には?」


そう問うとアレルヤは何かを考える仕種をした後、「一緒に、行こうか」と言った。









その後パイロットスーツから普段着へ着替え、スメラギのところへアレルヤと一緒に行った。
二人が彼女の部屋に入ると、またお酒を飲んでいた。


「どうしたの、二人とも。また新しい作戦でも立案した?」


グラスを傾けると、中に入っている氷が音を立てた。
アレルヤはゆっくりと首を振ると、彼女の名を呼んだ。


「スメラギさん、ありがとうございました。僕の立案した作戦を承認してくれて・・・」

「いいのよ。ヴェーダも承認してくれたしね」


ひらひらと手を振るスメラギは視線を此方に向けた。


「で?それだけの用事?」

「・・・一杯、貰おうと思って」


何で?
スメラギはそう問うた。
それにアレルヤは「そういう気分なんですよ」と言って苦笑した。


「未成年は駄目よ、犯罪者になっちゃうもの」

「僕らは希代のテロリストですよ?」

「それでも、駄目なものは駄目」


意外なところでしっかりしているようだった。
スメラギは自分のグラスにお酒を注ぎながらそう言う。

ツンとした匂いが鼻につく。


「それが、もういいんです」


アレルヤの言葉にスメラギが瞳を丸くする。
もよく分からなくて、小首を傾げた。


「グリニッジ標準時間で、つい先ほど20歳になりましたから」

「そうなんだ」


思わず声を出すと彼は困ったように笑った。
それで部屋に呼んだのかな?
それとも、別の用件で?

がそう思っていると、スメラギがもうひとつグラスを用意して、アレルヤに手渡した。


は駄目よ。貴女はまだ未成年だもの」

「成人しても、私はお酒は飲めないと思います」


肩を竦めてそう言うにスメラギは「勿体無いわね」と言った。


「こんな時に言うのもあれだけど、おめでとう」

「ありがとうございます」


そのままアレルヤと乾杯をして、二人でグラスを傾ける。

おめでとう、って、何がだろう。
そう思いながらは二人を見ていた。

アレルヤが「ん、」と苦しげな声をあげた。


「なぜ、こんな苦いものを・・・?」


苦かったんだ。
なんて思って見ているとスメラギさんがくすりと笑った。


「その内分かるわ、きっとね」


その後に何かを思い出したようにスメラギが「あっ、そうだわ」と言って何かを取り出した。
はい、とに向けて差し出されたものは端末だった。
が反射的にそれを受け取ると、スメラギはグラスを揺らしながら口を開く。


「次の貴女のミッションよ。アレルヤとは離れちゃうんだから、今夜はお祝い、ちゃんとしてあげなさい」

「お祝い?」


正直、何の?とは思った。
先ほどスメラギがおめでとうとアレルヤに言っていたので、多分それが関連しているのだろう。

そう思っているの言葉にスメラギは「そうよ」と言ってにんまりと笑った。
彼女から視線をよこされたアレルヤは「えっ」と短く声を上げて背を反らしていた。


「・・・さ、そろそろ部屋に戻りなさい。あんまり夜更かししちゃ駄目よ」


スメラギに背を押され、アレルヤと一緒に部屋から出される。
閉まったドアの前で、何となく二人は見詰め合う。


「・・・アレルヤ、誕生日?」

「うん、さっきなんだけどね・・・」


困ったように笑って言う彼にふーん?とは返す。
そのままアレルヤの部屋へ向かった。

彼の部屋について、一緒にベッドに腰を下ろした。


「大人になったんだね」


20歳なんて、とが言うと彼は「そうかな?」と言って笑った。


「そうだよ、きっともっともっとアレルヤはかっこよくなるね」


そうかな、と言ってアレルヤは今度は嬉しそうにはにかんだ。

あ、この笑顔可愛い。
なんてが思いながら見ていると、アレルヤが隙間を埋めるように近付いてきた。

こつん、と額と額がくっつく。

安心したような、穏やかな表情でアレルヤは瞳を閉じていた。


「どうしたの?甘えん坊」

「甘えん坊、か」


その通りかも。
なんて言ってアレルヤは微笑んだ。

あんなミッションの後だ。
アレルヤにも安らぎが必要だろう。

そう思いながらはアレルヤの手を握った。

きっと彼が求めている言葉はこれだ。
先ほどスメラギも言っていた―――、


「・・・お誕生日、おめでとう」


初めて口に出した言葉。
それでもアレルヤは嬉しそうに笑ってくれた。


「・・・うん、ありがとう」


おめでとう、ともう一度言ってみると彼ははにかんだ。


「そういえば、の誕生日は?」

「んー・・・」


誕生日か。
は小さく声を漏らしながら考える。

よくよく考えてみると祝ってもらったことがないんだから無い事になる。
ステラやアウル、スティングのさえ知らないんだし。
そもそも誕生日を祝う事すら、良く分からなかった。

なんて考えているとアレルヤが「?」と名前を呼んだ。

アレルヤから顔を離し、は少し彼から視線を外した。
「んーっと、」と言い、言葉を紡ぐ。


「わかんない」

「え?」

「ごめんね、わかんないの」


祝って貰ったことないし、そもそもそんなの知らない。

素直にがそう告げると銀の瞳が驚愕で丸くなった。
「え、」と短く声をあげて、アレルヤは体を硬くした。

何か言っちゃいけない事だったかな。

がそう思いながら不安げに見上げていると、アレルヤは「・・・そっか」と言って悲しそうに瞳を細めた。


「誕生日はね、その日にその人が生まれた日だからお祝いをするんだ」

「お祝い?」


まるで絵本を読んでくれているような、優しい口調でアレルヤは言う。
が何故と問うと答えてくれた。


「神様に感謝するんだよ」

「感謝の日なの?」

「そう、生まれて来て、出会えた事への感謝の日」


そう言いアレルヤはの頬に指を滑らせる。
それに心地良さを感じながら、再度は口を開く。


「生まれた事へ感謝?」

「・・・そうだよ、生きている事に感謝しなくちゃ・・・」


アレルヤ。
彼はそう呟いた。
自分の名前を呟いたのか、それとも。


「アレルヤ、」


兎に角、が誕生日の彼に言える言葉はこれだ。

今度こそ、心を込めて貴方へ送る。


「お誕生日、おめでとう。生まれて来てくれて、ありがとう」


大好きなアレルヤ。
貴方を今此処で祝えた事に感謝します。

そう言ってアレルヤの手をぎゅっと握ると、彼は嬉しそうに微笑んだ。


「・・・何か、特別な事、ある?」

「え?」


何か私にして欲しいことは?
そう問うた。
せっかくの特別な日なんだから、何かしてあげたいし。

がそう思っていると、目の前の銀が金に変化した。


「なんでもいいんだな?」

「え?あ、うん?なんでも」


ハレルヤの願望を聞くみたいになってるけど、二人は一緒なんだから、誕生日も一緒、なのかもしれない。
双子みたいなものなのかな。
なんてが考えていると顎に手を添えられ、くい、と上に上げられた。

至近距離に意地の悪い笑顔。


「・・・ハレルヤ?」

「お前、ってのもじゃあアリなんだな?」


は、と思わず固まった。
頭の中でアレルヤの驚いた声が響く。
((ハレルヤ!!?))とアレルヤがハレルヤの名を呼んで諌めている声が続くけれど、


「うっせぇよアレルヤ」


アレルヤを無視してそのまま近付いてくるハレルヤの整った顔。
が思わず慌てて両手で胸を押すが、ハレルヤはびくともしなかった。


「勿論俺にもくれるんだろ?」


プレゼント。
と一字ずつ区切って言ったハレルヤは口の端を吊り上げた。


((ハ、ハレルヤ!))

「いいじゃねぇか、キスくらい」


な、
そう言って一気にハレルヤの顔が近付いてきて、


・・・!


ちゅ、と唇同士が重なった。




「ごめんね、わからないの」
これは例の彼女が言った言葉と一緒。

んで泣いてたのはきっとアレルヤ。