大丈夫か?
と優しい声と、優しい手で、ロックオンはを心配し、頭を撫でた。
王留美の用意した部屋に一番最初に戻ったはソファの上で膝を抱えていた。
そこに顔を埋めていたところに、戻ってきたロックオンが近付いてきた。
そのまま、優しく慰めてくれていた。
アレルヤ、ハレルヤとは違う手つきで撫でてくれる。
優しいロックオンに、はついつい寄りかかってしまいたくなけれど、
(・・・やっぱり、違う)
失礼かもしれないが、求めている温もりはロックオンじゃない。
アレルヤ、ハレルヤの優しい温もりだ。
彼らと一緒に居る時間が長かったせいか、無意識の内に彼らを求めてしまっているのかもしれない。
はそう思いながらゆっくりと顔を上げると、青緑の綺麗な瞳と目があった。
ロックオンは少しだけ笑うと、彼女の隣に座った。
「怖かったか?」
「・・・戦いは、いつだって怖い」
ずっとそうだったんだから。
がそう呟くと、ロックオンは少し驚いたようだった。
それはそうだろう、戦いに身を置きながら戦う事を怖がっているのだから。
「・・・そっか、怖かったか」
頷くと、ロックオンは柔らかく微笑んだ。
「ミカエルの状況もあるし、ここで少し待ってるか?」
王留美とは顔見知りなんだろ?
と、言ってくるロックオンはきっと私を安心させてくれようとしてくれているんだろうけれど、
「・・・やだ、ついてく」
「ん?」
「ロックオンたちと、一緒がいい」
王留美と一緒は、何だか嫌だった。
こっちの世界に来てから、一番最初に出会った人が彼女だった。
けれど、彼女は私の体についてを調べると、すぐに生体や適応検査をさせてMSに乗せた。
アレルヤや、ロックオンたちとは違って彼女は私を戦闘兵器としか見ていない気がする・・・。
だから、嫌な感じがする。
優しさを知ってしまったら、それに縋りたくなる。
本当はだめ、なのに。
がそう考えていると肩に軽く手を置かれた。
其方を見ると、ロックオンが困った様に笑っていた。
「ごめんな、一緒に行こうな」
優しい、しかし、何かが引っかかった。
「ロックオン・・・私の事、子ども扱いしてない?」
「実際俺から見たら子どもだよ」
だってお前十代だろ?
そう聞いてくるロックオンには少し考える。
「・・・じゅう・・・ななか、はち・・・?」
「いや、俺に聞くなよ」
どっちだっけ。
と思ったけどすぐに「ま、いっか」と言う。
「・・・いいのか?」
「・・・いいんだよ」
うん、いいの。
そう言って腕を組んでみせると、ロックオンがぷっと吹き出した。
「面白いな、は」
そう言って、また頭を撫でてくれた。
その後、王留美、紅龍、ロックオンの会話には混ざる事になった。
ちなみに刹那は調べ物で出ている。
「第三勢力?」
王留美の言葉にロックオンが「ああ」と言い言葉を続ける。
「アザディスタン側の要請を受けたユニオン。そして、武力介入を行った俺たちの他に、内紛を誘発している勢力がいる」
「その勢力が、マスード・ラフマディーを拉致したと?」
「俺の勝手な推測だがな」
紅龍にそう返すと、ロックオンは肩を竦めた。
「ヴェーダだってその可能性を示唆してたんだろ?」
「その根拠は?」
「受信アンテナの建設現場で、遠方からのミサイル攻撃があった。火力からして、MSを使用した可能性が高い」
「MSを運用する組織・・・、一体何のために?」
分からんよ、とロックオンは返す。
「だから刹那に調べに行かせた。この国で、俺たちは目立ちすぎるからな」
刹那はロックオンのおつかいの最中なんだ。
はそう思いながら彼を見上げた。
は王留美から離れて、今はロックオンの隣に居る。
「ん?」と言って彼は私を見返してくれた。
「どうした?」
優しく問いかけてくるロックオンに、はゆっくり首を振った。
「無理すんなよ」と言って頭をまた撫でてくる。
何だかすっかりお兄さんみたい、心配かけちゃったせいかも。
なんてが思っていると王留美がこちらを見ていた。
「・・・仲がよろしいのね」
「マイスターの紅一点だしな」
大切にしてるつもりだぜ?
そう言うロックオンに王留美はくすりと微笑んだ。
「アレルヤ・ハプティズムも、それに執着していらっしゃるようね」
「・・・そうさなぁ・・・仲良いよな、お前ら」
ミッションが一緒なものが多いからじゃないかな。
がそう思いながらもロックオンに更に近付く。
そんな様子を見てか、紅龍が「お嬢様・・・」と王留美を呼んだ。
「いいじゃない、私は・ルーシェの保護者みたいなものよ」
「・・・はい」
王留美は近付いて、の顔を覗き込んだ。
「相変わらず可愛らしい顔つきをしているわね」
「あ、ありがと・・・」
「思わず着飾ってあげたくなるわ」
お人形さんみたいに。
そう言って可愛らしく王留美は微笑んだ。
可愛らしくて、無邪気な様子に一見では見える。
が、は何だか裏に何かありそうな気がして、その笑顔がなんだか苦手だった。
そうしていると、刹那から通信が入った。
ロックオンが出て応答をしている。
「何だって?ポイントF3987?そこに何がある?」
『ないかもしれない。だが、可能性はある』
「黙って待つよりましか、・・・了解だ刹那」
どうやらマスード・ラフマディが捕らわれている場所を刹那が掴んだらしい。
ロックオンは端末の通信を切ると顔をあげた。
「紅龍も連れて行ってもらえます?」
要人救出の役に立ちましてよ。
そう言い王留美は紅龍をロックオンにつけさせた。
ロックオンはの頭に手を置いて、
「悪い、ちょっと行ってくる」
「・・・気をつけて」
「お前もな」
ロックオンはそう言うと出て行った。
残ったのは、王留美とだけ。
ソファに座ったままのの前にいる彼女は、「さて」と言い腕を組んだ。
「あなたも行くのよ。エクシアの援護をしなくては」
「・・・きっと、マスード・ラフマディを連れて逃げるためにMSが出てくるから・・・?」
その通りよ。と王留美は言いの両手を引いて立たせた。
「・・・でも、ミカエルは・・・」
「敵の目を引くだけでも、充分なのではなくて?」
そう言い王留美はにっこりと微笑んだ。
有無を言わさない様子の彼女に、は頷く事しかできなかった。
素早い動きで部屋から出て、ミカエルの下へ向かう。
ミカエルは右手を刺されたせいで損傷していた。
他にはコクピット部分に傷が残っている。
(これは宇宙に戻ったらイアンさんに直してもらわないと)
はそう思いながらミカエルに乗り込んだ。
声紋で起動させて、発進させる。
目指すは、エクシアのポイント。
「見つけた」
あのイナクト。
あれが刹那の敵。
はそう思いながらグリフォン2ビームブレイドを展開させ、刹那の周囲に居た敵MSを撃墜する。
『! か!』
「刹那は、そいつを!」
完結にはそう言い周りのMSとの交戦を続ける。
刹那の『了解!』という声を聞きながら邪魔な敵を切り払う。
少し経った後、刹那の声が通信越しに聞こえた。
『あんたの戦いは終わってないのか!?』
『音声?』
『クルジスは滅んだ!!』
鍔迫り合いを続けていたが、エクシアが蹴られる。
『知ってるよぉ!!』
男の声も響く。
イナクトのパイロットと通信しているというの?
はそう思いながらも手早く横から飛んできたMSを切り裂く。
『あんたは何故ここに居る!?あんたの神はどこにいる!?』
答えろ!!
吼えるように刹那が言う。
交戦を続けながら、二人は会話も続ける。
『そんな義理はねぇな!!』
エクシアがイナクトの片武器をGNソードで切り落とす。
その爆煙までもを利用して、イナクトがエクシアにそのまま突進する。
「! 刹那!」
そのままの勢いで、エクシアは地面に突き落とされた。
背中から落ちたエクシアに、イナクトが乗っかる。
まずい。
直感的にそう思い、周りの敵を一斉に撃ち落した。
『勿体無いからその機体、俺によこせよ!』
そのままエクシアのコクピットのハッチをこじ開けようとしている。
「そんな事・・・!」
『ええ!?ガンダムゥ!!』
「させるもんかあああぁぁ!」
変形する時間も惜しくて、ミカエルでそのまま突撃する。
イナクトのパイロットが『何!?』と言うのと刹那の『誰が!』という声がほとんど同時に聞こえた。
エクシアの腰部分にあるGNソードが、イナクトの右腕を切り落とした。
エクシアから離れたイナクトに、ミカエルで追撃をする。
「よくも刹那を!!」
『何だ?こっちのパイロットは女か!?』
エクシアと通信が繋がっているせいで相手にもの声が漏れているらしい。
でも今はそんな事、気にしていられない。
「女だからなんだ!!」
『いいねぇ!鳴かせがいがあるじゃねぇか!!』
「こいつ!」
バランスを崩すイナクトをビームライフルで撃った後、蹴った。
そのまま離れ、エクシアの前に降り立つ。
離脱を開始するイナクトを見送る。
『やってくれたなぁ!・・・しかし、予定通りではある』
『それはどうかな』
刹那がそう呟いた。
振り返ると、エクシアはゆっくりと立ち上がっているところだった。
「刹那、大丈夫?」
『ああ、すまなかった』
その後、マスード・ラフマディーはロックオンと紅龍が保護に成功した。
スメラギからミッションプランが届き、それを行動に移す。
エクシアにマスード・ラフマディーを乗せ、アザディスタンの王宮へ送り届ける。
しかし、エクシアは武装を全部解いて。
王宮へは先に此方からメッセージを送っておいた。
マスード・ラフマディーを保護した事。そして王宮へ向かう事。
そして、皇女には早期停戦に向けての会議を望む事を。
王宮の警備をしているアザディスタンの軍や、ユニオンのMSWADがどう動くかは分からない。
けれど、
「・・・世界に、ソレスタルビーイングの意思を、知らしめるため・・・」
「ええ、そうですわ」
の呟きに王留美が答える。
世界の変革を。そう呟いた彼女を、ロックオンが横目で見ていた。
刹那に任せて、私たちは王留美の用意した場所でテレビ中継を見る事にした。
『こちら、アザディスタン王宮前です!
マスード・ラフマディー師が保護され、王宮に向かっているという噂を聞きつけた市民たちが、続々とこの場所に集まっています!!』
テレビでは眼鏡をかけたアナウンサーの男の背景に、アザディスタンの王宮が見えた。
『えー、未確認情報ですがラフマディ師を保護したのは、ソレスタルビーイングだという情報も入ってきました』
果たして、ここにガンダムが現れるのでしょか?』
「・・・声明出したんだから、行くに決まってるでしょうに」
頬杖をついてそう言うに、隣に座るロックオンが少しだけ笑った。
『兎も角、改革派の象徴であるマリナ・イスマイール皇女と、保守派の宗教的指導者であるカダフ師の会談が実現すれば、
アザディスタンが内紛終結に向け動き出すことは、間違いないと思われます』
会談をするようにもメッセージに含まれていた。
恐らくマリナ・イスマイール皇女は答えてくれただろう。
それに保守派がきちんと話し合いをできれば、内紛はなんとか収まるだろう。
どうなるかは、分からないが。
『ガ、ガンダムです!ガンダムが上空から降下してきました!』
カメラにエクシアの姿が映し出される。
『今、ガンダムがゆっくりと王宮前に着地しました!』
アナウンサーの興奮した声と共にエクシアの姿がカメラに映る。
そのまま王宮に向かってゆっくりと進むエクシア。
『ガ、ガンダムが動き出しました!ゆっくり王宮に向けて歩を進めて行きます!』
エクシアが近付いた事により、王宮警備のアンフが銃を向ける。
それに怯え、集まっていた市民は逃げていった。
『保護した人質を解放せよ!繰り返す!保護した人質を解放せよ!』
アンフから声が響く。
けれど、エクシアは歩みを止めずに真っ直ぐ進む。
忠告を聞かない為か、アンフが銃撃を開始した。
四機のアンフからの銃撃を、エクシアは腕を前に出して防御体制をとった。
煙が消えた後、エクシアは腕を下ろし、再度進み出た。
無抵抗のエクシアに、アンフたちが道を開いた。
王宮のテラス前へ来たエクシアが、少しだけかがむ。
コクピットを開き、刹那が先に出てマスード・ラフマディーを王宮の人物へ引き渡しているだろう。
カメラからではエクシアの後姿しか見えないが。
見れたのは、警備員に守られながら王宮の中へ入っていく人物。
『マスード・ラフマディー師です!
ソレスタルビーイングがラフマディー師を保護!王宮へと移送しました!』
その後、飛び去るエクシアにロックオンがふぅ、と大きく息を吐いた。
MSWADからの追撃も無かったし、一安心だ。
「冷や冷やもんだぜ・・・けどよお嬢さん、これでこの問題が解決するのかい?」
「できないでしょうね」
きっぱりと王留美は答えた。
「でも、」と言い彼女は言葉を続けた。
「人は争いを止めるために歩み寄る事ができる・・・歩み寄ることが。
理性と憎しみの先にある力があれば・・・」
その後、マスード・ラフマディーは、誘拐の首謀グループが傭兵部隊であり、この内紛が仕組まれたものであると公表した。
黒幕はアザディスタンの近代化を阻止しようとする勢力という見方が強いけれど、犯行声明などは出されていない。
その後、マリナ・イスマイールとマスード・ラフマディーは共同声明で、内戦およびテロ活動の中止を国民に呼びかけ続けた。
でも、アザディスタンでの内紛は、未だに続いている。
人は、争わなければいけない生き物なのかな。
そう思いながら、は大きく息を吐いた。
「世界の歪みは、そんなに簡単に済むものじゃないからね・・・」
ロックオンはいいお兄ちゃん。