悩んでばかりじゃいられない。
私は、私の意味のまま戦う。
軍の派遣には莫大な資金がかかるというのに、ソレスタルビーイングに対しての牽制だけのために大規模演習を行う事は考えられない。
何か裏がありそうな今回の三大国家の合同軍事演習。
『最新情報です。
ユニオン、人類革新連盟、AEUは、三軍合同による大規模な軍事演習を行うと発表しました』
エクシアのコクピット内でニュースを見る。
どうやら声明を発表して、明らかにしたらしかった。
『ユニオン軍報道官の公式コメントによると、この軍事演習は、軌道エレベーター防衛を目的とし、各陣営が協力して様々な状況に対処するための訓練を行うとしています。
現在、演習場所、日程については公表されておりません』
「合同軍事演習か・・・」
刹那が呟いた。
刹那と別れた後、は王留美の私邸へ戻った。
彼はエクシアに乗ったまま、別の場所へ移動していった。
真っ直ぐにある国の方向へ向かっていった事から、には彼がどこへ向かったかがなんとなく分かっていた。
はスメラギから話を聞こうと思い、そのままコンピューターのある地下へ向かった。
「紛争が起こるというのですか?」
地下にあるコンピュータールームへ入り、一番最初に聞こえたのはティエリアの声だった。
次に聞こえたのはスメラギの声。
「確実にね」
「演習と関係してるんですか?」
がそう口を挟むと、スメラギが振り返った。
そのまま少しだけ笑みを浮かべ、スメラギは口を開く。
「戻ったのね、」
「刹那はまたどっか行っちゃいましたけどね」
肩を竦めてそう言ってみる。
それで、と言っては口を開いた。
「場所はどこですか?」
「中国北西のタクラマカン砂漠・・・濃縮ウラン埋設地域よ」
「濃縮ウラン・・・」
ティエリアが呟いた。
ウランといえば原子力の燃料に使用されているイメージがある。
「・・・兎に角、核兵器にも使用されているものだから、そんな所を攻撃したら・・・」
大変な事になっちゃうんじゃない?
はそう呟いた。
「どこの組織か知らないけど、この施設を標的にしてるユニオンか人革かがこの情報をリークして、演習場所に選んだのよ」
スメラギはそう言って小さく息を吐いた。
「施設が攻撃されれば放射性物質が漏出し、その被害は世界規模に及ぶわ」
何しろ、濃縮ウランがある場所だ。
施設が破壊された瞬間、放射性物質が漏れ出して大きな被害を出すだろう。
濃縮ウランともなると、世界規模の・・・。
「すぐにでも武力介入を」
「敵の演習場のただ中に飛び込むことになるわ。演習部隊は直ぐに防衛行動に出るわよ」
「寧ろ、ガンダムを手に入れるために本気で攻めてくるんじゃないんですか?」
人革連なんて、前回はガンダムの鹵獲を目的としていた。
世界三大国家が手を組んだ理由が、ガンダムを鹵獲して、分け合うためだとしたら。
がそう思っていると、ティエリアが「しかし」と言い立ち上がった。
「それでもやるのがソレスタルビーイングです」
「ティエリア・・・」
「ガンダムマイスターは生死よりも目的の遂行及び機密保持を優先する」
ガンダムに乗る前から決まっていたことです。
そう言った後、ティエリアは「否、」と呟いて首を振る。
「その覚悟無くして、ガンダムには乗れません」
真っ直ぐにスメラギを見据えてティエリアは言った。
確かに、ソレスタルビーイングに入る前に王留美に言われた注意事項だ。
機密事項は保持しなければならない。
ミッション遂行が第一である。
自分の生死よりもそれらは優先されなければならない。
は生まれた時から戦いの場に居た。
それのせいもあり、彼女は自覚も何も無いのだが。
「・・・出来る限りの事は、しますから」
「・・・?」
アレルヤも、ハレルヤも。
他のマイスターも、私が出来る限り守る。
私が。
はそう強く思い、きゅと唇を噛んだ。
「私に、出来る事を・・・」
それは、戦う事だけだから。
「あ、!」
戻ってたんだ!
そう言ってクリスティナが駆け寄ってきた。
両手にいっぱいの買い物袋を持っている彼女は嬉しそうな笑顔を見せた。
「お買い物してきたの?」
「うん!いっぱい楽しんだわよ!ね、フェルト?」
クリスティナがそう言うと、彼女の後ろからフェルトが顔を出した。
フェルトも両手に買い物袋を持っていて、どこか疲れた顔をしていた。
「じゃ、後で話しましょうね!これをしまって、仕事に戻らなきゃだから」
行こ、フェルト!と明るく言ってクリスティナはフェルトを引っ張っていった。
見るからにくたくたに疲れた様子のフェルトは、もうされるがままといった感じで引っ張られていった。
フェルトとクリスティナも大分仲良くなってきたな、とは思う。
上手くフェルトと関われなかったとスメラギに言っているところを見たことがあったので、大きな進歩だとは思っていた。
二人を見送っていると、唐突に「あ!」と声をあげてクリスティナが振り返った。
「アレルヤも地上に降りてくるわよ!」
「え?」
「ちょっと私的には残念なところもあったけど、何か二人ってお似合いだし?」
ふふ、と口元に手をあててクリスティナは微笑んだ。
なにを、と言いかけたの言葉を遮ってクリスティナは続けた。
「なんか色々あったみたいだけど、少しは話した方が良いわよ」
「・・・」
「アレルヤ、あんまり元気なかったみたいよ」
と離れて。
クリスティナは曖昧な笑顔を浮かべて、そのままフェルトと一緒に去っていった。
アレルヤ、元気なかった?
それって、彼を宇宙に残して地上に降りた私のせい?
それしか理由が無い。
「・・・アレルヤ・・・」
ごめんなさい。
そう呟いて、は瞳を伏せた。
その時、「あれ、」という声が後ろから聞こえた。
「じゃないッスか」
片手をあげて笑みを向けてきた人物は、リヒテンダールだった。
も習って片手を上げてみると、彼は嬉しそうに笑った。
「戻ってきたんッスね」
「うん、ついさっき」
クリスティナたちとは違い、リヒテンダールはどこにも出かけなかったらしい。
何かお土産でも買ってくればよかった。
そう思うに、彼は優しく目元を緩めた。
「お気遣い感謝ッス!」
でも、大丈夫ッスから。
そう言って微笑んだ彼をは真っ直ぐに見上げた。
自分より身長が高いため、自然に彼を見上げる形になる。
と、いっても刹那以外見上げる人ばかりなのだが。
はそう思いながらリヒテンダールを見上げていた。
彼はそんなに小さく咳払いをし、頬を仄かに赤くした。
「そ、その・・・、そんなに見詰められると照れる、っていうか・・・」
その、と口ごもるリヒテンダールにもハッとして慌てて視線を逸らした。
「ご、ごめん!なんかリヒテンダールって背おっきいなって思ってて・・・」
刹那以外の男の人みんな見上げてるんだけど、
と、が付け足しながら言うと彼はくすりと笑みを零した。
そのまま彼女の金の髪をふわりと撫でた。
「リヒティで良いッスよ」
「え」
空色の瞳を丸くして彼を見上げると、優しい微笑みが見えた。
彼の言葉にも笑みを浮かべ、いいの、と小首を傾げた。
「当然ッスよ」と言って頭を撫でてくれる彼に、は嬉しそうに微笑んだ。
「分かった、これからはリヒティって呼ぶね!」
「そうして欲しいッス」
何か、他人行儀みたいで嫌だったんッスよね。
そう言ってはにかむリヒテンダール。
そんな彼を見上げてニコニコ笑っていただが、途端に表情を強張らせた。
瞳を見開き、肩を跳ねさせた彼女にリヒテンダールが「?」と名を呼ぶ。
はそのまま小さく声を漏らすと、両手で頭を抱えた。
「!?どうしたんッスか!?」
――――キン、と頭に強い痛みが走った。
直後、は気付いたら真っ白い場所に居た。
あれ、と思いながら辺りを見渡す。
『・・・これ・・・?』
また脳量子波が関係してる空間?
なんて思っていると背後から物凄い勢いで誰かが近付いてくる感覚がした。
ダダダという足音に思わず振り返ると、そこには、
『お前ぇっ!!』
『うひゃあ!?』
頭突きでもかまされるのかと思うくらいの至近距離にあったのは、つりあがった金の瞳。
銀色の髪を振り、の両肩をがしっと掴んだのは、
『ソ、ソーマ! また、急にだね・・・』
『お前の事だから、これからの事は理解しているだろう!』
三大国家の合同演習の事を言っているのかな?
そう考え、が思わず頷くと、ソーマは大きく舌打ちをした。
態度が凄く悪い!女の子なのに!
『今度こそ、私の下へ来るんだ!』
でないと、死ぬぞ。
そう言うソーマの表情にはいつもよりも余裕が無かった。
きっと、これはを想っての一言。
それには思わず笑みを零す。
強く掴まれた肩は痛みを感じるが、それほどソーマがの身を案じている事が分かった。
『何が可笑しい!?』
『ううん、ソーマは優しいなって思って』
素直にそう答えると、ソーマは「な!?」と声を上げて瞳を丸くした。
気の抜けた様子になった彼女の手をとって、は自分の手でそれを包み込んだ。
なんだか以前会った頃よりも人間らしさが増えたというか、ソーマらしさが見えてきたというか。
はそう思いながらにこりと笑った。
『ありがとう、心配してくれて』
『・・・心配、なんて・・・』
『ソーマのその気持ちは、心配だよ』
だから、ありがとう。 でも、ごめんね。
そう言うに、ソーマは眉を潜めた。
ごめんね、私の為に言ってくれてるのに。
こうして態々、脳量子波を使って語りかけてくれたのに。
はそう思いながら、ソーマを見詰めた。
『・・・私は、戦う事が、私の意味だから』
『・・・だが、それは利用されているものだ!』
『そうだと思う。でも、違う人も居る』
訳が分からない。
ソーマはそういった顔をしていた。
『・・・私は、やっぱり戦う事しか知らないから、仕方ないの』
『何が、仕方ないんだ・・・』
ソーマは金の瞳を鋭くし、の両手を握り返してきた。
『私は!』と、ソーマは続けた。
『お前を、諦めない!』
『・・・でも、私は、』
『ソレスタルビーイングが何だ!私はお前を連れて行く!』
私の、もとへ!
そう言いソーマはぐ、と手を握る力を強めた。
何で彼女がこんなにも私の事で必死になってくれるんだろうか、
そんな事を思いながら、は彼女の額に自分の額をこつんとあわせた。
『ありがとう』
そう言い、瞳をそっと伏せた。
ソーマの気持ちはとても嬉しい。
でも、私はアレルヤを想いたい。
想い続けたい。
『私にも、想いたい人が居るの』
『想いたい、人・・・?』
そう、と言って瞳を開く。
『・・・あの、羽付きのパイロットか・・・!』
『想うだけなら、自由でしょ?』
たとえ、アレルヤが貴女を想っていても。
そう思いながらはソーマを見詰める。
正しくは、ソーマではなく、マリー、だったが。
そう思っていると、ソーマの表情が更に険しくなった。
何かまた苛立たせてしまっただろうか。
『・・・あれも、鹵獲出来れば・・・』
『・・・させない、私が、皆を守る為に戦うんだから・・・』
きゅ、とソーマの手を握りながら言う。
アレルヤも、ハレルヤも、みんな守るんだから。
私が、
そう思った瞬間、辺りの景色が一瞬にして変わった。
「・・・そう、私が貴方を守るから・・・」
ゆっくりと目を開けた。
気付いたらしゃがみ込んでいたらしい。
顔を上げてみると、心配そうなリヒテンダールの顔があった。
「!だ、大丈夫ッスか!?」
モレノさんに連絡いるッスか!?横になるッスか!?
と、慌てた様子で言うリヒテンダールには彼を安心させるように微笑んでみせた。
「・・・ごめん、大丈夫・・・」
「・・・、無理はいけないッスよ」
両肩に手を置いて、リヒテンダールはに言った。
言い聞かせるような彼の言葉に、思わずは口を噤んだ。
「俺たちは仲間であり、家族みたいな物なんッスから!」
遠慮は無用ッスよ。
そう言って、リヒテンダールはに背を向けてしゃがみこんだ。
「さ、乗るッスよ。部屋まで運ぶッス」
「え、それはさすがに悪いって!」
慌てて両手を振るに「いいから」と言ってリヒテンダールは急かした。
家族、か。
悪くないかも。
アレルヤも私の事を想ってくれてるのかな。
はそう思いながら少しだけ笑い、リヒテンダールの背に寄り添った。
「・・・今の、感じは・・・?」
気のせいか?
否、でも、今のは・・・。
アレルヤはそう思いながら、キュリオスを移動させた。
トレミークルーともお話。
ソーマともお話。
砂漠はきっとマイスターたちにとって嫌な思い出の場所でしょうね、