結局、は地球へスメラギたちと一緒に降りる事にした。

今は王留美の私邸でみんなが其々の時間を過ごしている。

ナノマシンの普及によって、宇宙生活での人体への悪影響は激減した。
けれども、精神衛生上の観点から地上に降りる必要がある為に今回はプトレマイオスのクルーも地上に降りて来た事が理由だった。

特にやる事はないは、適当に散策している。
ちなみにアレルヤはプトレマイオスに残って、イアンの手伝いをするらしいので居残り組だ。


アレルヤは、本当はマリーが大切で、好き。


そう思うと、なんだかは彼の傍に居る気にはなれなかった。

私はアレルヤもハレルヤも、大事で大好きなはずなのに。
はそう思い、瞳を揺らがせた。

小さく息を吐いて、ハンカチを握り締めた。
シンがくれたハンカチを無意識の内に握り締めていたは、顔を上げてぶんぶん首を振った。


だめだめ!
アレルヤのこともちゃんと理解してあげなきゃ!
・・・でも、どうしてハレルヤは私に教えてくれたんだろう。


そう思いながらはぎゅ、と手に力を込めた。





『俺はアレルヤとは違う。俺にとって、お前は・・・俺の頭ン中をかき乱す、変な存在だ』


俺はお前を裏切らない。

俺はお前の傍に居る。





ハレルヤはそう言ってを抱きしめた。
アレルヤは意識の底に沈んでいたらしいから、二人たちの会話は聞こえていなかった様子だった。





俺が守ってやる。





誓うようにキスをしてくれたハレルヤの事を考えると、の心が温まる。
でも、アレルヤの優しい笑顔を思い浮かべるだけで、気持ちが安らぐ。


私は彼らをどう思っているんだろう。


他の誰かを思い浮かべても、こんなに特別な気持ちにはならない。
シンに対してはステラたちと似たような気持ちになれた。
グラハムも不思議であったかい。でも、やっぱりアレルヤとは違う。

・・・なんで?

がそう思っていると、前からオレンジの球体が飛んできた。


!』


「・・・あ、ハロ」


両手を伸ばして、ハロを抱き上げる。
こんなところにハロが一人で居るなんて珍しい。
いつも一緒に居るロックオンはどうしたんだろうか。

そう考えていると、ハロの目がチカチカと光った。


、ヒトリ、ヒトリ、


「・・・そうだね」

『アレルヤ、アレルヤ』


ハロがこう言うということは他の面々も今回がアレルヤと離れた事を疑問に思っているだろう。
は思わず苦笑して、ハロを顔の前まで持ち上げた。


「アレルヤは宇宙。今回は降りてこなかったの」


ハロも知ってるでしょ?
が問うとハロは腕が収納されている箇所をぱかぱかと開け閉めをした。
『シッテル!シッテル!』と繰り返すハロは、なんだか可愛らしかった。

そうしていると、背後に気配を感じた。
むき出しのままのそれに反応してが振り返ると、刹那がそこに立っていた。


「あ、刹那」

「・・・何をしている」


王留美邸の廊下で出会った刹那はいつもの白い服に、赤いスカーフを巻いていた。
彼を見返しながら、口を開く。


「ハロとちょっとね、」

『アレルヤ、イナイ、、ヒトリ!ミンナシンパイシテル!』

「・・・普段アレルヤと一緒だからかな」


さっきからこればっか。
そう言うと刹那は「そうか」と短く言っての手からハロを受け取った。


「ハロ、フェルトがお前を探していた」

『リョウカイ!』


ハロはそう言うとコロコロと転がっていった。
それを見送ってから、は刹那を改めて見た。


「で?まさか伝言だけをしに来たの?」

「出ようと思った」


ここから?
が思わず問うと刹那は小さく頷いた。

王留美の私邸に居ても、確かにやる事は無い。
体を休めろとだけ言われても、する事が無いと困ってしまう。

それとも他の誰かと一緒に居たくないのだろうか。
色々と考えながら刹那を見ていると、自然と口が動いていた。


「一緒に行っていい?」


気付いたら、そんな事を言っていた。


















リヒテンダールやクリスティナには行ってしまうのかと残念そうな顔をされた。

は刹那の潜伏先である日本のマンションに一緒に来ている。

歩きながら先ほどエクシアの中で聞いていたニュース内容を思い出す。
アザディスタンは国連の支援により、太陽光受信アンテナ建設計画再開したとの事。
やっぱり故郷の事だからか、刹那は気になっているようだった。


でも、確かイナクトのパイロットはクルジス、って・・・。


そうが考えながら刹那の後ろ姿を見ていると「あっ」という声が聞こえた。

マンションの入り口で声をかけてきたのは沙慈だった。
よくよく見るとタクシーの傍にルイスも居る。


「こんにちは。二人とも、最近見かけなかったけど、どこかに行ってたの?」


沙慈の言葉に刹那は「そんなところだ」と短く返す。
その後にタクシーに乗っている女性が「じゃあね」と言って手を振る。
走り去る車を、ルイスは見送る。


「・・・ママ、」


ママ、という事は今タクシーに乗っていたのはルイスの母親だろうか。
結構髪の色や、明るい雰囲気が似ていたかもしれない。

なんてが思っていると沙慈がまた口を開いた。


「・・・ねぇ、突然なんだけど今日時間あるかな?」


と、此方を向いて言った。
私たち?と思わず問うと彼は申し訳無さそうに笑って頷いた。


「ちょっとお願いしたい事があって・・・」


そう言い、ちらりとルイスに視線を向ける。
彼女はもう見えなくなったタクシーが去っていった方向をずっと見詰めていた。

瞳はどこか、悲しげに揺らいでいる。

彼女を見詰めていると、不意に振り返った。
の姿を目に留めると「!」と名前を呼んで両手を広げて駆け出した。

え、と思っている間にルイスは抱き着いてきた。


「うわーん!ー!」

「え?」


泣いてる?
急なルイスの変化についていけずに、思わず沙慈に視線を向ける。
沙慈は小さく息を吐いて「やっぱり」と呟いた。

そのまま移動して、沙慈の部屋に刹那と一緒にお邪魔した。
ソファに座ると、ルイスはに抱きついたまま泣きじゃくった。


「うわーん!ママぁー!」

「ル、ルイス・・・」


沙慈は「こうなると思った」と言って彼の隣に座る刹那を見やる。


「来てくれてありがとう。人数が多い方がルイスの気も紛れると思って・・・」

「そうでもないようだ」


刹那が間髪いれずにそう返す。
彼の言葉に呼応するようにルイスは更に「うわーん!」と声をあげる。


「母親が帰ったぐらいで、何故泣く」


ルイスへ視線を向け、刹那が問う。
それにルイスはの胸から顔をあげ、即答をした。


「寂しいからよ!」

「会おうと思えばいつでも会える。死んだわけじゃない」


慰めどころか批判的な刹那の物言いにルイスは「うー!」と唸り声をあげた。


「沙慈、こいつ嫌い!叩くか殴るかして!」


足をばたばたと動かし、沙慈に訴えかける。
それに沙慈は両手を振って苦笑するしかない。


「あ、いや、出来ないって」


っていうか同じ意味だよ。
と言おうとした彼にルイスはクッションを投げつけた。
それを顔面に受けた沙慈は、一字動きを停止した。

ルイスは再度の胸に顔を埋めると「うわーん!」と泣き声をあげた。


、慰めて!」

「慰めるって・・・困ったな」


思わず苦笑すると、ルイスが顔をあげてを見上げた。


だって落ち込む時あるでしょ!?」

「ま、まあ・・・」

「慰めて貰ったの参考にして慰めてー!」


ばたばたと両手を振って言うルイス。
沙慈は顔からクッションをとり「ごめんね、」と刹那とに言う。

は「いいよ」と返しながらルイスの頭を撫でた。


「・・・こうやって慰めて貰ってるの?」


誰に? 刹那・F・セイエイに? それとも恋人?

口早にそう聞いてくるルイス。
思わずたじろだの両肩をガッと掴んでルイスは再度問うてきた。


「どうなの!?」

「あ、こ、恋人ではないけど・・・」

「男の人!?」

「男・・・」


頭を撫でてくれたり、頬に触れたり。
アレルヤは、安らぎをくれる。


そりゃ、男の人だけど・・・、

勘違いをしたまま恋人の立場に収まっちゃだめだよ。

だってアレルヤの本当の想い人は、マリーなんだから。


そうが思っていると、目の前に居るルイスが「・・・?」と心配げに名前を呼んだ。
どうやらぼっとしていた間に心配させてしまったようだ。
はすぐに笑顔を取り繕って「ん?」とルイスに返すが、彼女は眉を下げていた。


「・・・どうしたの?、何かあったの?」

「・・・特になんにもないよ?」


そう言って笑って見せても、ルイスの表情は晴れなかった。
ルイスは「嘘よ」と言って頬を膨らませた。


「え?」

「嘘!!」

「嘘って・・・なんで?」


思わずそう問うと彼女は緑の瞳を細めて「だって、」と言った。


「なんか、悲しそう・・・」


悲しそう?

私が?


そう思っているとルイスは矛先を刹那に変えたようだった。


「男なら女の子が悲しんでたら慰める!!」

「ちょ、ルイス!」


沙慈が慌てて止めようとするけれど、ルイスは刹那を指差した。
そして真っ直ぐに見詰めたまま続ける。


悲しそうじゃない!アンタ友だちとか何かなら慰めてあげるべきじゃないの!?」

「・・・お前には関係無い事だ」


視線をよこさずにそう言う刹那にルイスは頬を膨らませ、足をばたばたと動かした。
「むかつくー!」と言うルイスを沙慈が諌める。


「平和だな」


刹那の呟きを拾った沙慈が「え?」と言う。
丁度その時、刹那の端末が鳴った。
反応して其方を見ると、ソファから刹那が立ち上がっていた。


「すまない。用事が出来た」


沙慈に軽く礼を言うと、刹那はの名前を呼んだ。


「行くぞ、

「あ、待って刹那!」


玄関へ向かう刹那を追いかけなければ。
そう思いながらもソファから立ち上がる。

「ルイス、」と彼女の名前を呼ぶ。


「またね」

「・・・うん、元気でね!」


沙慈君もまたね。
はそう言って手を振った。


「各国家群に動きあり?」


沙慈の部屋を出てから刹那が端末を見た。
三大国家が合同軍事演習を行うようだった。
「何故だ」と呟く刹那に続いて部屋に入る。


「・・・きっと鹵獲作戦も失敗したし、他の陣営も世界の三大国家で組んだ事で私たちを牽制しようとしてるのかも・・・?」

「・・・恐らく、そうだろうな」


必要最低限の物を持った刹那が振り返る。
そして、を真っ直ぐに見て口を開いた。


「アレルヤ・ハプティズムも地上に降りてくるだろう」


突然の刹那の言葉に、は一瞬呆ける。
が、すぐに「そうだね」と返した。

そんな彼女に、刹那は少し意外そうな表情をする。


「・・・いいのか?」

「・・・なんで?」

「奴と何かあったんじゃないのか」


確信したような物言いだった。
アレルヤと何かあったというよりは、ハレルヤの言葉から問題が起きたんだけれど・・・。
はそう思いながらゆるゆると首を振った。


「・・・こんなの、今考えるべきことじゃない事は分かってるんだけどね」


私は戦いのことだけを考えなきゃいけないのに。
そう言うと刹那は深紅色の瞳を少しだけ細めた。


「・・・話してみろ。少しでも楽になるかもしれない」

「・・・ミッション遂行も、精神状態が物を言う時があるものね」


思わず嫌味みたいな言い方になってしまった。
けれど、実際その通りだった。

刹那の潜伏先のマンションから出て、歩きながら話す。


「アレルヤは私を好きだと言ってくれた」


でも、私は恋とかよく分からなかった。

そう言うに刹那は小さく頷いてくれた。

恋という感情がイマイチ良く分からない。
それは刹那も同じな様だった。


「・・・アレルヤが本当に求めている女の子は、私じゃない。そう聞いた」

「誰からだ?」

「もう一人のアレルヤにだよ」


そう答えると、データから知っていたのか、刹那は納得したようだった。


「私は代わりなのかが悲しいのか、アレルヤが私を見てくれない事が悲しいのかが良く分からないの」

「同じでは無いのか」

「・・・きっと、同じじゃない」


私はアレルヤが好きなんだろうか?
恋の対象として。

なら、ハレルヤは?

アレルヤと同一人物としてでも、心は違う。
其々の考えや心を持っていて、違う性格をしている。

好き、好き、好き。

愛はなんなんだろう。
家族みたいな愛?異性へ向けての特別な愛?
いまいち違いが良く分からない。

そう思っていると、隣を歩いている刹那が「」と名前を呼んだ。


「アレルヤが好きなのか?」

「・・・好き、うん。私、アレルヤが好き」


恋なのか、分からないけどね。
そう言うに、刹那は「そうか」と言った。


正直、アレルヤが私をマリーの代わりにするのは嫌な気もする。
けれど、やっぱりアレルヤの傍に居たい。
アレルヤを守りたい。

出来る限り、ずっと。


はそう思った後に、「それと、」と言い再度刹那を見やる。


「刹那も好きだよ」

「・・・好き?」

「うん、私、皆を守りたい」


好きな皆を。
そう言うと刹那は少しだけ黙った後、「そうか」とだけ呟いた。


「お前は、守る為に戦っているんだな」

「そうだね、それが私の意味だから」


それが私の、理由だから。

はそう思い、真っ直ぐに前を向いた。




悩む