「あいつらが米軍の基地を襲った!?」
ロックオンが驚きに瞳を大きくして言う。
そんな彼とは対照的に、落ち着いた様子でアレルヤが「目的は?」とスメラギに問いかける。
マイスターとスメラギを含め、ブリーフィングルームに今集まっている。
話題は、MSWAD基地を強襲したトリニティについて。
彼らと別れた後、アレルヤとが話していたら召集がかかった。
スメラギは肩を竦めて「不明よ」と言った。
「ヴェーダにも情報は来ていないみたいね」
「勝手な事を」
スメラギの言葉に出たヴェーダに反応してか、ティエリアが舌打ちをする。
ロックオンが溜め息交じりに口を開く。
「俺らへの風当たりが強くなるような事してくれちゃって・・・」
「マイスターなのか?」
唐突に刹那がそう呟いた。
彼の呟きに、思わず全員の目が集中する。
刹那は真っ直ぐにモニターを見詰めたまま、再度口を開いた。
「奴らは、本当にガンダムマイスターなのか?」
「ガンダム、マイスター・・・」
思わずそう呟く。
ガンダムマイスター。
戦争根絶を目指す者。
ガンダムを駆使して、戦場を駆ける。
好戦的だったミハエル・トリニティに自由奔放なネーナ・トリニティ。
そして、正義感は持っているようだけれども、自分自身の意見が無さそうなヨハン・トリニティ。
彼らは、自分たちがしている事をきちんと理解しているのだろうか。
今回のユニオンのMSWAD基地強襲の意味も、理解して行っているのか。
どうなんだろう。
色々良く分からない。
はそう思いながら、ポケットから端末を取り出した。
ヨハンから貰ったこの端末で、彼と連絡を取る事が出来る。
早速使う時が来たのかもしれない。
そう思っていると、アレルヤとティエリアの視線を受ける。
は頷いて、端末を操作する。
恐らく今はトリニティのミッション中であろうから、暇が出来た時会いたい事を送っておいた。
そのままスメラギに視線を移すと、彼女は腕を胸の下で組んで苦笑した。
「そうね、様子見の為にも、私たちは事実上待機になるでしょうから」
「地上へ降りても、かまいませんか?」
そう言うと、スメラギは頷いた。
「そうね・・・貴女とロックオン、刹那も地上に降りて貰うわ」
「元々、地上のミッションの予定もあったもんな」
そう言ってロックオンが刹那の肩を軽く叩く。
地上に降りる二人と一緒に降りればいいかな。
なんて思っていると刹那がロックオンの手を振り払った。
素っ気無い様子の刹那に、ロックオンは苦笑するだけだった。
「、」
横からアレルヤが声をかけてきた。
彼は銀の瞳を少しだけ細めて、「気をつけて」と言った。
「会う事になったら、油断は絶対しないで」
「大丈夫、自分の身を守る術は知ってるよ!」
はぐっと拳を握ってアレルヤに大丈夫な事をアピールしてみる。
けれど、アレルヤは小さく息を吐いた。
「・・・そういう意味じゃないんだけど。・・・これだから心配なんだよ」
「え?」
「苦労するな、アレルヤ」
小首を傾げていると、ロックオンがそう言って笑った。
心なしか、スメラギも笑ってる気がした
「大丈夫だ。は俺たちがフォローするから」
な、刹那。
と、ロックオンが言う。
それに刹那は小さく頷いて「ああ」と言った。
「は俺たちが見ておく」
「そういうこった」
な、と言ってロックオンは笑った。
刹那とロックオンの言葉にアレルヤは少しだけ微笑んだ。
「・・・そうですね、お願いします」
「ちょっと、アレルヤ!」
なんか子ども扱いみたいに感じて思わず腰に手を当てて彼を見上げる。
「私ってそんなに心配?」と、思った事を伝えてみると、アレルヤは意外と直ぐに頷いた。
「うん。僕たちは君が大切だからね」
ハレルヤも?
心配してくれているって事?
((お前、どんくさいからな))
わ、笑いながら言う事無いのに・・・!
ハレルヤの声にはそう思った。
なんだかなー。
そんな事を思いながら私は端末を適当に弄りながら噴水の淵に腰を下ろした。
今はラフなワンピーススタイル。
地上に降りてロックオンと刹那と別れて、経済特化地区の日本に今は居る。
ヨハンとの待ち合わせは公園。
だから公園にある噴水の淵に座って待っていた。
ハレルヤだけではなく、アレルヤまでを子ども扱いみたいにしていた。
それにロックオンも別れ際に頭を撫でてきた。
「気をつけろよ」なんて言って笑ってくれていたが、完全に子ども扱いだった。
刹那は真っ直ぐにこっちを見ていた。
あの目は疑わしげだったから、心配されてるという事だろう。
刹那にまで心配されてる私って、何なんだろう。
そう思いながら、は溜め息を吐いた。
その時、
「浮かない顔だな」
何かあったか?
と、優しい声色で声をかけてくれたのは、
「・・・ヨハン、」
褐色の肌色の手を差し伸べたその人は、ヨハンだった。
以前見ていた姿はパイロットスーツだったけれど、今はラフな格好をしている。
インナーの上にシャツを羽織っている彼を見上げていると、微笑まれた。
手を少し動かされて、慌ててその手を取った。
「あ、ありがとう」
彼の手を取って立ち上がると、ヨハンはやんわりとした動きでの手を握ったまま移動をする。
数歩歩いて、噴水の正面まで来てから彼は口を開いた。
「待たせてしまってすまなかった。弟と妹も色々あってな」
「行っちゃ駄目だって言われたんじゃない?」
そう言って笑うとヨハンは困ったように笑った。
頷いて「よく分かったな」と言って目元を和らげる。
「二人とも、君たちのやり方に異を唱えていてな・・・」
「お兄ちゃんがどっか行っちゃうからじゃない?」
はそう言って、ヨハンの手を放して両手を広げた。
そのまま軽く一度回ってから、噴水を見詰める。
「一番頼りにしてて、大好きなお兄ちゃんがどっか行くのはやっぱり寂しいんじゃない?」
噴水を見たままそう言うと、ヨハンは「そう、か」とだけ言った。
そして小さく息を吐いてから、彼は再度口を開いた。
「・・・君にとって、頼りにしてて、大切な人は居るのか?」
「私の大切な人?」
そんなの決まってる。
シン・・・それにネオ、ステラ、アウル、スティング。
ミネルバに捕まってた時に少し話せたルナマリアももうお友達かな?
それに今のソレスタルビーイングの仲間・・・。
刹那も、ロックオンもティエリアも、スメラギさんもクリスもフェルトもリヒテンダールも、ラッセも、イアンさんも・・・。
それに、アレルヤとハレルヤも。
そう思った瞬間、胸がきゅって絞められた気がした。
あ、あれ?
なんで?
そう思いつつ、他にもソーマが含まれるかも、と考える。
と、ヨハンがの肩に触れてきた。
「その表情から見ると、誰か特別な相手が居る様だな」
「特別?私はみんなが大切だよ?」
至極当然のようにが答えた。
それにヨハンは小さく微笑み、「みんな、か」と言った。
「その中に私も含まれると、嬉しいんだがな」
ヨハンも?
そう考え、は瞳を丸くした。
「・・・そう、だね。ヨハンも、私結構好きかもしれない」
「結構、か」
「だって貴方たちって勝手がすぎるんだもん」
そう言いながら、は噴水を真っ直ぐ見詰めた。
水が流れる音が響く中、ヨハンが一歩に近付く。
「・・・勝手とは?我々は与えられたミッションをこなしているだけだが」
「じゃ、上の人が勝手なんだね」
貴方たちは、何も知らないんだね、やっぱり。
はそう呟いてゆっくりと振り返った。
ヨハンは少しだけグレーの瞳を細め、口を開いた。
「しかし、我々も戦争根絶の為に戦っている」
「それはヨハンの意思で?」
意思?
そうヨハンは問い返してきた。
何だかヨハンには意思をあまり感じられなかった。
何故戦っているのかと聞かれた場合、戦争根絶やマイスターだからという理由を答えそうだった。
だが、きっとそれはヨハンの意思ではないはずだ。
「ヨハン、ちょっと私と似てるね」
「似ている? 君に?」
ヨハンはそう言い不思議そうに小首を傾げた。
は頷き、過去の自分を思い出した。
エクステンデットだから、戦う。
気付いたら戦場に居て、気付いたらMSに乗っていた。
ステラ、アウル、スティングと一緒に戦場を駆けた。
彼らを守る、それだけを考えた。
でも、それは本当に自分の意思だったのか。
答えは否だ。
はヨハンに一歩近付き、彼を真っ直ぐに見上げた。
「ヨハン、私は所詮改造された人間だよ」
「・・・私は、デザインベイビーだ。君たちとは違い、最初から造られた存在だ」
「ネーナさんとミハエルさんも、だね」
デザインベイビー。
となると、外見の年齢と精神的な年齢は不釣合いだという事になる。
ネーナとミハエルはそのままだった。
外見とは違い、言動が子どもそのものだった。
何かがあれば怒り、表情もコロコロと変わる。
そういえば、ハレルヤも似たような感じだな。
そんな事を思いながら、はヨハンの手を取った。
「・・・ね、ヨハンはほんとうはどうしたいの?」
「どうしたい、とは?」
「戦う為に造られて、そのままでいいの?」
の言葉に、ヨハンは瞳を細めた。
意味が良く分からない。そういう顔だ。
「私は戦う事しか知らなかった。そう造られたから」
当然の流れだった。
戦う為に幼少の頃からずっと体に覚えさせられてきた。
薬も投与され、ずっと同じ日々が続いていた。
けれど、運命の転機が訪れたんだ。
「・・・でも、私は彼に出会えた。彼が私を守ると言ってくれた」
シンと出会った。
守ると言い、ずっと心のより所になってくれた彼。
は彼との思い出を心に浮かべ、瞳を伏せた。
「私は愛を知った。新しい事を、知れたの」
「新しい、事」
そう、とは言う。
ヨハンを見上げ、微笑む。
「今はアレルヤも、ハレルヤも、ソレスタルビーイングのみんなも一緒に居てくれる」
優しさと愛を彼らは与えてくれる。
それは、私を癒してくれる。
はそう思い、「それで、」と言う。
「ヨハンは?」
「・・・私は、」
「今のままで、いいの?」
与えられた命令に従って、ガンダムを動かすだけで。
本当にヨハンはいいの?
はそう思い、真っ直ぐに彼を見詰めた。
「・・・やはり、は不思議な少女だ」
ヨハンはそう言いくすりと笑みを零した。
「貴女の言葉で、私は変われそうな気がするよ」
「変わる?」
「ああ、だけが、こんなにも私を真っ直ぐに見詰めてくれる」
ヨハンはそう言い嬉しそうに微笑んだ。
それにも微笑を返す。
「私がヨハンの転機になれればいいな」
なっているさ。
ヨハンはそう言い、の肩口に顔を埋めた。
突然の彼の行動には小首を傾げ、「ヨハン?」と彼の名を呼ぶ。
細いヨハンの髪が首筋にあたってくすぐったい。
は少しだけ身を捩りながら、彼の背をぽんぽんと撫でた。
「ヨハーン?」
「・・・君に抱くこの感情は、一体何なんだろうな」
落ち着く。不思議だ。
そう言うヨハンに、は少しだけ考える。
デザインベイビー。
ヨハンは温もりを知らない。
だから、自分を真っ直ぐに見て、すぐに気付いてくれるに心惹かれた。
は自分を見てくれる。
は温もりをくれる。
ヨハンはそんなに、心を惹かれた。
よしよし、とはヨハンの背を撫でる。
それに酷く安心した様子で、彼は息を吐いた。
なんだかおっきい子どもみたい。
はそんな事を思いながらヨハンの背を撫で続けた。
長男とデート!