・・・」


名を呼ばれて振り返ると、デュナメスのサポートに回るオレンジハロを抱えたフェルトがそこに居た。
は半重力の中で壁に手を当ててフェルトに向かい合った。


「どうしたの? フェルト」


名を呼ぶとフェルトは青色の瞳を揺らし、「あの、」と呟いた。


「無事で、良かった」


が空色の瞳を丸くして、少しだけ微笑んだ。
そのままフェルトの頭をぽんぽんと撫でる。


「大丈夫、ロックオンも、みんなも無事だから」

「・・・怪我、してない?」


じ、との体を上から下まで見て確認をするフェルト。
本当は体中が痛むが、彼女に心配をかける訳にはいかない。
そう思いながらは明るく笑ってみせた。


「私は大丈夫!」


そのままフェルトの肩に手をあて、軽くトンと押した。


「さ、ブリッジに行こう?」

「着替えないの?」

「着替える暇も無いって」


緊急事態なんだし。
そう言いはフェルトと一緒にブリッジへ向かった。


新たに出現した三機のガンダム。
を助けてくれたヨハンは、スローネアインのガンダムマイスターだと言っていた。

プトレマイオスのブリッジで、スメラギたちと刹那を除くマイスターがそれらに関して話し合いをしていた。
先の戦闘の直ぐ後なので、皆パイロットスーツを着たままだった。

は少しだけ呼吸が荒いままだったが、重要な事なので参加を続けていた。
隣に立つアレルヤがどこか気遣わしげにを見詰めたが、彼女は力なく微笑むだけだった。

スメラギは顎に手をあて、口を開く。


「第一世代、第二世代の機体とも違う・・・」


映されたスローネの機体を見ながら全員も静かに頷いた。


「ヴェーダのデータに存在しないガンダム・・・」

「本当にそんな機体があるんですか?」


スメラギの言葉にクリスティナが言う。
ヴェーダのデータに無いのなら、計画にも必要とされていなかったガンダム・・・?
がそう思っていると、ロックオンが口を開いた。


「あるもないも、この目で見ちまったからな・・・だろ?」

『シッカリミタ!シッカリミタ!』


だろ?とロックオンが問いかけるとハロは跳ねながら言った。
なんだか和む風景。


「ガンダムらしき機体は、少なくとも三機存在している」


ティエリアが腕を組んで言う。
それにの左隣のアレルヤが頷いて、口を開いた。


「僕らの太陽炉とは違うけど、GN粒子らしきものを放出していました」

「で、お前らはそのガンダムに助けられたって訳か」


ラッセの言葉には、が頷いた。


「私とロックオンを助けてくれた人は、通信を入れてきて言ったんですよ。
 自分たちはガンダムマイスターだって」


だよね、と右隣に居るロックオンを見上げて言う。
それにロックオンは「そうだな」と言って少しだけに笑みを向けてくれた。


「そして、去り際にこの宙域ポイントのデータを転送してきた」

「彼らの目的は何だろう?」


ティエリアとアレルヤの言葉に、全員が悩む。

目的は一体?

助けてくれた事はあるんだけど、罠という事も考えられないわけではない。
ヴェーダのデータにも無いこともある。


「挨拶に来るんじゃないですか?」


ほら、こっち先輩だし。
リヒテンダールがそう暢気に言った。
それにクリスティナが不安げな表情を見せる。


「罠って事、あったりしません?」

「そいつら、刹那たちを助けたんだろ?」

「それは、そうだけど」


ラッセに言われても言いよどむクリスティナに、スメラギが困ったような笑顔を浮かべた。


「会ってみれば分かるわ」

「・・・そうですよね。そろそろ、指定されたポイントですし・・・」


そうね、と言ってスメラギは前を見据えた。


「出迎えましょう、新しいガンダムマイスターを」


スメラギの言葉に、全員が頷く。
その後に、フェルトが声をあげた。


「光学カメラが、接近する物体を捕捉」

「メインモニターに出して」

「了解」


ピッ、という音と共にメインモニターに恐らく彼らの輸送艦が映った。
三本の線の先端に、格納場所の様なものが付いている。

念のためだろうか、スメラギがフェルトにエクシアの出撃準備を指示する。
クリスティナには、船をスキャンするように。
少しの間、クリスティナのハックが続いていたが、案外早く「間違いありません」と声をあげた。


「接近する船から放出されているのは、GN粒子です」


クリスティナの言葉にリヒテンダールが「マジッスか!?」と驚きの声を上げる。


「船内にGNドライブを四基確認」

「やはり・・・」

「しかし、奴らはどうやって太陽炉を?」


赤い色合いだったけれど、あれは確かに太陽炉だった。
アレルヤの言葉に頷いていると、ロックオンが「見ろ」と言った。


「ハッチが開くぞ」


三本の内の一つの場所から、ハッチが開いてあの真っ黒な機体、スローネアインが出てきた。
一機だけ?と思ったけれど、アインの掌の上に二人乗っているようだった。
真っ直ぐに、此方へ向かってきている。


「あれ、私とロックオンを助けてくれた機体だよね」

「そうだな・・・」

『マチガイナイ!マチガイナイ!』


ハロとロックオンが同意をしてくれた。

そう、あのアインにはヨハンさんが乗っているはず。
他の二人は一体どんな人なんだろう。

そう思っていると、クリスティナとフェルトが口を開いた。


「モビルスーツからの光通信を確認」

「トレミーへの着艦許可を求めています」

「許可すると返信して。それから、エクシアの待機を解除。刹那をブリーフィングルームへ」

「了解です」


素早く指示をした後、スメラギが立ち上がった。
「さて、と」と言い、たちを見た。


「貴方たちも、勿論一緒に来るわよね?」


そう言ったスメラギに、マイスター全員が頷いた。










エアロックを経てプトレマイオスの艦内へ三人が入ってきた。
スメラギと、刹那以外のマイスターで入り口で立ち、彼らを迎え入れる。

ハッチが開いた。

そこから現れたのは、白の中に黒と桃色を基準にしたパイロットスーツを身につけた三人だった。


「着艦許可を頂き、ありがとうございます」


聞き覚えのあるテノールボイス。
メットを取って現れた顔は、通信越しに見たヨハンだった。


「スローネアインのガンダムマイスター、ヨハン・トリニティです」


真ん中に立つ彼の隣に居る長身の人物も、メットを取る。
その際に青い髪が揺れた。
彼はふん、と鼻を鳴らすと自己紹介をした。


「スローネツヴァイのガンダムマイスター、ミハエル・トリニティだ」


最後に、ピンク色のパイロットスーツを着た少女がメットを外す。
真っ赤な髪が舞い、黄色い瞳が出てきた。
可愛らしい笑顔をみせ、彼女も自己紹介をする。


「スローネドライのガンダムマイスター、ネーナ・トリニティよ!」


ヨハンは褐色の肌に、深い緑が混ざった黒色の髪。
ミハエルは青い髪。ネーナは、真っ赤な髪に、そばかすが見て取れた。


「みんな、若いのね」


意外だったメットの中身の素顔に、スメラギがそう言う。
それに、名前が、と続けるスメラギに、ヨハンが口を再度開いた。


「血が繋がっています。私たちは実の兄弟です」


その割には似てない気が。
なんてが思っているとネーナが「ねぇ!」と声をあげた。


「エクシアのパイロットって誰?」


きょろりとマイスター全員の顔を見渡しつつ、「あなた?」と言ってティエリアを見る。
彼女の言葉にティエリアは不服そうに「違う」と返した、


「俺だ」


そこに、エクシアから降りた後に来たのか、刹那がそう言った。
移動用のレバーから手を放し、床に足を着ける。


「エクシアのガンダムマイスター、刹那・F・セイエイ」


刹那がそう自己紹介をすると、ネーナは嬉しそうに笑った。
「あ、君ね!」と言って床を蹴る。


「無茶ばかりするマイスターは!」


そう言い、スメラギとティエリアの間を通り抜けて、刹那の両腕に捕まって止まる。
半重力の中、ネーナは刹那の腕を掴み、足を宙に浮かせたまま彼を見下ろした。


「そういうとこ、すごく好みね」


そう言うと、ネーナは一気に刹那との距離を縮めた。

あ、と思った時には、刹那にキスをしていた。

瞳を見開いた刹那は、反射的にか、直ぐに後ろへ引いてネーナを振りほどいて突き飛ばした。
「きゃっ!」と短い悲鳴をあげるネーナを気にする事無く、刹那は自分の口元を乱暴に拭う。


俺に触れるな!


充分な間合いを取って、刹那が叫ぶように言う。
そんな刹那の行動が癇に障ったのか、ミハエルが「貴様っ!」と声をあげる。


「妹に何を!」


そう吼えるように言い、彼が取り出した物は高速振動ナイフ。
好戦的な性格なのか、真っ直ぐに刹那に其れを向けている。


「妹さんのせいだろ!」


珍しく、厳しい口調でロックオンが言う。
それに苛立ったのか、ミハエルは「あ!?」と言いロックオンにナイフを向けた。


「うるせぇぞ!このニヒル野郎!」


ニヒル野郎。
ロックオンに向けて言われた言葉に、少しが苛立った。


ロックオンはニヒル野郎なんかじゃないし。

それに、さっきからちょっと勝手が過ぎる。

ネーナさんは刹那に勝手にキスをするし、それを振り払われたからってミハエルさんはナイフを取り出すし。


はそう思いながら、少しだけ瞳を細めた。


「切り刻まれたいか!?アァ!?


ロックオンに高速振動ナイフが近付く。
マイスターであるロックオンも自分でなんとか出来る事はわかっていたが、は考えるよりも先に体を動かしていた。

素早く彼らの間に体を滑り込ませ、真っ直ぐにミハエルを見上げた。




!!


ロックオンとアレルヤが慌てた様子での名前を呼ぶ。
特にアレルヤはが具合が悪そうな事を知っているので尚更だ。

だが、は一歩も動かずに眼前のミハエルを見据える。


「何だぁ?女!!」

「やめろ!ミハエル!」

『ヤッチマエ!ヤッチマエ!』


ヨハンがミハエルを諌めるけが、彼の横に飛ぶ紫色のハロは逆に煽っていた。
顔色も悪く、呼吸も少し浅い彼女を、ミハエルは鼻で笑った。


「ンな調子の癖に、なんだよお前」

「・・・・・・」


馬鹿にした様子のミハエルに、が瞳を鋭くする。

そこに、ロックオンのハロが飛んできた。


『ニイサン!ニイサン!ニイサン!』

「・・・兄さんだ?」


刹那の前を通過して、スメラギとティエリアの間を通る。
兄さんと連呼したロックオンのオレンジハロは、紫色のハロの前で止まった。


『アイタカッタ!アイタカッタ!ニイサン!ニイサン!』

『ダレダテメェ?ダレダテメェ?』

『ハロ!ハロ!』

『シンネーヨ!シンネーヨ!』



ごつ、という音がした。
紫のハロがロックオンのハロに体当たりをしたからだ。
ロックオンのハロがその衝撃で壁にぶつかりながら吹っ飛んでいく。


『ニイサン、キオクガ!ニイサン、キオクガ・・・!』


ハロの声が小さくなっていく。
静かになった空間で、気を取り直すようにスメラギが咳払いをする。


「兎に角、ここじゃ何だから、部屋で話しましょう」

「わかりました」


ヨハンが頷く。
移動するスメラギの後ろに、トリニティの三人が続く。
ミハエルは通り過ぎる際に刹那を睨み、ネーナは微笑みかけていた。
なんて対照的な。

なんて思いながらも彼らの後を追う事にした。


「初めて意見が合ったな」

「何をだ?」

「口にしなくても分かる」


刹那とティエリアもそう言いながら、其々移動を開始した。

ブリーフィングルームに、彼ら三人とマイスター、そしてスメラギが集まった。
取り合えず、といった感じでスメラギが口を開く。


「何故、貴方たちはガンダムを所有しているの?」

「ヴェーダのデータバンクにあの機体がないのは何故だ?」

「答えられません。私たちにも、守秘義務がありますから」


予め用意されていた台詞を言うように、ヨハンが言う。
スメラギとティエリアに向かい、ミハエルは「あー残念」と言って肩を竦めて首を振った。


「太陽炉・・・否、GNドライブをどこで調達した?」

「申し訳ないが、答えられない」


ロックオンの問いかけにも、ヨハンは表情を変えずにそう返した。

なんだか、メモを読んでるみたいな感じ。
違和感を感じたは、思いながら事の成り行きを見守った。

ヨハンの回答の後に、またミハエルがわざとらしく息を吐いて言った。


「またまた残念!」

「なら君たちは、何をしにここに来たんだ?」


苛立った様子でティエリアが言う。
ヴェーダのデータに無い機体。そして先ほどの戦いの後。ミハエルの態度。
それら全てが今の彼を苛立たせているのだろう。

ティエリアの言葉には、ミハエルが答えた。


「旧世代のモビルスーツにまんまとしてやられた、無様なマイスターの面を拝みに来たんだ」

「何だと!?」

「ナーンツッテナ!ナーンツッテナ!」


ケタケタと笑いながらミハエルはハロの真似をする。
それにティエリアは舌打ちをする。


「気分が悪い。退席させてもらいます・・・後でヴェーダに報告書を」


そう言うティエリアにスメラギは頷いて「分かったわ」と返した。


「惜しいねぇ、女だったら放っておかねーのによ」


ティエリアが出て行った方を見ながら言うミハエル。

確かに、ティエリアは美人だけれども・・・。
は瞳を思わず細めてミハエルを見やる。

「ミハエル」とヨハンが諌めると彼は今度は「へいへい」と言って大人しくなった。


「ヨハン兄ぃ、あたしつまんない」


と、思っていたら今度はネーナが口を開いた。
退屈そうにしていた彼女は、「船の中、探検するね!」とヨハンに言う。
それにヨハンはスメラギに「よろしいですか?」と問いかけた。

スメラギは「え?」と声を上げたが、小さく頷いた。

ミハエルの後ろを通り、ドアの前に立ったネーナは振り返り、刹那をじっと見た。
そして、可愛らしい笑顔を浮かべて「一緒に行く?」と誘いをかけた。

が、刹那は視線を逸らして無視を決め込んでいた。
それにめげずに「行く?」ともう一度ネーナが問いかけるけれど、やっぱり刹那は微動だにしなかった。

ネーナは直ぐに刹那の隣に移動をして、彼を睨み上げた。


「あたしを怒らせたら駄目よ」


突然の彼女の変貌に眉を潜める刹那。
ネーナはそのまま再度ドアへ近付き、出て行く際にウインクを一つしてからドアの向こうへ消えていった。

しん、と静まった空間で、スメラギが口を開く。


「兎に角、これだけは教えてくれない?貴方たちは、あのガンダムで何をするのか」

「もちろん、戦争根絶です」


まただ。
ヨハンの回答には何だか違和感を感じる。
違和感を抱いたまま、は彼らの話に耳を傾ける。

「本当に?」と問うスメラギにヨハンは頷く。


「貴方たちがそうである様に、私たちもまた、ガンダムマイスターなのです」

「つまり、俺たちと組むっての?」

「バーカ!そんなことすっか!」


ロックオンの言葉に、またミハエルが口を開いた。

組む事ではない、なら、別行動で武力介入をするって事?
はそう思いながら彼らの会話に耳を傾けた。


「あんたらが軟い介入しかしねぇから、俺らにお鉢が回ってきたんじゃねぇか」

「どういう意味かな?」


問うアレルヤに言った通りの意味だとミハエルさんは言い鼻で笑った。
あてになんねぇんだよ、と続ける。


「なぁ?不完全な改造人間君?」

何っ!?


不完全な改造人間。

アレルヤが超兵であることを彼らは知っている。
など、冷静に考えるよりも前に。


「おっ!やっかぁ!?」


流石に苛立った様子のアレルヤが一歩前に出る。
それに嬉々とした様子で拳を構えるミハエル。

アレルヤも今の一言のせいか、ハレルヤの様な空気を纏っている。

は、また体が気付いたら動いていた。


「いい加減にして」

「あン?」


アレルヤとミハエルの間に素早く割って入る。
「またか、女」と言うミハエルに対し、は真っ直ぐに見上げた。

自分よりも大きい身長、体。

体調の悪さや恐怖よりも、の中では苛立ちの方が大きかった。


「さっきから何なの?あなた」

「・・・なんだ?お前らデキてんのか?」


改造人間なんかと。
そう言う彼には腰に手を当てながら、一歩近付く。

キッと彼を睨み上げるは、口を開く。


「アレルヤを馬鹿にしないで」

「おっと、そりゃ悪いな。改造人間同士、お似合いだって事だよ」


ミハエルの言葉に、今度は刹那やロックオンが瞳を大きくする。

スメラギは知っているだろうが、の個人情報は他の面々は知らなかったはずだ。

別に、いいんだけれど。
はそう思いながらミハエルを真っ直ぐに睨む。


「二度も言わせないで。アレルヤを馬鹿にしないで」

「気の強い女だな。結構気に入ったぜ」


そう言い、大きな手を伸ばしてきた。
あえて抵抗せずにいると、腕を掴まれた。





アレルヤが焦った声をあげる。
それにミハエルが「へぇ、っていうのか」と言いぐっと距離を縮めてきた。


「ガンダムに女なんて、ネーナ以外どうかと思ってたんだけどな」


そう言う彼の腕を開いている手で掴んだ。
あ?と声をあげるミハエルを見上げながら、はその手を放させる。


「私に触らないで」

「なんだぁ?お前」


キッと彼を睨み、手に力を込める。
それが気に障ったのか、ミハエルは開いている手で先ほどのナイフを取り出した。


この女!!

おい!



ミハエル!!


ミハエルがそう言い、ナイフを真っ直ぐに向ける。
それに反応した言葉をロックオン、アレルヤ、ヨハンの順で言う。

それでもは怯まずにミハエルを見返す。
またそれが癪に障ったのか、ナイフをに振りかざした。

は直ぐにパッと彼を掴んでいる手を放して彼の手首に手を手刀状にして打ち込む。
ナイフが彼の手から離れた瞬間、柄の部分を掴みながら、流れるままに彼の背後に回りこむ。
勢いのままに行動した彼が前のめりになった隙を逃さずに、彼の片腕を抑えたまま、首の後ろにナイフを突きつけた。

一連の動きについてこれなかった様で、ミハエルは唖然としていた。


「何を驚いているの?さっき自分で私の事言ったじゃない」


改造人間だって。
そう言うとミハエルは舌打ちをひとつした。


「銃より私、ナイフの方が得意なの」


冷め切った表情で言うは、このままミハエルを刺すかのような殺気を持っていた。
そんな彼女にたまらなくなり、アレルヤが声をかける。


「・・・、」


アレルヤの声に反応しては其方に視線を向けた。

銀の瞳を細めている彼は、何だか悲しそうだった。
は小さく息を吐いて、ナイフの振動を止めて床に投げ捨てて彼を解放した。


「・・・つい、体が・・・」


自分の両手を見下ろしてみる。
今更になって、微かに震えている気がした。


やっぱり私は、戦う為だけに造られたものだから、反射的にもこんな行動しちゃうのかな。
戦いの中で摂取した薬のせいで精神面も安定していないみたいだし。

優しいアレルヤとは大違い。


なんてが思っていると、背後から腕が伸びてきて彼女の首を思いっきり引いた。
突然の事に対応しきれず、一瞬息が出来なくなる。
ひゅ、との苦しげな息の音だけが響いた。


「この、女・・・!」

「ミハエル!よさないか!」


怒り心頭な様子のミハエルが、を背後から捕らえた。
流石に焦った様子のヨハンが止めに入る。

アレルヤも「!」と焦りの表情を浮かべ、彼女の名を呼んだ。
刹那はいつでも動けるようにか、少し腰を低くした。

ヨハンに諌められたミハエルは不満げに彼を見返す。


「だってよ兄貴!この女が!」

「いい加減にしろ。ちょっと自由がすぎるぜ」


反論するミハエル。
その後に静かにロックオンが言う。
その声色は怒りを含んでいるようだった。


「先に手を出したのはお前だ、ミハエル」

「兄貴!」

「彼女を解放するんだ」


ヨハンがそう言うと、ミハエルさんは乱暴にを振り払うように解放した。

突き飛ばされたは、よろけて倒れかける。

!」と慌てた声を上げてアレルヤが彼女を支えた。
刹那も数歩に近付く。
少しだけ咳をして、アレルヤを見上げる。


「大丈夫かい?」

「・・・うん、平気」


アレルヤを安心させるようには笑ってみせた。
だが、どこからどう見ても顔色が良いとはいえないそれに、アレルヤは眉を潜めた。

アレルヤから離れて立ち上がると、ロックオンも心配そうに見てきた。
スメラギやロックオンにも笑顔を向けると、ヨハンが近付いてきた。
近付いてきたヨハンに、アレルヤと刹那が警戒態勢をとるが、それをが諌めた。
長身の彼には、見上げる形になる。

彼を見上げると、申し訳無さそうに眉を下げられた。


「申し訳無い・・・弟の無礼を謝罪します」

「あ、大丈夫です。私も反射的とはいえ、反撃しちゃいましたし」


思わず両手を振ってそう言うとヨハンは「ありがとう」と言って微かに目元を緩めた。

あ、笑った。
なんて思いながら彼を見上げる。

それに、さっきの言葉は今までの違和感を感じなかった。
彼の言葉、っていうか、考えてあった言葉じゃなかった、っていうか・・・?

なんてが考えていると、ヨハンは彼女の隣に立ったまま、スメラギを見た。
「しかし、」と言い彼は言葉を続ける。


「私たちに命令を下した存在は、貴方方の武力介入のやり方に疑問を感じているのではないでしょうか」


あ、また定期文みたいな感じな喋り。
なんてが思っているとスメラギが肩を竦めた。


「私たちはお払い箱?」

「今まで通りに作戦行動を続けてください。私たちは独自の判断で作戦行動を行っていきます」

「貴方たちは、イオリア・シュヘンベルグの計画に必要な存在なのかしら?」


スメラギの問いに、ヨハンは「どうでしょう?」と言った。


「それは、私たちこのこれからの行動によって示されるものだと思います」


ヨハンの言葉にスメラギは「そう・・・」とだけ返した。

これ以上彼らと話しても、何も収穫は無い。
それを感じたのか、スメラギはドアに向かった。


「艦内は、移動をしてもいいわよ。でも、マイスターの誰かと一緒にね」


ネーナには許可をしたけれど、この二人は油断ならないからだろうか。
スメラギはそう言い、ロックオンに後を任せて出て行った。

残った私たちは、どうするんだろう。
そうが思っていると、肩に手を置かれる感覚がした。

アレルヤの居る方からなので、反射的に其方を見るとアレルヤは瞳を丸くしていた。

あれ?と、思うの肩にはヨハンが腕を回して触れているようだった。


「え?」

「先ほどは弟が本当に失礼した。大丈夫でしたか?」

「あ、はい、人より頑丈なんで」


思わずそう言うと、ヨハンは安心したように瞳を細めた。
が、直ぐにの肩を指先でつつ、と撫でて「しかし」と言った。


「少し動きがぎこちない感じがした。先の戦いで怪我でも?」


フラッグに体当たりされた時かな。
そう思いながらパイロットスーツを首元から少しをまくってみると、以外と痣等が見て取れた。
あらら、なんてが思っているとヨハンに真っ直ぐに見下ろされた。


「・・・少し疲れてしまって・・・休める所はありませんか?」

「あ、じゃあ案内します」


反射的にそう言う。
此処じゃあ別のマイスターも居るし、気が休まらないだろう。


展望室でもいいかな、私と一緒なら艦内を移動してもいいみたいだし。


なんて思っていると腕をくん、と引かれる感覚があった。

そちらを見てみると、不安げに銀の瞳を揺らすアレルヤが居た。


、」

「ん?どうしたのアレルヤ」

「・・・その、」


きっとヨハンと一緒に行動する事が心配なんだろうな。
でも、ミハエルが何かした時に咄嗟に行動するにはロックオン一人では危険かもしれない。

そう思っていると、アレルヤが「皆で行けばいいじゃないか」と言った。
それに同意したのは、ロックオンだった。


「そうだな。全員で行動する事にしようぜ。妹さんもどっか行ったままだしな」


そう言いちらりとミハエルを見る。
妹、という単語に反応したのか、ミハエルさんも小さく頷いた。


「・・・じゃあ、そういう事でいいですか?ヨハンさん」


そうヨハンに言うと彼は小さく微笑んで頷いてくれた。


「いいですよ。・・・それと、別に敬語もさん付けもいりませんから」

「でも、年上だし・・・」

「・・・デュナメスのマイスターにはそうではないでしょう?」


有無を言わさない感じだな・・・。
なんて思いながらは頷くしかなかった。
それにヨハンは嬉しそうに笑った。


「なら、私もと」

「うあ、はい」


思わず反射的に言うと彼はクスリと笑みを零した。


「敬語」

「あ、あー・・・うん」


指摘されてそれを直すと、彼は「よく出来ました」と言っての頭を撫でた。

あ、なんかすっごく優しい手つき。
心地良さからは思わず目を細めた。


「・・・おい、アレルヤ、いいのか?」

「・・・・・・」


後ろでロックオンがアレルヤの肩を叩きながらそう言う。
無言を貫くアレルヤに、思わず目を開いた。

あんまり敵か味方かも分からない人と仲良くしていると怒られるかも。

そう思った瞬間、は反射的に振り返っていた。




トリニティ騒動。