ミッションプランを閲覧しながらは小さく息を吐いた。
ミカエルに与えられたミッションはまた地上のもの。
本来ミカエルは地上向きでもあるので、地上でのミッションが主だったから仕方が無い。
アレルヤから離れる事は少し不安も残るが、彼ならきっと大丈夫だろう。
そう思いながら端末をデスクの上に置く。
寝起きに見たものだけど、うろ覚えな所はあとで確認すればいい。
パイロットスーツに着替えなきゃ。
そう考え、は取り合えず用意を始めた。
今回の介入先はアザディスタン。
内戦にエクシア、デュナメスが介入。
ミカエルはこのままプトレマイオスから発進して大気圏を突破。
その後に二機のサポートに入るようだった。
端末と簡単な荷物を片手にドアをあけると、アレルヤがそこに居た。
あれ?と思いが小首を傾げると、彼はどこか言い辛そうに口を開いた。
「、ミッションだって聞いて」
「あ、うん。地上に下りなきゃ」
「・・・そっか」
アレルヤはそう言って寂しげに瞳を細めた。
そんな彼に、思わずは笑みを零した。
なんだか反応が犬みたいで、アレルヤが可愛く見えたからだ。
「アレルヤ、寂しい?」
「え?」
「・・・まぁ、私がアレルヤと離れる事が寂しいんだけどね」
なんてね、とが笑うと頭の上に大きな掌が下りてきた。
突然の事に「わっ!?」と声を上げると声が降って来る。
「色気の無ぇ声だな」
「ちょ、ハレルヤ!」
髪の毛ぐしゃぐしゃ!
手櫛で髪を整えていると、楽しそうに細められた金の瞳と目が合った。
彼と目が合った瞬間、少しだけは体を硬くしてしまう。
だって、昨日ハレルヤが突然キスしてきたから・・・。
「アレルヤが動揺して引っ込んじまったじゃねぇか」
「え?」
((ちょ、ちょっと、ハレルヤ!))
頭にアレルヤの声が響く。
驚いた隙にハレルヤが出て来てしまったのだろうか。
兎に角、色々あるけれどミッションの為に移動をしなければならない。
が動くと、自然とハレルヤもついてきた。
「ねぇ、アレルヤたちはこっちで待機なんだよね?」
「あ?俺に聞くなよ」
((・・・そうだよ))
ハレルヤはソレスタルビーイングのプランと把握していないらしい。
なんとなく理解しているレベルだろう。
「じゃあ、会うのはまた今度になるね」
((そう、なるね・・・))
落ち込んだ声色。
本当に寂しいと思ってくれているのだろうか。
なんてが考えているとハレルヤがまた手を伸ばしてきた。
今度は体を引かれ、そのまま後頭部がハレルヤの胸板に当たる。
そのまま格納庫の方へ移動するハレルヤを見上げると、金の瞳が見えた。
はハレルヤを真っ直ぐに見詰め、口を開く。
「・・・ハレルヤも寂しいの?」
「あ?何寝ぼけた事言ってやがる」
「私は、ハレルヤと離れると寂しいのに」
がそう言うと、金の瞳が少しだけ丸くなった。
あ、驚いた顔だ。ちょっと新鮮。
なんて思っていると「ばーか」と意地悪くハレルヤは笑った。
「さっさと地上の奴等ぶっ潰して戻って来い」
((僕たち、待ってるから))
ハレルヤとアレルヤがそう言う。
は大きく頷いて、体を反転させた。
そのまま両手を伸ばして、彼の前髪を手で上にあげる。
やられっぱなしじゃ、だめだもんね。
そう思い、は動いた。
金と銀の瞳が丸くなった後に、其々の目元にキスをした。
「いってきます」
そのまま壁を蹴って、ミカエルに向かって飛ぶ。
ちゃんと彼らに手も振った。
帰ってきたらぎゅってして貰おう。
それで、キスの意味もちゃんと聞こう。
アレルヤもハレルヤも、私の事をどう思っているのかも。
はそう思いながコクピットへ体を滑り込ませた。
「・・・やってくれるぜ」
((ほんとだよ、全く・・・))
ハレルヤとアレルヤに見送られながら、はミカエルを操作する。
『ミカエル、カタパルトデッキへ移動』
フェルトの声が響く。
はメットをきちんと被り、両手をレバーに乗せる。
ミカエルを起動させて、フェルトの合図を待つ。
『射出準備完了・・・、タイミングをミカエルに譲渡』
「ありがとうフェルト。ミカエル、・ルーシェ、行ってきます!」
国教の解釈の違いにより、国民は大きく二つの教派に分かれ、政治的に不安定な状況が続いている国。
それがアザディスタン。
アザディスタンの宗教的指導者、マスード・ラフマディーが何者かの手によって拉致され、今は大きく揺れている。
そこへ、先にエクシアとデュナメスが武力介入を開始している。
ユニオンからのMSWAD部隊も今回導入されている様子だし・・・。
私もちゃんとお手伝いしなきゃ。
はそう思いながらGN粒子散布状況を確認して、大気圏に突入した。
今回の目的はアザディスタンに武力介入。
マスード・ラグマディーに関しては追々スメラギやヴェーダから指示が下りるだろう。
そう思いながら、地球の空を飛ぶ。
太陽光発電受信アンテナ施設へ取り合えず向かう。
そこの近くは確かロックオンの待機場所だったはずだ。
閲覧したデータの内容を思い出しながら宵闇の中を飛んでいると、前方に戦火の光が見えた。
もう内戦は始まっている。
モニターに映して確認してみると、同じ機体同士が戦っている。
「・・・裏切りか・・・」
はそう呟いて、発見したデュナメスの方へ向かう。
近くには、ユニオンのMSWAD。
漆黒の機体、フラッグが数機居る。
そちらに注意を払っていると、どこかからかミサイルが発射された。
デュナメスが懸命にそれを撃ち落そうとするが、何しろ数が多すぎた。
ミサイルの多くは太陽光発電受信アンテナ施設へ降り注ぎ、炎上させた。
これでアザディスタンの改革派、保守派の動きが激化する。
そう思っていると、ミサイルを撃った機体をフラッグが追って行った。
が、一機のフラッグが、デュナメスに向かって突出した。
恐らくは、隊長機。
『おいおい、ユニオンはアザディスタン防衛が任務じゃないのか?やっぱり俺らが目当てかよ』
「ロックオン!」
デュナメスと通信を繋げる。
そうするとロックオンの『か!』という声が聞こえた。
『援護を頼む!・・・狙い撃ちだぜ!』
ロックオンがフラッグに向けてGNライフルを撃つ。
が、フラッグは空中でMS型へと変形をして、攻撃を回避した。
「空中で変形するなんて、無理のある動きをしてあのフラッグのパイロットは・・・!」
かかるGもあるはずだ、何せ機体がフラッグだ。
がそう思い少し呆気に取られていると、そのMSの型のままフラッグはデュナメスに突っ込んだ。
それに対してロックオンがハロに支持を出す。
『ハロっ!』
『リョカイ!リョウカイ!』
防御はハロに任せる様だった。
デュナメスのシールドがフラッグの銃撃を弾く。
ロックオンはそのまま再度照準をフラッグにあわせる。
『二度目はないぜ!』
そう言い撃つが、フラッグはまたロックオンの銃撃を回避した。
あのロックオンの狙撃から逃れるなんて・・・!
ぞくり、とは体が震える感覚がした。
ロックオンも何かを感じた様で驚きの声をあげた。
『俺が外した!?何だこのパイロット!?』
「! ロックオン!!」
フラッグがそのままデュナメスに突撃し、降下の力を生かして蹴りを入れた。
それにより体勢を崩したデュナメスに、フラッグはプラズマソードを振り下ろす。
そんな間近でプラズマソードなんて降ろされたら、デュナメスもただではすまない。
ロックオンは舌打ちをし、間髪いれずにビームサーベルを抜き、それを防いだ。
『俺に剣を使わせるとは!』
「ロックオン!!」
狙撃主である彼が接近戦に持ち込まれる事は不利な状況になる。
それ以前に、狙撃で片を付けられなかった事か、
はたまた剣を抜かざるを得ない状況になった事への屈辱か。
ロックオンの苦々しげに吐かれた言葉を聞きつつ、はミカエルを動かす。
大分近付いてきていたミカエルを空中変形させ、そのまま地上で着地する。
獣型のMAに変形したまま、グリフォン2ビームブレイドを展開させたまま飛び込んだ。
「ロックオンから・・・!」
ミカエルが地を蹴って飛ぶ。
『!?』というロックオンの驚きの声が響く。
「離れろおおおぉぉ!!」
寸での所でフラッグが飛んで避ける。
そのままミカエルの足を軸にして方向転換をし、再度飛ぶ。
フラッグに追撃をかけるが、グリフォン2ビームブレイドはプラズマソードで防がれた。
地面の上をすべりながら、は舌打ちをひとつする。
「こいつ・・・!」
『!避けろよ!』
デュナメスがビームガンを放つ。
ミカエルが素早い動きで後退した
デュナメスの狙撃はフラッグのシールドで防がれた。
が、充分な隙になった。
ミカエルのMS型に直ぐに変形させ、ビームサーベルを出しながら突撃する。
「はあああぁぁ!!」
ガキィン!
という音を響かせて刃と刃がぶつかり合う。
ビームサーベルとプラズマソードがぶつかり合い、火花を散らす。
プラズマソードが厄介だ。
は内心舌打ちをしながら、押し負けない様に力を込める。
「この・・・堕ちろ!!」
ミカエルが蹴りを入れて、フラッグの体勢を崩す。
その時にビームサーベルを振り下ろすが、フラッグの胴体から機銃が放たれた。
突然の事に対応しきれず、ミカエルに命中する。
それが丁度コクピットに命中したのか、物凄い衝撃がを襲った。
「っく・・・!」
あの時と一緒の揺れ、
ふと、思い出した。
は瞳を大きく見開き、震える手でレバーを握る。
あの、羽を持ったガンダムが、ビームサーベルを構えて真っ直ぐ此方へ向かってきて―――、
は思わずぎゅ、と目を閉じる。
体が震える、いけない、このままじゃ、
「私は・・・、私は・・・!」
ぎゅ、とレバーを強く握る。
フラッグの撃つビームライフルの攻撃がミカエルに直撃する。
再度コクピット内にまで衝撃が来る。
『!』とロックオンの声が聞こえる。
そう、私は、
「私はあああああああぁぁ!!」
声を張り上げ、は瞳を大きく見開いた。
もう一本内蔵されていたビームサーベルを取り出し、両手に構える。
そのまま突撃してきていたフラッグのプラズマソードを受け止める。
押され、後退するが、諦めない!
あの頃とは違う!
私はただ恐怖に怯えてやられるだけじゃない!
私は!
『!避けろ!!』
「!!」
無我夢中で戦うの耳に、ロックオンの焦った声が響く。
気付いた時には遅く、フラッグの不意の蹴りをくらい、ミカエルが体勢を崩す。
物凄い衝撃がコクピットに響く。
フラッグの両腕に押され、ミカエルは地に横になったようだった。
「・・・っくそ・・・! 私から、離れろっ!」
ミカエルの顔の横にある機銃を撃つが、フラッグは予想していたのか軽々と避けた。
が苛立って腕を動かそうとしても、押さえつけられているので動かない。
ミカエルの右手に、ソニックブレイドが突き刺さった。
ガンダムの装甲が固いので浅く刺さった程度だったが、動きを止められた。
そしてフラッグは、そのままコクピットへ手を伸ばしてきた。
「!!」
ガンッ!と揺れる。
モニター映像がぶれた。
「あ、・・・い、いや・・・!」
コクピットの装甲を剥がそうとしているのか。
このままだと、捕まってしまう?
捕まったら、どうなる?
「あ・・・、あ・・・!」
わたしは、
「いやああああああああああああああ!!!」
『!』
ビームサーベルを振るったデュナメスが、ミカエルの上にあるフラッグを攻撃した。
腕を切り落とされたフラッグは、ミカエルから離れて宙へ浮いた。
素早い動きでデュナメスは照準をフラッグに定め、に通信を入れてきた。
モニターに心配そうな表情をしたロックオンが映る。
『大丈夫か!?』
「・・・ロック、オン・・・」
は震える声でロックオンの名を呼んだ。
彼に迷惑をかけてしまった。
援護をする予定だったのに、ミカエルまで損傷させて・・・。
そう思いながらミカエルを起き上がらせる。
は大きく息を吐いた後、きゅ、と唇を噛み締めた。
ミカエルはデュナメスの後ろでビームライフルを構え、フラッグに照準を合わせた。
心配そうにを伺うロックオンは、表情が変化したに小さく声を零す。
『・・・?』
「・・・あいつ・・・嫌なやつだ・・・!」
怖い相手、嫌だ、
ただそれだけを思い、はフラッグに狙いを定める。
フラッグはまた空中で体勢を立て直している。
まだやる気のようだ。
『このしつこさ尋常じゃねぇぞ!ハロ、GN粒子の散布中止!全エネルギーを火器に回せ!』
『リョウカイ!リョウカイ!』
たかがフラッグに!
ロックオンがそう言う。
そう、たかがフラッグにこんな様だ。
また突撃してくるフラッグ。
来る、と構えた二人だったが、緊急通信に其れは阻まれた。
フラッグはそのまま上空へ舞い戻り、デュナメス、ミカエルとにらみ合いを続ける。
どうやらクーデターが起こったようだった。
首都防衛が本来の任務であるユニオンのMSWADはどうするのか。
そう思って見ているとフラッグは撤退をしていった。
周囲に敵が居なくなった事を確認して、デュナメスが近付いてきた。
負傷したミカエルを見てか、モニター越しのロックオンは心配そうに表情を歪めた。
『、悪い。フォローが遅れた・・・大丈夫か?』
「・・・うん、平気」
優しい声色でそう言ってくるロックオンに、は微かに震える声でそう返した。
ぎゅ、と自分の両腕に手を回す。
こうでもしないと震えが収まらない。
そんな気がして。
ロックオンは優しい声色で『もう大丈夫だ』とに言った。
『・・・取り合えず、後でちゃんとゆっくりしような』
優しいロックオン。
彼の優しさに触れ、はありがとう、と短く返して飛ぶデュナメスの後を追った。
その後、街中で倒れている敵MSの中心に立つエクシアを発見した。
『・・・俺は・・・ガンダムにはなれない・・・』
「・・・刹那・・・」
苦々しげに漏らされた彼の言葉。
刹那は今何を思って、故郷と自分で言った国に立っているのか。
視線を動かすと、MSの他に人間も倒れているのが見えた。
少年兵だろうか、数人が倒れている。
MS相手に、子どもが生身で、
「・・・戦わされる、子ども・・・」
いつかの私も、そうだったんだ。
はそう思い、瞳をそっと伏せた。
知らない内にグラハムと交戦。